魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Myth18風は吹き荒び、焔は燃え上がり~Flamme VS sturM~
前書き
ファルコ&フュンフ戦イメージBGM
魔法使いの夜「決闘 / one-on-one」
http://youtu.be/7onVW8hsnPg
†††Sideオーディン†††
ドカンといきなり強大な魔力反応が現れた事で、私の固有魔術における水流系最強の儀式魔術、エーギルを中断してしまった。その直後に海面の至るところが爆ぜ、その地点より海水で出来た巨大な槍が私たちの居る空に向け突き上がって来た。
ギリギリだったが回避に成功。周囲を見回し、シグナム達も回避できていた事を確認。だがプリュンダラー・オルデンの獣たちは、まさか味方(だろうな間違いなく)の攻撃がここまでの事だと思っていなかったのか直撃を受け、海水の槍に穿たれバラバラに粉砕された。
(この感じ・・・魔導・・・? いや、違う・・・まさか・・・!)
今の海水の槍に使われた魔力に、この時代では考えられない“力”が使われているのが判った。その“力”を扱えるのは、この世界、この時代においては私と“堕天使エグリゴリ”、そしてイリュリアが造った“エグリゴリ・レプリカ”のミュール(ゼフォンはまだ弱い)だけだ。
(だが、足元に広がっている海の中から感じ取れる魔力からして、誰も該当していない。では誰が? では何が?)
今の一撃を放った奴を見極めようと眼下を見下ろす。その時、また大きな水柱が立った。身構える。だが攻撃ではなかった。噴き上がった海水が落ち、その術者の正体が私たちの前に現れた。人間の女性の上半身(胸だけは申し訳程度に鱗で隠れている)。竜の尾の下半身。背には天使と悪魔の翼がそれぞれ2枚ずつの計4枚。
「・・・・アンナ・・・!?」
目を疑った。こうして実際に視界に収めているにも関わらず、信じられない。むしろ信じたくない。なにせアンナが変わり果てた姿で私たちの前に現れたのだから。それだけじゃない。もう1つ信じられない事実が、この場で私だけが知るその事実が、私の頭を混乱させている。
しかし、どこかで判っていたのかもしれない。ただの人間の娘であるアンナが時折放つ威圧感。ただの人間の威圧感に気圧されるような私じゃない。それなのに、アンナの威圧感には参っていた。ずっと何故か、と考えていた。その答えが今、こうして私の目の前に現れていた。
「アンナ・・・。そうか、君は・・・!」
『オーディン! アンナが・・・アンナが改造されちまった!』
『何という事だ・・・!』
『改造して、しかも私たちの迎撃をさせるなんて・・・許せない・・!』
『我が主。いかがなさいますか・・・!?』
『マイスター! まさか戦うなんて言わないよね!?』
『・・・それ以前にハッキリと自我があるかどうかが判らないな。有れば説得が出来るだろうが、無ければ戦うしかないだろう』
ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ、アギト、シュリエルの順で思念通話が送られてきた。改造された、か。アンナのあの姿に心当たりのある私以外はそこに至って当然か。しかし事実は違う。だがどう説明すればいいのか。彼女の正体は、私の時代にしか通用しないものだ。
(まさかアンナが魔族、しかも最下層の海竜だったとは・・・!)
魔族。人間や他の生命が住まう次元・表層世界とは違う次元・裏層世界(通称:魔界)の住人だ。魔族と人間の関わりは、私がまだ人間だった頃が末期。魔術が廃れ、魔導という新たな技術が生まれた現代では会う事など、存在を知る事すらないはずだ。
『マイスター、どうするの? あの人が、アイリ達が助けないといけないアンナって人なんだよね?』
「『ああ。だが・・・』む・・・っ!」
――エノクの鎖人――
また水柱が上がる。今度は海水の槍ではなく薄っぺらな人の形を成した。それが8体(いや、枚と数えるべきか?)。アンナが私を見、指差した。8体の水の人形が一斉に向かって来た。狙いは私か。『私一人で相手にする。各騎は、他の空戦戦力の迎撃を!』全騎にそう思念通話を送る。
「エヴェストルム!」
剣槍“エヴェストルム”を起動して柄を半ばで分断、二剣一対のツヴィリンゲン・シュベーアトフォルムにする。“エヴェストルム”の穂の根元にあるシリンダーのカートリッジを1発づつロード。
――集い纏え、汝の氷雪槍――
刀身に冷気を付加。まず最初に到達した人形を寸断。ソイツは一瞬で凍結、粉砕される。私たちの魔力だけにしかない “力”――神秘を見れば、ギリギリ私が上。魔導は、純粋に魔力量や効果で勝敗が決まる。魔道は、魔力量だけでなく神秘と言われる特殊な“力”の強弱が最重要だ。
神秘を打倒するにはそれ以上の神秘を以って当たるべし。それが、当時の魔術師の絶対の摂理。弱体化し、人間だった頃より遥かに弱くなった私でも、魔族化しているアンナの神秘にもまだ負けていない。
――エロンの渦陣――
次々と生まれ向かって来る水人形を凍結粉砕しているところに、私を包囲するかのように海水の竜巻が環状にいくつも発生。水圧もさる事ながら神秘が格段に上がっている。竜巻を突破する、という手段は取れない。ならば空から。竜巻の高さは目測で80m強。一瞬で上がれる高さだ。
しかしまぁアンナもそれくらいは判っているだろう。むしろ唯一の逃げ場という事で何かしらの攻撃を加えて来るだろうな。だが、徐々に狭まって来ている以上留まれない。罠だろうが何だろうが、悉く突破してくれる。急上昇――した瞬間、私の居る内側に傾れ込むように水の竜巻が崩れた。
(海中に引きずり込む気か・・・!)
