ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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待ち伏せ
ある程度仲良くなった面々と挨拶を済ませ、村から出る。相変わらず薄暗い土壁が続いていた。
「じゃあレア、道案内を頼む」
「うん、任せて」
村を出ると左右に道があるのだが、レアが選択したのは左だった。
「こっちか?」
「そうだよ?ここを真っすぐ行ってからちょっと複雑に曲がった後、もう少し行って……」
聞いてる方に解らせる気がないかのようなレアの説明を適当に聞き流しながら、腰の剣に手をやる。
「……ユウキ」
「うん、ボクも気づいてるよ」
俺とほぼ同時に剣に手をやっていたユウキは若干嬉しそうな声色で言った。
……自分の剣があるのが嬉しいのね。いらないとかなんとか言っていたが、実際に手にしてみると欲しかったということを自覚したらしい。
「で、その先をなんやかんやで行くと……ってどうしたの?」
調子よくレアは空気の違いをようやく察知したらしく、説明を切ると首を傾げた。
レアは一応弱者の立場にあるはずなのだが、この危機管理能力の無さはなんだろうか?
俺達よりも高くても不思議ではないはずなのだが……。
「……この先の曲がり角の先に数人、待ち伏せてる」
あちらに察知されたことを悟らせてはいけないので声を潜めてレアに簡単に状況を説明した。
「曲がり角に数人?……まさか待ち伏せぇっ!?」
俺は驚いて叫びそうになったレアの口を素早く手で塞いだ。同時にユウキがレアの腹に右ストレート。確かに肺から空気を抜けば声は出ないが……容赦ないな、ユウキ。
「さて、どうする?」
見られていた様子はないので、まだ優位性はこちらにあると思うが。
「リンはどう出てくると思う?」
「そうだな……。角を通り過ぎたところを後ろから……というのが一番有力だな。あの角は直進するのが正しいんだろ?」
「っ~~う、うん。そうだけど」
痛みで悶えていたレアは涙目になりながら俺の問いに答える。今度は声のトーンを落として。
「じゃあ、後ろに注意しながら通り過ぎればいい?」
「ああ。まあ、自分が捕食者だと思い込んでるやつは襲い掛かる瞬間が一番無防備だからな」
狩人は攻めの状態では強いが、守りに回ると途端に弱くなる。
そうこう話しているうちに角に差し掛かった。
軽くそちらを見るが、どうやら奥にえぐれている場所があるようでそこに隠れれている。身体は隠れているが、剣の鞘が見えている当たり、未熟さが滲み出ていた。
「……どちらが獲物か、思い知らせるとしようか」
「死ねえぇぇぇぇ!!」
曲がり角を通り過ぎて数m。こちらに向かって走ってくる気配。バレても構わないと思ってるのか、物音も殺気も全快である。
しかも声まで出しているオマケ付き。完全に不意をつかれている素人ならともかく、それでは俺らを舐めすぎだ。
奇襲は視界外から静かにかつ正確にやるものである。
「っ!」
「やぁっ!」
「うわっ!?」
三者三様の反応をする俺達。
俺は振り向き様に居合いを放って奇襲者の剣を弾き飛ばす。そして相手の勢いを利用した当て身で鳩尾を突いた。結果として襲撃者は一撃で沈んだ。まあ、気絶しただけなんだろうが。
ユウキは襲撃者の剣を半身になって回避すると、そのまま抜き出した剣の柄で襲撃者の顎を突き上げた。やはりこちらも一撃で沈む。
問題はレアだった。来るのはわかっていたのだが、なぜか驚いたようなモーションを取っていた。そしてそのまま襲撃者に捕獲され、剣を首筋に突き付けられてしまう。
「おい、レアが殺されたくなかったら剣を捨てろ」
「ひっ……」
剣を突き付けられているレアは恐怖でガタガタと震える。
あー、どこかで見た顔だと思ったらレアの集落の一番強かったというあいつか。
