僕の周りには変わり種が多い
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九校戦編
第8話 選抜
7月の中旬。
生徒指導室の前で、達也がでてくるのを待っていた。僕も呼ばれたが、達也ほど長くいたわけではない。
「長いよー」
ぽつりとエリカが言ったのにあわせたわけではないだろうが、達也が生徒指導室からでてきた。
「達也」
「レオ……どうしたんだ、みんな揃って」
エリカ、レオ、美月と僕は同じクラスメイトということもあり、それほどの意外感もないが、光井ほのか、北山雫と違うクラスの上1科生と2科生が混在している上に、きっと1年生でランキングをおこなったら上位にくるだろうというほど美少女が多い。ちなみに実際におこなったら、セクハラということになっているので、おこなう者はいないはずだが、陰でおこなわれているという噂もある。
「どうした、ってんはこっちのセリフだぜ。指導室に呼ばれて、翔よりもはるかに長いってどうしたんだよ?」
「翔も呼ばれていたのか?」
僕の場合、テストの中で選択科目である魔法言語学が、実物の紙で書くという、今となっては珍しい試験のタイプだったのに、名前の書き忘れで点数がとれなかったという大ボケがあった。それを先生から注意されたというのもあるのだが、どうせ紙は席から吸い込まれスキャンされて、電子データ化されるのだから、名前なんて書く必要なんてなかろうに。こういうことばかり前時代的だ、とはいってもそれを皆に明かすのは、さすがに、ちぃとばかり恥ずかしい。なので、もうひとつの
「ああ。僕の場合は、入試日に手をぬいたのかと言われたので、入試日に風邪をひいていたから、必要なら医師に証明書を発行してもらいましょうか? それで終わりとなったぐらいだけど」
「そうか。こちらは、実技試験で、手を抜いているんじゃないかって、尋問されていた」
1学期の定期試験のことで、達也と僕はよばれたのだ。定期試験の内容は、魔法理論の記述式テストと、魔法の実技テストから行われた。
成績優秀者は学内ネットで指名を公表されるのだが、そこが問題だったのだ。
理論・実技を合算した総合点による上位者は順当だ。
1位、司波深雪。2位、光井ほのか。3位、北山雫。
4位に十三束鋼と男子生徒が初めてでてくる。あまり覚えていたくはないが、森崎が9位。
実技のみの点数では、総合順位から多少順位の変動が見られるが、ここで番狂わせの僕が15位に入った。今回の呼び出しの要因のひとつはこれだ。
さらにこれが理論のみの点数になると、別な番狂わせが発生してしまい、一位、司波達也。二位、司波深雪。三位、吉田幹比古。
4位がほのか、10位に雫、17位に美月、20位にエリカだ。レオと僕はランク外。
普通は実技が出来なければ理論も十分理解出来ない。なぜなら感覚的に分からなければ、理論的にも理解できない概念が多数存在するもので、そういうのは実感している。達也が指導室に呼ばれたのは、それなのに、ダントツで1位をとったからだ。5教科で50点以上の差、1教科平均10点以上の差だ。
魔法言語学の名前の書き忘れがなければ、僕も総合と理論でも20位以内に入ったらしい。もったいないと思ったが、次回から気をつけよう。
達也が呼ばれた理由とか、四高に転校しないかとも言われたとかもあったらしいが、
「そういや九校戦の時期じゃね?」
レオがそう発言したのは、四高という単語に刺激を受けたかららしい。
そんなことのあった翌日の放課後、九校戦準備会合がおこなわれる部活連本部の会議室のオブザーバー席に座った。隣には、今日の昼休みにCADの調整員、九校戦では技術スタッフ候補というが、それになった達也が座っている。簡単にいえば2科生である僕らは、一緒に座らされたわけだ。ちなみに僕は、競技選手候補の方だ。
九校戦の出場メンバーになれれば、夏休みの課題免除と、課題の一律A評価の特典に、試合で勝てば、それに見合った成績加算が与えてもらえる。こういうこともあって、会合の雰囲気は、ボーダーラインにいる者の関係者の間ではギスギスとした雰囲気になっているようだ。
全員着席したようで、七草生徒会長が
「それでは、九校戦メンバー選定会議を始めます」
