女王への捧げもの
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第二章
「だからね」
「女王様だぞ」
「女王様でも人間でしょ、寒い時はね」
「火をくべるからか」
「火をくべるのなら薪が必要だから」
それで、というのだ。
「薪は喜んでもらえるわよ、しかも今は冬だから」
「冬でも女王様だぞ」
ホズは娘に眉を顰めさせたまま言う。
「薪を喜ばれる筈がないだろう」
「けれど他にあるの?」
シギュンは今度はこう言ったのだった。
「私達の家の贈りものは」
「そう言われるとな」
「ちょっとね」
ホズもエリンもだった、娘の言葉にはだ。
眉を曇らせた、そう言われるとだった。
「ないな」
「狩りは出来るけれど」
「猪や鹿は猟師が捕まえる」
「お父さんも出来るけれど」
「それでもな、本職の猟師には負ける」
「やっぱり私達は木樵だから」
「だったら薪しかないじゃない」
他に選択肢はないというのだ。
「そうでしょ、薪をお贈りしよう」
「結局それしかないのか」
「他にはないのね」
「そう、それじゃあ森に行ってね」
エリンはにこにことして両親に言った。
「切ってね」
「薪を作って」
「女王様に捧げるのね」
「そうしましょうね」
両親も娘の言葉に従うしかなかった、そしてだった。
木樵の一家は三人で森に入ってだ、そのうえで。
ホズが斧で木を切り倒しエリンとシギュンが細かい作業をして薪を作った、シギュンはその薪の山を見て明るい笑顔でいた。
そしてその笑顔でだ、両親に言うのだった。
「後はね」
「この薪をか」
「本当に女王様に献上するのね」
「そうしましょう、私達の家はね」
「全く、こんなものをお贈りしても」
「女王様はお喜びになられないわよ」
両親は今も難しい顔でいる、その薪の山を見ても。
「売るのならともかく」
「女王あまへのお贈りものなんて」
「喜んで頂ける筈がないだろう」
「こんな普通のものを」
「普通って悪いの?」
シギュンは相変わらずの態度だった、表情も変わっていない。
「何処が悪いの?」
「だから珍しいものじゃないと」
「素晴らしいものじゃないとね」
「女王様は喜んで頂かない」
「そうに決まってるでしょ」
「だから。女王様だって人間だから」
あくまでこう言うシギュンだった。
「薪で喜んで頂けない筈がないわよ」
「それで受け取って頂けないとどうするんだ」
ホズはこれ以上ないまでに眉を顰めさせて娘に問うた。
「その時は」
「それはないわよ、この寒さだと」
「寒さ位女王様だと何とでもなるだろ」
「なるの?」
「なられない筈がない」
「薪も必要ないの?」
「いや、それは」
そう言われるとだ、ホズにしてもだ。
冬なので彼自身も寒い思いをしている、着ている服も厚いものを重ね着していてだ、家は元々だが寒さを考えたものだ。
その中にいるからだ、彼も言うのだった。
「その通りだがな」
「ならいいじゃない」
「まあ喜んで頂けるのならな」
「それでいいけれど」
結局だ、両親は娘の言葉に納得するしかなかった。何しろ一家の捧げるものはそれしかないからだ。それでだ。
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