とあるの世界で何をするのか
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第三十五話 セブンスミスト爆破事件
「神代さん、こんなのはどうですか?」
「だったらこっち、これならどうだ!」
初春さんと佐天さんが俺用として水着を選んで持って来たのだが、初春さんの方はピンク色でフリルが付いたビキニタイプの可愛い水着、そして佐天さんの方は隠すべき場所をちゃんと隠せるのかがとても不安なほとんどヒモだけの水着である。
「初春さんのは可愛いからいいとして……。佐天さん、あんたは白井さんかっ!!」
「ちょっ! あんなのと一緒にしないで下さいっ!」
俺が佐天さんに本日二度目となるツッコミを入れると佐天さんもすぐに反論してきたのだが、何気にさっきよりも酷いことを言っているような気がする。
「ウチとしてはこんなのが良いかなーと思ってるんだけど……」
自分で選んだのは、初春さんの選んだ水着よりも控えめなフリルが付いた、ホルターネックのビキニである。
「お待たせー……って、神代さんの水着選んでるの?」
「そうなんですよ。御坂さんも選んでみます?」
「そうねえ、神代さんの水着ねぇ……どんなのが良いかなー」
ここでお手洗いから戻ってきた御坂さんも合流し、何故か俺の水着選びをすることになってしまった。
「皆、自分のは?」
「別に良いじゃない、どうせ買わないんだし」
何か釈然としないので皆に振ってみると佐天さんからそんな答えが返ってくる。
「いやいや、ウチだって買わないわよ。どんなのがあるかを見に来ただけなんだから」
このままだと本当に水着を買わされそうだったので、一応抵抗はしておく。
「でも自分で選んでるじゃないですか」
「水着買うんだったらウチはこんなのが良いってだけで、これを買うとは言ってない」
「ねーねー、こんなのはどうかしら?」
佐天さんから指摘されたので答えていると、今度は御坂さんが水着を持ってきた。
「あ、それはちょっと良いかも」
「意外と御坂さんは神代さんの好みを把握してますよねー」
御坂さんの持ってきた水着は結構良い感じだったのでそう言うと、初春さんが感心したように呟く。
「そうかな? 私はただ神代さんが着せたら可愛いかなーって思ったのを選んでるだけなんだけど」
「御坂さんの可愛いはウチの可愛いと近いんだろうねー。初春さんのはちょっと派手だし、佐天さんに至っては……半分白井化……」
初春さんに答えている御坂さんの言葉を聞いて、俺が思ったことを言ってみる。初春さんも御坂さんも、恐らく自分の基準で可愛いものを選んでいると思うのだが、俺の基準が御坂さんの基準と近いのだろう。佐天さんに至っては面白半分で選んでいるとしか思えない。
「ちょっ!? そんなことはないでしょっ!」
「あー、黒子ならこういうの好きかもねー。下着類があんな感じだったんだし……」
佐天さんは俺の言葉に反論してくるのだが、御坂さんも俺の言葉に同意してくれたようだ。
「御坂さんまでっ!?」
白井さんと同じ趣味に見られるのが本当に嫌なようで、佐天さんが見事にムンクの叫び状態で絶叫していた。そう言えば、『ムンクの叫び』って題名だと思ってる人が多いみたいだけど、作者名が『ムンク』で題名は『叫び』なんだよね。ついでに言うと、あの人が叫んでるわけでは無く、精霊か何かが叫んでるのを聞きたくないと耳を塞いでいるという絵だったはずである。
「初春、ケータイ鳴ってるよ」
「あ、本当だ。もしもし、ひっ!!」
佐天さんが指摘して初春さんが電話に出た。すると電話の向こう側からかなりの大声が聞こえてきて初春さんが驚いている。電話から聞こえてきた白井さんの声で察するに、グラビトンの予兆を知らせる為に電話してきたのだろう。
「それで、場所はどこですか? ……だから場所はどこかって聞いているんです!」
今度は初春さんがかなりの大声で問い詰めている。
「え……丁度良いです。私、今セブンスミストに居るのですぐに避難誘導を開始します」
しばらくしてそう言うと、初春さんは電話を切って俺達の方へと向き直った。
「落ち着いて聞いて下さい。爆弾魔の次の標的が分かりました。ここ、セブンスミストです。私がお店のほうに話を付けて来ますので、御坂さん、神代さん、佐天さんは避難誘導のお手伝いをお願いします」
「分かったわ」
「了解」
「初春も気をつけてね」
「それでは行ってきます」
