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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第百五幕 「若人よ立ち上がれ」

 
どーも、佐藤です。決して成金ではありません。

衝撃の展開の数々に未だ脳の再復旧が完全ではありませんが、とりあえず今は命令違反して許可のない飛行を続ける鈴ちゃんを追跡しています。
原作では間違いなくこんな話はなかったため、今後の展開が読めずに心臓がバクバクだ。本当に――本当に、いつ何が起きるか分からないというのは心臓に悪い。
山田先生たちに悟られないように、せめて表面的な態度だけ優等生です、ハイ。

あの太平洋に現れたゴーストはちゃんと撃退できるんだろうか?

ゴースト――正式にはX-9ゴーストバードか。
あの三角関係×歌×戦闘の三セットで有名なアニメ「マクロスシリーズ」が一つ、「マクロスプラス」に登場した戦闘機だ。
統合宇宙軍(要はガンダムで言う連邦軍みたいなもの)の次期主力戦闘機を争っていた主人公チームとライバルチームの夢を打ち砕くように出現したこの戦闘機は、無人機であるがために常識では考えられない機動性を見せつけて見事に次期主力機の座をかすめとってしまった。
その後、物語はヴァーチャルアイドルの暴走を発端に地球規模の大事件に発展するのだが……ともかく、この物語の中でも強烈な強さを見せつけた敵がゴーストだ。
恐るべきかなゴーストは、ライバルチームの戦闘機とパイロットが文字通り捨て身で特攻してどうにか撃墜できた、というレベルの存在だ。あれがそれと全く同じものかは分からないが、まず間違いなく強いだろう。

そして、『第十二使徒レリエル』。
私の居た世界では非常に有名だったけど詳しく語れる人はそこまでいないにわかオタクホイホイ(佐藤さんの多大な偏見が混じっています)『新世紀エヴァンゲリオン』に出てくる敵だ。わたし、劇場版も見に行ったけど未だによく分かんない。お手上げだ。
そしてこういう時に限って回されるのはよりお手上げで厳しい方なのである。
神様は不平等だ。グレてやる。佐藤さん教作って弑逆(しいぎゃく)してやる。

「……わたし、ベル君助けたら新世界の神になるよ」
《阻止します》
「な、なんでそんなにガチな止め方なのレーイチ君?」
《マスターには実現可能性があると思ったからです》

パートナーAIが主人の野望を阻止しようとする件について。
まぁ軽いジョークなんだと思うけど。世界を征服したのが私じゃ世界も微妙な顔で首を傾げることだろう。そういうのはセシリアがやればいいと思うよ。

……テンションが低くていつものキレが出ない。何か、何か劇的な事が起こればもっと饒舌になれると思うんだけど……ってイカンイカン!それはフラグだよね、この状況だと。

「……あれ?鈴ちゃんが減速してるねぇ。山田せんせ~!鈴ちゃんが速度を落としているので今からヒザカックンを実行します!」
『そういう企画じゃありませんからやめて下さい!!』
《T-αPulseの異常増大を確認。マスター、来ます》
「へ?来るって何が?」

きっと来る呪いのビデオの人?と言いかけたけど、レーイチ君は真面目だった。

《その殺生を好まぬ気質故に、最後の最後まで他の四霊と交わることの無かった孤高の超機人が》

――超機人??
聞き覚えのない単語だ。少なくとも私の知っているものではない、と思う。
流石にコンピュータが中二病を発現するとも考えづらいと言う事は――

「私はどうすればいい?」
《見守りましょう。彼……いや、彼らの目覚めを。》

速度を落とし、とうとう停止した鈴ちゃんの近くへとISを寄せる。念の為、攻撃されても回避できるギリギリの距離を保ちつつ、静かに接近。
きっとこれから原作には欠片もなかったことが起きるのだろうという警戒。鈴ちゃん大丈夫かなという不安。そして未だに助けることの敵わないベル君。色んな気持ちが緊張になって心臓の鼓動を加速させる。

(せめて私の手に負える事態でありますよーに……)

と、願ったその瞬間。
鈴ちゃんの口が小さく開き、うわ言のように何かを呟いた。


「必……神……火、帝……天魔、降伏………麟王、合体」


その言葉を言い終えると共に、彼女と甲龍が一瞬で炎に包まれた。

「り、鈴ちゃんッ!!」
《落ち着いてくださいマスター。あのIS操縦者のバイタルはいたって健常です》
「で、でも燃えてるじゃん!科学忍法並に燃えてるじゃん!!」
《科学忍法なら中の人は大丈夫でしょ》
「ううっ、そりゃそうだけどさ!山田先生も馬鹿博士も何か言うことないんですか!?」
『あの炎……朱雀のそれに似てるけど、あれよりも存在感が……』
『うん。流石は四神より格上…………………って誰が馬鹿博士かこの成金羽女っ!!周囲の人に結構馬鹿呼ばわりされる所為で反応遅れちゃったよ、クソが!!』
「鈴ちゃん……無事でいて」
『無視しやがった!世界の束ちゃんを無視しやがった!!』