確かに歓迎会の時は見かけなかったな。どうでもよかったから全く意識してなかったが……。
俺達が居る間、あの集落のパワーバランスは完全に崩壊し、彼らの居場所はなかったのだろう。なまじ元々一番強かったせいで増長した自尊心が多大に傷付けられたのは想像するに難くない。強いから、という免罪符は消え、彼らに残ったのは今まで好き勝手やってきたことに起因する敵愾心だけ。こうなったらもうあの集落で生きてはいけないだろう。……誠実に謝罪をすれば別だけれど。
まあ、完全に自業自得なのだが、さっきも言った増長した自尊心のせいで自分が悪いと認められず、そのせいで謝罪もできない。ならばそのパワーバランスの崩壊の原因を作った俺達に責任を転嫁し精神の安定を図ったのか。
一言で言うなら所謂八つ当たりというやつである。
「……というかレア。警戒しとけと言っただろう。なんで捕まってるんだ?」
「だ、だって知ってる顔だったから……」
ゴブリンかなにかが出てくることを予測していたらしい。そう予測していたら見知った顔が出てきて驚愕してしまったと。
同じ人種を斬るにはかなりの覚悟が必要だ。ソードアート・オンラインで初めて斬った時はかなりの心労があったな。ちなみにユウキは長い間ゲームが現実だったからそもそもの土台が違う。
敵だと思えばできるだろうが、レアには難しかったらしい。
俺達日本人よりは敷居が低いと思うのだが……。
「完全に敵だっただろうが。殺しても問題はなかったと思うぞ?」
殺さずに済むのがベストだとは思うが。……別に情けとかそういう問題ではなく、単純に血の匂いが周りに充満するのが問題だ。反り血の問題もあるし。
「うー……ごめんなさい……」
「何、会話してんだ! さっさと武器を捨てやがれ!」
口汚く唾を飛ばしながら叫ぶ……名前がわからないが男。
さて……どうするか。武器を捨てても素手で戦えるのだが、それはあちらに知られている。何らかの対策は取ってくるだろう。
暗器の類いもバレてる可能性が高い。鍛冶屋に作ってもらったものばかりだし。現に男はレアを盾にできる位置を取っている。体格が違うため、出ている箇所はあるのだが、残念ながら有効打が与えられるような場所ではない。
「どうする気だ?」
「はっ、決まってんだろ。テメェをぶっ殺してレアとユウキを俺のものにすんのさ」
ユウキを呼び捨てか。……命知らずめ。呼び捨てにされ、さらに自分のもの宣言されたからか、隣にいるユウキの怒気が正直怖いくらいに高まってるんだが。
ユウキって怒ると笑顔になるんだよね……。
さてと、さっさと片付けないとユウキを宥めるのが面倒そうなんで動くか。
「……そうか。なら……」
持っていた剣を地面に投げ出す。男の視線がわずかに動き、剣に向けられた。
「夢から醒ましてやる」
その一瞬で袖口に入れていたケースから直径一センチ程の球を手の平に落とす。
下半身の動きではなく、上半身の動きだったため気づくのに遅れた男を、側面(・・・)から高速の球が襲いかかった。
壁による反射を利用した曲射を暗器の一種である指弾を応用した一撃。
熟練者の指弾は拳銃にも劣らないというが、そこまで慣れているわけではないのでせいぜい当たれば痛い程度なのだが、必要なのは痛みを受けた際に起きる身体の防衛本能の喚起。俺が曲射で当てたのは男の腕。反射的に動いた男はその痛みが発生した場所を庇うようにしてわずかに身を引いた。
身体がレアの影から出る面積を小さくするために逆手で握っていた剣がレアの首筋から離れる。さらに意識は一瞬だろうが完全にこちらから離れた。
その隙にユウキが踏み込んだ。
「っ!」
隙を付くため、声を極力落としたユウキの剣がレアには当たらず、男の剣にのみ当たるという絶妙な起動で振り抜かれた。
「なんっ……!?」
異変を察知し、こちらを向いた男。しかし、時既に遅く、その男の手から剣の重みが消失していた。
金属特有の甲高い音が鳴り響く中、ユウキは止まらない。
