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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  047 予定に溺れる夏休み その3

 
前書き
4連続投稿です。

3/4 

 

SIDE 平賀 才人

「殿下、こちらが殿下の決済が必要な書類です」

「ありがとう、ヒラガ殿」

一言に〝ウェールズの補佐〟と云うものの、ロンディニウムに居る時の仕事はあまりない。書類の仕分けなどの簡単な事務仕事や、アルビオンが擁している竜騎士団の訓練への参加くらいしかない。……逆に、ロンディニウムに居ない時──首都を出る理由はと云うと、専ら公務で城を出るウェールズの護衛やルビオン各地の人手が足りない村や、町への魔獣退治や盗賊──レコン・キスタの残党退治が主な理由である。

……レコン・キスタの所為で村や町の守りがガタガタになり、その苦情が王城まで上がってきていて、それの火消しを俺が手伝っているという事だ。……俺がその仕事を負うことによって、その町や村の町長や村長とのパイプが出来るので〝後々〟動き易くなる可能性もある。

(〝あれ〟を覚えてくれていたのは助かったか。……恥ずかしくも有ったが…)

〝あれ〟──最早自分の中で黒歴史となりつつある、レコン・キスタからの洗脳を解いた時と〝ロイヤル・ソヴリン奪還作戦〟の時の演説を覚えている人が多かったのは助かった。……そのおかげで龍騎士の訓練の時に、〝余所者〟の俺に変な風に絡んでくる人間も居ない。……むしろウェルカムな感じである。

閑話休題。

「ところで、〝サイト〟」

「……なんだい? 〝ウェールズ〟」

思考の海でダイビングしていると、ウェールズがいきなり切り出してきた。〝サイト〟と、普段のプライベートな呼び方をしている事から察するに、ウェールズのこれからする話の内容はごく私的な事と当たりを付ける。

「〝例えば〟の話だが、僕とアンリエッタ結婚するにはどうすれば良いと思う? ……あっ、冗談半分で考えた事だからそこまで律儀に考えてくれなくても結構だよ」

(おいおい…)

「……〝例えば〟──ねぇ…? まぁ、簡単に思い付く事程度の事で良いのなら無いこともない。……〝ゲルマニア・トリステイン同盟〟の時と一緒の事をすればいいんじゃないか?」

ウェールズの本音が明け透けな質問に、内心で少しだけ呆れながらもウェールズに言われた通り冗談半分で答える。

「〝ゲルマニア・トリステイン同盟〟と同じ事…?」

「そう、要は政略結婚だよ。トリステインに〝旨味〟が生まれるように、財力を含めたアルビオンの国力を成長させるんだ。……それに、同盟さえ結んでしまえば、ガリアとかゲルマニアへの牽制にもなるし、同盟を結んだ後は、後継ぎが生まれて育つまでは2人で両国を治めていくのもアリだし」

だがこれは絵空事…机上の空論──理想論でしかない。ウェールズもそれに気が付いたのか、難しそうな顔をしている。

「……だがサイト、今は──」

「〝レコン・キスタの後始末も残ってる〟──だろ?」

ウェールズは鷹揚に頷く。……そう、今のアルビオンは内乱に終止符が打たれた直後。……だからか、今のアルビオンはトリステインを含めた他国からの印象はがた落ちだし、今のアルビオンはこの窮地に際して他国からちょっかいを出されないよう、睨みを利かせるだけで精一杯だ。

……その辺の事情は陳情書の数を例年──レコン・キスタが席巻する前の年と比較して、少し頭を回せば判る事。

「……俺が〝私財〟を投じてもいいんだけど」

「サイトの気持ちは嬉しいが止めてくれ。頼む」

「……冗談だよ。そんな事すれば金銀宝石類の相場が滅茶苦茶になるのが目に見えているからな。……全く…、本気になってよ」

ウェールズは判りやすいほどに顔を蒼くしながら俺の冗談を諌める。……ちなみに、ウェールズには俺がいつの日にか色々な〝世界〟で回収した莫大な財宝については〝一部〟だが見せてある。……〝それ〟を〝一部〟と伝えた時のウェールズ顔が、あからさまにドン引きしていたのを今でも鮮明に思い出せる。

……もちろん見せた理由はドッキリであり、慌てふためくウェールズのリアクションが見たかったからに過ぎない。

閑話休題。

「サイトの冗談は判りにくい上にえげつない事が多いから精神がもたなくなる。なので、もう少しだけ自重してくれると僕は大変有難い」

「謝るよウェールズ。……ちょっとからかい過ぎたかな? ゴメン」

「いや、判ってくれるなら良いんだ」

(……別に〝私財〟を出しても一向に構わないんだが…)

云ってしまえばあの金銀宝石類は泡銭もいいところ。“腑罪証明(アリバイブロック)”を使えばいつでも取りに行けるので、ここで〝私財〟をアルビオン復興の為に投入してしまっても、俺の懐は痛くも痒くもない。