†††Sideオーディン⇒シグナム†††
「オーディン!」『マイスターっ!』
オーディンを包囲するかのように発生した幾つもの海水の竜巻が一斉に内側に崩れ、オーディンを呑み込み、海中へと引きずり込んだ。予想だにしなかった事が次々と起こり、私とした事が完全に混乱していた。救出すべきだったアンナは、肉体を改造され怪物に成り果て、我らの敵として現れた。
『シグナム! マイスターを助けないと!』
悲鳴じみたアギトの声にハッと我に返り、すぐにオーディンが呑まれた地点へと向かう。だが、
――ヴィント・バイセン――
「『っ!』」
私に向けられて放たれてきた衝撃波。ほぼ無意識で対魔力攻撃に優れた障壁パンツァーシルトを発動。直撃は免れた。それしても「こんな時に・・・!」歯噛みする。衝撃波の出所へと視線を移すと、案の定、連中は居た。
「ファルコ・アイブリンガー・・・!」
『フュンフ!』
鎧ではなく我らと同じ衣服型の騎士甲冑を身に纏った、イリュリアの高位騎士の1人であるファルコ・アイブリンガー。そして、アギトの姉に当たる融合騎プロトタイプ五番騎・風のフュンフが居た。
(む? 確か以前の戦いで、ファルコは飛行の魔導を持っていなかったのではなかったはずだが・・・)
ファルコは魔法陣の上に立つ事はせず、何も無い宙に佇んでいた。この短い期間で飛行の魔導を会得したか? いや、飛んで浮かんでいるというよりは宙に立っているという感じだな。
(どちらにしろ空戦能力を得たという事には変わりないな)
四肢に装着されている計20本の爪を生やした籠手と具足に濃い緑色の魔力が付加される。その上「融合だ、フュンフ!」ファルコとフュンフは、私とアギトのように融合を果たす。今は一刻も早くオーディンを助けに行きたいのだが。ファルコへの警戒をそのままに海面を横目で見る。
『私は大丈夫だ。アンナは私に任せ、各騎はそれぞれの戦いに集中してくれ!』
オーディンからの思念通話が送られてきたとほぼ同時。海面の至る所から連続で爆発が起きる。オーディンとアンナがあろうことか水中戦を繰り広げていた。水中戦が出来る騎士――いや、人間など初めて見た。やはりオーディンは別格という事か。
「・・・魔神はあの怪物女に任せる事になっちまってちょっとイラついてるんだよ、俺。でもま、あんたと戦えるのが不幸中の幸いさ。盟友ゲルトを殺したあんたを殺せるんだからな・・・!」
ファルコは獣のように体勢を低くし、宙を蹴って突撃して来た。驚いたな。ファルコは何も無いというのに地面のように宙を走っている。
VS―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
其は疾駆する風騎士ファルコ&フュンフ
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―VS
「盟友ゲルトの仇、取らせてもらうぜッ!」
『覚悟なさい、ゼクス! 私たちの因縁は今日、この場で終わりよ!』
――ヴォルフ・クラオエ――
左手の貫き手を“レヴァンティン”で外へと捌くと、間髪入れずに右の貫き手を放ってきた。私に貫き手が到達する前に、「うごっ?」ファルコの顎を左膝蹴りで蹴り上げる。ガラ空きになったファルコの胴体を左手に持つ鞘で追撃しようとしたが、ファルコは反り返る反動を利用して私と同じように蹴り上げ。半身ずらす事で蹴打を紙一重で回避。その場で宙返りをしたファルコはまた宙を何度も蹴り上昇していく。
「こっからが本番だ! フュンフ!」
『ええっ!』
――シュトゥルム・シャルフリヒター――
竜巻の蛇と化したファルコ。奴と初めて交戦した際にも私とアギトに放ってきた技だ。あの時は、アギトの炎熱加速で威力を強化した紫電一閃で真っ二つに寸断したが・・。さて今回はどうだろうか。おそらくは無理だろう。奴も成長しているはずだ。
ゆえに真っ向からの迎撃はせず、回避行動を取る。あれほどの魔導、いつまでも維持できないはずだ。解除された瞬間、一撃で墜としてくれる。奴は「今度はお前をズタボロにしてやるっ。徹底的にだっ!」と私を追って軌道変更。それまでは以前と同じ。しかし、
「踊り、逃げ惑い、跪き、そして灰になれっ!」
『行くわよっ!』
――トイフェル・ルフト――
後方へと過ぎ去っていった蛇から幾つもの三日月状の真空の刃が放たれてきた。高速で飛来する真空の刃から回避できるだけの余裕がなかったため、
「はあっ!」
――シュトゥルムヴィンデ――
