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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico4恋愛は友情の切れ目

 
前書き
恋愛は友情の切れ目/意:仲の良い友人であっても、ひとたび恋愛が関わってくると亀裂が生まれ、仲が悪くなってしまうというたとえ。 

 
†††Sideルシリオン†††

始業式が終わり、俺とはやてとシャルは、クラスメートと一緒に4年2組の教室へと戻ることに。体育館を出、昇降口を通り、4棟の校舎を繋ぐ接続塔の中央へと辿り着く。すでになのは達1組の生徒の姿が無いところを見ると、早々に中央階段を上がって行ったらしい。

「それじゃ、ルシル君。付き添い頼めるか?」

「ああ、判った。シャルは・・・」

さっきはシャルが名乗り出していたが、「わたし? わたしは、みんなと一緒に戻るからいいよ♪」すでにクラスメートと仲が良くなっていて、その子たちと喋ることの方が、優先度として高くなっているようだ。シャルの、誰とでもすぐに仲良くなる才は本当にすごい。

「そっか。じゃあ、シャルちゃん、みんな、また後でな」

「シャル。変なことを言って孤立しないようにな」

「しないも~ん!」

つーんとそっぽを向いたシャルや、これから共に勉学に励むクラスメートと別れた俺とはやては、2人でエレベーターへと乗った。エレベーターの内装は一般的なものとは違って、壁は晴れやかな空のイラストで、足元付近には花畑のイラストが描かれている。それに、階数ボタンのパネル横にはデフォルメされた色んな動物が階数を示す数字を抱っこしているイラストもある。もちろん、点字や点字ブロックも完備。あと車椅子が余裕で旋回できる広さがあるのも良いな。

「初日の半分も経ってへんのに、なんや疲れたなぁ」

「そうだなぁ。身体的というよりは精神的に疲れたよ。アイツの所為で」

「あはは。シャルちゃん、学校に通うこと事態が初めて見たいやし、浮かれてるんやなぁ」

「その浮かれ具合が続く限り、今日のような騒ぎが起こり続けるというのか?」

俺がそう言うとはやてが少しの間、何かを思い浮かべるような表情をした。そして「退屈よりはマシやよ♪」こちらまで嬉しく、楽しくなるような笑顔を浮かべた。何百と繰り返してきた学校生活に飽きてきていたが、はやての為だ、俺もしっかり楽しまないといけないな。

「ふえ? 急に頭を撫でてどうしたん? ルシル君。・・・まぁ、気持ちええから、好きなだけ撫でてくれてもええけどな♪」

まるで猫のように目を細めて俺の手を受け入れるはやてに、「卒業まで、どうぞよろしく」俺も笑みを返してお辞儀する。と、はやても「んっ。こちらこそよろしくお願いしますっ♪」お辞儀返し。一緒に頭を上げて笑みを浮かべ合った。

≪ピンポーン♪ 3階です。扉が開きます≫

エレベーター内にアナウンスが流れ、ドアが開いた。俺ははやての乗る車椅子のグリップを握り、エレベーターから出る。エレベーターの扉に面しているのは第1校舎。俺たちのクラスのある校舎とはちょうど反対側。時計回りに曲線廊下を歩いて、4年2組の教室を目指す。

「やっぱりシャルちゃん達はまだなんやなぁ」

「階段だからな。ま、一番乗りだから、そこは良しとしよう。もしかすると、この一番乗りが学校生活で、最初で最後かもしれないからな」

「あー、そうかもな」

わざわざ一番乗りを目指して登校するほどせっかちでもなければ、これからちょくちょく管理局の仕事が入って休みや遅刻・早退しなければならないこともあるだろうし。一応、そこのところの配慮はしてもらっているため、よほどの事がない限りは学業優先となっている。

「・・・えっと、出席番号順に座るように、か」

黒板にそう記されていたから読み上げた。よく見れば机には名札が張られている。窓際の先頭から1番と始まり、5番を最後列として、次列が6番から始まる、という席順だ。真っ先に「わたしは32番・・・1番後ろやな」はやてが自分の席を見つけた。廊下側、教室後部の出入り口付近で、出席番号の最終番だった。

