普通だった少年の憑依&転移転生物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ゼロ魔編
043 鼎談(談笑)
SIDE 平賀 才人
夏期休講──平たく言ってしまえば夏休み。……ガリア、ゲルマニア…ひいては他の学院に有るかは判らないが、ハルケギニアにあるトリテイン魔法学院には夏休みが有った。期間はニューイの月、アンスールの月を挟んでニイドの月に再び学院が始まる。
……これは所感だが、なんとなく日本の夏休みに似ていると感じたのは内緒であり、ついでに蛇足でもある。
閑話休題。
時は〝あちらも〟恐らく夕食どき。学院生や学院に勤めているメイド達は各々に今夏の過ごし方を語り合いながら、夕食をとっている〝だろう〟。……〝だろう〟と云う意味は、ただ単に俺がアルヴィーズ食堂で摂っていないからだ。……かと言って、いつもの様に厨房でメイド達やユーノと会食しているわけでも無い。
ならどこで食事を摂っているのかと云うと──
「サイトさん、味のお加減の方はいかがですか?」
「とても美味しいですよ〝姫様〟。このスープの肉なんかは、あまりの柔らかさに、まるで頬を落としてしまったのかと思いました。……まぁ、俺の語彙ではこれくらいの──月並みな事しか言えませんが…。いやはや、自分の語彙の貧相さに嫌気が差しますね。ははは…」
「いえいえ、ウェールズの恩人たるサイトさんにその様な美辞を仰って頂けるのなら、うち──城抱えのコックもさぞや鼻が高い事でしょう。……ああ、ちなみにこの角羊のスープは私の好物でして、サイトさんに気に入っていただくたのなら幸いですわ」
……ならどこで食事を摂っているのかと云うと、トリスタニアの王城で夕食を摂っていた。こんなところでアンリエッタ姫相手に談笑しながら摂っている理由は、アンリエッタ姫にオールド・オスマンを通して〝お呼ばれ〟されたからに過ぎない。
ちなみに、この場にはルイズは居なくて、王族が食事を摂るには些か小さめなテーブルを囲んでいるのは俺、アンリエッタ姫、マザリーニ枢機卿の3人だけである。……とは云っても、マザリーニ枢機卿はアンリエッタ姫の控えているだけだが…。
閑話休題。
王城に──それも王族直々に〝お呼ばれ〟された俺はあれよあれよの内に、なんだかんだで夕食に招待されてしまった。……相手が相手で、断ろうにも断れない──断る理由も無かったので承諾。
……そして今に至り、朗らかな雰囲気で行われていた食事も終了してティータイムとなった。恐らくはだが、アンリエッタ姫の狙い目は〝これ〟で──アンリエッタ姫が俺を呼んだ理由は俺に話したい事が有ったのだろう。……その予想は当たっていた様でアンリエッタ姫は紅茶が注がれている高級感溢れるティーカップに3度ほど口を付けると、やや神妙な面持ちでその口を開いた。
「……一先ずお礼をと思いまして、貴方をお呼びいたしました。呼びつける様な事となってしまって申し訳ありません。……本来なら私が直々に学院に行ってサイトさんにトリステイン王国を代表してお礼を申さなければなりませんのに。……しかもこんなに遅れてしまって…」
(成る程成る程…)
どうやらアンリエッタ姫はレコン・キスタの件──ひいてはウェールズの件についての事で、今の今まで礼が言えて無かった事に気を咎めたのだろう。……それに、もう1つ理由があるとするならば──
「いえ、王族がなんの理由も無しに一学院に何度も足を運んでいたら、それこそ〝コト〟となるでしょう。……なので、姫様がそこまで気を咎める必要も無いかと」
「いえいえ、そう言っていただけるお気遣いは大変嬉しいのですが、それでは私の気が済みませんわ。……トリステイン王国が王女、アンリエッタ・ド・トリステイン──いえ、ただのアンリエッタとしても礼を言わせて下さい。……誠に有難う御座いました」
「私からも礼を言わせていただきたい。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。……貴殿のお陰でゲルマニアとの、こちら(トリステイン)が不利な──トリステインにとって〝旨味〟が少ない条件下の条約を結ばずに済んだ」
アンリエッタ姫は席から徐に立ち上がり、俺に頭を下げて来た。……マザリーニ枢機卿と共に。
「……確かにお二方の礼は頂戴いたしました。なので、頭をお上げください」
(〝慣れ〟って怖いな…。……色々な意味で)
国のトップから頭を下げられら礼を言われる──それは大変名誉な事なのに、それに慣れてきている自分が居る。……ただいくら慣れたとは云え、どうにか二人に頭を上げてもらわなければ、そろそろ居たたまれなくなってくるのも確か。
「……では、サイトさんを呼んだ〝本来の〟理由に移りますね」
(……来たか)
礼を言うだけなら、ギーシュ達──あの時アルビオンに行った全員が必要なはずだ。……なのにアンリエッタ姫は俺だけをわざわざトリスタニアにある王城まで呼んだ。……その事から皆には言えない内容だと云う事が窺える。
