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噛んで

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第六章


第六章

「それで呼んでくれていいから」
「それじゃあ」
「そうよ。私もあんたを名前で呼ぶからね」
 そしてそれは彼女もであった。
「いいわね、眞人」
「うん、光」
 お互いに名前で呼び合う。
 そうしてであった。また光から言ってきた。それは。
「じゃあ早速ね」
「早速?」
「デートしましょう」
 彼女からの誘いであった。
「デートね。いいわね」
「デート・・・・・・」
「付き合ってるなら当然じゃない」
 それはもう規定路線であると。そうした言葉であった。
「だからよ。行くわよ」
「デート、俺と神楽・・・・・・いや光が」
「そうしたかったんでしょう。私もだし」
 ぽろりと本音が出てしまっていた。それでまた頬を赤らめさせる光であった。しかしそれでも彼女はさらに言葉を続けていくのであった。
「じゃあ。今からね」
「うん、それじゃあ」
 こうして光に引き摺られる形で眞人は図書館裏を後にした。見守っている男組から見れば舞台奥にと消えていく。二人が消えた時もう世界は夕方になってしまっていた。
 彼等はそれを観終わってだ。物陰から出てそれぞれ言い合った。もう隠れている必要はなくなっていた。
「とりあえずはな」
「そうだよな」
「ハッピーエンド」
「だよな」
 それはわかった。とりあえずはだが。
「これでいいのか」
「とりあえず告白成功したしいいんじゃないのか?」
「まあそうなるよな」
 結果を考えればそうである。しかしである。
 眞人の頼りなさと光の全てを察したうえでの一連の発言や行動を思い出して。彼等はこうも言い合うのであった。
「しかしなあ」
「何かな」
「あれでいいのか?」
「完全に神楽のリードだったよな」
 そのことを言い合うのであった。それぞれ首を傾げながら。
「もうな」
「どう見てもな」
「あいつ完全に読まれてたしな」
「だよなあ」
「まあそれもな」
「当然だしな」
 あらためて彼のそういったことへの不甲斐なさにも思いを馳せるのであった。
「あれだけわかりやすかったらな」
「そうだよな」
 こんな話をして今は誰もいなくなった空間を見る。そこには確かに今は誰もいない。しかし余韻は残っていた。彼等はその余韻を見て話すのであった。
「実ったからいいか」
「そうだな」
 それはいいとしたのであった。眞人の恋が実ったことはだ。それはいいとして彼等もその場を後にした。何はともあれ眞人は光に自分の告白を受け入れてもらった。終わりよければ全てよし。例えその先がどんなかかあ天下だったとしても。


噛んで   完


                2010・1・16
 
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