魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第64話 父として
『………手応えありね』
大きな爆発に包まれた様子を見てエリスが呟く。タイミングも狙った箇所も悪くはなかった。恐らくフィールドを展開する前に直撃しただろう。
だけど、少し間を置いて言ったエリスも薄々感づいていた。
『いいえ、まだよ………』
零治が言おうとした言葉をホムラが先に言った。確かに手応えはあった。だがクレインがこれで終わりだとは思えなかったのだ。
「………エリス、来るぞ」
爆発の煙が消え、現れるアーマー姿のクレイン。
「驚いた………流石に経験の差は大きいね。データばかり頼らず戦闘訓練もするべきだったよ」
現れたクレインは無傷とは言わないものの、ダメージはほぼ無いようだった。
『嘘だろ!?フルパワーのグラビティブラストをあの程度で耐えたって言うのか!?』
『違うわ、あれは………』
「フォースフィールド………」
ホムラが話す前に零治が呟いた。
『えっ!?でもフィールドは右手を出さないと………』
『それが嘘って事ね………』
「失礼だな……私は一言も右手を出して発動するなんて言っていないよ?」
エリスの呟きに困った様な顔で答えるクレイン。
「だがやはり加奈の様にはいかないようだな。加奈だったらもっと広範囲に展開できるし、今の攻撃くらい耐えきっている」
「そこは私も分かっていたさ。………まあそれでも充分使えるものだけれどね」
クレインの言う通り、今のを防がれるとブラックサレナでは決定打を与えることは出来ない。
(だからと言って………)
フィールドが防げないクロスレンジの攻撃に移れば先程と同じように地面から出現した槍で貫かれてしまう。
桐谷もリーゼだったから致命傷にならなかったものの、ラグナルフォームであれば無事でいられるかどうか分からない………
『あなたが何を考えているのかは分かるわ、だけどのんびりしている余裕があるのかしら?』
『そうよ零治、ゆりかごが月に完全に近づいてしまったらエース・オブ・エースの彼でももう止められない………それまでにゆりかごに展開されたバリアーを解かないといけないの……』
エリスの言葉で大体の今の状況は分かった。
原作ではバリア云々の内容があったかどうかなんてそんな細かい事をもう覚えていない。ただ覚えているのは、なのはがヴィヴィオを助けた事、フェイトがスカさんを捕らえた事、そしてヴィータが中枢部を破壊した位だ。
(だけどこれだけ覚えていれば俺の記憶をホムラから確認しているであろうクレインはかなりの対策が取れるはず………ヴィータは大丈夫なのか………?)
「くそっ、うじゃうじゃと!!」
横薙ぎにグラーフアイゼン振るい、数体巻き込み一気に壁へと叩きつけた。
「早く奥へ………」
完全に撃退することなど考えていなかった。
「もう時間が………」
焦る気持ちを何とか抑えながら進む。孤立している以上、一瞬の油断が命取りとなる事を分かっていたからだ。
「ラケーテンハンマー!!」
進む道を塞いでいたブラックサレナ達の攻撃を回避しながらグラーフアイゼンで押し潰す。
「ギ……ガガ……」
完全には押し潰せないものの中途半端に破壊することで修復のスピードを遅くすることが出来た。
「今の内に!!」
後方からも敵が追ってくるような音が聞こえてくる。立ち止まっている余裕はなかった。
「!?あれは………!!」
そうしてヴィータは攻撃を受けながらも強引に突破していき、とうとう最深部まで辿り着いた。
「よし、後は中で………!?」
レーザーによる攻撃が飛んできて、咄嗟に横に転がるように避けた。
「あれは………黒の亡霊?だけどあんなに装甲が厚かったか?」
黒く厚い装甲を纏ったその姿はまるで大きなボールの様に丸くなって見えたが、正面の装甲に切れ目があることが確認できた。
「翼のようなものか?………だとしたら完全に別物と思った方がいいな………おっと!!」
再び放ってきたレーザーを避けながら向かっていく。
「相手が誰であろうと押し潰すだけだ!!」
勢いさながら横振りにグラーフアイゼンを振った。
(動かない!!貰った!!!)