(だとすれば──)
「ウェールズから聞きました。サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ。貴方が〝虚無〟であると」
(ビンゴ…か)
「更にはアンリエッタ姫殿下のご親友たるヴァリエール家のルイズ嬢が学院を卒業して、貴殿がフリーになった暁には──」
続けるマザリーニ枢機卿。しかし、聞き逃せない──気になる言葉を宣った。堪らずツッコミを入れる。
「いやいや、ちょっと待ってくださいマザリーニ枢機卿。フリーになるもなにも、俺はルイズの使い魔ですよ?」
「いや、詳しい話は──貴殿がルイズ嬢と“コントラクト・サーヴァント”を行っていない事はオールド・オスマンから聞いていますぞ。失礼ながら軽く貴殿の推移をオールド・オスマン氏から改めさせてもらいました」
「は、はぁ…」
成る程、と納得。……するとそこで、マザリーニ枢機卿が言おうとしたであろう言葉をアンリエッタ姫が引き継ぐ。
「……マザリーニ枢機卿、そこからは私が…。話を戻しますが、サイトさんはルイズが学院を卒業した後、アルビオンに行くとか…」
「……ええ、確かにそうなっていますね。恐らくそうなれば、ルイズも連れて行く事にもなるでしょうが。……まぁ、予定は未定ですけどね」
そう、アルビオンのジェームズ陛下にこんな事を言われた。
―ジェームズ・テューダーの名に於いて命ずる。我が倅ウェールズ・テューダーが王位を継いだその瞬間からそなたを公爵の爵位を叙任する―
そう言われた。……俺は愚鈍でも無いつもりだし、ジェームズ陛下の言いたい事も大体は察せる。爵位を与えてでも俺を──〝虚無〟を手元に、陛下自身の隠し子として──ウェールズの異母兄弟としてまで置いておきたいのだろう。
ちなみにその、時驚きのあまりに顎が外れそうになったのも今では良い思い出か。
閑話休題。
話は戻って俺の〝虚無〟の話。
「……ところで、俺の〝虚無〟がどうかしましたか?」
「……単刀直入に聞こう。貴殿はアルビオンではなくトリステインに付く気は? ……貴殿が望むのなら爵位の1つ2つは用意出来るが…」
俺の問いに答えたのはアンリエッタ姫ではなくマザリーニ枢機卿。……それも、判りやすい──露骨な〝エサ〟までオマケとばかりについている。
「……〝高貴なる者に伴う義務〟──ないしはノブレスオブリージュをこの国の貴族の何人が遵守しているんでしょうね?」
「……むぅ、それではアルビオンに付くと取っても?」
〝腐敗の多いトリステインよりアルビオン方が取り敢えずはマシ〟。と俺の言外の拒否にマザリーニ枢機卿は難しい顔で呟く。俺はそれを首肯で返す。……正直──と云うより、本来は数ヶ月前にマチルダさんをスカウトした時は、ルイズが学院を卒業したらゲルマニアで小さめな領地を買って、ティファニアをそのゲルマニアの領地に──孤児ごと呼んで、皆で細々とやっていくつもりだった。
……なぜかその過程で戦争に巻き込まれたり、〝貴族〟になったり、アルビオンで公爵に叙任される事になったが…。……そこらへんは俺もジェームズ陛下の考えは量り切れなかったという事だ。
閑話休題。
「……ゲルマニアやガリアより、ある程度の頭同士の親交が有るアルビオンでまだマシだったと云うべきか…。……取り敢えずは貴殿の気持ちは判った」
その後は普通に──小難しい話も無く、2、3何気無い話をネタに談笑して学院へと戻った。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE OTHER
「……まさか、マジック・アイテム越しの視線にまで気付くとは…」
ゆらゆらと規則正しくロウソクの灯が仄かに照らすだけの、牢屋ほどの広さのとある部屋。妙齢の女性が忌々しいものを見付けた様に──苦虫を数十匹単位で噛み潰した様な顔で呟く。
その女性は綺麗に纏められた書物を見遣る。
「〝ヤツ〟の主──ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。……こいつは色々と〝使えそう〟ね…。ウフ、ウフフ、ウフフフフフ」
[サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ報告書]と書かれた書物を食い入る様に見ていた妙齢の女性は、面白いものを見付けたと云わんばかりに頬を歪ませ、いつの間にか浮き出ていた〝額の〟ルーンを輝きだす。
彼女は笑う。狂ったように嗤う。平賀 才人──もとい、サイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガの主である、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。……彼女に手を出す──〝それ〟がどういう事になるのかを真に理解せずに笑い、嗤う。
SIDE END
ページ上へ戻る