もしこの場所に実況中継の人がいたら『あーっとここで主導権が佐藤さんの方へ大きく傾いた―っ!!』とか言っている所だろうが、今の佐藤さんは本気で心配している。
あの炎が収まった先に燃え燃えキュンっとこんがり鈴ちゃんが待っていたなんて死んでも御免である。前世で言えば娘くらいの年齢になる女の子が苦しんでるかもしれないと思うと、今にも炎の中に飛び込みたくなってくるくらいだ。

やがて佐藤さんの願いが届いたように、炎が剥がれるように消え去る。
その姿を再び確認した私は、絶句した。

鋭角的な非固定浮遊部位はしなやかな曲線へと変化し、燃盛る炎を連想させる翼のようなパーツが伸び、衝撃砲も金色を基調とする洗礼された形へと。

腕も、脚も、前よりも生物的なしなやかさと金の光沢を得た形に、手首と足首には光の輪が形成され、腕輪のように付随している。

頭部のヘッドギアは、その鬼の角のようだった棘が伸び、本物の角のように長く伸び、力と神性を象徴する霊獣の角を彷彿とさせる。

そして、その神々しい鎧を身に纏った少女は――

《――今の主に合わせるならばこんなものか。人の身体とは動かし辛いものだ。………では、参ろうか。我が主に”佐藤さん”と呼ばれる者よ》

エコーがかかったような、しかし凛とした声で、鈴ちゃんはこちらを向いた。
その身体は未だに炎を纏っているかのようにうっすらと橙色に輝いている。そして何より、気配や雰囲気が全く違う。

「貴方は、誰ですか?参るって――」
《それを語る(いとま)は、今はない。主がベルーナと呼ぶ男を救うには、佐藤さんの力が必要だ》

その言葉には優しさというか、柔らかさのような――人の心を鎮めるような美しさがあった。
が。

「……って貴方も私をさん付けですかッ!?というか鈴ちゃんの深層意識でも私はさん付けですかッ!?」
《汝の名は既に神性を帯びておるようだ。ならば敬意は払わねばならん》
「日本で結構ありふれた苗字と名前の筈なんですけどぉぉぉーーー!?!?」

測らずとも佐藤さんの緊張の糸はぐにゃぐにゃにほぐれることとなった。



 = =



ぺらり。
紙をめくる音が一度、部屋に響く。
ぺらり。
また一度、紙がめくられる。

「………………」

その音の主、座布団の上で胡坐をかいたユウは、私物である古めかしい書物をめくり続けていた。
その表情は険しく、眉間のしわは普段のさわやかそうな印象とはかけ離れている。
ぺらり。
ぺらり。
ぺらり。
やがてそのめくり速度は加速度的に上昇していき、最終的にはパラパラ漫画を見るような速度でめくり切った後、疲れたように後ろへぱたりと倒れこんだ。

「だーっ!!もう、なんで昔の僕はこんな頭の悪い漫画家が考えたような奥義リストを信じてたんだぁぁーーっ!!」

両手両足をじたばたと動かして悶絶するユウ。
めくるページの一枚一枚が今となっては黒歴史。読み返せばそれだけ昔の自分を抹消したくなるという恐ろしい苦行にとうとう耐えられなくなったユウは、その黒歴史がいっぱいに詰まった本を放り出した。

読者の皆さんは覚えているだろうか。

中学時代、全身全霊の反抗期だったユウは実家の書斎で埃をかぶっていた「貴家(さすが)流」という謎の拳術の指南書を発見し、それに記された奥義とやらを本気で体得しようとしていた。だがその奥義の内容は余りにも現実離れしすぎていて体得など不可能に近く、結局ユウは戦いのいろはもよく分からないまま兄と大喧嘩。そして一方的に敗北。
ユウの人生の目標の大きな転換期となり、それが今のユウの人格形成に大きな役割を担った。

その奥義書を、実はユウは常に部屋に置いていた。
死ぬほどに恥ずかしい思いをするとはいえ、これでも兄と正面から向き合うきっかけになった思い出の品だ。馬鹿だった自分への戒めにもなる。そしてユウは、特に遠出する時はこれを荷物にこっそり忍ばせる癖があった。

その事を今になって思い出したユウは、気が付けばその書物に目を落としていた。

兄に勝つ方法を求めて我武者羅になっていたあの頃と全く同じように、だ。
もう二度と振り返ることはないとばかり思い込んでいたこの書物のページを再びめくっていた。ある意味では原点回帰と言えるかも知れまいが、要するに行き詰まった時のヤケクソではないだろうか。

