普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
046 予定に溺れる夏休み その2
前書き
4連続投稿です。
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SIDE マチルダ・オブ・サウスゴータ
「私はティファニアといいます。……マチルダ姉さんから聞いていましたが、私の耳の事──私がハーフエルフだという事を本当に気にしてないんですか?」
「……まぁね」
テファ言葉にサイトは数秒遅れてリアクションを返す。サイトが返事に数秒遅れていたのはテファの胸が大き過ぎたからだろう。テファの胸にサイトの目がいっていたのを見逃していない。……だがそれは仕方ない。
(テファの胸は私から見ても大きいからねぇ…)
「どうして? 私は皆と違うのに…」
(まったくこの娘は…)
いつもならここでテファに諫言を投げ掛けるが、今はサイトが居るからそれは後回しにする。……サイトもサイトで思うところがある様で、テファ何やら言いたい事があるようだ。
「……質問返し──マナー違反は重々承知で訊くけど、ティファニアは俺に怖がって欲しいの?」
「違うっ! 私、そんなつもりで聞いたんじゃ…」
テファは優しい子だ。だが甘いところも多い。サイトの言葉はそんなテファのその優しさと甘さにつけ込む──抉り込む様な言葉だが私にはテファに言ってやれない言葉だ。……私の場合はどうしても〝家族〟としての面が出てしまってテファに私からキツく言う事が出来ない。
(……そう考えるなら、テファには良いクスリかもねぇ…)
……これはよく判らない事だがサイトに任せておけば悪いようにはならない気もする。……そう思えるのは多分サイトの人徳なのだろう。……それと、テファの胸に目を奪われていたのはサイトのガールフレンド達には内緒にしておいてやる事にする。
「ティファニアは1つだけ勘違いしている事がある」
「私が、勘違い?」
「そう、まずはこの世界に一人として〝同じ〟人間──いや、この場合はほんの少し難しい言い方では知的生命体とするべきか。……世の中には〝同じ〟知的生命体は居ないんだ」
(〝知的生命体〟…?)
……私にはサイトの言っている事は判らない。でもサイトの表情は小難しい話でテファを煙に巻こうとしているとは思えない──そんな真剣な表情をしている。
「ああ。これは俺の持論だけど、コミュニケーションツールを持っている生き物は生まれた時から〝個性〟がある──まぁ、難しい話をナシに有り体に言ってしまえば、ティファニアは〝ティファニア〟だろ?」
「私は〝私〟…」
(………)
サイトの言っている事は、現実論としては尤もだが、同時にそれは理想論でもある。なぜなら周囲はそれを──テファを、ハーフエルフを今の世の中は許容しない。……いつまで6000年前の戦争の事を引きずっているのやら。
「……とは云っても〝今の〟世界ではティファニアの様な存在は許容され難いだろう。……で、そこで妥協案だ」
「……サイトさん、〝それ〟は?」
「それは見てのお楽しみ…っと。……“□□□□□□□□□”。……っと、完成だ」
サイトは懐からネックレスを取り出し、そのネックレスに何やらボソボソと呟いたかと思えば、それをテファへと渡した。
「即席だけど“フェイス・チェンジ”の魔法を掛けたマジックアイテムだよ。これでティファニアの耳を隠せるはずだ」
「その手が有ったか。……でも、なんでサイトはテファの事といい、お金の事といい、そこまでしてくれるんだい?」
―ああ。これは俺の持論だけど、コミュニケーションツールを持っている生き物は生まれた時から〝個性〟がある──まぁ、難しい話をナシに有り体に言ってしまえば、ティファニアは〝ティファニア〟だろ?―
サイトの言った事は正しく盲点だった。……まぁ、よくよく考えてみれば、わざわざスクエアクラスのメイジを動かそうと思ったら、それなりの金が入り用になったはずだ。……〝耳を隠すマジックアイテム〟──その特殊性からテファの事がバレる可能性も有った。
……だから、どうしてサイトがここまでしてくれるのか──その理由が判らなかった。
「……色々と打算的なところはあるけど、一番はマチルダさんの事が気に入ったからかな」
「……忠告しとくよ。そのキザったらしいセリフの前のところを抜いて女に言うのは止めときな。そうしないと彼女たちに刺されるから。……この女たらしめ」
「……なんでさ」
(ああ、お前は女たらしだよ。……それもどうしようも無いほどのね)
私の揶揄に両の肩を落としながら嘆息しているテファと大して年も変わらない少年を見て、たった今〝サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ=どうしようも無いほどの女たらし〟と云う等式を私の中で不動のものとして成り立てた。
……まぁ尤も、彼女たちからしたらサイトのそんなところも良いのだろう──特にキリクリの娘は。
