パンデミック
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第六十六話「狂気を超えて」
前書き
パソコンを手に入れました。
ので、今後はスマホからパソコンで投稿したいと思います!
そして、投稿遅れて本当に申し訳ないです。
適合者と言えども、許容できる痛みと許容しきれない痛みがある。
脚を無理矢理引きちぎられる痛みは、強靭な肉体と精神を持つブランクでも許容できなかった。
「っっっああぁぁあぁあぁあああぁ!!!」
「ギィィッハハハハ! イーッヒッヒッハハハハハァ!!!」
痛みで叫ぶブランクを、狂喜しながら掴み上げるレオ。
「オ返シダァァクソ野郎ォ!!!」
そう吐き捨てると、レオは渾身の力でブランクを投げ飛ばす。
風を切る音が聞こえた。
ブランクが血飛沫を飛ばしながら宙を舞う。
ブランクには、投げ飛ばされてから空中にいるまでがスローモーションに見えた。
しかし、その感覚も唐突に消える。
ドゴォォォン!!!!
「ぐがあッッ!?」
とてつもない速度で地面に背中を叩きつけられた。
その瞬間、ミシミシ、ベキベキ、という嫌な音がブランクの体内に鳴り響く。
それでも投げ飛ばされた勢いは止まらない。
背中を叩きつけられた直後に、何度も何度も地面をバウンドした。
その度に骨がへし折れ、外れ、歪み、砕けた。
「がはぁっ………げふっ……ごぼぁ……ッ」
想像を絶する痛みに、肺が苦しくなり咳き込む。
咳とともに、大量の血が吐き出される。
視界が何度も暗転しかける。
しかし、意識を失うわけにはいかない。
失った時点で自身の死は避けれなくなる。
「ハッ……ハッ…げふっ……」
なんとか立ち上がろうと必死に身体をうつ伏せにする。
歯を食いしばりながら、片膝をついた状態になるが、片脚が無いためバランスがうまく取れない。
「死イィイイイィィネエェエェェェェェ!!!!!」
怪物がブランク目掛けて拳を降り下ろす。
ここで………終わり?
あぁ……………前にもあったな…………
自分の死を目前にしたのは……………
フィリップに………いや、スコーピオに心臓を刺し貫かれた時に…………
……………………その時か。
俺が正気を失ったのは………
………目の前ノコイツヲ殺すコトができレバ…………
………俺ニ、その力がアれバ…………
「ナッ……貴様ァァアァァ!!!」
レオの拳はブランクを潰すことなく止まった。
止められた、と言った方が正しい。
レオの拳は、ブランクの腕一本であっさり止められた。
相当な力が込められているのか、硬化した拳がミシミシと軋む音が鳴る。
俯いているため、ブランクの表情は見えない。
だが、レオには覚えがあった。
今のブランクが纏う空気に。
「ハッハハハハハハッ…………会イタカッタゼェ……今ノテメェニ………」
ブランクがゆっくりと顔を上げる。
「…………………………アァ?」
レオは怪訝な表情を浮かべる。
理由はブランクの表情だった。
以前戦った時とは少し様子が違っていた。
顔の“半分”だけがあの時のようだった。
右目だけが赤黒い爬虫類のような目に変わっており、口元の右端だけが歪んだ笑みを浮かべている。
「俺は…………お前ヲ殺ス……だが、人間性を捨てない………絶対ニ……」
気を抜けばすぐに“コープス”の側に意識が傾きそうだった。
必死に自我を保ちながら、レオの拳を受け止めている。
「舐メテンノカアァァクソ野郎ォォォオオォオォォオオォ!!!!」
止められた拳に更に力を込める。
「ぐっ…………ッ!!」
ブランクの足元がひび割れ、陥没する。
おまけに片脚が無いため、踏ん張ることも出来ない。
「がぁぁぁ!!!」
一瞬、ブランクの両目が赤黒い爬虫類のような目に変わる。
それに気づいた時にはもう遅かった。
レオの巨体があっさりブランクの方に引っ張られる。
「グゥッ!?」
引っ張られたと思ったのも束の間。勢いを殺さずそのままぶん投げられた。
「ウォアアァッ!!??」
硬化の力で肥大化した250cmの巨体が、容易く宙を舞った。
「はぁ…………言うコト聞けヨ……? 人間捨てルわけにはいかナいんダ……」
ブランクがそう呟くと、赤黒かった目が片目だけ人間のものに戻った。
「殺ス………殺スコロスコロス殺スコロス殺ス!!! 殺シテヤルウゥゥァァアァアァァ!!!!」
怒り狂ったレオは、何度も何度も地面に拳を叩き付け、ギチギチと鈍い音の歯軋りをする。
「………」
ブランクの視線の先にあるのは、黒色の鎧を纏った狂気の怪物……ではなく
その怪物に奪われた片脚。
「………はぁ……」
不意にブランクが深いため息を吐いた。
そしてゆっくり顔を上げ、荒げていた呼吸を整える。
「……今だケでもいイ。力を寄越セ」
その言葉と同時に、ブランクの身体に変化が訪れた。
引き千切られた脚の断面から、どす黒い液体がドロリと溢れ出してきた。
液体は段々と形になっていく。失ったはずの脚の形に。
さらに、体内からグチャグチャと歪な音が鳴り響く。音が鳴る度にブランクの身体が揺れる。
複雑に折れた骨。衝撃でズタズタになった内臓。限界を超え破壊された筋肉。
それらがコープスウイルスの力で瞬く間に修復されていく。
「………ハ、ハ、ハ、ハ………」
両目が赤黒い爬虫類のような目に変わる。しかし、それは束の間だった。
歪んだ笑みは一瞬で消え、目の前の化け物を狩ろうとする一人の兵士の表情になる。
「……来い」
「……オ望ミ通リ…ブッ殺シテヤルゥゥゥアアァアァアァァァァァアァァァ!!!!!」
両社が同時に駈け出した。
レオは怒りに任せ、渾身の力でブランクに拳を放つ。
ブランクはその拳を紙一重に回避し……レオの懐に潜り込む。
ブランクが狙うのは、首。
怪物の首に左腕を強引にねじ込み、背骨を掴む。
「死ぬのはお前だ、怪物」
それが、レオの耳に届いた最期の言葉だった。
ブランクは残る右腕で硬化した首の皮膚を掴み、左腕を引っ張り出す。
怪物の首が、醜い音を立てて引き千切れ、胴体から離れた。
「グゲッ……オォォ…」
レオという一人の怪物の生涯は、あっけなくその幕を下ろした。
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