そう確信したヴィータは更に力を込める。
「………」
そんなヴィータの攻撃に相手は丸い身体の中心に切れ目が入り、広がる。
「やっぱり翼!!だとしても……!!」
ヴィータは動じず、そのままグラーフアイゼンをぶつけた。
「なっ!?」
しかしその攻撃は広げた翼に止められてしまった。
(こいつ………今までの奴よりも桁違いに硬い………!!)
跳ね返され、体勢を整えるヴィータ。
追撃されるかとも思ったが相手は先ほどの場所から一歩も動いていなかった。
「大きい………」
自分が小さいのもあるが翼を広げた姿はまるで後ろの扉を守るゴーレムみたいで、威圧感があった。
「ちっ………!!」
相手は先程と同じく身体と翼の各場所から追尾性のレーザーを発射。細くホーミングしてくるレーザーにヴィータは回避に徹することになってしまった。
(こんな所で足止め喰らっていられないのに………!!)
時間も限られ、後ろからも追っ手がすぐそこまで迫っている。
まさに背水の陣であった。
(どうする、どうする………!!)
必死に自分の中で冷静になるように言い聞かせ、思考を巡らせる。
しかしどう考えてもヴィータの中では答えが一つしか思い浮かばなかった。
「何かの漫画で読んだなぁ………肉を切らせて、骨を断つ………私もやってやる!!」
ヴィータは捨て身での攻撃を決意したのだった………
「強えな………」
ヴィヴィオの蹴りを脇腹に受け、吹っ飛ばされた後、バルトは呟いた。
やはり手数の多いヴィヴィオ相手にバルトの戦闘スタイルは少々分が悪かった。
「この!!」
雷神化によって帯電している右手でヴィヴィオを掴もうとするが、簡単に払われ、空いたボディに拳が入った。
「くっ……この野郎!!」
横薙ぎに斧を振り、ヴィヴィオを自分から離そうとするが、
バックステップで回避した後、再び直ぐにバルトの懐まで飛び込んできた。
「ちっ………だが、何時までも同じだと思うなよ!!」
「!?」
予め展開していたボルティックランサーがヴィヴィオの背中に直撃し、ヴィヴィオの視線を動かした。
「おら!!」
バルトはその隙を見逃さず蹴りを決め、無理矢理距離を作った。
「ボルティックブレイカー!!」
バルトはヴィヴィオが着地するタイミングと合わせ、瞬時にボルティックブレイカーを放った。碌にチャージも出来ずに発射した為射程も威力も普段と比べれば低い。
「!?」
聖王の鎧があるヴィヴィオに取ってダメージは無い。だが当然バルトも理解している。
「隙だらけだヴィヴィオ!!」
ボルティックブレイカーによって背中を地面に向けるように崩れた体勢のヴィヴィオに今度は自分の魔力を込めた斧を振り上げる。
「クリティカルブレード!!」
バルトはヴィヴィオを挟んで地面を破壊する勢いで技を出した。
「!!」
流石のヴィヴィオもこれには例え鎧があってもダメージは避けられなかった。
だからこそ、着地は諦め、両腕を体の前でクロスし、完全防御の構えをとった。
「喰らえええ!!!」
そんなヴィヴィオの行動など関係ないと言わんばかりに力一杯振り下ろした。
「ぐうっ………!!なんて威力………」
その攻撃の余波は地面を抉り、爆風を周辺に撒き散らし、遠く手で見ているイクトへまで来ていた。
「………」
それでもヴィヴィオのダメージは致命傷には程遠く普通に戦闘を継続出来るほど軽微だった。
「だろうな………だが、狙いはそもそも違うんだよ………」
「………!?」
動こうとした時、ヴィヴィオは身体の異変に気が付いた。
身体が動かないのだ、まるで手足を何かで拘束されたような………
「!!」
不審に思ったヴィヴィオが確認すると手足にはピンク色のバインドが地面にめり込んだヴィヴィオを押さえつけるように展開されていた。
「………よし……バルトさん………離れて!!」
苦しい顔をしながらなのはは必死に最後の一言だけは大きな声で叫んだ。
バルトはその声に何の疑問も持たず直ぐに反応して離れた。
「スターライトブレイカー!!」
呼び名こそ同じだがそれでもいつも以上の密度を誇る砲撃が放たれた。
「いっ!?」
