【SAO】シンガーソング・オンライン
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外伝:ブルハ、ブルハ以外を歌う
前書き
今回は短編詰めのブルーハーツなしです。
2/8 微修正
歌詞にはいつだって作詞をした人間や作曲者、歌い手のメッセージが籠っている。
だが、中には何を伝えたいのか全く分からない歌詞というのもまた存在する。
「パラマシー!ダシテプラーイテルタニーヤロギ!」
「あーがろでぃーやーなせぷたかーやあでぃーや!」
「パラマハー!ケスカプーマラッタシーヤカシキ!」
「すわーなかとりるくさせぷたけーやらしーやー!」
「ラーステーチーユーヌーステー!」
「くーすこーせーふーとぅわいえー!」
「ラーステーチーナーラーステー!」
「くいえーてぃーわー!とぅわいえーてぃーわー!」
混沌、汚泥、鬱屈、謀略、戦慄、嗚咽、怨嗟、戦禍、憤怒、恐怖、そして絶望――それらを鍋に放り込んで灼熱の業火に晒したような邪悪さを感じさせる地獄の旋律がALOの世界に響き渡った。
ベースのような楽器を抱える俺。
ドラム的な楽器を叩くユウキ。
ついでに音が足りなかったので急遽ホルンの様な吹奏楽器を持ったアスナに助けを請い、ついでに一緒にいたキリトに観客になってもらってこれを歌っている。他にも暇なのか聞きに来た連中がちらほら。
この歌を歌う理由は、たまには思いっきりこれでもかというくらいに「変な歌」を歌いたかっただけだ。
この歌は俺の知る限り最も奇妙で歌詞の意味が分からない楽曲の一つなので歌っているが、別に特別な思い入れがある訳ではなかった。しかし、この何の曲にも似ていない恐ろしいまでのジャンル不明加減は素直にすごいと思っている。
とにかくこの曲は壮大かつ邪悪。
イメージとしては、血を流しながら敵を斬り、あてもなく闇夜を彷徨い歩かなければいけない絶望。それを歌い上げているような感じだ。怒っているのか、絶望しているのか、それに立ち向かおうとしているのか。それは正直さっぱりわからない。
ただ、その曲には人を圧倒する迫力がある。
というわけで、迫力はあるけど意味不明なこの歌を選んだ。
ユウキは割と何の音楽にでも興味を抱いてくれるのでこれの原曲を聞いてもらい、アスナは吹奏楽器という楽器の性質上歌う事は出来ない。
キリトの横にはちょっと前までユイちゃんという小さな妖精さんがいたのだが、この文字に表すと間抜けなのに邪悪すぎるメロディに怯えたのか現在はキリトの服の中に潜り込んでいる。
「パラマシー……ダシテプラーイテルタニーヤロギ……」
「あーがろでぃーやーなせぷたかーやあでぃーやー……」
「イー!ゴ-ナシープラーヤー!」
「くすてんいんわー!しーぷらーやー!」
「イー!セプタセープラーヤー!」
「とぅわいえーいんわー!しーぷらーやー!」
「イー!ゴ-ナシープラーヤー!」
「くすてんいんわー!しーぷらーやー!」
「イー!セプタセープラーヤー!」
「とぅわいえーいんわー!しーぷらーやー!」
そして、演奏終了後にキリトが一言。
「……なにこれ?」
「呪文」
「え、いや……何語なのかなって……」
「呪文」
「そ、そうか……呪文なのか」
ユウキの有無を言わさぬ迫力にキリトは納得せざるを得なかったらしい。
実際呪文としか言いようがないこの歌詞は、実は正確な歌詞が公開されていない。俺達が歌った内容はいわば全部聞き手の作った「空耳」である。
「で、各々方。今日はブルーハーツ以外を歌ってみた訳だが、どうだった?」
「なんか宗教音楽みたいで気持ち悪かったです」
「よくわからない」
「言葉に言い表せない凄味がありました」
「楽器演奏してるアスナさんとユウキちゃんかわいい」
