Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃
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6 流れ星は突然に
前書き
やったぜ、ようやくヒロインだぁ!
ってな訳でオリヒロイン登場枠
文字通りの一騎当千から一夜明け。
「この???って何で見れんのかなぁ・・・」
家代わりにしている宿のお世辞にも寝心地がいいとは言えないベッドで寝転がり、一人呟いた。
ウィンドウに表示されているのは《名剣 ガラディン》だ。
そして悩んでいる理由はコイツがどう見ても、さらに名前からして完全無欠の「直剣」。そのはずなのに装備条件欄に?で埋め尽くされた欄があることだ。
筋力値などの条件は見れるのだがどうしてもこの一つだけは見ることが出来ない。
「そもそもスキル出たら装備出来るのかさえ分かんねぇもんなぁ...。まぁいいや、そのうちなんとかなるだろ...。」
ウィンドウを閉じて跳ね起きる。
あれだけの働きをしたんだから今日一日くらいサボっても大丈夫だよね!
なんて思い浮かべつつ一日の宿代を精算して表へ出た。
昨夜まで亡者が蔓延っていたと言っても誰一人信じないだろう、それほどなまでにレンガ造りの美しい町並みが広がっていた。
空気も澄んでいて美味しい気がする。
そんなことを思いながら今日一日は観光することに決めた。
「さて、朝メシはっと...。」
自分の中で新しい層に来て初めてする事は食べ物を一式食べてみることだ。
ファストフード的に売っている軽食から目ぼしいご飯まで殆ど食べてみる。今までで一番美味かったのはやっぱり第3層の「ドルツェ・ツィオーネ」だった。
確か第20層を攻略したくらいの時期までコル的に食えなかった。
そんな訳で収支にも若干余裕生まれたので早速食べてみたんだが...。
食ってから正直自分で作ったやつのが美味い事に気付いて若干テンション下がった。
...そして今までのSAO内でのトップクラスの出費でもある。それでもSAO内ではトップクラスの美味しさだったためにギリギリ後悔はしてない。
そんなこんなで毎回恒例、実は結構楽しみにしている。というか正直これやるために攻略に励んでいる側面さえ形成されつつある。
最近は外れ多かったからなぁ...
一人考えつつ近くにあった食事処っぽい店へ。
「ん、これ美味しそう」
名前は「ロトンド」
イタリア語で丸い、ということはパンのようだ。
暫く待っていると何やら白と黄色のようなものが運ばれてきた。
「これはまた意外な見た目...。まあいい、いただきます。」
一口食べると、
「ああ、マジパンか。」
しっとりとした食感に納得する。
「...おお、当たりだコレ。」
普通に美味い、SAOでは珍しく普通に美味い。そして値段もお手頃だ。
あっという間に食べ終わり、ひとまず勘定を済ませてまた通りをブラつく。
防具屋はなんか昨日の亡者が使っていた物に似ている鎧が売っていた。
しかし装備するには筋力値がキツいのでパスだ。
道具屋はまあいつもとあんまり変わらない。
とまあ大体周り尽くしたタイミングで、
「あ、やっと見つけた。サボりですか?」
若干ジト目で聞いてくるのは有名な閃光さん。
「ああサボりだ。昨日あれだけ仕事したんだから文句ないだろ。」
苦笑しつつ返すと、
「アナタたちで勝手に始めたんでしょう?お陰でまたソロ組とギルドのレベル差がついたんですからね。」
...ああ、そう言えば昨日のあの一騎当千&決闘は俺以外誰も関わって無いんだよな......。
少し肩を落としながら、
「へいへい、まあ暇だったしフィールド探索とクエストくらいこなすよ。」
と行こうとすると、
「あ、ちょっと待ってくれます?」
珍しくアスナが引き止めた。
正直、攻略組って事と最初のボス戦でレイド組んだくらいしか接点が無いため俺には何故アスナに呼び止められたか見当が...あった。
「あ、いやっその...、24層のフィールドボスのソロ討伐は偵察してたら逃げ切れなくなって仕方なくですね?」
慌てて取り繕うと、
「...へぇ、その件あとでじっくりと詳しく聞かせてもらいますよ?」
満面の笑みを浮かべるがいかんせん目が全く笑ってない。
「うわ墓穴掘った...。あれ、違うならどうしたんだ?」
もう頭を抱えていると、目の前にパーティ申請が。
「一緒に連れてってくれない?ギルドに新しく入ってくれた人のレベリングに協力して欲しいの。あなたの片割れは...ね?」
最後の片割れのくだりを聞いてお互い苦笑しつつ俺はパーティに加入した。
HPバーには俺の他にAsunaと...
