Gフォース~正義の行方~
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第9話 ガイガンの野望
ガイガンに意識を乗っ取られたジョアンナは大きく開けた口を徐々に閉じて行った。
フォードはその姿に戦慄していた。
ショックだった。
初恋の女性が、サイボーグにされ尚且つ怪獣に今その精神を乗っ取られている。
ジョアンナは再び口を開けると、壊れた腹話術の人形のように話を始めた。
その声は彼女の物ではなかったが。
「ブロディ君、安心したまえ。私は約束を守る。君が私を攻撃しない限りは私は攻撃しないよ。少なくとも24時間以内は。」
その声は低かった。
まるで、ドス黒いこの世の悪を担うかのような声だった。
ジョアンナを乗っ取ったガイガンは冷静にその場に近づくと、義手の指の一つからUSBメモリを取り出すとコンピューターに接続した。
「さて、君は今まで怪獣と戦ってきたわけだ。」
「そうだ。」
「私は実のところ、君に感謝している。もしも君たちがここまで怪獣を倒してくれなければ後々厄介なことになっていただろう。」
フォードはムッとした。
今までしてきたことを感謝されるのはかまわない。
だが、こいつ。
ジョアンナを乗っ取っているこいつにはされたくない。
「彼女を解放しろ。」
「それは無理な質問だな、ブロディ君。残念だが彼女の脳の2割は失っている。脳というのは2割でもなくなってしまえば機能しないのだよ、それを私が補佐しているというわけだ。私が彼女を完全に開放すれば彼女は死ぬぞ。」
ジョアンナは死人だ。
彼女はそのまま死んでしまうのか。
フォードは唇をかみしめた。
命を縦にするこの怪獣のやり方にはフォードは納得できなかった。
だが、ここは引くしかなかった。
「貴様のようなやつに感謝されたくない!」
「それはそうだろうな。だが私は本心から感謝している。君の父親にもだ。」
すると、コンピューターのモニターはフォードの父親をうつした。
メガネをかけたハゲ頭の中年男性。
間違いなく、ジョーだった。
フォードは父の画像を見れたことに少し嬉しく思った。
「君の父がもしも、ゴジラ細胞を利用したメカゴジラを生み出さなければ私は生まれてこなかった。つまり私たちは兄弟ともいえるわけだな。」
フォードははじめてガイガンの誕生原因を知った。
ゴジラ細胞が、ガイガンのAIに何らかの原因を産んで誕生したのがガイガンだったのだ。
「お前のような兄弟はいらない。」
ガイガンはフォードの言葉を無視すると、そのまま続けた。
まるで、その姿は教師のようだった。
落第生に世界史を教える教師のようだったのだ。
「そうだろうか、では君が守ってる世界やこのアメリカ、そして君の傍にいるそのかわいい小美人にも絡めて一つ面白い事を教えてやろう。」
フォードはゾッとした。
ヒオの正体に気づいていたのだ。
今までの敵とは違う。
ヒオも怯え、ポケットの中で縮こまっていた。
本当は怖くて泣きそうになっていたが、抑えていた。
「今から100万年近く前、地球にいた古代の先住民族と宇宙人との間で戦争が起きた。その結果、眠っていたゴジラが核のエネルギーに誘われて蘇った。その結果宇宙人は敗北し、先住民族もゴジラの強すぎる力の前に滅んだ。」
ガイガンはするとゴジラの画像をみせた。
そして、いくつかの核爆発の画像も次にみせた。
フォードはヒオを守るために胸ポケットをやさしくさすった。
「だが、宇宙の列強種族はどうしても地球をあきらめることができなかった。彼らは一部を地球に残した。その後、彼らの一部は常に政治や経済のバックを支えていくことにした。」
ガイガンはさらに次々の画像をみせた。
エジプトのファラオの壁画、中国の始皇帝、そしてローマ皇帝。
フォードは彼の意図してることがわかった。
モナークは常に世界の闇で、政治や経済を動かしていたのだ。
「そして、そのたびに彼らは考えていた。秩序はどのようにして保つのか。完全な世界はどのようにして生み出すのか。そこで彼らは時の権力者たちを裏で操っていた。だが、そのたびに権力者は覇権を衰退させていった。」
やがて、スペインの無敵艦隊をみせた。
次にそれを打ち破ったイギリスのエリザベス1世をみせた。
まるで、スペインがイギリスに勝ったことを暗喩するように。