初春さんに頼まれて全員が答えると、初春さんは走ってお店の人に話をしに行ったのである。
『ご来店中のお客様にご案内申し上げます。只今、電気系統のトラブルが発生しており、誠に勝手ながら本日の営業をここまでとさせていただきます。なお、このトラブルを元に火災が発生する危険性があります為、お客様には速やかに館外へ避難されますようお願い申し上げます』
初春さんが走り出してからそれほど時間が経っていないはずなのに館内放送が流れ始める。まぁ、初春さんに連絡が来るぐらいだからアンチスキルとかもすでに動き出しているのだろう。
「えー、確かこの前も停電があったよねー」
「本当困るよね」
「まだ来たばっかりなのにぃ……」
すぐに周囲が騒がしくなってきたものの、すぐに動き出す気配は無い。元の世界でやっていたテレビの実験番組で、火災報知器を鳴らしていてもすぐに動き出さないことの方が多いと言っていたから、この反応は仕方ないのかもしれないが、出来れば早めに避難してほしいところである。ってか、この前の停電って多分木山先生にツンデレって言われた御坂さんが起こしたやつだよねぇ。それならそれをもう一回やってもらえば幾分は避難行動が早くなるだろうか。
「ねー、御坂さん。誰にも気づかれないように、ここら辺の電気をショートさせること出来ない?」
「え? あー、分かったわ」
俺が御坂さんに小声で頼むとすぐに御坂さんも気づいてくれたようで、壁際へと歩き出した。
「あれ、御坂さん、どうしたんですか?」
「いや、ちょっと……ね!」
佐天さんから尋ねられて、御坂さんはそれに答えつつ壁に放電をする。すると、このフロアの蛍光灯や電球がすべて消えたわけだが、御坂さんも当然加減は知っていて緊急避難経路を示す非常口の明かりなどはしっかりと灯ったままである。
「きゃー、何これ!? 本当にやばいんじゃない?」
「うん、早く出よう」
これまでのんびりしていた周囲が御坂さんのおかげで一気に動き出す。
「あー、なるほど……あはは」
その光景を見て佐天さんは俺のやりたかったことを理解したようだ。
「取り敢えず、避難誘導行きますか」
「そうね」
「はーい」
御坂さんの活躍もあって店内に居た人の避難は結構早かったので、避難が終わったことを初春さんへ連絡して俺達も外に出た。
「初春、大丈夫かな」
「そうね」
佐天さんが心配そうに呟いて御坂さんが答える。その間に俺は量子変速をセットしてセブンスミスト内の重力子を確認してみたが、爆発までは後数分と言ったところだろうか。
「おい、ビリビリ! あの子見なかったか?」
上条さんが走ってきて御坂さんに尋ねる。
「はあ!? 一緒じゃ無かったの?」
「店から出るまでは一緒だったんだけどな、店を出てから姿が見えなくなったんだ。もしかしたら、また店の中に戻ったのかも」
御坂さんが驚いて聞き返すが、上条さんも一度外に出たことで気を抜いてしまったのだろう。ただ、俺の場合はその少女が爆弾魔にぬいぐるみを渡されて初春さんに持って行くことを知っているが、上条さんは何を根拠に少女が店に戻ったと思ったのだろうか。
「何やってんのよ! しっかり見ときなさいよ」
「お、おい! 待てよ」
御坂さんが店に向かって走り出すと、上条さんも慌ててそれについていく。
「あの人、誰だか知ってる?」
二人が走り去った後で佐天さんが俺に聞いてきた。そう言えば佐天さんと初春さんは、まだ上条さんとの接点が無いんだった。
「うん、上条さん。騎龍とは知り合いだし、御坂さんも知ってるっぽいよ」
「そうなんだ」
騎龍としては知り合いだが姫羅とは面識が無く、上条さんは俺が男にも女にもなれるのを知らないだろうということで、このような説明になってしまった。佐天さんは納得しきれない様子ながらも理解はしてくれたようだ。
「あ、ウチは気配で探せるからウチも行ってくるわ。もし、初春さんが避難して来たら伝えてもらえる?」
「あ、うん。分かった。気をつけてね」
「はーい」
一応、もしもの事を考えて俺も店の中へ向かうことにして、佐天さんには初春さんが外に出てきた時の為にという口実を作って残ってもらうことにしたのである。
店に入るとファイナルファンタジー系速度上昇魔法、ヘイストを使って全力疾走で御坂さん達に追いつく。
「御坂さん、上条さん、こっちに居る」
「神代さん!」
各フロアを二人で手分けして探そうとしていたのか、二手に分かれようとしていたところを呼び止める。
