バカとテストと白銀(ぎん)の姫君
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Cross Road ~運命の交点~ (五月)
第一章 風の導を辿り往き
プロローグ 姫君とナイトと和菓子屋さん(1)
前書き
結論から言うと和菓子屋の一人勝ちっす。
「ほんま、わしゃただの脇役やったんやけどなぁ~。ギャラいくらくれんの、ん?」
って何であなたがここに居るんですか!?
僕は待ち合わせをしていた。
「もうあれから随分と経つのですね」
公園にただ一本だけのその桜の老木を見上げながら、人知れず僕は呟いていた。
季節は春、あの日から一体どれだけのことがあっただろうか。
分からない
ただ、はっきりと言える事があるとすれば、僕はその時荒みきっていて、達観した気になっていた。
桜のその薄紅色の花弁がはらりと舞い落ちるとき、既視感を覚えた。
あの時、僕の時間は動き始めた。
地面に零れた花弁が、駆け抜けていく風に吹き上げられるように
僕もまた押し寄せてくる記憶の波に身を任せた。
空は淡い瑠璃色をして、遠く彼方まで透き通り、その果てはどこまでも拡がっていくように感じる。
季節は春、その薄紅色の花弁を一杯につけた桜は目を楽しませてくれる。
そして普段ならそんなことに注意深く目を向けることも無いあたしの鈍い感性が、そんな詩的な事を考えるぐらいに
「待ち合わせの時間まで、まだまだあるなぁ……」
暇だった。
あたしはクラスメイトの一人と九時半に待ち合わせていた。
「京花さんのことだし、たぶん五分前ぐらいにはきっちり来るんだろうけどさ…」
腕時計を何度も確認するけれどせいぜい変わりあるのはしてもその針は一向に進まず、長針などはまだ文字盤のⅧを過ぎたぐらいだ。
「はあぁー」
あたしは深々と、それこそ胸の奥底からため息をついた。
「このクラスももうすぐ終わってしまうのですね。」
三月の終業式を目前に控えたある日の昼休み、友達と一緒にいつも通り雑談していると一人がそういう風にしみじみと切り出した。
「そうですわね、わたくしこのクラスのみなさんとこのまま進級したいぐらいですわ」
お嬢様な生徒ばかりで、最初は自分がかなり場違いな学校に進学してきたなとあたしは思ったっけ。
「そうね、私も入ったばかりだったけど今年一年すごく面白かったからな。」
「そう言えば薫子さんは高校からでしたわね……って」
あたしがつい今年の初めの頃の出来事に言及してしまい、京花さんを初めとしたみんなを黙らせてしまった。
しまった、この学校って生粋のお嬢様だらけだから下手なことを言わないようにしていたのに。
「あの…、そのことは許してくださいませ。」
京花さんに上目遣いに(あたしの身長が男子と同じくらいあるから、しばしばこうなる)言われる。
「いいってば京花さん、それにみんなも。私が編入早々にこのクラスのみんなと馴染めたのもあのちょっとしたすれ違いが合ったからじゃない。それに、そんなことも何もかもひっくるめて楽しかったって、ね?」
一学期の初めの頃、特に京花さんにほんのささいな行き違いから目の敵にされてしまったのだけれども、今となってはこのクラスに馴染む一つの要素に思えるから不思議だ。
「そういって頂けるとありがたいですわね。わたくしも今年一年が幸せすぎたせいで、来年以降のクラス替えなどでの運さえも、使い果たしてしまったのではないかと心配でして。」
そうおどけて見せる京花さんがあたしにアイコンタクトで謝りながら、空気を和ませてくれた。
「そうです。いつの間にか、中等部からご一緒しているような気がしていましたわ」
そう感慨深くため息混じりに行ってくれる友達に、あたしは涙腺が緩みそうになっていた。
「そうですわ薫子さん、お別れ会なんて称しましてお花見になんて参りませんか?」
京花さんにそう言われたのが今日の出来事の発端だった。
「へぇ、面白そうじゃない。それじゃぁみんなも誘ってわいわいやろうよ」
8:42:19
駅の電光掲示板にぱっと目をやると、ご丁寧に秒まで表示してくれていた。
何だってこの駅は今が何秒であるかまで見せつけてくれているのだろうか。
自分への苛立たしさがどんどん高まっていく一方の駅前から、あたしは足早に遠のく。
何だってこんなことになっているのか、その理由は自分としてもすっごい恥ずかしい。
奏お姉さまは演劇部の講習会があるらしく、その関係で朝早くから出かけることになっていた上に、初音については昨日から由香里さまの家でやっかいに成っていた。
つまり今朝、寮の中にはあたし一人しか居ないのだ。
何を意味するのかと言うと、あたしは自分で起きなければならなかったのだ。
うん、何ら普通のことだって自覚はしている。
でもそれができるかどうかは、早起きという苦役を日常的に、それも難なくできる人間と、多大なる努力が必要な人間に分かれるとあたしは確信している。
そんな屁理屈をこねてみたところで、本当は分かってる。
誰しも自力で起きなければならないというのに、あたしは毎日奏お姉さまに起こされていて、しかもそれが日常に成っていたのだ。
朝起きたときには目覚ましが壁に投げつけられたせいで見事に壊れ、恐らく本棚にぶつかったせいか、本も幾ばくか地面に崩れ落ち部屋は惨たる様子を示していた。
もちろんあたしが寝ぼけて目覚ましを無意識で投げたのだろう。
ともかく目覚ましを壊していたせいで、あたしは起きようと思っていた時間よりも遅れて目が覚めてしまったのだと思いこみ、そのまま最低限の身だしなみだけは整えて寮を出たのだった……
そして早く着きすぎて時間を持て余しているという今現在に至る。
実際、あたし自身が起きようと思っていた時間よりもかなり早めに目覚ましを合わせていたことついぞ忘れて、きちんと自分の携帯なり寮のリビングに置かれている時計なりで正確な時間を確認すればこんなことには成らなかったはずだ。
「そりゃ大は小を兼ねるとか、少し早めに行動しましょうとか、そんな類で言うなら褒められたことなんでしょうけどさ…」
暇だ暇だと思うのも空しく、どうせなら駅前の店でも少し冷やかしてやろうかと思い直す。
どうせまだまだ時間はあるんだし、駅周辺の店を見て回るといってもこんな時間から開いている店はそもそもたいした量じゃないんだから端まで行ったとしても走ってしまえば直ぐに戻って来れるだろう。
あたしは自分の考えをどんどん補強しながら、まず駅前の大通りに出た。
後書き
終にチームおとボクが出演なさいました 第一弾はやはり彼女からです
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