更になのははその砲撃をかなり縮小し、大きく拡散しないように小さく凝縮させた。ディバインバスターよりも細い砲撃は一見威力が低そうに見えるが、その集束した密度は計り知れない。
「!?」
ヴィヴィオはすかさずプロテクションを張った。今までプロテクション等の防御魔法を使わなかったヴィヴィオが初めてそこで使ったのだ。ヴィヴィオも普通で受ければただでは済まないと感じていたのだ。
「………!!」
虹色に輝くプロテクションはなのはのスターライトブレイカーを受け止めた。だがそれは今すぐにも壊れそうなほど脆く、ヴィヴィオは懸命に凌ぐことだけを考えていた。
「マジか………」
今見ている光景が信じられずバルトは思わず呟く。
明らかに自分よりも威力のある攻撃を与えたのにも関わらず何とか凌いでいる事が信じられなかった。
「不味いな………」
このままでは作戦通りにいかない可能性がある。
(今のなのはの状態だと後数発なんて事も出来ないだろう………だったら後は俺が追撃してヴィヴィオを救えば………!!)
本来バルトは魔力操作は苦手な方だ。戦闘の際は大体いつも全力で戦い細かく調整したことなど一度も無かった。
今回のレリックを取り除く作業も精細な調整が必要な為、予めて前もって準備しなくてはならないと考えていた。それが攻撃に加わるとどうしても時間が掛かってしまう。それか一か八かでやってみるのも手だが、どちらにしてもリスクが大きかった。
「だがやるしかねえか………」
そう覚悟を決め、バルバドスに魔力を溜め始めた時だった。
「なのは………?」
ふとなのはの様子を確認したバルトはなのはの深く頷いた。
(任せろって事か………?だがなのはの状態じゃこれ以上………)
そう考えている中、ふと展開していたビットへと視線が動いた。
(まさか………!!)
ビット達がレイジングハートの周辺で隊列を組んでいるように展開している所を見て、バルトはなのはが何をしようとしているのか気が付いた。
「後はお願いしますバルトさん………」
「なのは、待っ………」
「フルバースト!!」
なのはがそう言うと同時にブラスタービットからもスターライトブレイカーが発射された。
ピシッ!
あまりの威力になのはのレイジングハートにヒビが入る。
「!?」
直撃すると同時に張っていたプロテクションは完全に破壊され、全ての砲撃がヴィヴィオへと集中した。
「くっ……あのバカ………!!」
激しい爆風と爆音のすぐ近くでバルトが呟く。
一発であれほど苦しそうだったのにそれを4発。
「だが絶対に無駄にはしない………!!」
レリックだけを破壊する為の出力調整。どれ位なのかと言う目安は無く、全てバルト次第だった。
「レリック自体は弱い魔力に反応するほど敏感なロストロギア。………って事は一時停止させればそれほど頑丈じゃないだろう………」
果たしてバルトの予想通りなのかも分からない。最悪の状況は考えず常に前向きに自分を鼓舞する。
「………よし、行くぞ!!」
なのはの砲撃のタイミングを見計らい、バルバドスを待機状態にして駆け出した………
「っ!?」
「やっとダメージが通ったかな?関節や装甲の継ぎ目から吹き出る炎では守れないみたいだね」
クロスレンジでの攻防が続く中、とうとうクレインの攻撃が肩に通った。
今までは何とか凌いできたがそれももう限界だろう。
「この!!」
両腰のレールガンで弾速の速い魔力弾を発射するが、向きがほぼ固定されるため、ほぼ引っ付いている状態でないと、横にステップされるだけで簡単に避けられてしまう。
『だけどそれでいい!!』
アギトが力強く言ったようにクレインが少しでも距離を離れてくれればよかった。
『ジャンプ!!』
普段なら硬直時間があるため、主に移動の際に使っていたボソンジャンプだが、今の状態で距離を取るにはこれしかなかった。
「っ!!転移か!!」
少し離れた隙に行った零治の行動に慌てて距離を詰めようとしたが、その直前で目の前から消えてしまった。
「逃げられたか………だが………」
(ん!?クレイン、一体何を………)
遠くからクレインの動きを観察していた桐谷はクレインのある動作に気が付いた。
(右手の指で何かを操作している?)