「Meteor、流星か」
Meteorはミーティア、つまり流星だ。
「んで、その流星さんはどこにいんの?」
アスナに聞くと、
「あ、あの...こ、ここにいます...。」
俺の後ろから遠慮がちに声が飛んできた。
「なるほど、その辺のギルメンと行かないのはこういう事か。...初めまして。」
振り返ると何故アスナがわざわざ知り合いの俺に同行を求めたのかが理解出来た。
僅かに青みがかった黒髪は一本にまとめられており、風で楽しげに揺れている。
少し小柄に感じる身長は俺から見たからで女の子から見れば十分高いんだろう、160ちょいってとこだ。
そしてその整った顔立ちとキリっと結ばれた口元で凛とした印象を持てる。
「こんだけ可愛ければそりゃ心配にもなるな、多少でも知り合いに頼むよなぁ。」
と、思わず本人目の前で口走ってしまう。まあ同然のごとく、
「えっ!?いやっそのっ!?」
と驚きの声が飛んできて思わず眉間を抑え、頭を抱える俺。
そりゃ初対面で鎮痛そうな面持ちで可愛いなど言われたら誰でも驚くだろう。
初対面にていきなりの言葉に固まるミーティア。
その様子に吹き出すアスナ。
そして美女二人とその一人が上げた声に集まりだす野次馬の、俺に向けられた嫉妬と憤怒の目線が痛い辛い。
「はぁ...なんか悪い。シュンだ。よろしく頼む...ってミーティア?おーい?」
反応がないので様子を見てみてもツボに入ったのか笑い続けるアスナとやっぱりフリーズしているミーティアが動きそうもないので、
「ったく、行くぞー?」
手を取るとそのままフィールドまで引きずっていった。街から離れ、一息ついたところでようやくアスナの上戸とミーティアの硬直が解ける。
「んじゃ改めて自己紹介といこうか?」
苦笑しつつ改めて俺は声をかけた。
「俺はシュン。ビルドは準敏捷特化。武器は片手剣と円月刃《チャクラムナイフ》。」
「私は・・・省略でいいよね。」
「わ、わわ私はミーティアといいます!・・・ビルドは敏捷優先、武器はレイピアと片手用の小盾《バックラー》を使ってます!」
ミーティアはそう言うと戦闘に備えて左手に小型の盾を出現させた。
大分緊張というかなんというか...まあさっきのこともあるし仕方ないか。
まあ張本人である俺にしてみれば正直気にしてないし、気にして欲しくない...。
しかしそんな事より彼女の装備に少し驚いた。
実は敏捷優先型で盾持ちっていうのは珍しい。
なぜなら折角のスピードを活かした立ち回り方と盾による防御はあまりマッチしないからだ。
特にシールドパリィ失敗時のリスクが怖いし、素の防御力が低いと隙にならなくてもスリップダメージで十分痛い。
でも敏捷を優先させると防御力をある程度確保する場合は短剣等の軽量武器になる。そうすると素早いが火力は伸びずに肝心な防御は敏捷寄りバランス型のビルドよりも低いという中途半端なステータスになってしまう。
そして機動力低下を極力防ぎつつ火力を重視すると防御力が犠牲になる
俺はこの傾向が極端で、単純な防御力だけなら下手をすると純粋な敏捷特化のプレイヤーよりも紙装甲だと思う。
そもそも敏捷値に高く振っているなら躱すという選択肢が合理的かつ手っ取り早い。
しかし盾を持つことによって得られるとても大きな利点が二つある
それは「ノーダメージで敵に張り付き続ける事が出来る」ことと「盾スキルを使っている場合シールドバッシュの択が使える」ということだ。
前者は文字通りだ。
盾でのガードに成功するとどんな激烈なダメージでも強制的に0に出来る(が、被弾時の衝撃は普通に喰らう)。
さらにスイッチの回数を減らせ、タンク役のローテの穴を簡易的に埋めることが出来るためパーティへの負担やヘイト管理がとても楽になる。
後者はディレイがとても軽く、バッシュの速度によっては両手武器の一撃に匹敵する奪ノックバック力を発揮できる。勿論どちらも彼女の使っている小盾でも、だ。
これら幅広い役割が可能な点と奪ノックバック力は敏捷型全般に不足しがちな要素なため、使いこなせるならデメリットが吹き飛ぶ程度のポテンシャルは余裕で持っている。
そして場所は変わってフィールドダンジョン「夢の跡地」。
なぜか洋風の層なのに連想させるのはある日本人だった。
「元ネタ芭蕉かなあ。」
ミーティアが歩きながらポツリと呟く。
「やっぱりそうとしか思えんよね。夏草や...」
そのまま続けようとすると、
「兵どもが 夢の跡、でしょ?」
アスナが得意気に続けた。
「さすが閃光。割り込み速度も光の速さってあっぶね。」
それこそ閃光の如く閃いたレイピアを円月刃で僅かに逸らして回避する。
「え...早い...。」
何の気もなく円月刃を納める俺と少々いじけたアスナと一連の動作に呆気にとられていたミーティア。
そんな御一行にさらに面倒な出会いが待っていた。
「お、シュンじゃねえk...おいテメエ両手に花かぁ!?」
そう、女の子との相性が絶望的なことでお馴染みクラインだ!
