アバタもエクボ
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第九章
第九章
「それじゃあ今から」
「よし、行けよ」
「しっかりやれよ」
「しっかり?」
彼等の背中を押す様な言葉にまた首を傾げる。しかし彼はその言葉を聞いて音楽室に向かうのだった。その彼等が言った場所にだ。
そして理佐もだった。教室に入ったところで待ち構えていた女の子達に言われた。
「先生が呼んでるわよ」
「音楽室にね」
「音楽室に!?」
「そう、そこ」
「そこに今すぐ来てくれって」
「音楽室にって」
それを聞いて彼女も首を傾げるのだった。
「ええと、私をよね」
「そうよ、あんたよ」
「あんたに来て欲しいってね」
「何なのかしら」
自分達のクラスの担任のことを考える。実は女の先生で音楽担当だt。しかしそれでもクラスの用事で音楽室に呼ばれたことはないからだ。だから不思議だった。
「一体」
「まずは行きなさい」
「すぐにね」
その理由はあえて話さず理佐に告げる彼女達だった。
「わかったわね。じゃあ」
「頑張ってね」
「頑張って?」
皆の今の言葉にふと目を止めた。
「頑張ってって?音楽室で?」
「行けばわかるわよ」
「そういうこと」
彼女達はにこりと笑ってこう言うだけだった。
「答えはハッピーエンドしか聞かないからね」
「わかったわね」
「ハッピーエンドって」
余計にわからなくなる彼女だった。何はともあれその音楽室に向かう。防音の壁とスポンジに覆われ黒く大きなピアノがある教室の中に。彼がいた。
「えっ・・・・・・」
「鳴宮さん!?」
二人はお互いの顔を認めてまずは驚きの声をあげた。
「どうしてここに恩田君が」
「何でここに」
二人はそのことにまず戸惑った。かなり焦った。それで二人共次には顔を真っ赤にさせた。そうしてそのうえでまずは丈が言うのだった。
「若しかしたらだけれど」
「若しかしたら?」
「やられたかな、僕達」
こう察したのである。
「皆に」
「皆にって」
「いや、御免」
丈はここで気恥ずかしい仕草で理佐に言ってきた。
「あの、俺さ」
「ええと、好きなのよね」
理佐が先に言ってしまった。
「前からなのよね」
「ええと」
「私のこと。好きなのよね」
俯きながら言う理佐だった。
「わかってたけれど」
「わかってたんだ」
「だって。いつもクラスに来てたし」
それでわからない筈がないというのだった。
「それで私の方見てたし」
「ま、まあそれはね」
「ええ。それはね」
このことを彼に告げたのだった。
「もうね」
「そうだったんだ」
「それで。二人きりよね」
「うん」
「私今一人よ」
声は消え入りそうにまで小さくなっていた。それでも丈には聞こえた。
「彼氏とかそういう人っていたことなかったのよ」
「それじゃあ」
「ええと。恩田君はどうなのかしら」
「俺は」
「恩田君が言うのならね」
言葉は彼に預けたものだった。彼を立てたのである。
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