展開していた武器を消して両腕を下ろし、全身の力を抜いて、何かを感じ取ろうとしている様にも見えるクレイン。しかしその右手の指だけは何かを操作しているかのように高速で動いていた。
そんな事を感じながらその直後、消えた零治がクレインから離れた場所に現れた。
「そこか…………」
(なっ!?)
なんとクレインは零治が現れるよりもワンテンポ早く零治の場所へと駆け出していた。
「まさか………計算していたとでも言うのか………?」
指の動作以外は不審な点は見当たらなかった。強いて言えばその場から動かなくなった事だけだ。
(うん?動かない………?何故だ?あれだけの動作なら武器展開を解けば動きながらでも出来ただろう………それなのに何故なんだ?)
再びこの場、この部屋全体を含めてクレインの行動を振り返ってみる。
(そもそもここへはクレインが俺達を呼び出した事から始まった。今まで全く姿を見せなかったクレインが自ら呼び出すなんてよくよく考えたら信じられない………)
思えばこの場所自体も普通の場所なのかも怪しい。AMFが使われている様子もなく至って普通の部屋だ。バリアアーマーは対AMF戦も考慮して製作されている。様々なデータを利用しているクレインも同じ筈だ。
(だったらAMFを展開して戦った方がはるかに楽な筈だ。零治はまだブラックサレナがあるが、俺にはもうバリアアーマーがない。零治に対してもブラックサレナを破壊すれば後はバリアジャケットのラグナルフォーム。………使わないメリットが分からない)
そう考えながら地面を見てみる。
(やはりこの部屋に秘密があるのか………?)
「喰らえ!!」
距離を取ったことで遠距離からの射撃で攻撃を始める零治。
ハンドガンを展開し、腰のレールガンと共に攻撃を繰り返す。
「無駄だよ」
しかし零治の攻撃は一切通らない。更に距離も予想以上に取れず、フォースフィールドを展開して少しの距離も徐々に縮めていく。
「分かっているさ。だがこうやってフィールドを長時間展開し続ければ近いうちに限界がくるだろ?ここまで強力なバリアーなら当然負担も大きい筈」
「そうだね、だけどその対策を私が忘れてると思うかい?」
『対策………?魔力に関して何かあるのか?』
桐谷はそう思いながら零治達の戦闘から目を離さない。
『零治、やっぱり!!』
「いい!!撃ち続けろ!!」
アギトの言葉を一蹴し、なおも下がりながら連射を続ける。
「それでいい、もう少し保たせてくれ………」
互いに意思疎通をしたわけでは無いのだが、互いの事を考えた行動をとる2人。
「無駄だよ」
そんな2人の考えなど気づかぬまま、クレインはゆっくりと零治を追い詰めていく。
『零治、どうするつもり?』
『エリスの言う通りよ、このままじゃ逃げ場が無いわよ?』
「………少し無理をする、相手が近づいて来たら突貫するぞ」
もう背中に壁が迫っている中、零治は勝負に出る。
先ほどの攻撃が頭に残る中、今度はクロスレンジからのディストーションアタックをしようと考えた。
『零治!?さっきの攻撃が!!』
「それでもやる、それにどうせ逃げ場が無いんだ、今度は転移する暇も与えてくれないだろう………だったらこれしか手が無いだろ?」
『だけど………』
アギトは納得していないが、最早悩んでいる時間は無かった。
ドン!