「・・・げる」
てんで話にならないということらしい。やっぱり俺はブルーハーツがお似合いなのか。
「ねね、アスナはこの歌どう思うの?」
「ええと……正直ちょっと引く、かな」
「えぇー?そうかなー?ボクは格好いいと思うんだけど……」
「こ、これが恰好……!?ちょっとブルハ!貴方ユウキに変な物教えないでよ!!」
「変なものって……そりゃいくらなんでも酷いぞ!?」
「そうだよ!凄い曲じゃん!もう一回ちゃんと聞いてよアスナ!」
「い、嫌よ!だってあの独特の高音を聞いてたら頭がおかしくなりそうだもの!いくらユウキの言う事でもそれは聞けないわ!」
個人的には名曲だと思うのだが、それでも人によっては変な曲や安っぽい曲としか思わない。人間の感性というのは元来そう言ったものだ。多様性があるから文化の発展がある。そんな多様性を巡って勃発した2人の議論は紛糾し、結局その日は喧嘩別れになった。
翌日、頭が冷めたのか謝り合って仲直りした2人の少女の姿があった。
同時に、その後ろでキリトが黒鎧黒マント右目眼帯+馬鹿でかい大剣という似つかわしくない恰好で歩いていたが。あいつは何がしたいのだろうか?
= =
それは一体いつの話だったか、正確には覚えていないほどに前の――まだデスゲームをやっていた頃の話。確かユウキには一度話したことがある、ちょっとした小話の一つ。
「……ブルーハーツ以外は弾けないのか、って?」
「というか、何というか……たまにはもうちょっとかわいい歌とかないのかなって」
「どんぐりころころとか?」
「それは童心に帰り過ぎです!」
奇抜なピンク色の髪をしたその少女は、そんな話をしてきた。
そばかすが目につくその少女は鍛冶屋をしていて、名前はリズなんとかいうらしい。思い出せずにとりあえずリズと呼んだら、訂正もされずに通ってしまった。いったい本当の名前は何というんだ。今更ちゃんと覚えてないなんて言えないぞ。
「ふーむ……じゃ、普段のより更に古い曲になるけど、いま思いついたのをやってみよう」
「おおー!流石はアインクラッドの吟遊詩人!」
「その仇名まだ絶滅してなかったのか……だいぶ久しぶりに聞いたぞ」
「?」
ともかく、咄嗟に俺が思い出したその曲は、恐らくだが普段のものよりは可愛い部類に入るはずだ。
ただ、ひとつだけ問題があり――その曲は、ギターの演奏難易度が恐ろしく高いことで有名だったのだ。
昔に何度か自棄になって練習したことがあるが、素人に毛が生えた程度だった当時の俺には余りにも難しく、断念せざるを得なかった。おそらく今弾いても弾ききれるかどうかは怪しいだろう。
だが、他に咄嗟に思い出せる「かわいい曲」というのもない。
悩んだ俺が弾きだした答えは、取り敢えずそれを演奏しながら何か別の曲を思い出し、「気が変わったから別のを弾く」と言ってお茶を濁すという果てしなくせこい戦法だった。
ケ・セラ・セラ。人生なるようになるものだ。
楽譜も歌詞も一応頭には入っているが、細かい所は自信がない。どうせ相手もこの曲を知らないだろうし、何か別の曲さえ思いつけばそれで解決する。記憶の断片を必死でつなぎ合わせながら、俺は癖のあるメロディラインを指で紡いだ。
ずっと気に入らなかった顔のそばかすを、指でなぞって溜息こぼす――
本気の告白だったのに、甘い愛は紅茶の底に落ちた角砂糖みたいにぼろぼろだ――
脂肪と一緒に減ってしまった胸に刺さるこの想いは未練なのかな――
まったく、星占いになんて期待した私が馬鹿だったわ――
せめてもうすこし手を繋いで歩けるのなら、私はそれだけでも――
予想に反して指は滑り、聞けるレベルには達した演奏になっている。
これはひょっとしたら他の曲を歌うより、なんとか一番だけ歌い上げて締めた方が賢いか?