“レヴァンティン”を振るって衝撃波を放ち相殺――しているところに本体である蛇が再度向かって来た。だが直撃を受ける前に真空の刃の迎撃を終える事が出来、すぐさま回避行動に移る。避けたは良いがほぼ紙一重だったがためか、通過していった蛇の放つ衝撃でスカートの裾が破けてしまった。
「っ、貴様・・・!」
歴代の主に賜った甲冑がたとえ戦で傷ついたとしても、これまでの私であればなんとも思わなかった。だと言うのにどうだ。リサの時とは違い、相手が違うだけでこうも苛立ちを覚えると言うのは。
『シグナム!』
『問題無い。次が来るぞ』
アギトにそう応えた時、ミナレットに動きがあった。巨大砲台であるミナレットが鎮座している台座が回転し、砲門を・・・シュトゥラではない方角へと向けた。そして『カリブルヌス、発射!』魔力砲撃の発射を告げる声がここ一帯に響き渡る。砲門より放たれるカリブルヌス。阻止する術を持つオーディンは海中だ。ゆえに見逃す他ない。
「・・・・仕切り直しだっ。だが、次こそズタボロにしてやる!!」
――グラナーテン・ヴィント――
竜巻の蛇より、今度は魔力弾がバラ撒かれ、こちらへと一斉に飛来してくる。あの程度の攻撃ならば迎撃も防御も容易い。しかしアレを布石として使われているかもしれんという選択肢が生まれてしまった以上、今度も回避する他ない。魔力弾に追尾性が無いのは助かる。一度避けてしまえば恐れる事はない。
『シグナム。避けてばっかりじゃ・・・!』
『判っている。・・・・あれをやってみるか・・・』
“レヴァンティン”を鞘に収める。すると「諦めたのか!? だったらその場に突っ立ってろ!」ファルコはそう言い放ち、馬鹿正直に私の真正面に来るように軌道を変えてきた。それは私が望んだ軌道だ。カートリッジをロードし魔力を圧縮し、居合いの構えを取る。
「いくぞ・・・!」
――飛竜一閃――
“レヴァンティン”を抜き放ち、連結刃たるシュランゲフォルムと化した刀身に魔力と炎熱を付加した斬撃・飛竜一閃を、向かって来ている竜巻の蛇――ファルコへと放つ。紫電一閃と並ぶ私の決め技の一つだ。貫通性が高く、並の防御など無意味とする。
竜巻の蛇と化しているファルコは以前、紫電一閃の一撃の下に撃破した。威力だけで言えば紫電一閃以上である飛竜一閃だ。確実に潰せる、そう判断出来る。竜巻を解除するまで待とうと思っていたのだが、時間を掛けて勝利への道を確実にするという余裕が無いのも確か。
「面白れぇッ! 勝負だっ!」
その直後、竜巻の蛇と飛竜一閃が真正面から衝突、爆発を起こした。手応えあり。これで決まった、と確信した。柄を握る右腕を引き連結刃を戻す。何事も無く戻ってくるはずだった。しかし妙な引きがある。だが爆発で起きた煙幕で目視出来ん。
『シグナム・・? どうし――』
――トイフェル・ルフト――
「く・・・!」
――パンツァーシルト――
煙幕を斬り吹き飛ばし飛来した7つの真空の刃を間一髪で障壁で防御。その際にハッキリとファルコの姿が見えた。正直私はその姿に目を疑い、絶句した。ファルコが鷲掴んでいるのは、連結刃の剣先ひとつ前のワイヤーだった。剣先は奴の胸に届いていなかった。
『う、嘘だろ・・・!』
「馬鹿な・・・!(撃破するどころか防がれただとっ?)」
私が憶えている限り飛竜一閃への対処で、ダメージ覚悟で鷲掴む、などなかった。たとえ思いついたとして実行しようとも、そのような事は絶対に不可能。障壁を貫かれ、討たれるのがオチだ。しかしファルコはその不可能を実現させた。しかし奴の騎士甲冑は所々が崩れ、顔面も額から流れる血で赤く染まっている。
剣先は届かずとも魔力は届いたようだ。それだけのダメージを受けながらも表情はしてやったりと言った風に笑み。奴は「は、はは、ははは」とかすれた笑い声を発し、連結刃のワイヤーを掴んだまま宙を蹴ってさらに上昇していく。柄をグッと引くが、ガッチリと掴まれているために刀身を引き戻せない。
『各騎! ミナレットの近く、島に降り立っている場合はすぐに避難してくれ!』
ファルコとの睨み合いが始まった時、オーディンからの一方的な思念通話。私は空だが、ヴィータ達はミナレットの砲身の反対側ゆえに姿は見えん。オーディンはおそらくアンナとの戦闘の最中にも拘らず、ミナレットの破壊を実行するつもりなのだろう。
「んあ? なんだ・・・?」
『空間が揺れている・・?』
――押し流せ、汝の封水――
そしてそれは起きた。「津波だと!?」ファルコが戦慄の表情で叫ぶ。正しく津波だった。高さが50mはあるだろう波が突如として現れ、ミナレットの島へと押し寄せていく。ミナレットの周囲にあった建造物が津波に飲まれると、「フレート! ウルリケ!」ファルコが建造物に向かって叫ぶ。
