ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語
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■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆生きる意味
第六十三話 生きる意味:ミドリ&ストレア
前書き
お久しぶりです。1年弱ほったらかしにしていて大変すみませんでした。
ほとんどの読者さんは今までの展開を忘れていると思います。もしお時間がありましたら、第五十八話「仲間を敵に回す覚悟、自分の命を失う覚悟」から読んでいただけると分かりやすいかと思います。
【これまでのあらすじ】
マルバの仲間であるミズキは,茅場晶彦との壮絶な戦いの果てに死んだ。しかしカウンセリングプログラムと融合することで、彼はミドリとして生き返っていたのだった。ミドリは新しい仲間であるシノン、ストレア、イワンと共に行動することになるが、ある時、ストレアが実はコンピュータプログラムであったことが判明し、そしてミドリはゲームクリアの果てにミドリとストレアは存在自体が消去されるということを知ってしまう。消滅をまぬがれるためには、ゲームのクリアを阻止するしかないのだろうか。プレイヤーにそれぞれの生きる意味を聞いてまわるうちに、ミドリは、すべてのプレイヤーが死んでゆく悪夢を見た。
「おそらく、MHCPのシミュレーション機能のひとつですね」
先ほどの夢について聞くと、ユイは確信を持って答えた。しかしストレアは意味が分からずに聞き返した。
「シミュレーション機能?」
「ええ。そもそもMHCPは人間を対象に様々な行動を起こすプログラムですので、間違いは許されません。従って、事態を悪くする行動を起こさないためにいくつもの対策がなされています。そのうちのひとつです。やるべきことで悩み、それがAIに一定以上の負荷を与えた時、その選択がプレイヤーにどんな影響をあたえるのか、不確定要素を適当に設定して最悪の状況をシミュレーションするんです。それによって、最悪の事態を回避するためにどのような行動を起こせば良いかを考えることが可能になります」
「それであんな悪夢を……」
「ええ、多分そういうことです。ミドリさんでもMHCPの根幹機能はちゃんと生きてたんですね。……そういえば私もシステムに閉じ込められてモニタリングだけしてた時にはしょっちゅうやっていました。いくら最良の選択肢が分かったとしても、結局なにもできなかったので、余計に崩壊を早める結果になりましたけれどね。ストレアさんたちは一体何で悩んでいたんですか?」
ストレアが返事に困ってミドリを見ると、ミドリは頷いて言った。
「ストレア、そろそろ決断できただろう。こいつらにも話さないか?」
ストレアは戸惑いながらも……しっかりと頷いた。
ミドリたちは事情を話した。自分がAIである故に、ゲームクリアと同時に死ぬのは避けられないということ――。あまりのことに、その場に集まったマルバたち元《リトル・エネミーズ》の面々、ミドリとストレアが倒れたと聞いて駆けつけてきたシノンとイワン(ミドリとストレアが抜けた後も二人パーティーで攻略を続けていた)、そしてキリトとアスナは言葉を失った。ユイだけがもっともらしく頷きながら感想をもらす。
「やっぱり悩みますよね。わたしはパパとママが無事ならそれでいいので、その二択で悩むことはありませんでしたが」
「ちょっ、ちょっとユイちゃん! 私だってユイちゃんが死んでまでこの世界をクリアしたいなんて――」
「そうは言わせませんよ、ママ。ママたちはこの世界を出なければいけません。もしわたしのためにクリアを諦めるのなら、わたしはなんのために生まれてきたんですか。わたしの願いは、ママとパパがずっと仲良く暮らせることなんですよ」
「ユイ……お前は……」
「そんな泣きそうな顔しないでください、パパ。わたしを向こうの世界で展開してくれるんでしょう?」
「……ああ、必ず」
そう約束しながらも、キリトにだって分かっていた。ユイを現実世界で展開することはできない。どんなOSで動いているのかすら分からないこのSAO規格で作られたAIを展開する方法など、彼に思いつくわけがないのだ。それでも、できることはなんでもやってみようと彼は決意した。
「それで……ミドリたちはどうするか決断できたの?」
アイリアの問いかけに対し、ミドリとストレアは確信を持って頷いた。
「ああ、決めた。もう迷わない」
「私も。こうなるんじゃないかな、とは思ってたけどね」
二人は互いをちらりと見たあと、全く同じ決意を言葉にした。
「俺はお前たちと一緒にクリアを目指す」
「私もみんながクリアするのを手伝う」