『零治、壁が!!』
「みんな、行くぞ………!!」
壁に付いた瞬間、ぶつかった勢いを反動にして、クレインに向かって行く零治。
「ディストーションアタック!!」
フィールドを張って、再び突貫した。
「そうだね、そう来ると思ったよ」
「うぐっ!?」
またも再び現れた魔力の槍が零治を貫く。フィールドを貫き、完全に勢いを殺して、零治を持ち上げる。
『零治………!!』
ユニゾンによって痛みがフィードバックされるアギトも痛みに耐えながら零治を心配する。
「ふん………最後はこんな幕引きか………」
「………だが、無駄じゃ無かったよ…クレイン………」
そう呟いた瞬間、零治を持ち上げた槍が一斉に折られ、地面に落ちた。ブラックサレナもそれと同時に解除されてしまった。
「桐谷か………」
「零治、助かった。お蔭でクレインの秘密が何となく分かった。………その上で言うと現状を打開する策が思い浮かばない」
「そうか………」
「怪我は?」
「脇腹を少々抉られたのと両足が装甲を貫いて怪我をしたくらいか………」
「これを」
そう言って、桐谷は小さな機器を取り出した。
「なんだこれ?」
「簡易救急キット。使い捨てだがそれくらいの傷ならなんとかなるだろう」
「こんなのがあるのか………」
そう言って零治は機器を起動させた。
「!?」
「悪いなクレイン、攻守交代だ」
「私は構わないよ。時間まで君たちを足止め出来れば良いのだから。……だが君に戦う手段はあるのかい?」
「心配無用だ、セレン、セットアップ」
セレンを起動し、右腕のミズチブレード、左腕にバリアーと桐谷のいつもの戦闘スタイルになった。
「来たね、聖王器ブランバルジェ」
「ブランバルジェ?何を言っている、これは俺のデバイスのセレンだぞ?」
「これは驚いた!!まさか自分の使っていたデバイスの事も知らないとは!!………だったら面倒な事になる前にすぐに終わらせよう!!」
そう言うとクレインは右手を少し上げる動作をした。
「くっ!?」
しかし正面からクレインを見ていた事、そして警戒していた桐谷は自分の足元から現れた魔力の槍を間一髪避けた。
「読まれた!?」
「悪いがただ休んでいた訳じゃない!!地斬疾空刀!!」
右手の刃を前に展開しそれを振り下ろすことで地面を抉る衝撃波を発生させた。
「甘いよ」
だが不意を突かれた形で攻撃されたクレインだが対応は冷静だった。フォースフィールドを展開し桐谷の攻撃を防いだ。
「はああ!!」
しかし桐谷もそれは当然分かっていた。クロスレンジに持ち込み自身の拳でクレインに殴りかかる。
「そんな攻撃など………!!」
反撃しようとするクレインだが桐谷の連撃がそれを阻む。
「そんな攻撃では私にはダメージを………」
「俺の目的はそれが目的じゃない………こうやってお前の動きを制限させればあの魔力の槍も使えないだろう?」
「!?まさか………!!」
「発生条件さえ分かれば元を絶たなくても防ぎようはある!!」
「だがこれでは私にダメージを与えられない。君達はのんびり戦っている時間は無いと思うが………?」
「心配無用だ」
連撃をしている中、桐谷の攻撃していた拳がクレインのアーマーの脇よりも少し下辺りに手を添えた。
「何を……」
「白虎咬!!」
掌に溜め込んだ魔力を直接ぶつけ爆発させる、バリアブレイクを得意とする桐谷の技。
「うぐっ!?」
その攻撃はクレインが初めてちゃんと受けた攻撃だった。
「通った!!桐谷やるじゃん!!」
『アギト手を休めない!』
「わ、分かってるよ!」
そう文句を言いながら足の方の傷を処置してくれるアギト。
零治はユニゾンだけを解き、ラグナルフォームで傷の応急処置をアギトと一緒にしていた。
一応エリスの『気休めヒール』も使用しているが意外と受けた傷は大きく傷口は小さくなったが、中々
血が止まらない。
「………なるほどな」
そんな中、零治が1人呟く。桐谷が渡してくれた応急キットにはメッセージがあった。
『恐らく、この部屋全体に仕掛けがある』
たった一言だが、先ほどの桐谷とクレインの戦闘でのクレインの行動を見て、意味が分かった。