「あっ、隣はシャルちゃんや! 出席番号27!」

「おお、本当だな。なかなか気の利いた偶然じゃないか」

はやてが自身の席の隣がどんな子なのだろうかと確認して気付いた事実。俺も、出来ればはやて(ついでにシャル)の近くが良いな、と思って付近の席を調べて見る。と、「俺は・・・えー・・・、出席番号16番だな」自分の席を発見。中央列の最後列。窓側・廊下側とは違って、列1組分突き出している。これで俺とはやてとシャルは揃って最後列が決定。まぁ、3人とも視力は悪くないため問題はないが。

「へーい、ただいまー!」

そこに元気いっぱいの挨拶が教室内に響いた。シャルだ。クラスメートを引き連れての帰還だ。

†††Sideルシリオン⇒イリス†††

はやてとルシルと別れた後、わたしはこれから一緒に勉強することになるクラスメートと一緒に、幅が2mほどもある中央階段を上る。そんな中で、「シャルさん。あなた、はやてさんやルシル君、それにアリサ・バニングスと親しいみたいですけど・・・」先頭を行く学級委員長(クラスのリーダー的役職らしい)の咲耶が話しかけてきた。

「まぁ親友だし。出会いは去年の春ごろ。最初はなのはとすずかとアリサと仲良くなって、その後にフェイトとアリシア。はやて達とは冬に出会ったの。歳も同じだし、それからは一緒かな」

「冬・・・。最近なんですのね。・・・ということは、わたくしの方が早くはやてさん達とお友達になったのですのね」

「それで? 咲耶はどうなの? 病院で知り合ったって、はやてから聞いたけど」

そこが気になってたから、こっちも訊き返す。すると「いいですわよ。そう、あれは忘れもしない、運命の日ですわ。去年の7月11日でした」咲耶は当時の思い返すかのように目を閉じて頬を朱に染めた。あのさ、ルシル。もうホントさ、どんだけフラグを立てるような真似するの? 馬鹿なの? 無限女装の刑に処すよ? いいの?

「わたくしが、姉の結の着替えを病院へ届けに行った時でしたわ。無事に届けた後に飲み物を購入しに自販機コーナーへ行ったのですけど。そこで少々不良と後ろ指差されそうな男性と遭遇しまして。わたくしが自販機に硬貨を入れた瞬間、その男がわたくしの入れたお金で飲み物を購入したのです」

「うわっ。そんな奴いるの? 強面の人だったの?」

「ええ。祖父が好きな極道モノの映画に出てきそうな男性でしたわ」

文字通り女の子のお金を勝手に使って買い物とか。死刑だよ、死刑。咲耶はそんな奴が相手でも、お金を返してください、ってちゃんと言ったそうなんだけどソイツは、自分のお金が自販機に残っていた、そのお金で買った、だから何も悪いことしてない、なんてふざけた言い訳をして去ろうとした、と。

「――わたくしは相手が誰であろうと不正を許したくありません。古き木花家の一員として。ですけど、やはり体格・体力差などもあって・・・」

咲耶が右手を頬に添えてうっとり。もう話してもらわなくてもオーケーだよ。ルシルでしょ、ルシルが助けてくれたんでしょ。案の定、「ルシル君が助けてくれたんですの❤」咲耶はそう続けた。

「その男性がわたくしの腕を掴んでどこかへ連れ出そうとしてきましたところ、わたくし、恐怖から声が出なくなってしまい、そのまま誘拐されそうになったのですわ。そこで助けてくれたのが、ルシル君でしたわ。男性の腕を鷲掴んで、どこへ連れて行く?と言って、止めたのですわ。今思い返してもドキドキしますわ」

2階に上がり終えたところで、咲耶が一時停止。そして、ほう、って切なげに深い吐息を吐いたと思えば、また歩き出した。それほどまでに衝撃的な出会いだったわけか。話を聴いてたわたしや、後ろに着いて来てる他の女子生徒が「おお!」って歓声を上げた。

「で? 咲耶を拉致ろうとした不貞な野郎はどうなったの?」

「ええ。・・・一触即発でしたわ。男性はルシル君にも怒鳴り始めましたもの。さらにはわたくしと同じように連れ出そうとしたのですけど、ルシル君は何かしらの格闘技で男性を組み伏せた後、男性の耳元に何かを囁くと・・・。どういうわけか、男性は顔を青褪めさせて、さらに涙目になって外へと駆け出して行きましたわ」

