戦国異伝
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第百八十九話 その一手その四
「しかし今はな」
「はい、飯をですな」
「食うべきですな」
「飯を食わねば何もならぬ」
腹が減っていてはというのだ。
「だからじゃ、ここはな」
「飯を食い、ですな」
「因幡を後にしますか」
「そうする、助けてもらった命は大事にせねばならん」
それでだというのだ。そうした話をしてであった。
経家は飯をたらふく食いそうしてだった。兵や女房達を率いてそうしてだ。因幡を西に向けて去って行った。
長政は鳥取城に入ってだ、そのうえで羽柴と秀長に言った。
「ここまで全てですな」
「はい、考えていました」
「兄上と二人で」
「そうでありましたか」
「そしてです」
「この国を手に入れました」
こう答える二人だった。
「殿は毛利家との戦を早いうちに終わらせるおつもりだったので」
「それで、です」
「兵糧を買い占めてです」
「開城を申し出ました」
「そうでした、そして」
そうしてというのだ。
「経家殿は去られました」
「その軍勢と共に」
「そしてです」
「我等はです」
「こうしてですな」
また言う長政だった。
「この鳥取城に因幡もですな」
「左様です、この様に」
「手に入りました」
「そういうことですな」
長政はここまで聞いて一旦目を閉じてそうしてだった、それから目を開いてそのうえでだ。二人にあらためてこう言った。
「お見事です」
「有り難きお言葉」
羽柴が応える、長政はあらためて言った。
「一兵も失わず相手にも血を流させずに一国を手に入れるとは」
「そのうえで、です」
「このままですな」
「西に向かいましょう」
因幡からさらにだというのだ。
「約束通り毛利の軍勢が領地に入ってから三日待ちますが」
「しかしそれまで境に向かい」
「そこで待ち」
その領地に入って三日の時までというのだ。
「そうしてです」
「西にですな」
「進みましょうぞ」
「約は違えぬのですな」
「それを違えては」
どうなるかも話す羽柴だった。
「信が落ちますので」
「当家のですな」
「ですからそれはせずに」
「待って、ですな」
「はい、そして」
そのうえでというのだ。
「今は待ちましょう」
「そうですな、それでは」
「まずは因幡を手に入れました」
このことをよしとする羽柴だった。
「急ぎますが焦らずにです」
「ことを進めていきますか」
「そしてやがては」
ここで羽柴は山中を見て言った。
「山中殿の願いも」
「お家再興もですか」
「左様、それも果たしましょうぞ」
「それがし他に望みはありませぬ」
一切と言う山中だった。
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