手にかかった衝撃で浮いた男の上体に、全体重の載った肘鉄を打ち込み、吹き飛ばす。うめき声をあげながら壁にたたき付けられ、そのまま地面に倒れ込んだ男に向かってユウキは跳躍。そのまま男の象徴を思いっきり踏み付けた。
……それは痛い。男として同情してやるが、ユウキを怒らせた方が悪い。というかあれは死んだな。男として。
結果として男はうめき声すら出せず、昏倒した。多分、壁にたたき付けられた時点で昏倒していただろうが……。
「大丈夫?」
「う、うん。ありがとう……」
襲われた相手ではあるが、酷いオーバーキルをされたのを見たからか、レアは若干引いている。
その様子にユウキは首を傾げるが、すぐに笑顔になって俺に抱き着いてきた。
……少し引いてしまったのは内緒。
「さてと、こいつらはどうするか……」
「ボクはレアとリンに任せるよ!」
「私は……」
レアは迷っていた。襲われたのは事実だが、こんなのでも、元々は同じ村で住んでいた(嫌っていたとはいえ)仲間だ。甘い性格のレアには即座に切り替えることができないらしい。
「なら、こうするか。このまま放置する。こいつらは(運が良ければ)助かるし、俺達も無駄な時間を使わなくて済む」
十中八九ゴブリン達に発見されて肉にされそうだが、ここで俺達が殺すのは後味が悪い。見捨てるのも十分後味が悪いが、殺すよりはマシだろう。
それにレアならきっと……。
「そうですね! じゃあ、道案内を再開しますね」
単純だから字面通りに受け取るだろう。簡単に納得し、先へ進んで行く。ユウキもそのすぐあとに続いた。
それを横目に見ながら、俺は三人の襲撃者達に向かって呟く。
「……刈り取った命の重みを背負うのは俺だけで十分だ。謝罪はしないがその責務から逃げはしない。だから恨むなら俺を恨め。……まぁ、聴こえてないか」
自嘲げに微笑んでいると、前方からレアの元気な声が聴こえてきた。
「あれ?何で立ち止まってるの?早く行こうよ」
「ああ、わかってる」
微笑みを引っ込め、小走りでレアとユウキに追いつく。
先導するレアの後ろをユウキと並んで歩いていると、ユウキがレアには聴こえないように耳打ちをしてきた。
「リン。ボクも背負うからね」
何故かユウキにはバレていた。そんな疑問が雰囲気に出ていたらしく、ユウキは苦笑する。
「リンのことだからね。アスナとかキリトから聞いてたんだ」
「あいつらはまた勝手に……」
守るために剣を取り、人の命を奪ったソードアート・オンラインの中での出来事。対ラフコフ戦でも俺は多数の命を奪った。そのことを人の知らないところで話していたらしい。
「勝手に聞いたことは謝るよ。でも、リンのことをもっと知りたかったから……だから」
「別に怒ってはいない。ただ、聞いていて楽しい話ではなかっただろうと思ってな」
「あはは……」
図星だったのだろう。笑ってごまかすユウキ。
「でも、そういうのにちゃんと向き合ったっていうのはカッコイイと思うよ?ボクは途中でどこか諦めちゃってたし。自分の命も背負えないボクが他人の命を背負おうなんておかしいかも知れないけど……ボクはリンだけに背負わせたくない。ボクだってリンの彼女なんだから!」
自然と大きくなったユウキの声に反応してレアがこちらに振り向くが、手で気にしないように合図して、俺はユウキの頭を撫でる。
「じゃあ、半分頼む」
「……うん!」
ユウキは笑顔で頷いた。
後書き
どうも、蕾姫です。
今回は村編最終回です。あのまま我が儘な連中が済ますわけがない、といったフラグを回収しただけです。
早く原作に合流したいので道中は全カット。次はオークの集落周辺に行きたいなぁ……。山を抜ける辺りでちょっとイベントを挟むんでその辺りですかね。
いろいろ募集しつつ、この辺りで。ではでは
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