不思議そうに小首を傾げる咲耶。なんか特別な魔法でも使ったのかなぁ。ルシルは普通の魔導騎士とは違って妙な魔法も使うし。その内の何かで精神攻撃でもしたのかも。
そんなことを考えながら3階へ上がるための階段を目指して廊下を歩く。中央階段は、4階までの直通じゃなくて、階層ごとに少し間を開けて作られてる。万が一転がり落ちた時のことを考えてるのかも。とにかく、3階へ上がるための階段のあるところへ10歩ほど歩くと、その階段が見えてきた。

「その後は?」

「わたくし、緊張の糸が切れてしまってその場にへたり込んでしまいました。しかも立てなくなってしまうほどに腰を抜かしてしまいましたわ。ルシル君はそんなわたくしに易しく、大丈夫かい?と、手を差し出してくださったのですわ❤ それでも立てないわたくしを背負って、姉の元まで連れて行って下さりましたの❤」

それでコロッと参っちゃったわけかぁ。てかさ、わたしにもそんな優しさを向けてくれてもいいでしょうに。今度試してみようか。わたしにもそこまで優しく接してくれるかどうか。

「セインテスト君って、見た目はお姫様なのにやる事は王子様だよね~♪」

「人ひとり抱え上げるなんてかなり力が要りそうなんだけど。ルシリオン君は相当な力持ちなのかも」

「はやてちゃんのお姫様抱っこ! あれ、すっごく羨ましい! 頼んだらしてもらえるかな♪」

比佐津天音、五十鈴依姫、そして刀梅って会話に入って来た。まずい、これはまずいよ。ルシルの株が上がっちゃう。どうにかして株を暴落させないと。これ以上ライバルなんて増やしたくない。いくら魔法を知らない一般人だとしても、わたしみたく強烈なアプローチでルシルに迫るかもしれない。

――いい? イリス。10歳から12歳までのプレティーン代の乙女はすでに恋愛をするの。とは言え、大半は恋に恋するもの。だけど、中にはイリスのように本当の恋をする乙女もいるの。成熟した恋愛観を持った乙女が――

――そそ♪ だから、少しでも想い人にちょっかいを出すようなライバルが現れたら、叩き潰さないと取られちゃうぞ。でもま、今のところは大丈夫! 最大のライバルははやて様だし、後から出てきた子にメインヒロイン補正なんて無いんだから、ちょっとやそっとのライバルくらいじゃ揺らがないよ――

――叩き潰すにしても、暴力関係はもちろんダメ、とってもナンセンス。時間をかけてもオーケー。ゆっくりと・・・蹴落とそう♪――

フライハイト家のメイドで、わたしの義理の姉とも言えるルーツィアとルーツィエの言葉を思い出す。2人は余裕を持って良いってそう言ってたけど、ルシルの好みのタイプかもしれない場合、わたしとはやての優位性が崩れる可能性もあるわけで。でもルシルだって早々靡くわけもないと思うし。むぅ。難しい。

「無茶はいけませんわよ。ルシル君は必要だからこそはやてさんを抱えているのですわ」

「でも憧れちゃうよ。女の子の夢の1つと思うんだけど、お姫様抱っこ。咲耶ちゃんも同じでしょ?」

お姫様抱っこは女の子の憧れ。刀梅がそう言って咲耶に返すと、「そうそう!」他の女子は一斉同意、咲耶は「なっ・・・!」顔を真っ赤にして絶句。その様子を見た刀梅が「ほらー!」って咲耶の朱に染まった頬をつんつんって突いた。

「~~~~っ! そんなことありませんわ!」

咲耶が階段1段飛ばしで上がって行った。照れちゃって可愛い。でもルシルは渡さない。そんな咲耶の後を追いかけて、我らが4年2組の教室へ。接続塔と2組の教室との間にある1組の教室を通りかかると、なのはの席に集まってるみんなの姿を発見。
真っ先に気が付いてくれたのはアリシアで、笑顔と一緒に手を振ってくれた。そんなアリシアからなのは達も気が付いてくれて、同様に笑顔と手振りを送ってくれたんだけど、アリサだけが、うげっ、みたいな苦虫を噛み潰したかのような表情を向けてきた。

(アリサ? なんでそんな表情を・・・って、あー、なるほど)

チラッと前を向くと、咲耶もおんなじ顔をしてアリサに向いてた。ドンだけ仲が悪いの、もう。わたしは「ほらほらー、戻るよ~」咲耶の両肩に手を置いて前に進ませる。もちろん、「またね♪」なのは達への挨拶も忘れずにウィンクをプレゼントなのだ。