「スペインがイギリスに負けるとイギリスに、イギリスがアメリカに負けそうだとみるとアメリカに彼らは援助した。」
やがて、次に彼はアドルフ・ヒトラーと行進するナチスドイツの軍隊をみせた。
ヒトラーの高く、突き刺さる演説がフォードたちの前に広がった。
映像だったが、フォードは圧倒された。
「モナークは考えた、国民は常に大きな闘争を求めている。秩序ある世界を作るためには闘争を常に出さなくてはならない。彼らはそこで、ヒトラーやヒロヒトのような『敵』を作り出した。」
次に映ったのは旧日本軍のゼロ戦と真珠湾攻撃だった。
その後、原爆とヒトラーの自殺写真をみせた。
「もう『敵』がもう使えない場合は潰した。やがて彼らは世界のバランスを保ち、敵を作り出す場合はアメリカ国内にも必要とわかり、時には国内の『権力』を『敵』にしたのだ。」
彼はそういうとソンミ村の虐殺をみせた。
そして、枯葉剤やナパームでベトナム人の村を攻撃する米軍の映像もみせた。
延々と延々とループ再生するように。
まるで、壊れた蓄音機が同じ音楽を聞かせるように。
彼はそこを延々と再生した。
そして、ジョン・レノンや平和活動をする若者をみせた。
「時には『無能な働き者』もうまく利用した。」
次に、ケネディ大統領が暗殺される映像をみせた。
頭がふきとぶケネディ大統領が永遠とうつっていた。
「抜け駆けして英雄になろうとするやつには死んでもらっていた。」
そして、やがて映像は9.11にうつった。
同時多発テロはフォードも覚えていた。
当時はTVでみていて世界が終わると感じていた。
「だが、これが原因でそれもうまくいきづらくなっていた。まあ、無論こういうことをするようなやつは死んでもらっていたようだが。」
次に彼はビンラディンの死骸をみせた。
射殺されたビンラディンと部下たちを米軍の部隊が蹂躙していた。
すると、その中の一人をガイガンはみせた。
「君の知人も駒に過ぎなかったようだ。」
その中にいたのはゴードンだった。
話に聞いたことがある。
ビンラディン暗殺に関わったと。
「しばらくはゴジラや怪獣たちが『敵』だったが今は別の物に変わった。」
すると、モニターは今度はクラウンをうつした。
赤い髪と白いメイクをしたテロリスト。
以前、フォードが関わった男だった。
あの豪華客船で、虐殺と破壊をのためだけに襲撃したテロリスト。
「彼のような存在は世界共通の敵だ」
するとモニターは再び黒い画面に戻った。
フォードは、再びジョアンナのほうをみた。
というよりも、その中にいたガイガンを見たという感じだったが。
「これが君が守ろうとしている世界だ、君が世界を守ろうとするたびに『支配者』の支配は進んでいく。そして、それを終わらせるには人類の社会の破滅以外ないのだ。これでも、君は世界を守るのか?」
「守る。」
フォードは即答した。
迷うことはなかった。
たとえ、どんなに世界が腐っていてもフォードは守りたかった。
「なぜだ?」
ガイガンは理解できなかった。
こういった映像をみせて、フォードも支配下にしようとしたが不可能だったようだ。
そんなガイガンを後目にフォードは答えた。
「妻子のため、兄のため、友人のため、そして人々のためだ!」
「なぜだ、ともに世界をリセットしていい世界に作り替えようと思わないのか。」
「思わない。」
「クラウンやビンラディンのような混沌を生むテロリストやシンクレアやモナークのような支配者から、この世界を救うにはたった一つの方法しかないのだ。それは腐った人類社会を滅ぼすことだ。」
「お前は、シンクレアを侮辱した。だがお前はシンクレアよりおろかだ。」
ジョアンナの目は赤く鋭く輝いた。
間違いなく、ガイガンは怒っている。
ガイガンはジョアンナの義手を使い、フォードの首をつかみ持ち上げた。
だが、フォードの表情に苦悶はなかった。
それどころか、敵の卑小さに対する嘲笑があった。
「機械的と思ったが、随分と感情的だな。お前は人間を軽蔑しているが人間以下の存在だ。」
「お前を仲間にして彼女と仲良くさせてやろうと思っていたが、見当違いだったようだ。ここで死ね。」
すると空気を切り裂き、ジョアンナの頭が何か撃たれた。
ジョアンナの体は大きく吹き飛ぶと、壁にぶつかった。
「女に嬲られるとは、弱くなったな少尉。」
太く男らしい声だった。
ふと、煙がたちこめると奥から大柄な男がでてきた。
ゴードンだった。