閑話休題。
「……ありがとう、サイトさん」
テファは嬉しそうにネックレスを身に付け、サイトに礼を言う。
「どういたしまして」
「……私、ずっと憧れていたんです。……フードを被らず──人目を気にせず町に行ける事を…。……耳が短くなって、今の私は〝本当の私〟じゃないのかもしれないけど本当に嬉しい…っ!」
「ははははは、何、気にする事はない。これからは町中を練り歩けばいいさ」
サイトは何でも無さそうにからからと笑う。……テファはそんなサイトに気を咎めたようで何やら考えているようだ。
「……マチルダ姉さんから貴方が生活を支援してくれている事を聞いてます。……私、支援までしてもらって──サイトさんに返せる物がありません」
「……それに、これはある意味〝将来〟への投資だからなぁ…」
「……でも…」
サイトの言う〝将来〟──それはサイトと私しか知らない話。……サイト曰く予定は〝将来〟は大分変わってしまったらしいが…。私もあの頃はサイトがよもやアルビオンの貴族に──それも公爵になるとは思わなかった。
「じゃあさ──」
サイトは一拍置いて更に続ける。
「俺と友達になってくれ。……俺さ、彼女とかは居るけど異性同性問わず、友達ってのがあまり居ないだよね。……だからさ、俺と友達になってくれる嬉しいかな」
(サイトに友達ねぇ…)
そう言って、サイトはテファへと手を差し出す。確かに学院でも、サイトと仲良くしている女子はあまり居ない。
……それは一重にさっきサイトが云った〝彼女〟が原因で、彼女たちがサイトに他の女子──一部の女子を除く女子を、あの手この手でサイトへと近寄らせないようにしている。……ちなみにサイトに同性の友達が居ないのはただ単に嫉妬されているから、だけだったりする。
「マチルダ姉さん…」
「……こればっかりはテファが決めな。……でもまぁ、サイトはどうしようも無い女たらしだけど決して悪いヤツじゃないよ。……それは私が保証するよ」
「おい、俺は別に女の子をたらしこんでなんか──」
そんなサイトからのツッコミはスルーして、サイトのいきなりの提案に不安そうな顔をして私の顔を見るテファに言う。……確かにサイトは悪いヤツじゃないから嘘は吐いていない。
「……でも友達ってどうやったらなれるの?」
「……そんなの簡単だ。〝サイト〟って、名前で呼んでくれ。……まぁこれは受け売りだけどな。後、ついでに敬語も無くていい」
「〝サイト〟…。うん、サイト! ……じゃあ、私の事はマチルダ姉さんや村の皆みたいにテファって呼んで」
テファは噛み締める様に、新しく──初めて友達になった少年の名前を、サイト名前を呼ぶ。サイトまいつの間にやら下げていた手をもう一度テファへと差し出す。
「友誼を結ぶ前にもう一度──いや俺からは自己紹介してなかったか。じゃあ、改めて自己紹介しとこうか。俺の名前はサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。テファのお姉さん──マチルダさんの…この場合は上司か。マチルダさんの上司をしている」
(よりもよって上司かい…。まぁ、確かに意味合いは近いけどね)
「宜しくね、サイト。……私の名前はティファニア。家名は無いけどハーフエルフです」
そうサイトの手を取ったテファの笑顔は、その金髪に負けず劣らずと輝いていた。
「……あれ? 上司って事は、サイトとマチルダ姉さんは付き合って無いの」
「「は?」」
テファの爆弾発言で私とサイトはほぼ同時に固まった。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 平賀 才人
「やぁサイト、息災だったかい?」
「ああ、そう云うウェールズこそ壮健だったか?」
テファと友誼を交わし──テファの誤解を解き、ウエストウッド村で数日ほど厄介になってそのままロンディニウムにあるハヴィランド宮殿へと登城した。……そのままウェールズへと顔を見せる。
……ちなみにウエストウッド村だが、テファ曰くちょくちょくと盗賊とかが出没するらしく、マチルダさんを含めた村の住人に害意を持つ生物──盗賊やオーク類が入れないような物理的結界ではない、概念的な結界を張っておいた。……更には専守専用の〝魔獣〟など置きたかったのだが…。……マチルダさんにそれを伝えたら、〝過保護過ぎ〟と言われた。
閑話休題。
「……もうこんな時間か。そろそろ時間もいい頃合いだし、雑談はここまでにしようか。……では明日からサイトには僕の補佐に付いて貰おうか」
「はっ、このサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガが確かに拝命致しました」
「ははは、明日から宜しく頼むよ」
いきなり態度を改めた俺に、ウェールズは苦笑するのだった。
SIDE END
後書き
明日もう一話投稿します。
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