「へーい、ただいまー!」

大声で挨拶しながら教室に入る。室内にはすでにはやてとルシルの姿があった。わたしは「どうしたの、そんな後ろの席で?」そう声を掛けながら2人の側へと歩み寄ると、「ここがルシル君の席なんよ」ってはやてがその席の左端に張られた名札のようなものを撫でた。そこには「ルシリオン・セインテスト・・・」縦書きでルシルの名前が記されてた。

「ちなみにわたしの席はあそこで、シャルちゃんは――」

はやてが教室後ろの出入り口間近の机を指差して、そしてわたしの席をどこかを指さそうとしたのを、「ちょい待ち」はやての右腕に手を置いてゆっくりと降ろして、「自分で見つけるよ♪」そう告げる。
クラスメートがぞろぞろ入って来て、「あ、席変わるんだ」「僕はここか」「あたしはこっちね」自分の席を見つけて座ってく。わたし達が入ったことで出席番号が変わる子もいるみたい。

「わたしの席はど~こだ♪」

窓際から探し始める。その最中にもどんどん席が埋まっていく。気付けばはやて達も自分の席に着いてるし。蛇行しながら席の張られた名札を確認していって、「一番最後!!」ようやく自分の席を発見。教室廊下側の一番後ろ、はやてのお隣だった。すっごい遠回りしたんですけど。

「おかえり、シャルちゃん♪ 次の席替えまでよろしくな♪」

「ただいま、はやて」

出席番号27番。32番であるはやての左隣に座って挨拶を返す。と、はやての前に座る出席番号31番の刀梅が「近くでラッキー♪」わたし達に振り向いて笑顔を向けてくれた。続いてわたしの前に座る出席番号26番の天守の1つ前、25番の天音が「ちょっと天守、邪魔、退け」天守をしっしって払いのける仕草をした。

「うっさいなぁ。話したいなら席を立って行けばいいじゃん」

「妹のお願いくらい素直に聞きなさいよ」

「どこがお願いだよ。完全に命令じゃんかよ」

「いいから退いてよ。依姫が殴るよ?」

「天音ぇー。私を引き合いに出さなーい」

窓側の前から2番目の席に座る依姫が呆れ口調にそう言った。なんだか懐かしく思えるこのやり取りに自然と笑みが零れちゃう。とそんな時に「はーい、みんな席に着いてー」矢川先生が入って来た。さすがに天音も「また後でね、フライハイトさん」渋々だけど前を向いた。

「みんな、始業式前に伝えた通り、初日のホームルームは係決めと新しいお友達、八神はやてさんとイリス・ド・シャルロッテ・フライハイトさんとルシリオン・セインテスト君に、自己紹介をしようか♪」

矢川先生の提案にみんなが「はーい!」って元気な声で返事。というわけで、早速みんなの自己紹介が始まる。先生が出席番号を呼びながら、その子の名前を黒板に書いていって、呼ばれた子が立って自己紹介っていうスタイル。黒板に記される漢字だって勉強したからちゃんと読めるから問題なし。

(でも、一応メモしておこうっと)

念のために持ってきたメモ帳とシャーペンを鞄から出して、その子の名前の漢字と振り仮名を記していく。

1番:浅間火奈(あさま・ひな)
2番:五十鈴依姫(いすず・よりひめ)
3番:榎本恭一(えのもと・きょういち)
4番:大宮紗彩(おおみや・さあや)
5番:大山智樹(おおやま・ともき)
6番:春日太陽(かすが・たいよう)
7番:金山夏彦(かねやま・なつひこ)
8番:加夜奈留美(かやな・るみ)
9番:木花咲耶(きはな・さくや)
10番:佐保さくら(さぼ・さくら)
11番:寒川礼二(さむかわ・れいじ)
12番:菅原道隆(すがわら・みちたか)
13番:杉原楓太(すぎわら・ふうた)
14番:住吉七海(すみよし・ななみ)
15番:諏訪明(すわ・あきら)
16番:ルシル
17番:田心知果(たごころ・ちか)
18番:竜田秋菜(たつた・あきな)
19番:月読勇也(つきよみ・ゆうや)
20番:歳神聖(としがみ・せい)
21番:豊玉春子(とよたま・はるこ)
22番:内野大地(ないの・だいち)
23番:中筒翼(なかつつ・つばさ)
24番:早池峰瀬織(はやちね・さおり)
25番:比佐津天音(ひさつ・あまね)
26番:比佐津天守(ひさつ・あまもり)
27番:わたし
28番:火照耀(ほでり・あかる)
29番:真神護(まがみ・まもる)
30番:武塔亮介(むとう・りょうすけ)
31番:八重刀梅(やえ・とうめ)
32番:はやて