「俺は、俺の『生きる意味』は――プレイヤーがこの世界を出ること、だ。何故なら、俺にはそれ以外に何も残せないからだ。俺がここで死ぬことは決定事項だ。それなら、俺は『自分のあるべき姿を追い求めたい』。俺が『自分らしくある』とは、システムに隷従するプログラムとしてこの城を守ることでは決して無いし、ましてや自己犠牲の精神で自分を殺し、プレイヤーを開放する英雄になりきることでもない。……俺は『みんなを守りたい』んだ。今まで世話になったみんなに報いたい。それに、ここでみんなの助けをすることなく、俺の知らないところでこの世界がクリアされたら、俺は『なにも為せなかった』ことになる。それは『悔やんでも悔やみきれない』ことだろう。だから俺は――俺自身の意志を持って、この城の開放を目指して戦う! それが、『俺達が生き残り、プレイヤーが救われない』でも、『俺達が消え、プレイヤーが開放される』でもない、第三の未来――『俺がやるべきことを為して死に、プレイヤーも開放される』、その選択だ!」
「私はずっと悩んでいた。私自身がやりたいことを見つけられないまま――。でも、そんなのはちょっと考えればすぐに分かることだったんだ。ただ、『プレイヤーの邪魔をするか、あるいは何もやらずに、クリアを認めないで、結局は死んでいく自分』と、『みんなと肩を並べて戦い、希望を持って死ぬ自分』のどちらを目指したいを考えれば。私は――『自分を殺してまで、生きていたいとは思わない』! 私が望むのは、『真に生き続ける自分』よ!! ただ流されるのではなく、自分で選択し、自分で進む道を切り拓く……私はそうやって生きていく!」
二人の命がけの決意は、その場の皆の魂を震わせた。生きるか死ぬかの選択を前に、目を閉じ、耳をふさぎ、口を閉ざすものがどんなに多いことか。彼らも一時はそうなりかけたのだ。それでも立ち上がり、自らの全存在をかけて答えを追い求めるその姿のいかに力強いことか! いかに尊いことか! 身体は人間ではなくても――人間というものの強さを、彼らは圧倒的存在感をもって示していた。
「なんていうか――すごい」
アイリアは何の意味もない感想を漏らしたが、他の皆も頷いて同意した。どんな言葉を並べても彼らの決意の前では無価値だった。
「ありがたしとも世の常なり――とミズキだったら表現しただろうね」
マルバは感動しながら言った。ミドリとストレアの言葉は、まさにそれ以外に言いようがないほどの力を持っていた。
「ぐすっ、なんか涙でてきちゃいました……」
シリカは思わず涙ぐんでいた。マルバが少し笑いながらシリカの頭を撫で、マルバの使い魔のユキがシリカの膝の上にぴょんと飛び乗った。
「ずっと一人の強さを求めてきたけど、なんか間違ってた気がしてきたわ……」
シノンも少し呆然としている。圧倒的な強さを見せつけられ、彼女は自分の価値観すら揺さぶられていた。
「これが、思いの強さってものなのかもしれませんね」
イワンがぽつりとつぶやいた。彼は共に上層へ上り、そして死んでいった二人の仲間のことを思い出していた。彼らもまた、自分の想いに従って生き、そして死んでいったのだろう。
「ミドリたちがこんなに頑張ってるんだから、わたしたちも頑張らないわけにはいかないよね」
アスナが気合を入れると、キリトも頷いて同意した。
「ああ、その通りだ。――よし、このままミニレイド組んで攻略いくぞ! 目指すは九十二層のボス部屋到達だ!」
キリトの叫びを受け、真っ先に大声で応えたのはユイ。
「おおー!! って言ってもわたしは応援しかできません……。みなさん、頑張ってー!」
その一所懸命な応援に、皆は掛け声で応えた。宿屋に大声がこだました。
九時間後、迷宮区すら発見されていなかったはずの九十二層においてボス部屋が発見され、ボス戦に必要なクエストも全て達成された。それはSAO初の快挙として後に語り継がれたという。
後書き
死んででも守りたいもの、死ぬまでに達成したいことが、あなたにはありますか。人はそれを「人生の意味(Meaning of life)」と呼び、それを言葉にしようと古来より努力を重ねてきました。
実はこの小説で人生の意味を扱うのは初めてではありません。マルバくんの人生の意味は、最初は「自分の存在した証を残すこと(第十四話 サチ)」でしたが、シリカに会ってそれを達成していたことに気づき、「理想像に近づくこと(第六十話 生きる意味:マルバ&シリカ)」に変化しました。
私自身の人生の意味はというと、マルバくんの最初の人生の意味に近いです。私は他の人が見つけていない何かを見つけたいと思っています。いつ死ぬかなんて分からないので、はやく達成したいものですね。
次回はラスボスとの戦いです。
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