「ホムラはこの仕掛けの解除方法とか心当たりは無いか?」
『………いいえ、私はエンジェルソングの事とあなたを操るのに集中してたからその他の事に関与してないの』
「そうか………」
『だけど………クレインの事だから決してこれだけって事は無いと思うわ』
「だろうな。そしてそれは桐谷も分かっている筈だ、だから今度は俺達が対策を考えなくちゃいけない」
『そうね………』
そんな会話をしつつ、零治も少しでも傷を治すため、回復にも気を配る。
『取り敢えず今分かってる事はクレインは見た通り、戦闘に関しては素人同然。それをカバーするために様々な魔導師のデータをバックアップし、最適な行動が出来る様にプログラムされている。だからこそ、それの裏を掛ける様な攻撃が出来れば有効でしょう』
「だが、それをするにはあのノーモーションの強力な魔力の槍、あれをどうにかしないといけない。遠距離から攻撃しようにもフォースフィールドがある」
『そしてあの魔力の槍の仕掛けはこの部屋全体に秘密がある』
「それだけじゃないと思う。………なあホムラ、クレインってリンカーコア持ってるのか?」
『えっ?………分からないわ、そもそも疑問にも思わなかった。まあ持っててもおかしくないんじゃない?』
「そうか………」
零治はそんな事を気にしながら周囲を見渡す。何も無い部屋、そしてその奥にはモニターが広がり、様々な場所を映し出す事が出来るのだろう。
(AMF。何故使わないんだろう………確か原作じゃゆりかごの中ってAMFが充満されてるとか言ってなかったっけ?だけどこの部屋には一切使われていないし、元々バリアアーマーって低魔力を補うのと、AMF下でも戦闘を効率よく出来る様にって開発されたんだよな………?)
モニターに映るであろうゆりかご内の様子を想像してふと思った。
「………もしかしてAMFを使うと不都合な事でもあるのか?」
『AMFを使うと不都合な事………?それってまさか………』
「恐ろしいな………」
ヴィヴィオの元へ向かう際、横目でなのはの様子を見たバルト。
デバイス、レイジングハートは大破寸前で、使い手であるなのはも辛うじて浮いているのが精一杯と言った様子だ。
そして更にヴィヴィオを攻撃したスターライトブレイカーの多重攻撃。
「これはまた………」
思わず足を止めてしまうほど、異常な光景だった。普通ならば大きなクレーターが出来てもおかしくない威力の攻撃だったが、凝縮させた砲撃はクレーターを作らず、その砲撃と同じ大きさの穴をそのまま地面に空けていた。………と言っても多少抉れた程度で、ヴィヴィオのプロテクションの効果もあったのだろうが、それでも地面にめり込んで動けないほどの威力はあったようだ。
「全く動かねえな………」
バルトが近づいても全く反応がない。まるで屍の様にも見えるが、ちゃんと呼吸はしていた。
「これで非殺傷設定とか本当に生きているんだよな………?」
それほどヴィヴィオはボロボロになっており、鎧も最早使い物にならないだろう。
「よし、後は俺が………」
そう呟き、早速行動に移ろうとした時だった。
「なっ!?」
ヴィヴィオが動き出したのだ。のそりのそりとダメージの残る身体を無理矢理動かし、バルトに向かって拳を振るう。
「くそっ………!!」
既にボロボロのヴィヴィオが繰り出す拳はKO寸前のボクサーが繰り出すような弱々しい拳だ。だが、それでも今のバルトには脅威だった。
「動くなよ!!」
バルトでは動いている相手に精密な魔力操作など出来る筈も無く、既にボロボロのヴィヴィオに非殺傷設定でも攻撃すれば人体にどう影響が出るか分からない。それほど、なのはの攻撃は響いている様だった。
「レリックは辛うじて動いていますが、それでももう殆ど停止している状態です!!今なら破壊も………!!」
「くそっ、チャンスだってのに………」
地上に降りたなのはを介抱しながらイクトが叫んだ。
ある意味追いつめられた状態だった。どの道、無理矢理動かされているヴィヴィオもこのまま動かされていては限界が来てしまう。それでもレリックによって強制的に動かされるだろう。