「こっち。ウチは気配が分かるから」
「そうだったわね」
「おいおい、気配が分かるって……」
俺の言葉で御坂さんはすぐ理解してくれたが、上条さんは微妙に信用出来てない感じだが、能力の一つということで無理矢理納得したのだろう。初春さんに関しては生体識別情報を認識済みなので、どこに居るのかを簡単に把握できる。上条さんと一緒に来ていた鞄の少女の方は生体識別情報を把握していないので、現在初春さんに近づきつつある気配がそうなのだろうと思うが、さすがにこれだけ距離が離れていると正確な位置は特定できない。ただ、妙なものを持って移動しているということをはっきりと感じ取ることが出来る。
「ジャッジメントの初春さんの所へ向かってるみたい」
「そう、なら大丈夫そうね」
「そうか、良かった」
すでに停止しているエスカレーターを駆け上がりつつ、上条さんにも分かるようにジャッジメントと言う単語を加えて説明すると、御坂さんも上条さんも少し安心したようだ。だが、本当に安心するのはまだ早い。
「そうでもないかも。その子、何か変なもの持ってる。何て言うか人の気配とは全然違う感じがある。凄く嫌な感じ」
「もしかして、爆弾!?」
「そうかも」
俺としてはほぼ爆弾で間違いないと思っていても、まだ未確定状態なので感じたことだけを説明するが、御坂さんもやはり爆弾としか思えないようだ。しかし、まだ確定していないので断言だけは避けておく。
「おい、爆弾って何だよ!?」
「最近話題になってる連続爆破テロの爆弾よ! ここが標的になってるって連絡があったから急遽閉店になったのよ!」
俺と御坂さんの会話から急に飛び出してきた「爆弾」という単語に上条さんが反応した。上条さんにしてみれば爆弾魔のこともニュースの一端程度でしか知らないだろうし、ここセブンスミストが標的にされていると言うことも知らないのだから当然と言えば当然である。それに対しては御坂さんが答えた。
「何でビリビリがそんなこと知ってんだ?」
「寮ではジャッジメントの子と同室なのよ!」
明らかに普通の人は知らない情報を知っている御坂さんに上条さんが尋ねると、ちょっと怒った様子で御坂さんが答える。そして、ようやく初春さんの居るフロアに到着した。
「こっち」
「お、居た」
初春さんの居る通路まで来ると、俺は初春さんの方を指差した。タイミング的には丁度女の子が初春さんにぬいぐるみを渡そうとしているところで、上条さんも女の子の姿を確認したようだ。しかし、初春さんは女の子からぬいぐるみを奪い取って後方へ投げ捨てた。
「初春さん!」
事態のヤバさを理解できたであろう御坂さんが声を上げる。
「逃げて下さい! あれが爆弾です!」
初春さんが女の子に抱きついて爆発から守ろうとする。
御坂さんは初春さんの所まで走って行き、ポケットからレールガンを撃つためのコインを取り出す。
しかし、ポケットから手を出した瞬間、御坂さんの手からコインが滑り落ちてしまう。
「なっ、しまっ!!」
御坂さんは落ちたコインを目で追うが、すでにぬいぐるみの収束は限界でコインを拾う時間すら無い。
御坂さんが走り出した直後に俺も上条さんも追いかけていたので、上条さんが爆風を防いでくれることは間違いないだろうと思っていたし、もしもの時には空間盾が即座に発動できるように準備もしておいた。それでもこの瞬間は本当に時が止まったのかと思うほどの時間に感じた。
上条さんが爆弾の方に右手を出したのを見て、俺は初春さんと一緒に女の子を爆風から守る為に覆い被さった。
直後のもの凄い爆音、いやこれを音と言って良いのだろうか、直接この世界そのものが叩かれたかのような衝撃。そして、上条さんの右手のおかげで爆風の直撃こそないものの、かなり強烈な爆風が周囲を抜けていった。
急激な気圧の変化に耳がキーンと鳴っている状態がしばらく続き、ようやく周囲の音が何となく分かるようになってきたので俺は初春さんに声を掛けてみた。
「初春さん、無事?」
「え……ええ、何とか」
初春さんも何とか聞こえる程度には聴力が回復したのだろう、答えが返ってくる。
「いやー、危なかったな。普通の爆弾だったらどうしようかと思ったけど、能力を使った爆弾で助かった。お、大丈夫だったか?」
何事も無かったかのようにとはいかないものの、爆発による煙の中から上条さんが姿を現して俺達を確認すると、女の子に向かって話しかける。
