バニーガール
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第七章
第七章
「とりあえずは。お店で働いていくわね」
「お店の人も気にしていないからね」
「そうかしら」
それにはかなり疑問符がつくことを否定できなかった。
「そうは思えないけれど」
「あの程度のトラブルは日常茶飯事だから」
和歌子はしれっとして言ってきた。
「全然平気よ。だから気にしなくていいのよ」
「日常茶飯事なの」
「冗談抜きで変なお客さんだっているしね」
これはある程度真理奈もわかった。あんな格好をしていれば当然おかしな客もやって来るだろ。それは容易に想像のつくことであった。というよりかは彼女も最初それをかなり警戒していた。だからこれはすぐにわかるのであった。
「だから平気なのよ」
「そうよね、やっぱり」
「一週間、とにかく真理奈は考えなくていいから」
また極端に楽天的と思えることを言ってきた。
「わかったわね。考えるのは猫の遊園地のことだけでいいわよ」
「ねずみのね」
「そう、それだけ」
安心させるように告げる。
「わかったら。さあ」
「ええ」
親友の言葉にこくりと頷く真理奈であった。
「わかったわ。それじゃあ」
「恋にもお金がいるのよ」
和歌子らしい言葉であった。
「わかったら気合入れて稼いでね」
「わかったわ。けれど和歌子」
「何かしら」
「恋にもお金がいるのね」
彼女が今度聞くのはそこであった。
「やっぱり」
「当たり前じゃない」
和歌子の返事は何を今更、といった感じであった。
「地獄の沙汰も金次第って言うじゃない」
「地獄のって」
「恋も同じよ。進むも退くもね」
「どちらでもなのね」
「お金は絶対に必要なものよ」
それをまた言ってみせてきた。
「何事においてもね。恋もまた然り」
「愛だけじゃ駄目なのね」
「愛がないと恋でも何でもないわ」
それはわかっている和歌子であった。しかしそれだけでどうとなるわけでもないというのだ。かなりシビアで現実的な意見であった。
「それでもお金がないと動かないものでもあるのよ」
「そうした意味なの」
「そういうこと。わかったらまずは稼ぐのよ」
ここまで話したうえで話が元に戻った。
「いいわね」
「わかったわ。じゃあ高谷君の為に」
「頑張りなさい」
そう言ってすっと微笑んでみせてきた。
「一週間後のハッピーエンドとそれからの新たなストーリーの為にね」
「そうね。頑張るわ」
真理奈も心の中にあった不安を消して答えた。
「高谷君とデートするんだから」
こう言って六日の間まずは必死に頑張った。お金はそれだけの分が貯まった。そうして運命の一週間後。真理奈はまずはお店にやって来たのであった。
「今日よね」
「そうよ」
二人はロッカールームで私服からバニーの服に着替えていた。その中で話をしているのだ。
「いよいよってやつね」
「そうよね。けれど」
真理奈はその高校生らしいミニスカートと淡いピンクのブラウスを脱いで下着姿になる。見れば淡い青の可愛らしい下着だ。それに対して和歌子は紫のかなり派手なものである。
「大丈夫かしら」
ここできて不安が心の中を支配する真理奈であった。
「本当に」
「だから大丈夫よ」
和歌子は真理奈にこう告げながらその紫の下着を脱いでいく。白く整った身体が姿を現わす。
「もうあちらには言ってあるし」
「高谷君に?」
「他に誰がいるのよ」
逆にこう聞き返してきた。
「いないわよね、他には」
「まあそうだけれど」
和歌子のその言葉に頷く真理奈であった。彼女もその淡い青の下着を脱いでいく。胸は彼女の方がかなり大きい。実はお店でもそれが評判になっている。
「それでも」
「大船に乗った気持ちでいなさい」
そんな真理奈に対して言ってきた。
「安心していいから」
「いいのね」
「私は嘘は言わないわ」
その言葉には威勢のよさまで加わっていた。
「絶対にね。だから本当に安心していいから」
「じゃあそうさせてもらうけれど」
「それでよ」
和歌子はまた言うのだった。
「猫の遊園地の予約の方はどうなったのかしら」
「一応は上手くいったわ」
バニーガールの服専用のサポーターを身に着けながら答える。かなりカットが深いので専用のものでなければ駄目なのである。
「そう、よかったじゃない」
「ちゃんと二人用にしたから」
こうまで和歌子に答える。
「だからそれはまずはほっとしているけれど」
「そのほっと具合は半々ってところかしら」
和歌子はそう分析してみせてきた。彼女はもうサポーターの上から網タイツを着けていた。そこからさらにバニーの服を着ていくのである。
「安心と不安の割合が」
「よくわかったわね」
「大体予想はつくわよ」
こう真理奈に答えてみせた。
「その顔を見ればね。真理奈ってすぐに表情に出るから」
「そうだったの」
「ええ。だからわかりやすいのよ」
くすりと笑って述べてきたのであった。
「色々とね」
「じゃあ今までも」
「そうよ。すぐにわかったわ」
穏やかな笑みで真理奈に言ってきたのであった。
「色々とね」
「色々となの」
「そうよ、自分では気付かなかったみたいね」
「実はそうよ」
自分でもそれを認める真理奈であった。
「そうだったの」
「素直ってことね」
しかし和歌子はそれをよしとしてきた。
「それって」
「そう考えてくれるのね」
「私はね」
もうバニーの服を着ている和歌子であった。そうして腕の小さい袖を着けていた。首や頭の飾りと共にバニーガールの衣装には欠かせないものである。
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