こういう席では、なぜ2科生がいるのだと、とっとと排除しようとする人がでてくる。
ちなみに、各種スポーツ競技などの大会は、この九校戦や、秋の論文コンペを避けた時期、春と秋に大会が行われる。具体的には春の大会が6月で、秋の大会が11月におこなわれる。1年生は秋の大会から出るのが普通で、春の大会に出るのは少数だ。その少数の中に僕も含まれていた。
そしてその春の操弾射撃の大会に出場して、準優勝をとったという実績が僕にはあるのと、期末テストの実技の点数は1年生の男子で7位だが、1人が辞退というか、それは形式上で、九校戦の試合には特性がはっきりとあわない人物がいたために、今日の男子メンバーの中では、実質6位となる。っということを、操弾射撃部部長が言ってくれた。
他からの指摘では、受験の時に風邪をひいていた、というところで、調管理が心配という声も聞こえてきたが、そこは春の大会準優勝という実績がものをいってくれたようだ。部長が内心ではどう思っているかは分からないが、少なくとも僕を送りこめれば操弾射撃部の活動費の予算に反映されるので、そのあたりのアピールは成功しているようにみえた。
問題は、となりの達也だ。風紀委員としての実績をかっている上級生も多いのだが、まだ1科生と2科生という感情的な壁を越えられない上級生がいるのと、結局は技術スタッフとしての選抜なので、風紀委員としての実力を認めていても、技術スタッフとしてはどうなんだというところを、つついてこられる。
「要するに」
それまでだまって聞いていた、十文字先輩が端から一通り見回して、
「司波の技能がどの程度のものか分からない点が問題になっていると理解したが、もしそうであるならば、実際に確かめてみるのが一番だろう」
広い室内が静まりかえった。CADは、起動式の読込を円滑化・高速化するためのチューニング機能を備えていて、それだけに使用者の精神に対する影響力が強いから、下手なチューニングをすると、精神的ダメージをこうむることになる。その為、最新・高機能なCADほど精確緻密な調整が必要とされるから、誰もがだまっていた方法だ。
多少のやりとりはあったが、桐原先輩の立候補によって、達也の腕を見るという話がでてくるところまではよかった。そこからは、上級生のみが残ってみることになったというか、技術スタッフは1年生からの候補は達也だけだから、1年生の競技選手はここで解散することになった。
一応は、部長と一緒に部室によるつもりだったので、同じく操弾射撃部にいる滝川和実と一緒に部室へ向かうことになった。こちらからはあたりさわりなく、
「滝川、お互いに競技選手として選ばれてよかったな」
「そうね。ところで、あたしはスピード・シューティングできまりそうだけど、陸名はどうなの?」
同学年での呼び捨てなのは、部活での慣習だ。1科生の男子部員は、僕から言われるのはしぶしぶと受けている感じもあるが、女子部員は意外とそうでもない。競技者としてレギュラー争いをするのか、しないのかという違いもあるのだろう。答えた内容は、
「スピード・シューティングっていいたいところだけど、森崎次第かな。他にもあるけれど」
「森崎ね。自分より下だと思ったら、徹底的に見下す感じだもんね」
「逆に言うと、2科生の僕が、同じ競技で彼より上の順位になってしまうと、森崎が確実にでるモノリス・コードに、影響を与える恐れがあるからね」
森崎のことはそこで話は終わって、
「ところで、他って?」
「クリムゾン・プリンスやカーディナル・ジョージって知っている?」
一瞬、滝川の顔が考えるようになったが、思い浮かんだのか
「……クリムゾン・プリンスは一条家のってわかるけど、カーディナル・ジョージって、あの加重系統プラスのカーディナル(基本)・コードを発見した人?」
「そう。彼の発表は、同い年で、同じ学年だったから、覚えていた。彼が、もしスピード・シューティングに出る実力があるのなら、不可視の弾丸『インビジブル・ブリット』を使うだろうから、違う競技を選択させてもらうだろうね」
「クリムゾン・プリンスは?」
「多分、発散系魔法である一条家の『爆裂』を使うから、アイス・ピラーズ・ブレイクに出場するんじゃないかな? だから、僕としては優勝が狙える可能性が高い、バトル・ボードを希望として部長には出しているけど、作戦スタッフが決めることだからね」