(覚悟を決めるしかねえのか………?でも俺に出来るのか………本当に………)
そんな事を思っていると待機状態にしていたはずのバルバドスが勝手に起動した。
「なっ!?」
『我を使え』
「いきなり何を………!!」
『聖王器にはそれぞれ特殊な能力がある。それは最後に造られた我にも同様だ。そして我の能力は“因果を斬る能力”』
「因果を斬る………?」
『そう、あの聖王の娘が操られている原因を斬る事が出来る』
「ヴィヴィオはどうなる?」
『因果斬りはその原因のみを斬る、他の者には影響は無い』
「何だと!?だったら話は早え!!それでさっさとヴィヴィオを………」
『だが、それには視認出来ない因果を感じ、一閃で断ち切らなければならない。その為にかなりの集中力を要し、失敗すればそのまま聖王の娘は斬り裂かれるであろう』
「………」
斧を構え、ヴィヴィオに斬りかかろうとしたバルトの動きが止まった。
『我を完全に使いこなし、その上で因果を感じ取らなければならない、貴様にそれが出来るか?』
「………」
その問いに力強い答えは無かった。
バルトは迷っていた。魔力操作には自信が無い、だからこそ、こっちの方がバルトにとっては自信があった。
だが、失敗した時のリスクがバルトの足を完全に止めていた。失敗すれば確実にヴィヴィオを殺してしまうであろう。
(………また俺の力不足で失敗してしまうのか?)
あの自分の不甲斐なさで殺してしまったロレンスの顔が浮かぶ。
あの時よりも心も強さも比べものにならないほど強くなった。例えそれがバルトマンの偽物であったとしても………
「俺は………」
ヴィヴィオの拳を避けながら俯く。そう思った途端に不安な気持ちが湧き上がる。
今までに感じた事の無い、恐怖がバルトを包む。
手が震え、呼吸が荒くなる。
「どうしたんだよ、俺………こんなの俺じゃねえ………」
湧き上がる感情が抑えられない、今すぐにでもこの場を逃げたい衝動に駆られる。
「俺には………無理だ………」
初めて人前で口に出した情けない弱音だった。それが情けないと感じるほどの余裕も今のバルトには無い。
そして、後ずさりし、後ろを振り向いた瞬間だった。
「バルトさん!!!」
血を吐くような叫び声を聞き、バルトは我に返る。
「貴方がお父さんなんだよ!!誰が娘を助けるの!!!」
イクトに介抱されながら懸命になのはが訴えかける。
「出来るよ………バルトさんなら出来る!!」
青い顔をしながらそう叫び、バルトに向かって笑う。
(………ああ、何だろうなこの気持ちは………)
先ほどまで不安になっていた気持ちが嘘の様に徐々に消えていく。
(………本当に不思議な奴だよお前は)
出会った頃は態度の悪い小娘だと思った。だが、ヴィヴィオは懐いているし、最終的には押し付けるのも悪くないとも思っていた。
………だが、一緒に過ごすうちになのはの居ない日常が思い浮かばなくなっていた。
(俺は幸せだ。こんな造られた存在な俺が人として生涯心から大事だと思える奴等に出会えた。そしてそんな奴等との日常を奪われたくねえ………!!)
なのはの笑顔を思い浮かべる。するとバルトの身体全体に力が湧き上がるのを感じた。
(俺は………やれる!!)
その顔に迷いは無かった。
「バルトさん………頑張って!!」
「ああ!!」
そう返事をしたバルトはヴィヴィオから少し距離を取り、目を閉じていた。
『これは………!!』
(………静かだ)
バルバドスも驚くほどの集中。目を瞑っていても周りの様子が分かるほど、心が澄んでいた。
(感じる………歪で、無理矢理動かしている存在………)
バルトは静かにバルバドスを振り上げる。
その動きも無駄が無く、いつもの荒々しさが無く、ただ振り上げただけなのに、空気が変わったのを見ていたなのはとイクトは感じた。
「バルトさん………行け………!!」
「ヴィヴィオ!!!!!」
名前を呼びながらバルトはヴィヴィオに斬りかかったのだった………
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