そんなどことなく邪な事を考えながらちらりとリズなんとかの方を見た俺は――そこで、聞いている筈の客がいなくなっていることに気付いた。
「――あれ?さっきの嬢ちゃんどこいった?」
「なんか、泣きながら向こうに走って行っちまったよ?」
いつのまにか近くに来ていた中年のアバターが通りの右側を指さして言う。
「え、何で?」
「さあ……あ、ひょっとしてあれじゃないかな?」
「あれって……あ、まさかあの子?」
小指を付きだし、それをもう一方の手で折り曲げるジェスチャーを見た俺は、漸く可能性に照らし合わせて推論を立てた。ひょっとしたらヘビー級に重い恋心を打ち砕かれた直後だったり――?
「そりゃ悪いことしたなぁ……砂糖どころか塩を塗っちゃったよ」
「ま、そんな日もあらぁね」
若いうちしかああいう事は出来ん、とおじさんはカラカラ快活に笑った。
「――ああ、ところで兄ちゃんや。出来ればさっきの曲、演奏続けてくれんか?」
「なんだ?気に入ったのかい、さっきの?」
「剣を握ってるとな……どうしても、牙突とかやりたくなるのが男の子だろ?」
「???」
楽しい思い出はいつ思い出しても楽しくていいものだけれど――
それは過去でしかないから、今は別の事を考えなきゃ――
そんな切ない思いを振り払えない夜の孤独の中で――
大切だったあの人の笑顔を不意に思い出そうとしたけど――
もうどんな顔だったか思い出せないのに気付いちゃった――
後に、俺はその曲が有名な漫画原作のアニメでオープニングだった事を知らされた。20年近く前の作品だが、おじさんには未だその作品のキャラクターたちに憧れがあるらしく、そんな折に懐かしいメロディを聞いてリズなんとかと入れ替わるようにここへ来たらしい。
曲は、部分的に怪しかったが見事に弾ききった。自分でも少し驚いたが、おじさんに「昔の思い出がよみがえった」と言わせる程度にはしっかり出来ていたようだ。
こんな世界に閉じ込められて強さも何もあるかと思っていたが、毎日弾き続けたギターの努力はきっちり脳に蓄積されていたらしい。実際に体が動いている訳ではないから、レベルアップの無い本物の経験値と言えるかは微妙だ。
それでも少しは腕が上がっていたのだな、と一人ごちた。
「出来れば女の子ボーカルで聞きたかったんだけど、まぁ贅沢は言えんわな」
「………まぁ、確かに。思い切り女性向けだしな」
やっぱりブルーハーツを歌おうと改めて感じるブルハだった。
= SS:失われた選択肢 ~パラレルクロス~ =
俺はギターを弾いて、歌を歌っている。
もう、何のためにとかそんな月並みな疑問も思い浮かばない。
俺は歌うから、歌をやめていない。自分の人生の主軸に歌がある。
歌っているときは無心というわけではない。いつだって曲の思い出とか、個人的な印象とか、どんな風に歌いたいかとかいつも余計なことを考える。
でもその余計なことが、俺にとっては多分大事なものなんだろう。俺の過去と歌を脳裏に刻み付けた、忘れてはいけないものなんだ。
「よう」
誰かが俺に話しかける。
俺は演奏の手を止めて、そっちを向いた。
見覚えがあるようでないようなその顔を見ていると、向こうから話しかけてきた。
「最近どうだ?」
「どうって言われてもな……」
いつものように学校に行って勉強して、終わったら自由時間。
路上ライブ、仮想世界ライブ、ユウキの楽器練習手伝い。その繰り返しだ。
「俺としては普通だとしか言えない。それが俺にとっての日常だし」
「そっか」
とても、聞きなれた声。
今も昔も聞いたことがある――そうだ、これは俺の声だ。
見覚えがあるはずだ、これは俺じゃないか。
「歌ってるのか、お前も」
「そりゃ歌ってるだろ。俺から歌を引いたら何が残るよ?」
「ま、それもそうだ」
自嘲気味に肩をすくめた目の前の自分は、ギターを抱えている。
