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美しき異形達

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第三十三話 神もなくその九

「この生きもの」
「確かにな。ただな」
「ただ?」
「カブトガニって食ったらどうなんだろうな」
 薊はカブトガニを見つつこうしたことを言った。
「美味いのかな、これ」
「あまり美味しくないんじゃない?」
 鈴蘭がその薊に顔を向けて答えた。
「美味しかったら食べてるでしょ」
「それもそうか」
「瀬戸内にいるんだし」
「けれど皆食わないよな」
「美味しかったら絶滅してるわ」
 とうの昔にというのだ。
「瀬戸内にしかいないし」
「じゃあ本当にまずいんだな」
「蟹とはまた違うんでしょ」 
 その味がだ、言うまでもなく蟹は美味でよく食べられている。
「瀬戸内っていうと漁師さん多いし」
「魚とか一杯漁れるしな」
「そこで食べないから」
「やっぱりまずいか」
「そう思うわ、私は」
 こう薊に話すのだった。
「カブトガニはね」
「そういえばペンギンもまずいらしいな」
 薊は菊とカブトガニのことを話してから先程見ていたこの鳥のことを言った。
「何かの本で読んだけれど」
「そうみたいね」
 向日葵が薊に答えた。
「脂身が多くてお肉の味もね」
「よくないらしいな」
「だから皆食べないのね」
 ペンギンにしてもだ。
「やっぱり美味しかったら食べてるし」
「それで絶滅した動物もいるわよ」
 菖蒲も話に入って来た。
「生物の歴史においてはね」
「嫌な話だな、そりゃ」
「そうね、人間には嫌な一面もあるから」
「食って絶滅させるとかな」
「いいお話ではないわね」
「ああ、聞いていて嫌な気分になるよ」
 実際にとだ、薊は菖蒲に暗い顔になって返した。
「そうした話は」
「そうね、私もよ」
「やっぱりな」
「こうしたお話はいいものではないわ」
「教訓にしないといけないお話だけれど」
 黒蘭が菖蒲に応えて言う。
「それでもね」
「こうしたお話は聞いていて楽しいものではないわ」
「絶滅とかいうお話は」
「本当にそうね」
「水族館は絶滅を防ぐ為にもあるのよ」
 菖蒲はこのことも話した。
「そうした意味もあるのよ」
「そう考えると凄く有益な場所ですね」
 桜は菖蒲の今の言葉に微笑んで言った。
「絶滅は悲しいものですから」
「その種を確保して繁殖させてね」
「そうしてですね」
「絶滅を防ぐのよ」
 それもまた博物館の役目だというのだ。
「それもまた役目なのよ」
「素晴らしい場所ですね」
「動物園や植物園もそうだけれど」
 こうした場所も同じだ、種の絶滅を防ぐことは。
「水族館もなのよ」
「そういえばラッコやスナメリは」 
 菫はこの鳥羽水族館にいる生物の中でもとりわけ有名な生物達のことを思い出した。 
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