難しい漢字ばかりの子も居るし、完全に憶えるまでちょっと時間が掛かりそうな気もする。わたしと同じ異世界人なルシルを横目でチラッと見ると、ルシルはわたしのようにメモしてなかった。ホント余裕だよね、ルシル。わたしと似たような時期にこの世界に来たのにさ。やっぱ頭が良いと違うね。

『シャルちゃん。判らん漢字とかあったら遠慮なく言うてな。それくらいしか出来ひんけど』

『ありがと、はやて。でも大丈夫。日本語ってかなり難しいけど、勉強だけはしっかりしたから、今のところは判るよ』

はやての気遣いにそう応える。恋敵でもあるけど、それ以上の友達。はやてもそう思ってくれていると嬉しいな。わたし達もまた改めての自己紹介(呼び名は愛称でいいって追加)を終えた後は、1学期間の係決めに移る。先生が黒板に係の名称を書き記していく。

(委員長2人・体育係4人・保健係2人・飼育係3人・図書係2人・黒板係2人・集配係3人・掲示係3人・教材係3人・植物係2人・レクリエーション係6人の、計32人)

クラスの委員長(リーダー)だけは前期・後期の2期交代制で任期は半年間。こういう役決めとか初体験だからそわそわしちゃってると、『手を挙げるなよ、シャル』ルシルから思念通話が。

『俺たちは早退・遅刻・欠席が徐々に増えていくかもしれないんだ。時間を取られ、尚且つ重要な係になるわけにはいかない。解るな?』

『言われなくても解ってるってば。このそわそわは違うの』

『ああ、トイレか? 我慢は良くな――』

『デリカシーって言葉を辞書で引いてノートに100回書いてその紙を呑み込んで来世になっても憶えているようにその脳みそに叩き込んでどうぞ馬鹿ぁぁぁぁーーーー!!!』

『よく言う。君こそ、俺へのアプローチをもう少し控えろ。せめて歳相応にしろ。俺にデリカシー云々を説く前にそれくらいはしてもらうぞ』

『無理❤』

『バーカ』

その悪口一言で思念通話が切れる。そんな中でも「――委員長に立候補いたしますわ!」係決めは進んでいて、咲耶が真っ先に挙手。空気から判る。決まった、って。先生が「木花さんが委員長で良いという人は挙手」そう言うと、誰も手を挙げなかった。やっぱり決まりで、「それじゃあ、もう1人の委員長の立候補を」先生も委員長枠に咲耶の名前を記した。

「誰も居ないのー?」

「推薦でよろしいですか、先生」

誰も手を挙げない中で咲耶が挙手。この時点で嫌な予感が発生。そのすぐ後に「ルシル君を推薦しますわ!」ほら、嫌な予感的中だよ。すると他のクラスメートが一斉に挙手を始めた。

「だったらあたしも立候補と推薦! はやてちゃんやシャルちゃんと一緒の係になりたい!」

「僕だってルシル君と同じ係になりたい!」

そっからはわたしとはやてとルシルは引っ張りだこ。いやぁ、人気者は辛いね。ニマニマしていると「八神さん達はどう? 何かやりたい係とかある?」先生に訊かれたわたちとはやてが、『どうする?』ルシルに確認を取る。

『そうだな・・・。配役人数が多い係の方が良いだろうな。3人揃ってレクリエーションで良いんじゃないか? はやてはどうしたい? 何か希望はあるか?』

『うーんと。あんまり階層移動が無いのがええなぁ。あんましルシル君やシャルちゃんの面倒かけるのも悪いし』

『気にするな、はやて。迷惑だなんて思わないでくれ。俺とはやては、家族、だろ?』

『っ、うんっ! おおきにな、ルシル君♪』

『なんか良い雰囲気のところ悪いんだけどさ。わたしも居ること忘れないでよね。ていうか、はやてには希望を訊いて、わたしには訊かないってどうなのさ?』

恋人みたく見つめ合ってるはやてとルシルの間に頭を割り込ませて視線をシャットアウトさせる。そんでジト目でルシルを睨むと、『すまん。シャルは、何か希望があるか?』素直に訊いてくれた。次に、『はやて。親友に遠慮はなしよ』とはやてに振り返ってジト目を向ける。

