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戦国異伝

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第百九十話 龍王山の戦いその一

                 第百九十話  龍王山の戦い
 信長は備中に入るとまずは美作に兵を進めその国を織田家のものとした荒木と彼が率いる軍勢二万と備前から備中に入ったそこで合流した、そしてだった。
 その荒木達にだ、本陣において確かな笑みでこう言った。
「よくやってくれたな」
「有り難きお言葉」
「ほぼ一戦も交えずに美作を手中に収めたとのことじゃが」
「殿が毛利の軍勢に備前で勝ったお陰です」
 その結果だと答える荒木だった。
「美作の国人達は皆雪崩を打って織田家に入りました」
「そう言うか」
「それがし達はただ何もしておりませぬ」
「いや、降った国人達を無事収めておるではないか」
 信長は荒木の言葉を謙遜と見抜いて言うのだった。
「何もつつがなくな」
「だからですか」
「それもまた功じゃ」
「ただ国人達を入れただけですが」
「その国人達を何も揉めずに入れることも簡単ではない」
 国人達といっても様々な者達がいる、同じ国の国人達でもいがみ合っていたりする、そのことをわかっているからこそ言うのだ。
「それが出来たからじゃ」
「それが功ですか」
「うむ、見事なな」
 それであるというのだ。
「だからこそな」
「それでこそですか」
「御主達のその功は忘れぬ」
 必ず、という言葉だった。
「次の論功は楽しみにしておれ、さしあたっては」
「はい」
「馬をやろう」
 武士にとって何にとっても代え難いそれをというのだ。
「御主が前に欲しておった馬があったな」
「あの馬をですか」
「うむ、御主のものとする」
 そして荒木の後ろにいる高山達にも言う。
「御主達にもそれぞれじゃ」
「馬をですか」
「頂けますか」
「大事に育てる様にな」
「はっ、それでは」
「有り難く」
 彼等も信長に頭を垂れる、さしあたってはそれを褒美として荒木達をねぎらった。その話の後でだった。
 織田軍はまた兵を進めた、その進める先には備中高松城がある、黒田は信長にその高松城のことを詳しく話した。
「あの城はこの大兵でもです」
「攻められぬか」
「はい、どうしても」
 そうだというのだ。
「それは」
「話は前にも聞いておったが」
「ですからこの大軍でも」
「攻められぬか」
「あの城は」
「そうか、ではじゃな」
「策がありますので」
「では高松城を攻める時はな」
「お任せ下さい」
 こう信長に言うのだった、高松城に向かう時の話だった。
 元就は元就でだ、彼もだった。
 まずは息子達と彼等が率いる軍勢と合流してだ、そのうえでだ。
 三人の息子達にだ、こう言うのだった。
「前の戦じゃが」
「申し訳ありませぬ」
「敗れてしまいました」
「うむ」
 まずは静かに頷く元就だった、そして言うことはというと。
「織田の大軍に戦を挑んだのは見事、しかし」
「しかしですか」
「それでもと」
「夜襲はすべきではなかった」 
「夜襲はですか」
「それがよくなったのですか」
「そうじゃ」
 それで、というのだ。
「夜襲を仕掛けても勝てる相手ではないわ」
「織田の大軍はですか」
「そうだったのですか」
「そうじゃ、織田信長はな」
 例え夜襲を仕掛けようともというのだ。 
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