| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある六位の火竜<サラマンダー>

作者:aqua
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

事件のはじまり

 
前書き
今回は話の区切り上、最近の更新の中では短めの話となっています。 

 
「あんたは私のママかああああああああ!!!!!」

目の前で御坂がバンとテーブルを叩きながら立ち上がる。その音に驚きつつ、蓮と初春、松野の3人は苦笑い。ここは御坂と蓮たちが初めて会ったいつものファミレス。初春はパトロールの休憩中、松野はひまつぶしに外でぶらぶらしてる最中、蓮はコンビニに向かう途中にたまたま御坂に会い、ここに呼ばれたのだ。そして聞かされたのは白井に対する愚痴。

「うわあ……めちゃくちゃ怒ってる……」
「ねえ!どう思う、みんな!?」
「え、えーっと……」

小さくつぶやく松野の声を気にせずに大声のまま御坂が3人に聞いてきた。初春が苦笑いして言葉を濁す中、蓮が御坂の前で手を上下にひらひらさせて座れの合図。そこで周りの人がこちらに注目していることに気が付いた御坂は周りに愛想笑いを向けて座る。

「たぶん白井は御坂さんに無茶してほしくないんですよ。過保護感はありますけど……」
「そうですね。御坂さんのことが心配なんですよ。危険なことに巻き込みたくないって。」
「危険ねえ……」

蓮と初春の言葉にも不満気な御坂。御坂は学園都市の7人のレベル5のしかも第3位。危険といわれてもピンと来ないのだろう。この都市で御坂に勝てる人などそうそういないのだから。同じレベル5の蓮も正直危険といわれても思いつかないからこその過保護だという発言である。

「それにそのグラビトン事件だって……」
「そんな名前がついてるんだ?」
「アルミの爆弾なんて犯人は何がしたいんだろう……?」

初春の言葉に松野と御坂が反応する。連続虚空爆破(グラビトン)事件。御坂と白井の喧嘩の理由になったともいえる事件である。これまで5件の小規模の爆発が起きており、被害者はなしということだが爆発というやり方からも正直笑える内容の事件ではない。重力子の加速によってアルミを爆弾に変えているためそれ相応の能力が必要になり、バンクを調べれば簡単に犯人が見つかるはずなのだが、唯一そのようなことができる『量子変速』(シンクロトロン)の高レベル能力者は1人だけ。その能力者は1年前から入院中で犯行は不可能。いまだ犯人の目星はついていない。ここで御坂が操作の手伝いを申込み、白井が御坂に普段の生活態度などをダメ出し。喧嘩に至るというわけである。そんな中、蓮は違うことを考えていた。

(松野に重福に今回はバンクに該当者なし……。また急激に能力者のレベルが上がったパターンか?こんなに急にレベルが上がる能力者が多発する偶然なんて……)

レベル2のはずがレベル4並の能力者の松野。バンクのデータより高位の能力を使っていた重福。すでに2件。言いようのない不安と違和感を蓮が感じるが初春が続きを話し始めたために意識をそちらに向ける。レベルの急上昇を信じたくないという無意識の逃げであったが仕方のないことだろう。

「最初はゴミ箱の空き缶とかだったのが最近では人形や子供用の鞄みたいな警戒心を削ぐものにアルミを仕込んだりしていて……」
「うっわ、タチ悪いなあ……」
「ひっどいことするわね」
「だからってわけでもないですけど白井さんは御坂さんのことを心配してるんですよ。」

初春の言葉に御坂が微妙な表情になっていると、そこで店員が大きなパフェを3つ運んできた。

「きたきた~!」
「神谷は2つも食べるのかよ……ってもう食べ始めちゃってるし。」
「う~い~は~る~!!!」

1つは初春の前、残りの2個は蓮の前にパフェがおかれ、蓮はすぐに食べ始める。初春も続いて食べ始めようとするがそこに横からかかる怒りを多分に含んだ声がかけられた。

「し、白井さん!?」
「うわ……完全に睨んで目そらしたよな。喧嘩売ってる感じで……って、神谷?パフェ食い続けんの?この状況で?」
「パトロール中にこんなところで油売るなんていい度胸ですの。さ、パトロールに戻りますわよ。」
「は、はい。あ、でもパフェが……」

