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英雄の弱点

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第一章

                英雄の弱点
 アキレウスは無敵だった。
 彼はただ強いだけではなかった、その肉体はどんな剣や矢も通さなかった。そしてどんな呪いも彼には効果がなかった、毒もだ。
 それは何故か、それは誰もが知っていた。
「彼の母テティスのお陰だ」
「彼をずっと神の水に漬けていたからな」
「だから彼の身体には何も通じない」
「テティスは神だった」 
 つまり女神だったのだ、彼の母は。
「神の血が流れ神の水を身体に受けた」
「だから彼には刃も毒も通じない」
「そして呪いも」
「だから無敵なのだ」
「神の強さを持っている」
「だから強いのだ」
 こう言う、そしてそれはその通りだった。
 アキレウスは圧倒的な武勇だけでなく不死身だった、しかし弱点もよく知られていた。
 踵である、彼の母テティスは幼いアキレウスの踵を持って彼を神の河の水に浸していた。それで踵のところには水は及ばなかったのだ。
 だからアキレウスはここだけは弱かった、しかし彼自身はこう豪語していた。
「私は踵以外は無敵なのだからな」
「だからですか」
「実質的に」
「踵を攻められなければいい」
 それだけで、というのだ。
「その他の部分は何も通じない、だからだ」
「実質的に無敵だと」
「そう仰るのですね」
「そうだ」
 まさにその通りだというのだ。
「この私を倒せる者はいない」
「誰もですね」
「この世に」
「私は人に敗れることはない」
 神ならばわからないが、というのだ。
「何があろうともな」
「ではどの様な相手でも」
「敗れませんか」
「そうだ、私は無敵だ」
 そして不死身だというのだ、その為彼はどんな相手にも勇敢に闘い勝っていた。傷一つ負わなかった。だが。
 その彼を見てだ、オデュッセウスは密かに側近達に話した。
「アキレウスは何時か必ず敗れる」
「あの方がですか」
「敗れるというのですか」
「そうだ、何時かな」
 そうなるというのだ。
「人に敗れる」
「まさか」
「あの方が人に敗れるとは」
「幾ら何でもそれは」
「有り得ないです」
「いや、敗れる」
 オデュッセウスは側近達にまだ言った。
「何時かな」
「人にですか」
「そうなりますか」
「ではやはり」 
 側近達は察した、アキレウスが敗れるとするとそれはどうしてなのか。このことは彼等にも察しがついたことだった。
「踵ですか」
「あの方の弱みである」
「あの場所を攻められてですか」
「そうなりますか」
「その通りだが。しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
 側近達はオデュッセウスの言葉に目を鋭くさせて問い返した。
「まだあるのですか」
「あの方の弱点が」
「そうだ、あるのだ」
 実際にとだ。オデュッセウスは落ち着いた声で答えた。
「そしてその弱点故にだ」
「あの方は敗れる」
「人に」
「そうなるのだ」
 こう言う、そしてオデュッセウスの言葉はアキレウス本人の目にも入った。しかし彼は大きく笑って言うのだった。 
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