霹靂の錬金術師
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RUSH VALLEY
やって来ました、ラッシュバレーです。
ここは名の通り二つの岩山に挟まれたその間にある。もともとは炭鉱だった場所がイシュヴァールの内乱の際に義肢技術を発展させ急速に大きくなった街だ。豊富にある鉄と技術と需要。急速に発展するのは必然と言えた。それ故に『にわか景気の谷』。
そしてイシュヴァールに本当に間接的にしろ関わっている街。私とはある意味縁が関係が深いと言えるだろう。まぁだから来たのだけれど。
「ふぅ」
一つため息をつき、RUSHVALLEYと書かれた大きな鳥居のような門をくぐった。
ちょいと目を配れば、機械鎧を着けた人がたくさん居る。それも目につけたり武器型であったりとバリエーション豊かだった。
そして所狭しと雑多な感じで並ぶ店からは威勢のいい客引き紛いの誘拐が行われている。かわいそうに、また一人犠牲者が。
他には店先に置いたテーブルの上で昼間から何やら機械をいじっているおじさん達。ワイワイガヤガヤと議論を戦わせている。
まさに聖地。その名に恥じない所だった。
まずは宿屋を探さなくちゃね。重いトランクを持ったままフラフラと観光はしたくない。とりあえず適当な人に宿屋を尋ねてみよう。
誰かいるかな」
ここにいる人はほとんどが胡散臭そうな人ばかりだ。仮に絡まれたとしても一応国家錬金術師として多少の訓練は積んでいるので困りはしない。けどあまり騒ぎになるのは好きではない。
そんなことを考えながら重いトランクを引きずりながら歩いているとガーフィールと言う店の前で従業員と思われる女の子を見つけた。
キラキラと光る長い金髪が綺麗な活発そうな少女だ。それがかえってこの場で浮いていた。年頃はエドワード君達と同じくらいか。あの子なら面倒なことはなさそうだ。
「あの、すみません」
「あ、はーい。注文ですか?」
「いえ、このあたりで宿を探しているのですが。何分初めて来たのでわからなくて」
「ここら辺で宿ですか?ん〜」
彼女は難しい顔をしたまま考え込んでしまう。もしかしたら彼女はここに出稼ぎに来た人であまり土地勘はないのかもしれない。これは悪いことをしたのかな。
なんて考えていると店の奥からアームストロング少佐には及ばないものの筋肉のすごい方が来た。
どこかオカマっぽいと思ってしまったのは私の偏見かしら。
「あら?ウィンリィちゃんどうしたの?」
偏見じゃなかったみたい。この人やっぱりオカマだ。
「お友達?ずいぶん可愛らしいわねぇ〜」
「違いますよ、ガーフィールさん。この街に来たのが初めてで宿を探してるそうです」
「あら!こんな若くて可愛い子が一人旅?ダメよ〜男はみんな狼なんだからん!食べられちゃうわよ!」
「は、はぁ」
何か凄く圧倒される人だ。その後も男の危険性を捲し立てるガーフィールさん。私はウィンリィさんに助けを求めようと目を向けるがウィンリィさんは諦めて、と言う顔をした。そのうちガーフィールさんはそうだ!と手を打った。何だろう?
「ならウチに泊まりなさいよ〜」
「えっ?」
「た、だ、し条件。働いてもらうわよ?」
どうしよう。魅力的な提案ではあるのだが初対面の人、というのが警戒心を湧かせる。でも悪そうな人には見えない。けれどそれが悪い人の特徴とも言える。
本当にどうしよう。私あんまり査定を真面目にやらないせいで研究費をかなり削られているのだ。ブラッドレイ大総統は活躍、なんて言っていたが、それはその場にエドワード君が居たからだろう。きっと一人だったら査定があんなに早く済んだ筈がない。つまり削れる経費は削りたい。
そうだ、身分を明かそう。国家錬金術師と分かれば悪い人だったら手を引くだろう。
そう思い私はトランクを下に置きロングスカートのポケットから六芒星の銀時計を取り出す。
「あの、私こういう者です」
「あらま!貴女、国家資格持ってたの〜?人は見かけによらないわね〜」
「え?国家錬金術師の……」
おや?ウィンリィさんこれを見て一発で国家錬金術師と分かるなんて。六芒星の印から国家資格の何かである事は簡単にわかる。けれどこれが国家錬金術師の物とわかる人は案外少ない。さすがに中央の辺りは殆どの人が分かるのだが、出てしまうとぐんと減る。
「よくご存知でしたね」
「え?あ、あぁ!知り合いが国家錬金術師でして」
「そうなんですか。ちなみにお名前は?」
「エドワード・エルリックって言います」
「え!エドワード君のお知り合いの方ですか」
聞けばウィンリィさんはエルリック兄弟の幼馴染みだそうだ。そしてエドワード君の機械鎧は彼女の手によるものらしい。今はエドワード君にもっといい機械鎧を着けて上げるために修業中なんだとか。こんな可愛い子がいるなんてエドワード君もなかなか隅に置けませんね。
エドワード君の幼馴染みと分かったので失礼な警戒心はさっと消し去り、ガーフィールさんの所に泊まることに決めた。
「では、よろしくお願いします」
ガーフィールさんにお辞儀をする。
「いいのよん。ささ、中に入って。こんな重いトランク持っちゃって。大変だったでしょ?部屋に案内しちゃうからね。ウィンリィちゃん、少しお店お願いね」
ガーフィールさんは止める間もなく私のトランクを軽々と持って行ってしまった。慌てて跡を追う。
こうして私はガーフィールさんにお世話になることになった。
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