お嬢様と執事
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第二章
第二章
「何でまたそんなことを」
「しかもですよ」
佳澄達は女の子らしい明るい笑顔を浮かべながらまた彼に話す。
「御指名でしたし」
「御指名って。じゃあ」
「はい、島本さんです」
「何か凄いことですよね」
「何でまた僕が」
正人にとってはいい迷惑であった。大学を出たらこの家で働くことはわかっていたが運転手か何かだと思っていたのだ。ところが執事でしかもそれは紗智子のだ。何もかもが彼にとっては迷惑な話であったのだ。
「さあ。何故でしょう」
「そこまではわかりませんけれど」
「わからないんだ」
「まあまあ島本君」
それまでテレビで競馬のゲームを楽しんでいた運転手の尾木さんが彼に声をかけてきた。なおその手も目もゲームに向けたままだ。
「仕事自体は楽じゃないかい?」
「いえ、全然」
正人は彼の言葉に憮然として答えるのであった。
「困ってるんですけれど」
「お嬢様のお相手だけじゃないか」
「それが大変なんですよ」
そのむっとした顔でまた言い返す。
「朝から晩まで。本当に」
「我儘だって?」
「口では言えませんけれど」
「いや、もう言ってるのも同じだし」
尾木さんの言葉も容赦がない。
「しかし。わしもお嬢様は我儘だとは思わんがな」
「何ですか」
「だから。佳澄ちゃん達と同じさ」
「そうですよね」
佳澄は今度は置いてあるファッション雑誌を読んでいる。かなり生活を楽しんでいる感じだ。
「休憩時間はかなり多いしお給料はいいし」
「それはそうだけれど」
実際そうした面ではかなり待遇のいい正人である。しかも食事は朝昼晩にいいものが出る。おまけに周りは昔から知っている人達ばかりで所謂旦那様、奥様といった人達にも可愛がってもらっている。そうした面ではまるで天国にいるような待遇であるのだが。
「お嬢様の何処が悪いのかね」
「そうですよ」
また佳澄達が言う。
「四条家はどの方もお優しい方ばかりですけれど」
「紗智子お嬢様は特にですよ」
四条家は名家でありその教育も昔ながらの華族のものをそのまま行っておりかなり厳しいのだ。だから紗智子の立ち居振る舞いもかなり気品があり優雅なものになっている。ただし性格は正人の目から見ればそれだけは全く教育の結果が見えないものになっている。
「それでどうして」
「島本さんがそう仰るのかわからないですよ」
「何でわからないんだろう」
正人は皆がわかってくれないので遂にこうぼやきだしたのであった。
「皆お嬢様のことが」
「わからないっていうか」
「ひょっとしてそれって」
メイドの娘達が彼の話を聞いて言う。
「島本さんだけに対してなんじゃないですか?」
「ねえ」
「そうかな」
「いや、案外そうかもな」
尾木さんもメイドの娘達の言葉に賛同してきた。
「実際のところわからんぞ」
「それだとしたらまた何でなんでしょ」
「そこまではわしにはわからんさ」
そうは言いながらも思わせぶりな笑みを正人に見せてきた。
「まあ暫くは様子見だな」
「様子見ですか」
「まさかとは思うがいきなり確信するとかはないよな」
「ええ、それは」
それに関しては正人の方から否定した。きっぱりとした言葉でそれは否定するのだった。
「ありませんから。安心して下さい」
「だといいんだよ。じゃあまずは様子見だな」
「わかりました」
「さてさて、鬼が出るか蛇が出るか」
「見物よね」
「何か君達楽しんでない?」
佳澄達の言葉にそう突っ込んだ。
「気のせいだといいけれど」
「いえいえ、楽しんでますよ」
「これからどうなるのかなって」
「何だよ、趣味が悪いな」
「まあ気にしないで下さい」
「こう見えても私達は」
くすくすと楽しそうに笑いながらの言葉であった。
「島本さん応援しているんですよ」
「ですから。頑張って下さいね」
「応援してくれてるの?本当に」
正人には信じられない言葉だった。何しろ楽しんで見ていると今さっきはっきり言ってのけた娘達である。信じられないのも無理はなかった。
「そうですよ」
「とにかく前向きに御願いしますね」
「前向きにか。どうもね」
「ああ、そうそう」
また尾木さんが正人に声をかけてきた。
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