普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
044 使える〝知識(モノ)〟は使いたい
SIDE ユーノ・ド・キリクリ
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
「今日はここまでです」
「……ふぅっ、ありがとうございました。……師匠」
乱れていた息──性的な意味合いでは無い。……乱れていた息を整えながら、師事をしている人物──ジャン・コルベールに礼を言う。……コルベール先生に弟子入りする際に紆余曲折──原作知識もとい、よくある〝テンプレ〟の応用は有ったが、ここでは割愛。
「ミス・キリクリの体捌きも大分よくなりました」
「……そうですか?」
基本的に僕はコルベール先生からは、暴漢対策&魔法が使えない条件下の仮想訓練の為に魔法無しで〝火竜〟なしの簡単な近接格闘術を習っている。……最初──1年前までは色々な意味で酷かったと今でも思い出せる。……なので、コルベール先生の言葉を貰って素直に嬉しくなる。
「……と云うより、私もミス・キリクリに教える事も少なくなって来ましたぞ。ミス・キリクリは最早単体で、在野の盗賊団よりかは強いはずです。……私の所感に過ぎませんが」
「……そう言っていただけるのなら幸いです」
(……そろそろ良いかな?)
……実を云うと、戦い方を習うだけなら誰でも良かったのだが、わざわざ戦い方を習うのに、コルベール先生に近付いたのは意味が有った。……どうしてもコルベール先生からある程度の信頼を得る必要が有った。
〝知識〟から、全く意味があるとは思えない〝聖戦〟の阻止に──〝四の四〟を揃わせない為に、どうしてもコルベール先生が20年前の〝ダングルテールの虐殺〟の時に、ロマリアからの逃亡者──現ロマリア教皇ヴィットーリオの母ヴィットーリアから手に入れたと云う、“炎のルビー”がどうしても要り用だ。
(ホントなら、〝こういうの〟はサイトの方──と云うより真人君の方が適任なんだけどね…)
ボクはどちらかと云うとなんでも──人付き合いですらも〝計算〟してしまう事が多分にあるため、不確定要素の多い──人とのコミュニケーション方面はあまり得意ではない。……だから、本来なら人の感情の機微に聡く、なおかつフォローの巧い真人君がやる方が良いのだろう。
「……そういえばコルベール先生」
「なんでしょうか? ミス・キリクリ」
「サイト──ミスタ・ヒラガが持っている剣についてなんですが…」
「ミスタ・ヒラガの持っているインテリジェンスソードがどうかしましたか?」
怪訝そうな顔でコルベール先生は反応する。
「先日、先生の言うミスタ・ヒラガが持っているインテリジェンスソード──デルフリンガーが興味深い事を言っていましてね」
「ほほう? 興味深い事をですかな?」
(よし、食い付いた)
……作戦第一段階は成功の模様を見せた。ジャン・コルベールは、このハルケギニアでエンジンを造り出すほどの科学肌。……〝興味深い〟と出されたら食い付いてしまいたくもなるのだろう。
「何分、デルフリンガーの話が眉唾物でして…。……曰く、〝自分は初代ガンダールヴの相棒〟だったと豪語していまして…」
「ガンダールヴ? ……ガンダールヴ、ですか…。何やら聞き覚えのある単語──」
コルベールは喉元に小骨が引っ掛かった様な顔で、しきりに〝ガンダールヴ〟と連呼しながら──近寄りがたい雰囲気を醸し出しながら頭を捻っている。
……〝この世界〟に於いてはルイズ曰く、平賀 才人とルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは“コントラクト・サーヴァント”を行っていない。……と云う事はサイトはガンダールヴになっていないと云う事だ。……更に言うと、連鎖的にガンダールヴのルーンのスケッチを録るはずだった、コルベール先生もガンダールヴのルーンを知らない事にもなる。……いくら頭を捻っても出てこなさそうなので種明かしをする事に。
「デルフリンガー曰く、ガンダールヴとは〝虚無〟を守る使い魔との事です」
「それですっ! ……確か…私の記憶が正しいのなら、【始祖ブリミルの使い魔達】と云う文献に載っているはずです。……ミス・キリクリのお陰で、喉元に引っ掛かっていた小骨が取れた様なすっきりとした気分になりました」
「……いえ、私から提起した話題ですからね」
喜色満面の笑みを浮かべるコルベール先生を見て思う。
(やっぱり、勿体無い…よね)
……と。コルベール先生は世が世なら、かの天才発明家トーマス・A・エジソンに比肩するほどの発明家になっていてもおかしくは無かった。……だがそこは悲しきかな、ここはハルケギニア──〝魔法〟が偏重されている世界。……それもボク達みたいな〝知識持ち(イレギュラー)〟でも無いのに、だ…。故にこそ、コルベール先生は〝勿体無い〟と思う。