波は第二波、第三波・・・最終的に第七波まで続いた。津波が止む。ミナレット本体は全くの無傷だが、周囲の建造物や森やらは完全に押し流され、島は荒野と化していた。あれでは島内にいた者たちは全員海に流されただろう。それにあれだけの津波だ。海中へ引き摺り込まれ、おそらく無事ではいまい。
『マイスター、すご・・・・』
『凄まじいな。このような魔導があれば、海辺の町や国など一溜まりもない・・・』
いや戦慄するのは後回しだ。今ならファルコらを撃破できる。カートリッジをロード。だが、向こうもこちらへの警戒を怠っていなかったようだ。「くそっ」と吐き捨てながらも「これでも・・・喰らいやがれっ! フュンフ!」と四肢の武装のカートリッジをそれぞれ1発ずつ、計4発ロード。
「ならばこちらも行くぞ・・・!」
シュランゲフォルムのままである“レヴァンティン”の刀身に火炎を纏わせる。柄より炎は立ち上り、ワイヤーを駈け上がる炎はファルコが手にする剣先へと向かって行く。そのままワイヤーを掴んでいると焼死する羽目になるぞファルコ。そう目で教えてやったのだが、
『ええ、行くわよっ、ファルコ!』
――ヴァーンズィン・オルカーン――
フュンフの自信に満ちた思念通話がこちらにも届いた。ファルコとフュンフは自信の証明するかのようにその姿を現す。奴から放たれるのは暴風の砲撃。シャマルの逆巻く嵐をさらに強く、射程を伸ばしたようなものだ。剣先へと上っていた炎がその砲撃で掻き消されていく。砲撃はそのまま私へと向かって来る。立場が真逆となってしまったな。通常のシェベルトフォルムへと戻すことが出来ず、砲撃は刀身を覆うように進んで来るため、移動したところで“レヴァンティン”の柄を手放さない限りは追い続けて来る。
(武器を手放すだと? 戦場で武器を手放すなど負けを認めているも同然・・!)
それ以前にファルコも飛竜一閃を真正面から受け止め、この好況を掴み取った。ならば、「私も退くわけにはいくまい!」覚悟を決め、魔力で全身を覆う防御・パンツァーガイストを発動。
『アギト。すまんが付き合ってもらうぞ』
『仕方ないなぁ。でも、うん、フュンフとファルコに出来て、あたし達に出来ないっていうのも癪だし』
目前にまで迫って来ている砲撃を見詰め、腹に力を入れ対衝撃姿勢を取る。そして「『ぅぐぅぅ・・・!』」砲撃が我々を呑み込んだ。パンツァーガイストが無ければこれで撃破されていたな。これはかなり辛い。魔力甲冑を少しずつ削っていく暴風の砲撃。左腕で顔面を守りつつ、どれだけこの忍耐の試練に挑めばいいのだと前を見上げた時、
「所詮、炎なんて嵐の前じゃ消し飛ばされるだけだっ。それが自然の摂理!」
「なんだと・・・!?」
ファルコが竜巻内を飛ぶようにして私へと接近して来ていた。繰り出される貫き手。左手に持つ鞘を掲げるようにして防御をする。“レヴァンティン”を封じられている以上、鞘と障壁のみで防ぎきるしかない。奴が繰り出し続ける貫き手を、無心で鞘を振るいなんとか捌き続けるのだが・・・
「ぐっ・・・!」
『シグナム!』
ついに障壁を貫かれ、それほど深くはないが左肩を抉られた。苦痛に漏れそうになる声をかみ殺す。するとファルコは「はっはぁっ! 守護騎士の将、俺が討ち取ってやる!」と歯を剥き出しにして笑い、さらに貫き手を速めてきた。
鞘で致命傷を受けないように捌くのだが、鞘を握る左肩を抉られたせいで力が入らない。これはいよいよ。とらしくない事がふと頭に過った時、ようやく竜巻の砲撃が途絶えた。それで奴の姿がまともに見えるようになった。
『ゼクス。あなたのロードもここまでよ!』
『うるさいっ! シグナムは、絶対に勝つっ!』
フッ。そこまで自信満々に言われてしまっては負けるわけにはいくまい。元よりヴォルケンリッターに・・・いや、違うな。グラオベン・オルデンの信念に連なる騎士に敗北などあってはいけない。何かを守るために、救うために戦うという事は、負けた時には自分だけではなくその守るための何かをも失うという事だ。ゆえに・・・。
「ファルコ。お前はここで確実に墜とす・・・!」
我々の足元に魔法陣の足場を展開。ファルコの繰り出してきた右の貫き手を鞘で捌くのではなく半身ずらして回避。そのまま勢いよく跳び上がり片足を相手の脇の下、もう片足を首を刈るように振り上げ、ぶら下がるように自体重で相手の体を折った勢いを利用して回転し、十字固めの形に持っていく。以前、騎士教室でオーディンがザフィーラに教えていた寝技なるものの1つだ。
