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渋さの裏

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第二章

 駅から出るとそのまま家まで歩く、そして家の扉を開けると。
「只今ママ!」
「ママじゃないでしょ」
 すぐに家の中から声が返って来た。
「帰ったぞでしょ」
「あれっ、駄目かな」
「ママって何よママって」
「ママはママじゃないか」
 和田は玄関で靴を脱ぎながら明るい声で言うのだった。
「違うの?」
「ママって言ったらお義母さんと区別がつかないでしょ」
「そういえばそうだなあ」
「そうよ、お義母さんとね」
「じゃあ何て呼べばいいのかな」
「奥さんとか御前とかあるでしょ。名前とか」
「そんな気取った名前で呼べないよ」
 和田は家の中を進みながら言うのだった。
「ママでいいと思うけれど」
「だからよくないわよ、それでね」
「それで?」
「お風呂あるから」
 家の中からだ、奥さんが言って来る。
「入ってね」
「千代子ちゃん達はもう入ったのかな」
「入ったわよ」
 お風呂にというのだ。
「後はお父さんだけよ」
「わかったよ、じゃあね」
「御飯前に入ってね」
「お風呂は僕が洗っておくよ」
「そうしてくれるのね」
「当たり前だよ、お風呂は最後に入った人が洗う」
 それがというのだ。
「我が家の決まりだろ」
「それじゃあね」
「ああ、しっかりと洗っておくからな」
 こうした話をしてだった、和田は風呂に入ってだった。その風呂もしっかりと洗った。そうして風呂からあがって。
 リビングに出た、だが年頃の綺麗な娘達から嫌な顔でこう言われた。
「ちょっとお父さん」
「何よその格好」
「またそんな格好して」
「どうしたんだ?」
 風呂上がりの彼はくつろいだ顔で娘達に返した。
「一体」
「だから、服位着てよ」
「何よ、トランクス一枚って」
「しかも縞々の」
 実に古典的なトランクスだった、松本零士の男おいどんに出て来る。
「服着て、早く」
「すぐにね」
「そんな格好しないの」
「やれやれだな、これがな」
「男の格好っていうのね」
「そう言うのね」
「そうだよ、男は皆こうなんだよ」
 家では、というのだ。
「トランクス一枚なんだよ」
「娘にそんな格好見せないの」
「全く、おっさんなんだから」
「加齢臭もするし」
「何っ、臭うか?」
 一番末のまだ中学生の娘に加齢臭と言われてだ、和田は慌てて自分の右手の臭いをかいだ。
「そんなに」
「ちょっとね、最近」
「風呂は毎日入ってるぞ」
「加齢臭は別なの」
「風呂に入って綺麗にしてもか」
「するのよ。オーデコロンでも付けたら?」
 これが末娘の言葉だった。
「全く、おっさんって嫌ね」
「おっさんの何処が悪いんだ」
「悪いわよ」
 二番目の娘も言って来た、高校生である。 
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