俺のギターよりも二回りほど格好いいギターだ。ちょっとばかり羨ましい。俺の癖に俺よりいいもの持ってるなんて、金銭に余裕があるのか。
「そういうお前はどうなんだ?フルダイブゲームやらされてんのか?」
「ん……そっかお前はまだ続けてるんだな。俺はすっぱりやめたよ。SAO連中ともほとんど会わない」
「え、やめたのか?薦められはしたんだろ?」
「まあな。でも……本気でデビューするんなら、SAOの肩書は邪魔になるかもって思ってな。みんなには申し訳ないが断ったよ」
俺より大人びている気がする目の前の自分は、遠い目をして上を見上げた。
「思い出すな、SAOの記憶。攻略組の力強い足音、客の足音、聞き慣れたネット界隈の用語とか、ゲームの行く先とか、恋話とかさ。俺に話しかけて歌を聞いてくれる人が増えたり離れて行ったり……全部が全部、きっと今の俺の支えになっている」
「なのに手放したのか?大成するために……」
「お前は違うのか?」
「む、まぁ。俺はちょっと押しが弱くて流され易いみたいだ」
ふーん、と目の前の自分が相槌を打った。
自分の意志力の弱さを見せつけられた気がして気まずげに目をそらすが、目の前の俺はそんな俺から目を逸らしていた。
夢を追うために決断をした俺と、決断できなかった俺。
俺には自分が目を逸らした理由がわかるのに、決断できた俺が目を逸らす理由はわからなかった。
「どうしたんだ?ちゃんと自分で考えて決断して、夢を追いかけてるんだろ?」
「あ、ああ……最近じゃ結構、現実世界で名が売れてきてさ。SAO関係なしに人気あるんだぜ」
「立派なことじゃないか。どっちつかずでダラダラしてる俺にはすげぇ耳の痛い話だ」
「でも、さ」
自分のギターに目を落とした目の前の俺が、呟く。
「でも、SAOのみんなとはもう殆ど会わない。時々ファンレターで知らせが届くけど、やっぱりあの頃のファンと離れちまったなぁ、って寂しい気分になるのさ」
出会って別れてを繰り返しながらも夢へと舟をこぎだした俺は、その夢を積み上げる土台になったであろうみんなと離れなければいけなくなった。繋がりは消えていないけれど――思い出す記憶は薄れて、遠くて、少しぼやけて。
「俺とイナズマみたいに。いや、イナズマとミスチルから離れたときの俺みたいな……」
「うん、そんな感じだ。踏み出してから後ろを見たらさ……もうとてもじゃないが戻れない道に踏み込んでた」
「…………」
「でも、俺はミュージシャンとしての道を進むさ。正しいのか間違ってるかなんてわかんないけど、前には進んでるからな」
「………そういえば、俺も少しは前に進んでるんだったな」
思い出した。俺も前へ進んでいるんだ。
ALOで新しいファンが生まれて、現実世界だってちょっとは増えた。
目の前の俺よりずっと緩慢な踏み出しでしかないかもしれないけど、たどり着くかもわかりないけど。
「なんかありがとな。歩き続ける理由を再確認出来た気がするわ」
「俺も……話を聞けてちょっと落ち着いた。思い出は今も積み重なり続けてる。まだ前へ進める。ありがとう」
そう言葉を交わして、俺たちはその場をすれ違って前へと進んでいった。
振り返ると、すれ違った方の俺の先にはドラムやベースを構えて待ってる何人かの男女がいた。その後ろには顔も見たこともないたくさんの人々が、立派なギターを抱えたあっちの俺を歓迎するように手を振っていた。
羨ましいな、と少しだけ嫉妬していた俺は、不意に手を引っ張られる。
見れば、ユウキがいつもの笑顔で俺を引っ張って反対方向に連れて行こうとしている。小柄な体躯に似合わぬパワフルな行動に苦笑いする。ユウキの奥には剣を、槍を、斧を掲げた冒険者たちが笑顔で待っている。
ユウキ――そういえば、俺に自分の歌う意味を考えさせた切っ掛けはユウキだった。
今だってこうして俺を振り回していて、でもそんな彼女の子供っぽいところに触発されてかオンラインにもちょっとずつ肯定的になった。彼女との出会いも、気が付けば大きな転換だった。