「(名は確か・・・)腕挫ぎ十字固め、だったか」
オーディンにこの技を掛けられたザフィーラは、その筋肉の鎧のおかげでさほど痛みはなかったようだった。試しに私が掛けられてみた。あれは痛かった。正直に言おう、涙が出そうだった。その一件で、人体には実に弱点が多いという事を再認識させられた。
さらに腕を伸ばし、ファルコの肘からバリバリと音がし始めた。奴が脂汗をかき始める。そしてついに奴は“レヴァンティン”のワイヤーを掴んでいた左手を放した。シュランゲフォルムからシュベルトフォルムへと戻しつつ、「っ? ぐああぁぁああああああっ!」奴の靭帯を断裂させた。これでもう奴の腕は動くまい。魔法陣を解除し、私は宙へ留まり、痛みに悶える奴は真っ逆さまに落下していった。
『シグナム。ファルコとフュンフにトドメを刺すの・・?』
「ここで討っておかなければ、今後の我々の障害になるやもしれん。辛いか?」
『・・・・ううん。もうあたしとフュンフは敵だもん。やって、シグナム』
「・・・そうか、判った。レヴァンティン!」
カートリッジをロードし、火炎の斬撃を見舞う紫電一閃を発動。今もなお落下を続けるファルコへ向かって急降下。私の接近に気付いた奴は空を蹴り、落下を止めた。だがそれは私との距離をいたずらに縮める行為。それに、痛みによって今の私の一撃に対処できるだけの集中力などあるまい。
交差するまで残り僅かとなったところで、ファルコに異変が起きた。ガクッと俯いたと思えば髪の色がフュンフの翡翠一色へと変化。ふと脳裏に過る、先の戦闘で討ったゲルトの姿。完全に融合騎に支配されていた時と同じ。ファルコが勢いよく顔を上げた。『融合騎として、ロードを護るわっ』聞こえてきたのはフュンフの決意の思念通話のみ。
「ファルコの意識を乗っ取ったか・・・!」
間合いに入った事で、「紫電一閃!!」とにかく“レヴァンティン”を振るう。ファルコの意識を乗っ取り身体を操るフュンフは、先手の私の一撃より早くその場から離脱。空を切った“レヴァンティン”を引き戻したと同時、「ぐっ・・・!?」背中にドンと衝撃。背後に回り込まれた。振り向きざまに“レヴァンティン”を振るうが、すでにそこには誰も居なかった。
(今の・・・どうやら背中を蹴られたようだな・・・!)
それにしても、だ。爪で攻撃されていたらさすがの私も深手を負っていたはず。いつでも私を害せるという余裕からか? だとすればすぐにでも後悔するぞ、フュンフ。
『フフ、ウフフ。私は融合騎プロトタイプ、最速の風の五番騎フュンフ! ファルコの人間として能力の限界を融合騎としての私の能力で超えてこの身体を操れば、最速の騎士ファルコの誕生よ!』
離れたところで靭帯が断裂した右腕をダラリと下げながらも意気揚々と語るフュンフは、『速さを制した者こそ最強よっ!』改めて胸を張って告げた。
『フュンフの感覚で人の身体を操ったりなんかしたら、その人の身体が壊れる・・・!』
『・・・・そうね。でもここで殺されるよりはまだずっとマシよ。壊れた部分は治せばいいの・・・よっ!』
――ヴィント・バイセン――
蹴打を繰り出して衝撃波を放ったフュンフ。奴の速さ、静止状態ではいい的になってしまう。ゆえに動き続けての一撃離脱戦を続行。迫る衝撃波。術者のフュンフ。この2つから目は逸らしていない。だからこそ衝撃波を回避できた。
しかし、フュンフの姿をいつの間にか見失ってしまっていた。辺りを見回そうとして、「ぐっ・・」右太ももに痛みが走った。見れば5つの斬撃痕があり、そこから流血していた。背後から笑い声。勢いをつけずにゆっくりと振り返る。左の爪に付着した私の血を舐めまわすフュンフが居た。
『そのまま肉を削り取ってあげるわ!』
獣のように身構えたフュンフの姿がかき消える。まるでリサの使う閃駆、そして法陣結界のようだ。リサも今のフュンフのように縦横無尽に跳び回り、多方向からの襲撃を行い続ける戦術をとる。フュンフとリサの違いは、リサは直線的な動きのみだが、フュンフは空に流れる風の如く掴みどころが無い。
そして最たる相違は、この何とも言えぬ強烈な殺意。あまりに濃厚。それゆえにこの周囲一帯は殺意に満ち、フュンフの動きを追えない。肌で感じる風の流れ。耳に届く風切り音。その2つが、私の命を繋ぎ止めている。“レヴァンティン”と鞘の二刀流で、フュンフの攻撃を苦労はしているが防ぐ。
『しつこいわね、あなた!』
苛立ちを見せるフュンフ。お前は今すぐにでも私を討ちたいのだろう。急がねばロードであるファルコの身体が保たない。
(見ろ、後悔しているだろう・・・?)