『うん。シャルちゃんもホンマにおおきにな♪』

「えっと、3人とも・・・?」

「あ、はい。はやては足のこともありますからレクリエーション係がいいかと。あと、俺とシャル、はやても家庭の事情で早退・遅刻・休みが多々あるかと思いますので、そのことを考えても・・・」

「あ、そうだったっけ。それについて事情は伺っている。あんまり忙しい係は無理よね・・・」

それから色々と話し合った結果、わたしとはやてとルシルはレクリエーション係になった。レクリエーション係は、クラス内でのイベント企画・実行・司会を務める係らしくて、何かしらの行事の時に任される。これなら毎日ってわけじゃないし、居なくても企画書だけでも提出すればクリアだし。いつ空けるか判らないわたし達には都合が良い係だよね。

『連絡します。矢川先生。矢川先生。お電話が入っています。至急職員室までお戻りください。繰り返します――』

「それじゃあ、先生が戻ってくるまでみんなで楽しくお話、ということで。でもあんまり騒いじゃダメだからね」

そう言って教室を後にした先生の姿が見えなくなった途端、わっとわたし達の元に集まるクラスメートのみんな。待っているのは「しつもーん、しつもーん!」の嵐。学校生活の予習としてフェイトとアリシアから初日はどんなものか聞いていたけど、これはちょっと想像以上でビックリ。

「ルシル君、ルシル君。お姫様抱っこって、お願い出来る?」

どこに住んでるとか、好きな食べ物とかスポーツ云々、嫌いな食べ物とか教科云々とかを答えてると、刀梅が早速ルシルにアタック開始。自分の耳がピクッて動いて聞き耳モードになったのを自覚した。ルシルが「お姫様抱っこ・・?」困惑しながら返すと、ルシルの席にたむろってる刀梅や天音や他の子たち(ちゃっかり咲耶も交じってる)が頷いた。

「そっ! 女の子の憧れ、お姫様抱っこ! でも体重が軽いと言っても女子ひとりを腕の力だけで抱え上げられる男子とか居ないわけで。だけどそこに現れた男子が、ルシル君なのです!」

刀梅にガッツリ詰め寄られて力説されたルシルが「それくらい、なんでもないから出来るけど・・・」若干引き気味に了承すると、ルシルの周りに居た天音や咲耶、わたしやはやての周りに居た女子までもがルシルに顔を向けた。わたしとはやてでジロリとルシルをジト目で見る。

「じゃあ、刀梅から・・・」

「やっほーい!」

ルシルが刀梅、天音、そして「きゃっ。・・・あぁ、わたくし、幸せですわぁ❤」咲耶とお姫様抱っこして、さらにしてもらいたい女子が名乗りを上げて、結局はわたしとはやてを除く女子全員がルシルにお姫様抱っこしてもらった。

「短時間に14人も横抱きするなんて約二万年(これまで)の中で初めてだな」

「疲れ様、ルシル君」

「早速人気者ね、色男」

最初は不機嫌そうだったはやても、7人くらい抱え上げた頃からルシルの腕を心配しだして、たった今、苦笑気味に労いの言葉を掛けた。で、わたしは変わらず不機嫌気味に声を掛けた。するとルシルは「これくらい問題ないよ。というか、これくらいで不機嫌になるなよ」はやてには優しく、わたしにはやっぱり素っ気なく返してきた。

(む。またわたしだけ)

さすがにちょっとイラッと来たから、携帯電話を片手に「女子のみんな、ちゅうもーく!」わたし達の周りに居る女子にとある写真を見せる。すると「きゃぁぁぁぁ!」「可愛いーーー!」黄色い歓声を上げた。

「シャル。君、一体何を見せて――って、おい!」

女子の人垣を掻きわけてわたしに詰め寄って来たルシルにも携帯電話のディスプレイを見せる。表示されているのは、クリスマスパーティで強制的に着替えさせたドレス姿のルシル。