そこにいたのは白井。御坂を軽くにらんでから初春を連れて行こうと引っ張っていく。ちなみに蓮は一連の流れを華麗にスルー。松野は心配そうに御坂と白井を交互に見ている。

「私が初春さんを呼んだのよ。文句があるなら私に言えば?」
「あら、どういたしまして。ですがこれはジャッジメントの問題ですので。」
「2人ともそんな喧嘩腰で話さなくても……」
「一般人は口出し無用ってわけ。」
「お姉さまはお忘れかもしれませんが、ジャッジメントの仕事はお姉さまが思っているほど甘くはないんですのよ?」
「なっ……!!」
「全然聞いてくんないし……。てか2人とも怖いよ……」

松野の控え目な説得を意にも介さず2人は言い合い、白井は初春を引きずって店から出ていく。止めようともしていなかったのに、パフェを涙目で求め続ける初春に自分が食べておくからなという言葉をかけている蓮を松野は軽くにらみ、恐る恐る御坂をうかがう。

「なっっっんなのよ、あの態度は!二言目にはジャッジメント、ジャッジメントって……!!だったら1度くらい私が不良やっつける前に来てみろっての!!ねえ!?」
「そ、そうですね……。うわあ……怒ってる怒ってる……。神谷、いい加減何とかしようとしてくれよ。」
「無理。パフェ食べてないと怖くて仕方ない。」
「うわあ、俺よりビビってたあ~。ってあれ?これって初春の腕章……?」
「あ、ほんとだ。まだそこにいるかもしれないし私見てくるね。」

声を荒げる御坂を蓮が思っていたより怖がっていたことが判明し、松野があきれていると初春の腕章が目に入った。どうやら置き忘れていったらしい。御坂が外に初春を捜しに出ていく。そこで2人はようやく安堵の息をついた。意外に蓮も本気で怖かったのだ。関わりたくないと思うくらいには。

「あの2人の喧嘩は怖いわ……。女子ってやっぱ怖いなあ……」
「しかもレベル4とレベル5ってとこが怖いよね。万が一にもないだろうけど能力使って喧嘩になったら周りの被害考えたくないよ……」
「だな。って御坂さん、なんか誰かに話しかけられてるな。ジャッジメントの人……?」

2人が御坂と白井の喧嘩の恐ろしさを話していると、窓から見える位置で御坂がジャッジメントの人に声をかけられていた。さらにそこで御坂がいたずらを思いついたようなにやりとした笑みを浮かべたのが確認できる。

「なんかよからぬこと考えてるよな、あの顔。」
「御坂さん、ジャッジメントの腕章つけて笑顔で頭下げてるんだけど大丈夫なの?あ、行っちゃった……」

御坂はジャッジメントの腕章をつけ、笑顔であいさつをしたかと思うとジャッジメントの人について歩いて行ってしまう。その途中にこちらに笑顔を向けてくるも蓮たちはどうすることもできずにそれを見送る。そこで蓮と松野は顔を見合わせた。アイコンタクトの会議内容は様子を見に行くか否か。判決は一瞬で一致。

「さ、食い終わったし出るか。松野、初春の分の代金よろしく。」
「早っ!!ってなんで!?俺食べてないんだけど!!」

その後、うまく話しにのせられた松野がじゃんけんに負け、理不尽に初春の分のパフェ代金を払い、2人は夕方までゲーセンなどで暇を潰してからそれぞれの寮に帰宅した。ちなみにその夜、初春に御坂がジャッジメントのふりをして仕事をしていたという話と御坂と白井の仲直りの話を聞いて、蓮は関わらなくて、そして喧嘩が終わってよかったと心の底から安堵した。





