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戦国異伝

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第百八十九話 その一手その九

「その宇喜多の主としてじゃ」
「戦い、ですな」
「宇喜多の主に相応しい力を見せるのじゃ」
「そして宇喜多が織田の天下を治める助けに足る家だと」
「それを見せるのじゃ。もっとも右大臣様はな」
 信長はというと。
「人を最初に見てな」
「そうしてですか」
「すぐに人の器を見抜かれ」
 そのうえでというのだ。
「召し抱えるかどうか決められるという」
「さすれば既に」
「我等の器は見切られておる」
 そうなっているというのだ。
「そのうえで召抱えられておる」
「そのままの石高で」
「三十万石でな」
「そうなりますか」
「しかしそのお目が正しいことはな」
「右大臣様に直接見せるべきですな」
「そうじゃ」
 それで、というのだ。
「よいな」
「はい、さすれば」
 秀家は忠家の言葉に従い織田の大軍の先頭になって進む。慶次はその彼を後ろから見つつ感心した様に言った。
「いや、元服したばかりだというのに見事」
「宇喜多殿じゃな」
「はい、宇喜多秀家殿です」
 こう叔父である前田にも答える。
「あの御仁あの若さで」
「ひとかどの人物だというのじゃな」
「まさに」
 そうだとだ、前田に話すのだった。
「これは先が楽しみですな」
「確かにな。あの御仁はな」
 前田は慶次のその言葉に応え彼も述べた。
「中々の方じゃ」
「左様ですな」
「あれならば大丈夫じゃ」
「宇喜多の家もですな」
「織田家の中で存分に働いてくれようぞ」
「そうなりますな、確かに」
「少なくともな」
 ここでだ、前田は慶次に顔を向けた。そのうえで彼を咎める目で見てそしてこう言うのだった。
「御主よりはな」
「それがしよりもですか」
「そうじゃ。御主ときたら」
 その慶次に言う言葉だった。
「武芸ばかりではないか」
「兵の使い方はですな」
「全く学ぼうとせぬ」
 言うのはこのことだった。
「しかも政もな」
「どちらも性分でないので」
「それでか」
「はい、ですから戦の時は」
「御主だけで戦いじゃな」
「そして槍手柄を挙げます」
「これからもか」
 前田は咎める目のまま慶次を見て言う。
「そうするのじゃな」
「そのつもりです」
「そうか、まあ御主はな」
 前田も咎める目のままだがそれでもだ、それが慶次であり彼の味なのだとわかっているからこうも言うのだった。
「そうした者じゃ」
「だからですな」
「うむ、よい」
 これでだというのだ。
「それならな」
「そう言って頂けますか」
「御主は御主じゃ、ところでな」
「ところでとは」
「東は今どうなっておるかじゃな」
 このことをだ、前田は気にしていた。 
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