妻が最初に作るもの
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第四章
「辛めよ」
「お醤油は普通のお醤油で」
「間違っても薄口は駄目よ」
関西のそれは、というのだ。
「おでんもね」
「お味噌は入れないで」
関西で言う関東煮そのままというのだ。
「そうしてですよね」
「そういうことよ、だからね」
それで、というのだ。
「頑張ってね」
「そうよ、それじゃあね」
「はい、これからも」
「あの子頼むわね」
「お義母さんの味で」
「昔ながらの東京の味でね」
まさにその味でだ、というのだ。
「あの子楽しませてあげてね」
「わかりました、私はどの味でもいけますから」
香音にその辺りのこだわりはない、それで大海にも合わせられるのだ。
「ですから」
「お願いね、ただね」
「はい、ちょっとやり過ぎたでしょうか」
「二十キロも太ったのよね」
「そうです」
「やれやれね。けれど自分からランニングはじめたのよね」
「はい、そうです」
「続けさせてね」
それは絶対にというのだ。
「やっぱり太り過ぎはよくないからね」
「ですね、じゃあ」
「そのことについてもね」
「はい、大海君をですね」
「頼むわ」
こう香音に言うのだった。
「あとあの子お酒も好きだから」
「ビールですね」
「そこも気をつけてね」
「そうですね、ビールは痛風になりますからね」
「あの子飲んだらかなりだから」
相当な量を飲むというのだ。
「気をつけてね、そのことも」
「わかりました」
「とにかく、あの子のことはね」
「これからはですね」
「香音さんに任せるから」
息子を預けるというのだ。
「頼んだわよ」
「それじゃあ」
「これからもお幸せにね」
「有り難うございます」
姑に笑顔で応えた香音だった、そしてだった。
香音は電話を切ってからそのうえでその日の料理に入るのだった、その料理の味も東京の濃い味だった。
妻が最初に作るもの 完
2014・8・17
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