「く、クラインさん・・・おはようございます」
テンションに気圧されて若干引き気味のアスナと、初対面であのテンションだったためまたしても硬直したミーティアを微妙に背中の方に隠しつつ、
「うっせえぞクライン。だからモテねえし彼女も出来ないんだよ。」
苦笑混じりになじる。
「ほっとけ!!いやそんな事はどうでもいい!その背中のお二人方は!か、片方はアスナさんですがもう片方のお方は!?」
どうやらミーティアに興味津々らしい。まあコイツなら間違い起こることも無いだろうが如何せんミーティアが怖がっててダメだ。
「うるせぇ、お前には高嶺の花過ぎる。勝ち目は来世も無いから諦めて涙で溺れろ、溺死しろ。」
とボロックソに叩いて気を逸らす。
案の定自分のフラれ話が涙とともに語られはじめた。それを尻目に、
「クラインだ、あんな感じだが女子見てでテンション上がってるだけだ。根は良い奴だから大丈夫。」
と背中のミーティアに耳打ちすると、
「なんかすごいキャラ濃い人ですね...ああいうのちょっと苦手...かも。」
控えめに、けれど少し震えた肩を強ばらせながら、絞りだすように返事をした。
表情も笑っているのではなく恐怖や驚きで表情が固まったのだろう。それを見て流石に不味い、そう思うと、
「アスナ、ちょっとクライン頼んだ。」
それこそ本気で絶望で溺れそうな勢いのクラインをアスナに任せておく。
アスナにフォローされたらそれはもう不屈の精神を取り戻すだろう。
そして自分は、
「安心しとけ、普段は気のいい兄貴みたいなもんだよ。その辺の薄汚い奴らみたいなことするような奴じゃないし今は一応俺もいる。な?」
ポンポンと落ち着かせるように頭を軽く叩きながらクラインのフォローをしておく。
触れた髪は柔らかくてそれだけならただの可愛い女の子で終わるんだろう。
でもその少し震えた肩の強ばりはなんかワケありなんだろうな、そんな事が容易に感じ取れた。
「...そう...ですね。本当に...、本当に頼っていいですか?」
絞り出されるような声とともに上目遣いに俺を見る目は、手が頭に触れるたびに少し細めている。
「さっきの動き見てたろ?絶対間に合ってみせるさ。」
クスッと笑って見せると肩の強ばりも少しづつ落ち着いてきたので、
「さて...今から探索兼ねてレベリングなんだがクライン来るか?」
アスナの業務用笑顔とフォローに完璧に立ち直った様子で、
「へぇ、行っていいのか?」
と返してきた。多分この状況を壊していいのか?という皮肉も混じってる...わけないか、クラインだし。
「ああ、せっかくだしな...いいよな?」
元からのメンバーである二人、特にミーティアに確認してみる。
「私はいいよ、多少ローテも楽になるし。」
アスナはOK、問題のミーティアはというと、
「だ、大丈夫です!」
おいおいそんな一々テンパってて大丈夫か...。
しかし、そんな心配は杞憂に終わる事はもう少し経ってからだった。
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