「つまり、僕ってば実はあの時から全く成長していないってことなのね……」

煮詰まった頭を冷やすように天井を眺めながら、小さな声でぼやく。


今、ユウは旅館の自分の部屋にいる。
あの襲撃者が「後でまた来る」と言ったのだから、恐らくそう遠くないタイミングでユウの下にやってくるだろう。そして、太平洋とベルーナ救出のために人数が手薄になっているタイミングの内に仕掛けてくると考えるのが妥当。

今は侵入者を監視するために簪が屋根の上からISのセンサーで監視し、ユウは部屋で普通に襲撃を待つことになっている。

だからユウにはやることがないのだ。

「才能も頭脳も、覚悟もないか……ついでに根性もないとまで言われちゃ、流石に黙って引き下がれない……でも」

指南書に目を落とす。昔に見つけた時よりも更に古臭くなった気がするこの本に、それを覆すものがあるのだろうか?

「あーあ……せめて何か一つくらい参考になる技とかないのかなぁ。今から強くなるのは無理でも、やっぱり一発ギャフンと言わせたいよね」

もう何度めくったかも分からない指南書をぺらぺらとめくっていたユウは、ふとある奥義に目がいった。

「裏合気遠当て……気を練って相手にぶつけるって、最早そこまでいくと魔法だよね」

ページには、振りかざした拳の先端から謎の光弾を飛ばすイラストが載っている。
妙にポップな絵柄だが、これ一体だれが書いたのだろうか。今更ながら密かに疑問に思っていたユウだが、ふとこれと似たものをどこかで見た気がして改めて絵を見る。

そしてユウは、ひとつの事に気付いた。

「これ……僕が前に使った『十束拳(とつかのけん)』とそっくりだ」

拳にバリアを一点集中させ、エネルギーの爆弾として拳で打ち出すユウの必殺技、『十束拳』。
イラストの内容と『十束拳』は、こうして見ればよく似ていた。

「……………」

つまり――生身では出来なくとも、ISなら出来る?

ぴん、とユウの脳裏に何かが奔った。

自然と、ユウは自分の考えに確信を持ちたくてページをめくろうとし、そこで裏合気遠当と次の技の間にもう一ページあることに気付いた。長らく放置されていたせいで一部のページが張り付いていたらしい。

「裏合気遠当・木霊………遠当のバリエーション奥義。一撃目の拳で相手を拘束し、もう一撃を叩きこむことで気を二重に重ね、木霊のように衝撃を増幅させる、か。この理屈で言うなら僕の神度拳は『裏合気遠当・(つがい)』って所だね」

神度拳は、風花が百華の名を冠してから使った、両手で撃つ十束拳だ。本来なら遠くで爆発するエネルギーを、両手で同時に打ち出すことによって纏めあげる。爆弾ではなく大砲に近い技だ。
さっきまでと自分の思考回路が変わっていくのを感じる。
よりアクティブに、より柔軟に、そしてイマジネーションが広がっていく。

ISにしか出来ない戦いではなく、ISなら出来る戦い。
気付かぬうちに再現していた貴家流の奥義の一つ。
そして――二重。

「だから……あの速度に対抗するには………うん、そこで根性出さないとな。それで……ちょっと不満はあるけど、弱い側が出し渋るなんてどんな理由があっても馬鹿だよね。でもそうなると………」

これを機に、ユウの頭は急速に回転を速めていく。
手探りの戦いから目標を倒す戦いへ。
戦う為の戦略ではなく、勝つための戦略へ。

「そうだよ、なに素直に負けを認めてるんだよ!沢山ある勝負の内のたった一敗じゃないか!あの時はどうにもできなかったけど……そもそも勝負ってどちらかが負けるのは当たり前だ!」

ジョウやあの襲撃者が言っていた「諦めている」という言葉の意味を、ユウは漸く理解できた気がした。
ユウにとって勝負とは、勝とうが負けようが相手の動きや自分の出来る事を延々と脳内で反復し、どうすれば勝てるか、どうすれば強くなれるかを考え続けることではなかったか。
負けたからとか追い詰められたからとか、そんな言葉を言い訳に思考を停止していなかっただろうか。

「負けると確信したあの瞬間、僕は戦っているようで戦っていなかった。勝利へ向かわず、ただ取り敢えず目の前の相手にそれらしい動きをしてるだけだった。勝ちに向かってなかったんだ……!」

無謀でもいい。負けてもいいし、折れてもいい。でも、99%の真実が敗北という名の実力差を見せつけに来たとしても、残り1%の夢から目を逸らしてはならない。
僕の覚悟というのは、元々その類だろう。

思い出せ――あの頃の無謀な闘争心を。
  
 

 
後書き
くっ、エネルギー切れだ!チャージしなければ……!!
というわけでストック溜めるためにまた休みます。どれほどの時間がかかろうと……必ず戻ってくるんだからね。 
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