俺はもう一度振り返って、遠ざかる俺の背中に声をかける。
「なあ!お前はユウキに出会ったのか?」
「……彼女と初めて会ったのは、アスナに頼まれて歌った彼女の墓前だった」
「――えっ?」
一瞬その言葉に耳を疑って立ち止まった俺に、向こう側の俺は苦笑しながら忠告するように言った。
「大事にしてやれよ、その子。『お前』が助けた子なんだからな」
「――よう。様子を見に来たぜ」
「あ、お兄ちゃん!おーそーいー!」
「悪い悪い、信号にことごとく引っかかっちゃってな」
最近はよく足を運ぶようになった病院の一室で、今日も彼女は元気に出迎える。
その笑顔につられて笑いつつ、ギターケースを近くの壁に立てかけて彼女の病室の隣に座る。
もう体力はそれなりに回復したのか、今や病院の敷地内を歩き回ることも出来る。快活な彼女から溢れるように感じる生命力は、一緒にいるだけで俺も恩恵にあやかれそうなほどだ。
「ところで木棉季(ゆうき)。お前、なんでALOではお兄さんって呼ぶのに現実では『お兄ちゃん』なんだ?」
「うーん、なんとなくお兄ちゃんって呼びたかったから!ほら、ALOはALO、現実は現実で違う選択をしたかったっていうか!」
「違う選択、ねえ」
俺は、今日に見た奇妙な夢を思い出して少し考え込む。
同じ場所を目指して違う道を辿ったあの俺。ユウキと木棉季もまた、辿る道は違えど目指す場所は一緒なのだろう。
ただの夢でしかないはずの「成功した俺」は、ユウキの事を「俺が助けた子」だと言った。
彼女が助かったのは、彼女が奇跡を起こしたからだ。俺はただ単に偶然出会って、未来が誰の手に握られているのかを自分なりに答えただけだ。
そんなちっぽけな選択だけで、奇跡の有無というものは変わるものなのだろうか?
我ながら突拍子もことを気にするな、と思いながらも、俺は木棉季に質問した。
「木棉季、お前は俺と出会わないことで今と違う道を歩んだ自分がいたとしたら、そいつのことを羨ましく思うか?」
「……?それってどういうこと?」
「あー……そうだな。例えばだけど、俺と出会わない代わりに別の大勢と友達になってる自分がいたら、お前はその自分をどう思う?」
「友達たくさんの代わりにお兄ちゃんがいない……うーん……」
しばらく目を閉じて散々唸りながら考えていた木棉季は、やがて顔を上げて俺にこう言った。
「じゃあ、今からお兄ちゃんと一緒に友達増やす!それで解決するから羨ましくない!」
「…………こいつめっ」
「わわっ、ちょっとお兄ちゃん?なんで急に僕の頭を撫でるのさ?」
「撫でたいからだ。ダメか?」
「……………いいよ?」
感謝を込めた俺の掌を、木棉季は少しうつむきながらも恥ずかしそうに了承してくれた。
失ったものは取り戻せない。
でも、まだ持っていないだけなら今から見つけに行けばいい。
そんな簡単なことさえ気付かない自分に道を示してくれる人間は、得難いものだ。
後書き
平沢進より「Sign」とJUDY AND MARYより「そばかす」、そして三つ目はBUMP OF CHICKENより「ロストマン」を聞きながら書きました。
いつもより話は気持ち軽めというか、割とおふざけでやりました。
ちなみに分かりづらかった人が誤解しないように念のため……「失われた選択肢」は、ユウキと出会わなかった正規ブルハとユウキ生存ルートのブルハが夢の中で邂逅するお話です。
取り上げる曲は今までブルーハーツだけでしたが、これからはそれ以外も書きたいです。が、正直アニソン以外の音楽には明るくないのが現状だったり。
何かいいロックバンドの曲とかあったら作者メッセージとかでこっそり教えてくれると嬉しいな。
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