最初の一撃で私を討たなかった事を。「フッ」笑みを浮かべて見せる。姿をハッキリと見せたフュンフの表情が面白いほどに怒りで歪む。
『この・・・! カートリッジロード!!』
右腕以外の武装が全てカートリッジを数発ロードしていく。ファルコの魔力が跳ね上がる。
――ギガント・トイフェル・ルフト――
血走る目をギラリと光らせ、『本当に頭にくるわ!』左腕を大きく3度払い、巨大な真空の刃を3発連続で放った。
『とっとと墜ちなさい!』
中遠距離の攻撃を布石とし、フュンフが本丸として直接攻撃を加えて来るようだ。様々な攻略法を思い描いた。が、真空の刃は軌道を変えて空へと上っていく。直感が働く。すぐさまその場から全力で離れるために空を翔ける。
その直後、私の直感が正しかった事を知る。3つの真空の刃は上空で破裂し、小型の刃として無数に降り注いできた。そしてフュンフ。今までと同じように姿が目にも留まらない程の速度で、私の背後へ回り込んで来た。
――ツェアライセン・シュラーク――
――パンツァーシルト――
「む・・・!」『一発で粉砕!?』
フュンフの繰り出した、相手に対して自分が横向きになって蹴る技・踏み蹴りは、当然の如く魔力付加。私が咄嗟に展開した障壁は、全く役に立たなかった。蹴り一発で破壊された。障壁破壊効果を持っていたようだ。瞬時に“レヴァンテイン”を掲げ盾とした。衝突。しかしこれは衝撃が凄まじい。
(これは、抑え切れぬ。ダメだ・・・!)
成す術なく私は弾き飛ばされ、海中へと叩き落とされた。
『シグナム!!』
『っ・・・大丈夫だ、アギト』
すぐさま海面を目指して泳ぐ。その途中、随分と離れた地点で蒼い光が灯ったのが判った。オーディンは今もなおアンナと水中戦を続けているようだ。思念通話で何かしら言った方が良いのかもしれないが、それでは邪魔になるやもしれんと思い止まる。アギトも判っているらしく、オーディンに思念通話を繋げようとはしなかった。
『待って、シグナム。今出たら狙い撃ちにされる!』
『それは判っているが、そう長くは留まれんぞ、息が続かんからな』
海面に顔を出した瞬間こそが絶好の機会だ、フュンフは狙い撃ちしてくるだろう。まず回避は出来んだろうな。身動きがとり辛いからな水中は。障壁での防御は、障壁破壊の魔導を扱える事が判った以上は得策ではない。
息も続かぬ中で思案していると、アギトが『やってみたい事があるんだ。ゲルトの時と同じ方法を』と言う。ゲルトの時、か。融合を解除しての2対1に持っていく。しかし今、アギトの補助を失うのは痛い。
『あたしが離れたところで海面を動かすよ。たぶんきっとフュンフは反応するはず。その間に――』
『私が水中より脱出。フュンフを引きつけ、その間にお前も脱出する、か』
危険すぎる案だった。下手をすれば初手でアギトが撃破される。たとえ上手く行ったとしても、二手目の私の脱出。フュンフはかなりの広域型だ、アギトだけでなく私にもすぐに気付き、攻撃を加えて来る可能性が高い。
ならば防御に魔力を一点集中し、攻撃に晒されながらも共に脱出する方が良い。“レヴァンティン”に残りのカートリッジを装填。アギトに『このまま出るぞ』と告げる。アギトが息を飲むのが判るが、反論は受け付けん。痺れを切らしたフュンフがどういった手段を取ってくるか判らんからな。いざ。そう決意を固め、カートリッジを2発ロード。
――パンツァーガイスト――
全身を高濃度の魔力で包み込み、海面へと浮上。脱出する前に“レヴァンティン”を振り払い、衝撃で海面を大きく爆発させる。私とて何の策も無く飛び出すような間抜けはしない。派手に水柱を上げ、目晦ましにする。フュンフが釣られて初撃を囮の水柱に放てば、私への攻撃確率が少しは減るだろう。が、もしそうでなかったら。その時は、攻撃の雨に晒されるだろうが・・・。
(迷ってはいられまい。すでに障壁を展開したしな)
水柱が盛大に上ってから消えるまでの間で海中より飛び出した。さあ、賭けの結果は・・・・・「うおおおらぁぁぁああああああッ!!」負けてしまった。一直線に向かってくるフュンフ――いや違うな。髪色がフュンフの一方的な翡翠から、融合バランスが整った濃い緑色に戻っている。
――ツェアライセン・シュラーク――
