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幸せ

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第四章


第四章

「私あのお話大好きなのよ」
「だろうね」
「わかってたの?」
「だってさ、あっちゃんの好きそうな話だから」
 にこりと笑ってこう述べた。
「格好いい王子様に助けてもらうって話好きだろ」
「大好き」
 元気よく頷いて答える。
「そんな話幾ら見ても読んでも飽きないわ」
「やっぱりね」
 それはすぐにわかった。思い込みの激しい晃子のことである。そんな話が嫌いだとはとても思えない。多分そういった話の中のヒロインと自分を重ね合わせているのだ。こうしたことは大なり小なり誰にでもあることだ。だが晃子のそれはかなり度が過ぎていた。そうしたことも彼は察しがついていたのである。
「他にも好きなお話あるのよ」
「何?」
「一杯」
「一杯じゃわからないよ」
「だって。本当に一杯あるから」
 苦笑いを浮かべた義弘にそう返した。返事は変わらない。
「義弘君とも。そんな話あったらなあ」
「まあ滅多にそんな話はないけれどね。あったらあったて大変だよ」
「まあね」
 それには晃子もくすりと笑った。星を見上げたまま。
「それでもね」
「うん」
「私、このままずっといられたらなあって思うの」
「このままずっと」
「そっ、義弘君とね、ずっといたい」
「そんなに?」
「だって。キスだってあれだってはじめてだったし」
 少し俯いて頬を赤らめて言っていた。
「それだけじゃないけど」
「それで。どうしたいの?」
「ずっと一緒にいてね、それで」
「うん、それで」
 話を聞こうとする。だがそこで。
 空に流れ星が現われた。晃子はそれを見て咄嗟に言う。
「義弘君の奥さんになりたい!」
「えっ」
 その言葉に義弘も思わず言葉を詰まらせた。
「義弘君の奥さんになりたい!義弘君の奥さんになりたい!」
 声は三回出された。お願いの言葉だった。流れ星に三回願えを言えばそれが適うという。よくあるおまじないの言葉であった。晃子は今それを叫んだのだ。
「・・・・・・間に合ったみたいね」
 まだ空にある流れ星を見上げてにこりと微笑んでいた。
「えっとね、それで」
「いや、もう言いたいことはわかってるよ」
「あっ、やっぱり」
「今聞いたからね。それで」
「ええ。私でいいよね」
「俺でいいんだよね」
 二人は互いに言った。
「御嫁さんになりたいけれど」
「俺は、その。あっちゃんの旦那さんにね」
「駄目かな、やっぱり」
「よかったらさ」
 二人はここで気付いた。同じことを思い、同じことを言っているのだと。はっきりとわかった。
「・・・・・・あのね」
 晃子は珍しく俯きながら答えた。
「私は・・・・・・いいから」
「あっちゃん・・・・・・」
「私なんかでよかったらね。御嫁さんにね」
「うん、俺も」
 義弘は顔を上げた。そして頷いた。
「子供は三人で」
「えっ!?」
 話がいきなり飛んでしまった。義弘はそれに戸惑いを覚える。だが彼女の話はそれで終わりではなかった。
「犬と猫も飼って。子供達に一匹ずつで三人って」
「あの、俺そこまでは」
 考えている筈もない。結婚するかどうかというのすらよく考えれば高校生では殆ど夢みたいな話だというのに。だが晃子の夢はさらに飛躍していた。そしてそれは止まらなかった。
「それで。世界一幸せになろうね」
「幸せに」
「うん、二人で」
 ここで顔を上げてきた。義弘を見る。
「それでいいよね」
「うん」
 この問いには迷うことはなかった。こくりと頷いた。
「じゃあ私義弘君の御嫁さんに」
「なってくれるんだね」
「今は無理だけれどね、やっぱり」
「それはね」
「けれどね、折角こうして付き合うことが出来たんだし」
「今一緒にいるし」
「これからも一緒にね」
「うん、二人で」
「幸せになろうね、世界で一番」
 にこりと笑ってこう言い終えた時だった。空に流れ星がまた現われた。
「また。お願いする?」
「勿論よ。今度はね」
 義弘にもお願いした。
「二人で。お願いしよう」
「そうだね、二人でね」
 義弘もにこりと笑った。そして二人で星を見た。
 それから二人で流れ星に願いごとをした。お願いしたことは二人同じであった。そう、同じだった。そのままずっと二人で同じ時間を過ごすことであった。


幸せ   完


                  2006・7・16

 
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