バニーガール
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第八章
第八章
「真理奈のいいところだと思うわ」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「それにね」
和歌子はさらに言ってきた。
「ずっと不安が続いていたでしょ」
今度言ってきたのはそれであった。
「この一週間」
「それも顔に出ていたのね」
「そうよ」
それもはっきり言われる真理奈であった。彼女は和歌子より服を着るのが少し遅い感じでやっと網タイツを着け終えたところであった。
「今まで黙っていけれど」
「黙っているなんて酷いわ」
そう述べて少しむくれてみせた。
「今まででも」
「あえて言わなかったのよ」
それが和歌子の返事であった。
「そうだったの」
「だって。今日じゃないと駄目じゃない」
和歌子はまた言う。
「今日ハッピーエンドになるのに」
「和歌子は全然安心しているのね」
真理奈もそれはわかった。和歌子が高谷君とのことにかなり安心していることに。
「だから。女の子が好きな人の為に必死にやるってことはそれだけで絶対に正しいのよ」
「それ前から言っているわよね」
真理奈はそれに突っ込みを入れる。
「けれど。そうなの」
「そうよ」
またにこりと笑って言う真理奈であった。
「正しいことは実るわ。安心してね」
「じゃあ。安心していいのね」
「私が言っているから大丈夫よ」
これはいささか根拠のない話に思えたが真理奈はどうにも突っ込むことができなかった。
「わかったわね」
「わからないと駄目なのね」
「そういうこと」
結局のところはそういうことであった。
「まあそれもケースバイケースだけれど」
「その正しいってことね」
やっと制服を着終えた真理奈は問うた。既に和歌子は飾りも全部着け終えてしまっていた。やはり着るのがかなり早かった。
「浮気は駄目よ」
「そうよね、やっぱり」
これは真理奈も同意であった。しかも完全に。
「一人の人を好きになったらとことんまでよね」
「そうじゃないと値打ちがないのよ」
和歌子はこうまで言う。
「だから。いいわね」
「高谷君も最後までね」
「それは絶対に貫くこと。いいわね」
和歌子の言葉が厳しくなった。見ればその目も。
「それさえ守れば正しいのよ」
「ええ。じゃあ今日も」
「頑張りなさい」
和歌子の声が優しくなった。
「いつもよりもね」
「いつもよりなのね」
「それはお店に出ればわかるから」
頭の耳から首や腕の飾りに移っている真理奈に対して告げた。
「その理由が」
「それも信じるのね」
「今だけでもいいから」
和歌子は不意に言ってきた。
「信じてもらえればいいわ。私の言葉」
「いつもじゃないわ」
今度は真理奈の言葉の調子が変わってきた。強くなってきたのだ。
「いつもじゃないって?」
「そうよ。だって」
そうしてその強い言葉で言うのである。
「それは今までってことよね」
「そうなるわね」
真理奈のその言葉に頷いた。
「それじゃあ嫌よ。これからも」
それが真理奈の和歌子への願いであった。
「これからも御願い。それじゃあ駄目かしら」
「いいわ」
真理奈のその言葉ににこりと笑う和歌子であった。
「真理奈がそう言うのならね」
「悪いわね。何か図々しいけれど」
「いいのよ」
しかしそれを受け入れる和歌子であった。
「それはね。気にしないで」
「有り難う」
そしてそれにまた礼を言う真理奈であった。
「それじゃあいつもよりも」
「ええ、頑張ってね」
また真理奈に声をかけた。
「ハッピーエンドの為に」
「お店に出ればハッピーエンドが待っている」
「そうよ」
そこを強調してみせる。
「だから。すぐに出て」
「わかったわ。それじゃあ」
「ええ」
着替えながらのやり取りを終えて店を出る。するとすぐに支配人から声がかかってきた。
「あの、真理奈ちゃん」
「はい」
「お呼びがかかってるよ」
支配人は穏やかな声で真理奈に言ってきた。
「わかりました。それでどちらの」
「三番の方だよ」
そう真理奈に言う。
「コーヒーね。すぐ持って行って」
「はい、それじゃあ」
「けれど。真理奈ちゃんって人気あるんだね」
支配人はそのことを喜んでいるようであった。
「何よりだね、うん」
「人気がですか」
「人気があるのに越したことはないよ」
実に的を得た支配人の言葉であった。
「バニーガールじゃなくてもね」
「そうなんですか」
「そうに決まってるじゃない」
支配人の笑顔が明るくなる。こうして見ると一見好色そうなのにそれが好人物に見えるから不思議であった。真理奈もその顔を今見ていた。
「人気がないとね。人として寂しいよ」
「ですか」
「特にね。一人の人から人気がある」
支配人の声が少し真面目になった。
「それが一番大事かな」
「つまりそれってあれですよね」
この話は真理奈にもわかった。
「好かれているってことよね」
「愛だよ」
また支配人には少し似合わない言葉であった。
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