私を海中へと叩き落としたあの踏み蹴りだ。無理やりに身体を捻り直撃を避ける。普通なら勢いのまま海へと突撃するのだが、ファルコはまた空を蹴り急停止し「避けても無駄さ!」回し蹴りを繰り出してきた。体勢があまりに悪かった事もあり「づあ・・!」直撃を受けてしまった。やはり障壁を一撃で破壊された。蹴り飛ばされている中、『これ以上、シグナムを傷つけさせない!』アギトが叫ぶ。
――ブレネン・クリューガー――
私の周囲に9つの火炎弾が発生、それらが一斉にファルコへと向かって行く。真っ正直に風の魔力弾で迎撃した。その一瞬の攻防が私の体勢を整える時間を与えてくれた。アギトに礼を言いながら、ダメージ確認。
(む、肋骨が何本か折られたな。違和感がある)
痛みはもちろんあるが、構っていられない。ファルコが疾走してくる。
――ブレネン・クリューガー――
――グラナーテン・ヴィント――
私とファルコの間で相殺し合う、2人の融合騎の魔導。そしてロードたる私とファルコはその中を直進し、互いの姿を見据える。
「はぁぁあああああああッ!」
「おおおおおおおおおおッ!」
互いに必殺の一撃を人体の急所に向け繰り出し続ける。直撃さえすれば致命傷を負う。しかし決まらない。当然だがな。火花が散る。一瞬の閃きに、ファルコが僅かに目を伏せた。その隙は好機。直撃するまでの時間が最短である刺突を放つ。捉えた。“レヴァンティン”の剣先が、奴の右肩を貫いた。
「づっ・・・!」
『ファルコ!?』
右腕はすでに使いものになっていないため、出来るなら左肩を潰したかったのだがな。まぁいい、欲張る事もない。出血が酷いため、すぐにでも止血や治療をしなければ、いずれ死に至るだろう。
「今さら右を殺したくらいで勝った気になるなよ!」
右肩を貫かれながらも左の貫き手を突き出して来るファルコ。鞘で防御したのだが、さすがに何度も防御に使っていたのだ、ついに粉砕されてしまった。だが最後まで私を護ってくれた。破片が飛び散り、ファルコの顔面――運悪く目を襲う。
私の顔にも散って来たが、奴とは違い、運良く目より下だった。運すらも味方してくれているこの状況。ここまで来て負けるわけにはいかん。鞘を砕いても勢いが止まらなかった奴の貫き手は私の右頬を浅く裂いた。肋骨、太もも、頬。それくらい持っていけばいい。だが、この命と信念・・・そして勝利だけは奪わせん。
「ファルコ!」
『フュンフ!』
鞘の残骸を手放して空いた左手を握り締め、ファルコの顔面に拳打を繰り出す。奴は首を逸らして避けようとしたが、完全に避けきられる前に軌道修正して頬に直撃させた。奴がよろけたところで“レヴァンティン”を肩から抜いて振りかぶり、間合い的に仕方なく柄頭の打撃を放つ。完全に捉えたと思ったのだが、奴はギリギリで身を引き躱し、大きく間合いを取った。
――シュトゥルム・シャルフリヒター・エヴォルツィオーン――
そして再び竜巻の蛇と化した。軌道は今まで以上に複雑。付加されている魔力も絶大。蛇は、真空の刃や衝撃波に魔力弾と言った様々な攻撃をバラ撒いて行く。あの出血とダメージでよくあれだけの魔導を発動し続けられるものだ。
「アギト。烈火刃を頼む。この一撃で、決着だ」
『うん、判った。猛れ、炎熱・・・!』
――烈火刃――
ファルコの攻撃を全力で回避しつつ、奴を撃破するための一撃を用意する。“レヴァンティン”にではなく私の左腕に火炎の剣が生まれる。対オーディンの為の大火力斬撃・火龍一閃。空を縦横無尽に翔け回るファルコへ「来いッ、ファルコ! これで終わりだッ!」そう言い放つ。向こうとて私との戦いを早めに切り上げたいだろう。でなければ失血死という結末になってしまう。
案の定、竜巻の蛇の軌道が私の真正面へと変更される。そして様々な攻撃がこちらに放たれる。真空の刃、衝撃波、魔力弾。それらを最小限の移動のみで回避。最悪掠る程度は良しとする。攻撃が途切れたことで左腕を振りかぶり停止。回避の余裕を与えないために奴をギリギリまで引き付ける。
「『火龍・・・一閃!!』」
ファルコが回避不可能圏内に入ったのを確認し、斬撃ではなく砲撃としての火龍一閃を奴へと放つ。この瞬間、私とアギトは融合を解除。アギトには火龍一閃の放射維持を任せる。そして私は、おそらくこの一撃で決定打を与えるだろうが、念のためにもう1つの策を始動する。
ファルコは強大な竜巻の中。火龍一閃の威力が完全に奴に届くかどうかが正直怪しい。その憂いを無くすために、私は今なお放射されている火龍一閃の中を突き進む。視界に映る世界全てが紅蓮の炎。その世界の先、竜巻と火炎の境界線があった。
(威力は互角、か。ならば、この最後の一撃で決着だ!)