「……で、確かそのデルフリンガーとやらが〝興味深い〟事を言っていたと…」
「はい」
別道にそれていた話をコルベール先生が整える。
「……デルフリンガー曰く、何やら〝虚無〟を覚醒させるには〝とあるルビー〟と、とあるマジック・アイテムが──」
「……〝虚無〟に関する〝とあるルビー〟ですか…。嗚呼、よもや20年近くも経って、こんな〝裏〟の息が全く掛かっていないところで〝その話〟を聞く事になりましょうか。……始祖ブリミルよ、〝これ〟も貴方の思し召しなのでしょうか」
「……コルベール先生?」
「いえ、その〝とあるルビー〟とやらに聞き覚え──見覚えが有っただけです」
コルベールは今にも泣きそうな顔で言う。……それはさながら神に救いを求める、迷える子羊の様にも思える。
「そのお話を伺っても?」
「……あまり気持ちの良い話でもありません。止めておいた方が賢明でしょう」
「……アングル地方──またの名をダングルテール」
「っ!? ……ミス・キリクリ、どこでその言葉を…?」
びゅうっ、と一陣の風がボクとコルベール先生との間を通り抜ける。ボクの核心を付けるだろうワードにコルベールは一瞬だけ驚いた様な表情した後、それを一転させ普段のコルベール先生では考えられないほどの剣呑な表情──今にも杖を抜きかねない雰囲気を醸し出しながら訊いてくる。
(あちゃー、ミスったか)
地雷を踏んだ──それも盛大に。……なんとなく、〝こう〟なる事の予測は出来ていたが、よもや〝ここまで〟とは思わなかった。……どうやら、コルベール先生の中に、〝ダングルテールの虐殺〟の事は禍根として残っているらしい。
……ここまで怪しまれてしまったのならば、いっそのこと〝知識〟を元にした推論で──その推論をところどころに、おかしくならない様に虚実を混ぜた話の内容で、どうにかコルベール先生に納得してもらうしかない。
(……でもまぁ、切れる札がまだ有って助かったかな)
「順序立てて説明していきましょうか。……まずは私がダングルテール──〝あの〟忌まわしい虐殺のことを知っている理由からですね」
「………」
コルベール先生は鷹揚に頷く。それを確認してボクは話を続ける。
「コルベール先生は考えた事はありませんか? ……〝生き残り〟が居ると云う可能性を」
「っ!? ……まさか、〝あの少女〟以外にも…」
……恐らくコルベール先生が言っているのは、〝あの少女〟──経年的に〝あの女性〟の事だろう。
「コルベール先生の言う〝あの少女〟とやらは判りかねますが、自身を〝ダングルテールの虐殺の生き残り〟と云っている人物は〝識って〟います。真偽のほどは判りませんが…」
「……そう、でしたか…、それで…」
(ミスリード完了…っと)
一人で勝手に納得しているコルベール先生を尻目に、ボクは内心安堵する。……ちなみに、コルベール先生の云う〝その〟少女の事は〝識って〟いると言っただけで〝知り合い〟とは言っていないのがミソだったりする。
「私が〝ダングルテール〟の事を知っている理由は以上です」
「そうですか…。得心出来ました……そこまで〝あの件〟について知っているのなら話してしまってもいいでしょう──私が誰かに話して赦されたいと云うのもあるのでしょうが…」
そうしてコルベール先生は〝ダングルテールの虐殺〟の事を静静と語った。……いくら〝知識〟として〝識って〟いるとは云え、実行者──本人から子細に詳しく聞くと、何だか居たたまれないと云う感情が沸々と湧いてくる。
「……以上が私の犯した過ちです。……そういえば、気になった事が2つだけあります。〝ダングルテールの虐殺〟の件を知っていながら、ミス・キリクリはどうして私に師事するようなマネを? どうしてもそこが腑に落ちません」
(やっぱり腑に落ちないか…)
〝普通〟に考えるなら、理由有りきとは云え、大量殺人犯に近付こうとは思わないはずだ。……でもボクは知っていながら近付いた。コルベール先生の疑問はおかしくはない──むしろ正常だ。……馬鹿正直に、〝“炎のルビー”が欲しかったから〟──と言えたらどれだけ楽だっただろうか。
「……実はと云うと、コルベール先生が〝その本人〟である確証は有りませんでした」
……これは嘘で、半ば確信していてカマを掛けた。
「では、なぜ──」
「コルベール先生、このハルケギニアには知らなかった方が良かったこともいくつかは存在するんですよ」
そうコルベール先生を封殺しながら、今回は“炎のルビー”を回収する事を諦めた。……やはり〝こういう〟のはサイトの方が適任だったらしい。
SIDE END
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