「うん、お兄ちゃん。ジャッジメントのお姉ちゃんが守ってくれたから」
女の子が上条さんに答える。
「今の……御坂さんが助けてくれたんですよね? 流石レベル5です! 助かりました、本当にありがとうございます」
「常盤台のお姉ちゃん、ありがとー」
未だにポケットからコインを出そうとしたままの体勢で固まっていたのだが、その御坂さんの後ろ姿を確認すると初春さんと女の子がお礼を言った。
「い……いえ……どういたしまして……」
「御坂さん、ありがとう」
御坂さん自身は何も出来なかったので答え方がおかしくなっているが、折角なので俺もお礼を言っておく。
「しかし、今回の爆弾は凄い威力だったわねー」
「そ……そうねぇ」
「今までの爆弾事件とは明らかに威力が違いますね」
俺がついでにもう一言加えると、ようやく自分の状況が理解できてきたのか御坂さんも相槌を打ってくれ、初春さんも周囲を見ながら同意してくれた。まだ煙が立ちこめているものの、周囲はだいぶ確認できるようになってきたので辺りを見回す。上条さんの立っていた場所から俺達が居た部分に関してはほぼ被害が無いのに対して、周囲は熱や爆風によって酷いことになっている。
「あ、そうだ! ねえ、あなたにあのぬいぐるみを渡した人って眼鏡を掛けた人で間違いない?」
「うん、眼鏡のお兄ちゃんがここに居る風紀委員のお姉ちゃんに持ってってくれって」
ようやく冷静さを取り戻してきたのか、御坂さんが女の子に犯人の特徴を聞き出す。確かアニメでは、あの褌蛙のぬいぐるみをゲコ太と勘違いしてがっかりしてたはずだから、以前にどこかで見ていたのだと思う。
「そう、ありがとう。……黒子っ!」
「到着したばかりですのにいきなり何ですの? お姉様」
御坂さんが女の子にお礼を言った瞬間、近くに白井さんが現れたのだが、その白井さんに御坂さんはすぐ声を掛けていた。
「犯人捕まえるわよ! まだこのビルの周辺に居るはずだから急いでっ!」
「は……はいですの!」
「あ、御坂さん……行っちゃいましたね」
多分白井さんは状況とか犯人とか全然分かってないはずなのだが、御坂さんに圧倒される形で御坂さんと一緒にテレポートしていった。初春さんが御坂さんに声を掛けようとしていたのだが、恐らくその声は届かなかったのだろう。
「他のジャッジメントかアンチスキルの人が来るまで待ちますか」
「そうですね」
「そうだな」
俺の提案に初春さんも上条さんも同意してくれたので、俺達はこの場でしばらく待つことにした。
「あ、あのー……貴方は?」
ただ待つだけだと間が持たないのか、それとも話しかける機会を窺っていたのか、初春さんが上条さんに話しかけた。
「あー、俺はその子の付き添いみたいなもんだ」
「ここまでお兄ちゃんに連れてきてもらったんだよ」
「そうだったんですか」
上条さんが女の子の頭に手を置きながら答えると、女の子も元気に答える。それを聞いて初春さんも納得したようだが、「付き添い」ではなく「付き添いみたいな」と言った部分には疑問を持たなかったのだろうか。
しばらく待っていると煙も晴れてきてフロア全体が見渡せるようになったのだが、上条さんが居た位置より後ろの方はほとんどが爆風による被害で物が散乱している状態なのに対し、前の方は熱による被害も大きく鉄やガラスが溶けかかった状態になっていたり、床や天井や柱に焦げた部分が見られたりした。
「こんな状態で良く助かりましたね……私たち」
「そうねー」
俺と同じく周囲を確認した初春さんのつぶやきに答える。
「そう言えば、神代って言ったよな。俺の知り合いに神代騎龍ってやつが居るんだけど、もしかして兄妹かなんかか?」
俺が周囲を確認していた時に顔を見て思い出したのか、上条さんから尋ねられた。
「あー、本人です」
「……は?」
俺が普通に答えると、上条さんは俺の言葉の意味を一瞬考えてから呆けた声を上げたのである。
後書き
お読みいただいた皆様ありがとうございます。
あれ……介旅君が出てこなかった……。
本当は出す予定だったんですけどね^^;
喝上げしてきた不良たちが持ってる一円玉を起点にして爆破すれば楽に終わってただろう的な説教をかますつもりだったのですが、介旅君の所へ行く流れに持って行けませんでした。
介旅初矢ファンの皆様、申し訳ありませんでした。
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