最後のカートリッジをロードし、“レヴァンティン”の刀身に火炎を纏わせる。出血し過ぎたせいなのか顔が真っ青なファルコが私に気付き、「おいおいおい!」左の籠手に魔力を付加。交差するまで残り僅かというところで互いの魔導が途切れた。火炎が散り、竜巻は失せた。青空の下、私とファルコは決着の為に交差する。
「「これで――」」
――紫電一閃――
――ヴォルフ・クラオエ――
「「――最後だ!」」
†††Sideシグナム⇒アギト†††
「はぁはぁはぁはぁ・・・・」
火龍一閃を撃ち終えた(というか維持できなくなった)あたしは、シグナムとファルコが決着の為の一撃を放ったのをしっかりと見た。シグナムの紫電一閃は完璧にファルコを捉えていて、ファルコの身体をバッサリ斬っていた。そしてファルコの貫き手は、シグナムの肩を裂いただけだった。
2人は武装を振るったままの体勢で止まっちゃってる。『シグナム・・・?』思念通話で呼び掛けてみる。すると『大丈夫だ。勝ったぞ、アギト』そう静かな声で返してくれた。『うん』あたしは頷き返してシグナムの元に飛ぶ。
「がはっ、くそ・・・炎熱砲の・・げほっ・・・中、飛んで来るって・・・ごほっごふっ、反則じゃね・・・?」
「ファルコ!」
ファルコの中から泣いてるフュンフが飛び出してきた。それを見てズキッて胸が痛んだ。シグナムは“レヴァンティン”の剣先をファルコに突きつけて、「本来ならここでトドメを刺すところだが、武装解除して投降するならよそう」って提案した。
「もちろんミナレットやエテメンアンキ、エグリゴリについて知っている限りの事を全て吐いてもらうが」
「げほっ、国と仲間を売れってか。ごふっ。はぁはぁ・・馬鹿言うなよ」
「もう喋らないでファルコ! ただでさえダメージ過多で死にそうなのよっ!?」
「・・・・本当に俺には過ぎた相棒だよ、フュンフ」
フュンフがファルコの胸に飛び込んで悲鳴を上げて、ファルコはぎこちない動きで左腕を上げて、人差し指でフュンフの頬に触れて涙を拭った。痛い。心が痛い。苦しい。胸が苦しい。あたし、フュンフのこと嫌いだったのに。なのにフュンフが泣いてるところを見ているだけで、こんなにも辛いんだ・・・。
「俺は、仲間も、国も、裏切らない。・・投降? それも・・御免、だな・・・。騎士の、誇りは、捨てたけどさ・・・イリュ・・ア人の・・・誇りだけは・・・・捨てない・・! 知って・・・いるだろう!」
ファルコの膝がガクって折れて、「フュンフ・・・・また、会おうな」真っ逆さまに落下し始めた。そして海に落ちた瞬間、ファルコが大爆発。水飛沫があたし達のところにまで飛んできた。
「自爆、か。機密情報が他国に伝わらないための処置だな」
シグナムがボソッと呟いた。
「ファルコ・・・・。ええ、また会いましょう」
「フュンフ!」
涙を手の甲で拭い去ったフュンフの顔はもう泣き顔じゃなくて、いつものように凛としたものに戻ってた。
「ゼクス。良い事を教えてあげるわ。ここで私たちを討ったとしても、テウタ陛下とエテメンアンキ、そしてグレゴール総長閣下が居る以上、あなた達の勝ち目なんてないわ」
フュンフの手に真空の刃が握られた。刃先が向くのはフュンフの胸。「あっ」咄嗟に手を伸ばす。するとフュンフは「馬鹿ね。そんな辛そうな顔をしないの」久しぶりに微笑みを見せてくれた。
「あとはお任せします。テウタ陛下」
それがフュンフの最期の言葉だった。深々と刃を突き刺して、ファルコと同じように海に落ちた。
後書き
サェン・バェ・ノー。
ついにファルコとフュンフが戦死です。フュンフくらい生き残らせてヴィータかザフィーラ辺りの融合騎にしてやろうかと血迷いましたが、彼女がイリュリアを裏切るわけもなく。最期は自害という結末で退場させました。
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