「貴っっっ様ぁぁぁぁーーーーーっ!」

「王子様だとか浮かれてるからだよ、バーカ、バーカ!」

携帯電話の取り合いになる。ここでわたしは「へーい、パス♪」天音に携帯電話を放り投げるとキャッチしてくれて、「シャル。あとでデータちょうだい!」そう言って、今度は「わたくしもほしいですわ」咲耶にパス。咲耶に「返却を求む!」ルシルが近寄ると、咲耶は何を思ったのか両腕を広げてハグの体勢を取った。

「なにやってんの、委員長!」

咲耶の手から携帯電話を掠め取る刀梅は、「他にどんな写真があるの?」携帯電話を操作し始めたから、「観るのは写真データだけね!」注意しておく。別段見られて困るものはないけど、そこはプライバシーってことで。

「刀梅、大人しく返せ!」

「まあまあ、減るもんじゃないし♪」

「減るっ! 俺の尊厳値が! そんな恥、誰にも見られたくないんだって!」

「・・・きゃぁぁぁ! これも可愛い!❤」

「やめろぉぉーーー!」

刀梅とルシルに追いかけっこに発展。刀梅は何かスポーツでもやってるのか、ルシルの追撃を軽やかに躱してくから、わたしとはやては「おお、すごい!」本当に驚いた。そんな追いかけっこもとうとう終わりを迎えた。

「きゃっ・・・!?」

「っと・・・!」

刀梅がルシルを躱した瞬間、机の足に躓いて仰向けに、そしてルシルもまた一緒にうつ伏せ状態で転んだ。だけど、転びきる前にルシルは右手で刀梅の後頭部を受け止め、左手は腰に回して刀梅を抱き止めて、右足で床を踏み締めて転倒を防いだ。

「あ、ありがとう、ルシル君」

「携帯返せ」

お芝居を見ているかのような状況だけど、ルシルは変わらず携帯電話狙い。でも刀梅の手に携帯電話はない。第三者として見ていたから判る。刀梅が転んだその際に宙を待ったのを見た。そしてその携帯電話は武塔君の手に渡った。

「あー、亮介。ありがとう、ソレ渡してくれ」

ルシルが武塔君に歩み寄って行く。そんな中で武塔君は床に女の子座りしてる刀梅を見て、そしてギラリとルシルを睨みつけた。ルシルもその目に気付いて「亮介・・・?」差し出していた手を降ろした。

「おれ、絶対ぇ負けねぇ! お前みたいな女男、気持ち悪いっ! 髪も長いし、顔も女子っぽいし! この写真だって女子の格好だし!」

武塔君から剥き出しの敵意を真っ向から向けられたルシルが小さく「またか」そう小さく呟いたのをわたしは聞き逃さなかった。武塔君に「ちょっと、亮介君! 急に何で!? なんでそんな酷いこと言うの!?」刀梅が詰め寄って怒鳴った。

『武塔君。絶対に刀梅に気があるでしょ』

『あ、うん、そうやな。ヤキモチやんな、今の・・・』

『・・・はやて・・・、もしかして怒ってる・・・?』

『別に怒ってへんよ? うん、怒ってなんかおらへんよ・・・』

はやてははやてで、ルシルが悪く言われてことで、武塔君に少しばかり怒りを抱いちゃってるようで。わたしはまぁ、恋する気持ちは良く解るから武塔君のことを悪くは思えない。というよりは、刀梅と武塔君を応援したい。

「女子に人気なんだから、これからもずっと女子と仲良くしてろよな!」

武塔君はそう言い捨てて、わたしの携帯電話をルシルでも刀梅もでもない、真神君に渡してから自分の席を着いて、両腕を枕にして机に突っ伏した。刀梅が「ちょっと亮介君!」武塔君の席に向かおうとしたけど、「ちょっとー! 話し声が廊下まで聞こえて来てるよー! はーい、座ってー!」先生が戻って来たことでわたし達は席に着き、嫌な空気なままホームルームは続行した。

 
 

 
後書き
新年明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!
さて。今話は、「ハコにわ生徒会」で描けなかったルシルと亮介の因縁をお送りしました。「ハコにわ」では、刀梅がルシルに友達としてちょっかいを出し、それを見た亮介は、片想い相手・刀梅が、女生徒に騒がれてる男・ルシルに迫っていると勘違い。
その事から亮介はルシルを一方的に敵視。そして亮介は、ルシルと仲の良いシャルを自分に惚れさせ、ルシルから奪ってやろうという計画を立てましたが・・・・というようなストーリーでした。そんな当時を思い返しながら書きました。今回はそんな泥沼にはならない予定です。
 
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