「そうだけど、バトル・ボードは海の七高が相手よ?」
「そこは、秘策があるよ」
「秘策ね。確かに、操弾射撃の方法も独特だものね」
「そういうこと」
ただし、その最中に、実験棟からプシオン光を感じる。幹比古なんだろうが、春先より術がうまくなっているんだろうなと思いつつ、プシオンの感受性を下げることにした。そうして、部室についたので、男子用と女子用の部室に分かれていった。
その日の帰りはいつものように1-Eの達也、レオ、エリカ、美月に、1-Aからは当然のことながら達也の妹である深雪にその友達でもあるほのか、雫と一緒に帰ることになる。
帰り道では、
「達也が技術スタッフにって、いきなりだったわねー」
「スペックの異なるCADへの設定のコピーって、とんでもなく面倒な課題をだされていたんだね」
「それって、面倒なのか?」
「勧められる方法じゃないことは確かだね」
「お兄様のことですもの。信じていましたわ」
エリカ、僕とレオ、達也に深雪の発言だ。
ちなみに達也と僕との、単純な体術では、時間切れまでもたらせることが可能なのは2割もない。本来が護身のための合気術なのだから、勝つよりも、逃げる方がメインのはずなのだが、師匠からは勝つことが目標だってだもんなぁ。
そんなので、朝の九重寺でも顔を合わせるうちに、司波さんから深雪さんと呼ぶようになっている。達也と初めての練習対戦で、幻術と称して『纏衣の逃げ水』の方をつかっても、逃げきれなかったので、師匠からは
「毎週1回、九重寺の朝の鍛錬にでて達也と対戦してこい」
とのことだった。ちなみに普通の幻術では逃げきれないので、『纏いの逃げ水』で戦うことで直接触れられることは実質ないが、あとは残り時間切れ引き分けがほとんどで、それでも1敗をきっしている。達也の方も今では、エレメンタル・サイトを使っているが、身体にふれた瞬間に、本体の位置を読み出せる身体能力はとんでもない。エレメンタル・サイトだけの能力ではないのだろうが、瞬間的に分析が得意と最初に言っただけはある。
ちなみに、雫も1人だけ北山さんと呼んでいるのもなんとなくだが変な感じがしたので、雫さんと呼ばせてもらっているのだが、感情表現がほとんど読めない雫がどう感じているのやら。彼女の場合、嫌な場合には、きっちりと嫌だというようなので、だいじょうぶなのだろう。
話はもとにもどして、
「違うスペックのCADに設定をコピーをする場合、高いスペックへのコピーは性能が出ないだけで済むことがほとんどだけど、低いスペックへのコピーは性能がでないだけでなくて、精神面への負担も増えることが多いから、設定も変更するのがいいんだ。しかし、部活では単純に設定をコピーをしてから、実際に使用してみて、自分の感覚にあわなくなってから設定を変更している人が多いみたいだから、気がついていない人は多いみたいだけどね」
「翔の言っていることで正しいよ。しかし、部活では、そんな風にしているのは知らなかった」
「魔法系クラブで、魔工技師志望っていうのは、少ないみたいだから、各部活単位でCADを調整するんじゃなくて、魔工技師志望者が、メンテナンスする体制が整えば、各クラブの成績もあがると思うんだけど、個人的には、それで操弾射撃部の代表のレギュラーメンバーから落ちたら、悲しいものもあるなぁ」
「九校戦のメンバーに選ばれたのだから大丈夫なんじゃないの?」
「九校戦だと今年は1年生だけから10名だったけど、来年は2,3年生を含めて10名だから、そのメンバーにのこれるかどうかは、今のままでは難しいかな」
「それはそれとして、競技選手は誰がどの競技になるかって決まったの?」
「明日になったら、各部の部長から、連絡があると思うわよ」
「へー。そうなんだ」
「だいたい恒例らしいのだけど、クラブに所属している競技選手は部長から、クラブに所属していない場合には、生徒会から連絡が届くようになっているみたいよ」
さて、何の競技になるか、楽しみ半分、不安半分といったところだ。
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