その次の日。蓮はひまつぶしの立ち読みのために近所のコンビニを訪れていた。そして、立ち読みしている漫画が佳境に差し掛かったころ、急に店内に大声が響き渡った。

「ジャッジメントです!早急にこの場から避難してください!!」
「避難?」

蓮が驚いてそちらを見ると店内に入ってきたのは男女2人のジャッジメント。女子生徒の方は手に大きな透明の盾を持っている。どうやら緊急事態らしい。状況についていけない店員が説明をもとめる。

「あの、うちの店になにか……?」
「急激な重力子の加速が確認されました。この場に爆弾が仕掛けられている可能性があります。」
「爆弾!?」
「きゃああああ!!」
(重力子の爆弾……。グラビトンか!!)

ジャッジメントの言葉にパニックになる店内。間が悪く人が多く来店しているときだったためにぶつかったりと避難の進行が少し悪い。事件の内容を把握した蓮も、何ができるわけでもないのでとりあえず店外に出ようと歩きだす。その時、悲鳴が聞こえた。そちらを向くと1人の女子をジャッジメントの男子生徒が助け起こす様子が目に入る。

「きゃあっ!」
「……!大丈夫ですか!?」
「すみません。足を……」
「急いで避難を……」

女子生徒に肩を貸し、避難しようとするジャッジメントの生徒。その足元の棚に不自然なウサギのぬいぐるみがあることに蓮は気づいた。思い出される初春の言葉。

『最初はゴミ箱の空き缶とかだったのが最近では人形や子供用の鞄みたいな警戒心を削ぐものにアルミを仕込んだりしていて……』
「っつ!!まさか!!」

蓮が気づくのと同時にウサギのぬいぐるみが自らの中心に引き込まれるかのように収縮していく。ジャッジメントの生徒も気づいたようだがあの距離にさらにけが人を連れていては逃げきれない。そこまで思考したところで蓮の体は勝手に動き出していた。

「伏せろ!!!」

とっさに足の裏からの炎のブーストで加速。かろうじて爆発寸前で2人と爆弾の間に入り込むことに成功する。その瞬間、爆弾が爆発した。

「はあああああああああ!!!!」

爆発と同時に演算を開始、能力を使い爆炎を操り、誰もいない左右にそらす。蓮だけなら炎には耐性があるため必要ないが後ろには2人の人がいるためそらすしかない。さらに、爆風に飛ばされて後ろの2人をかばえなくならないように後ろに気を付けながら風と同じ威力のブーストで体を固定。後ろの2人はジャッジメントの人が一般生徒に覆いかぶさってかばっているので大丈夫だろう。そこから飛んでくるがれきを炎で迎撃しようとしてついに間に合わなくなった。

「つっっ!!!!」

身体中に飛んでくる大小様々な棚や壁、ガラスの破片。そのどれもが後ろを守るために回避することのできない蓮の体に傷を負わせていく。そして一際大きなガラスの破片が蓮の脇腹に突き刺さり、演算に支障が出る。当然能力は解除され、蓮は爆風とがれきの衝撃で壁まで吹き飛ばされ、背中を打ち付けることとなる。その体の至る所が傷つき、脇腹からはおびただしい量の血が流れ出ていた。

(やば……はやく傷を火傷させてでも止血を……)

朦朧とする意識の中、そんなことを考えるも能力の使用に集中できず何もできない。体もまったく動かない蓮のもとにかばった2人ともう1人のジャッジメントが駆け寄ってくる。必死に呼びかけてくる彼らの声をどこか遠くに聞こえているような感覚でききつつ、蓮は呟く。

「ぶ……じみたいだな……よか……った……」

能力が切れ、吹き飛ばされたのが爆発の最後だったからだろう。見たところ一切の怪我のない2人に安堵しつつ蓮の意識は闇に落ちていった。

 
 

 
後書き
初春と白井の過去の話は省略させていただきました。
のちにおまけのような形で合間に書こうかなと思っています。

感想よろしくお願いします。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