戦国異伝
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第百八十七話 舞い乱れる鳥その六
「攻めるぞ」
「それでは」
「今夜に」
元春と隆景も応えてだ、そのうえでだった。
三万の兵を進めそうして山に入る、織田軍が進んでいるその先の山にだ。彼等も織田軍が進む先は察しがついていてその通りに進んでいた。
だが織田軍は物見を多く出していた、そして。
元親はある山を見てもだ、こう言うのだった。
「あの山じゃな」
「といいますと」
「あの山に」
「うむ、毛利の軍勢がおる」
その山を指差しながらだ、元親は弟達に述べるのだった。
「あそこにな」
「それがおわかりになられるのは」
「やはり」
「よく見るのじゃ」
その山をというのだ。
「じっくりとな」
「一体何が」
「何があるのでしょうか」
「鳥が乱れ飛んでおるな」
見ればその通りだった、山の鳥達がだ。
山の上で慌ただしく乱れ飛んでいる、元親はその鳥達を見て言うのだ。
「あれじゃ、つまりな」
「下に兵達がいて進んでいる」
「だからこそですな」
「鳥達も騒いでおるのじゃ」
見れば元親は山をよく見てはいなかった、それよりもだ。
鳥達を見ていてだ、そして言っていた。
「あれじゃ」
「では」
「毛利の軍勢はあの山にいますか」
「あの山には兵は入れるな」
これが元親の考えだった。
「入ってこちらが察したと思われはならぬ」
「左様ですな」
「それでは」
「すぐに殿にお知らせするぞ」
元親は親貞と親泰に言った。
「よいな」
「はい、では」
「これより」
弟達も元親に応える、そしてすぐにだった。
元親は信長にそのことを伝えた、すると。
信長はその話を聞いて確かな笑みを浮かべた、そのうえでこう言った。
「よし、これで確実に勝てる」
「では今夜ですな」
「敵を迎え撃つぞ」
毛利のその軍勢と、というのだ。だがここでだった。
信長は家臣達にだ、強い声でこう命じたのだった。
「まずは兵達に早く晩飯を取らせろ」
「飯ですか」
「まずは」
「それも美味いものをたらふくな」
こうも言うのだった。
「そして早いうち、日が暮れると共に寝てじゃ」
「そうしてですか」
「敵に備えますか」
「その通りじゃ。敵は真夜中に来るからな」
「その前に」
「ゆっくりと休み」
「そうしてな」
そのうえで、というのだ。
「密かに起きてな」
「武具を手にし」
「そうして」
「迎え撃つぞ。よいな」
「はい、では」
「これより」
家臣達も応える、そうしてだった。
織田家の軍勢はまずは早いうちに晩飯を食った、それも美味いものをたらふくだ。だがそれでもだった。
その彼等を見てもだ、毛利の軍勢はこう言うばかりだった。
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