……まぁ、投入してしまえば十中八九アルビオンの経済──下手すればハルケギニアの金銀宝石類の相場が荒れるだろうが。

「……取り敢えずは出来る事からやっていくしかないね」

「ウェールズに賛成」

「ああ、そう云えばサイト」

ウェールズは何かを思い出したように、アルビオン大陸の地図を執務机の上に広げる。

「サイトが〝本当の意味〟でアルビオンに来る時、どこに居を構えるんだい? ……誠に悲しいことながら先の戦で、王政から距離の在った──遠ざけてしまっていた領主の何人かがレコン・キスタに寝返ってしまったからね。いくつか領主不在の領土があるんだ」

(ウェールズ…)

ウェールズは〝自分の力が足りなかった〟悔しそうな顔で呟く。俺はそんなウェールズに掛けるべき言葉を探っていると、ウェールズは地図で領主が居ない領土にレ点チェックを付けていく。

「……んっん! らしくないな、いきなり弱音なんて…。……今領主が居ない領土は大体こんな感じかな。……僕としてはサウスゴータの太守を、僕を信頼していない父上の親派の者達より、欲──出世欲も無さそうで、信頼の置けるサイトに委せたいと考えている」

「出世欲が無いって…。言いたい事はまぁ有るが、否定はしないさ。……それにしても〝サウスゴータ〟か…。たしか(ロサイス)首都(ロンディニウム)中間にある交易都市みたいなものだったか? その内〝兄弟〟になるなら、〝名目上〟としてはおかしくはならないが…」

「ああ、その認識で間違ってない。……まぁそれも、僕が王位を継承〝したら〟の話だけどね」

ほぼウェールズが王位を継ぐ事が決定しているが、ウェールズはそれがまだ未定な話である事を思い出したのか、ウェールズは所在無さげに頬を掻きながら言う。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アルビオンのとある〝風光明媚〟や〝花鳥風月〟。……さらには〝長閑〟に〝壮大〟とな形容詞が付きそうな草原。その草原に、その形容詞とは似合わない〝ワーワー〟や〝ギャーギャー〟などのけたたましい──叫び声とも取れる声が響き渡っていた。

「ヒラガ隊長! 標的、隊長の方に向かいました!」

「了解した! 標的を左右後方より包囲しながら目標へと誘導する! バーク殿は左辺、ウィルサーテ殿は右辺より頼む!」

「「了解!」」

俺はウェールズから〝人の動かし方を覚えるように〟と、一騎馬小隊の小隊長を委されていて、今日も今日とて巨大な体躯の熊──によく似た獣を馬を走らせ追いかける。……メンバーはウェールズの取り計らいか、俺と年齢が近く割かし〝素直〟なメンバーだった。

ちなみに〝騎馬隊〟は、(アルビオンに住んでいるのに)高所恐怖症などで空中戦闘に資質がな無かった人間達が入隊する隊だ。……平時では、専ら今回みたいに魔獣や幻獣退治主なお勤めだ。……メンバーはアルビオン貴族の次男三男で──家督を継げなかった人達で顔合わせの時に〝ちょっとした〟イザコザは有ったが、今は命令を聞いてくれるくらいには慕ってくれる様になった。

……〝今回アルビオンに滞在する時期は短いだろうに〟…? 今回はお試し期間──現代日本で云う〝一日体験〟みたいな感じなので、その辺の事をあまり気にしてはいけない──(ユーノ)やシュウ曰く、〝禁則事項〟というもの。

閑話休題。

「ヒラガ隊長、配置に着きました!」

「了解! よくやった! このまま目標へと標的を誘導する! 多少強引だがやれるよな!?」

「やってみせます!」

「ハハハハハハハハハッ! 誰にモノを言ってるんだいヒラガ隊長よぉ、そこは〝やれ〟と言い切るのが隊長ってもんだぜ!」

バーク──アラン・ド・バーク。茶髪の子爵家三男が意気込みながら頷き、ウィルサーテ──ブレオ・ラ・ウィルサーテ。金髪の男爵家次男が豪放磊落に笑いながら言う。

「……よしっ、では予定通り散開へのカウントを取る! ……10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…今だっ、散開!」

俺の号令通りバークは右方へとウィルサーテは作方へと散開していく。俺はその場で馬を立ち止まらせる。……それと、俺が乗っている馬は“魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”で創った〝魔獣〟なので多少の急ブレーキ程度なら問題は無い。

運動エネルギーを制しきれなかった魔獣はと云うと──

――ズシャァァッ

予め仕掛けておいた〝落とし穴〟に、大きな音を発てて落っこちた。……発想はユーノとやっていたソフトは多人数で巨大なモンスターを狩るゲームに──【モンスターハンター】に出てきた“落とし穴”というトラップアイテムで、土の魔法で再現してみた。

「“ホール・フォール”成功…っと。今の内だ!! 焼き払え!」

「「了解! “ファイア・ボール”!」」

数十秒後、“ファイア・ボール”の集中放火。そこに在ったのはこんがりと上手に焼けた、熊の様な魔獣の消し炭だった。

SIDE END 
 

 
後書き
明日もう一話投稿します。 
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