彼の手には大きなショットガンがあった。
すると、破壊された壁の中からジョアンナが出てきた。
ジョアンナを乗っ取っていたガイガンは口にショットガンの弾を咥えていた。
そして、一気にかみつぶすと、ゴードンの方へと向かっていった。
その動きは非常に素早かった。
だが、ゴードンの動きはそれ以上に速かった。
ジョアンナの存在に気づいていたゴードンは素早くアッパーカットを繰り出した。
「まあまあのスピードだ。」
ジョアンナの体は宙に浮くと、大きく舞い上がった。
フォードは一瞬の出来事に目が点になっていた。
やがて、地面に大きく着地すると素早く受け身をした。
ジョアンナの中を乗っ取っていたガイガンは驚いていた。
人間は強い。
思っていた以上に強い。
「貴様、一体何者だ。」
ゴードンは女性の口から信じられない以上に野太い声が聞こえたことに少し驚いたが、まあ世の中そんなもんだろうと思った。
そもそも身長200m以上の怪獣がいる時点でこの世界はどうかしているのだと感じていたからだ。
「元コマンドー部隊隊長にして、地下格闘技場の殿堂入りチャンピオンだったボクサーだよ。」
「化け物か、貴様!」
ガイガンはジョアンナの体を繰り出すと、再びゴードンの方に向かっていた。
すると左腕の義手でゴードンの体を殴ろうとしたが、ゴードンは素早く受け止めた。
ガイガンは冷静に、少し距離を置くと彼の首をフォード同様につかんだ。
だが、ゴードンはそれを力づくで解除すると、そのままジョアンナの腕をつかみ地面にたたきつける一本背負いを食らわせた。
ジョアンナの体は再び地面にたたきつけられると、義目の赤い光を失い機能停止になっていった。
「俺より強い・・・。」
フォードは愕然としていた。
そんなフォードの傍によると、ゴードンは彼を無理矢理立たせた。
「大丈夫か?」
「大佐って化け物ですか?」
「お前もその内こうなる。」
ゴードンは冷静にそういうと、その場を急いで後にした。
フォードもそれの後に続いていった。
走りながら二人は会話した。
「奴は何だ?」
「サイボーグです。」
「サイボーグか、まあその内出てくるとは思っていた。TVにでてきたガイガンとかいうわけのわからん奴と関わりがありそうだな。」
「奴が操っています、彼女は俺の元上官です。」
「嫌な世の中だ。」
ゴードンはそういった瞬間だった。
空気を切る音が聞こえた。
次の瞬間、ゴードンが肩をおさえ血を流しながら倒れているのがみえた。
「大佐!」
「逃げろ、構うな。」
すると、赤い光が徐々に近づくのがみえた。
ジョアンナだ。
ゴードンが倒したと思っていたが、生きていた。
フォードはゴードンの肩をつかむと立ち上がらせた。
だが、ジョアンナの赤い目とサイレンサー付きのリボルバーはゆっくりと近づいてきた。
その時だった。
再び銃声が聞こえると、ジョアンナの体が宙を舞った。
すると、その中から見慣れた男がでてきた。
ハゲ頭とサングラスをつけた、今時時代遅れな80年代の格好をした男。
兄のサムだった。
「サム!!!」
サムの改造されたショットガンは光り輝いていた。
すると、サムはフォードにこっちに来いと手招きをした。
手招きをされたフォードはサムのほうに向かって走ってった。
ゴードンの肩を抱いたままだった。
「ゴードンはどうなった。」
「肩を撃たれてる。」
「とりあえず、ここから出るぞ。」
サムはそういうと、フォードとともにゴードンの肩をかつぐとそのまま彼を引きずるように連れていった。
負傷兵をまるで、仲間の兵士が助けに行くように。
やがて、3人はそのまま去って行った。
数分後、フォードたちがいなくなった後にジョアンナは立ち上がった。
ジョアンナの意識を乗っ取っていたガイガンはふと、体に受けた銃弾の痕跡を見た。
すると、ジョアンナの腹部を覆っていた装甲に少しの凹みがあった。
かなり改造されたショットガンだったんだろう。
「バカどもめ。」
ガイガンはフォードたちを内心笑っていた。
実はこういった事は彼の戦略の一つでもあった。
ゴードンの戦闘技術と、サムのショットガンの威力は想定の範囲外だったがガイガンはわざわざフォードの前に出てきたのは別の策略があったからだ。
元々幽閉された彼を救いサムが来るのはわかっていた。
そして、その隙に彼はドローン軍団を世界中の都市に配置していた。
トロント、大阪、ロンドン、モスクワ、ベルリン、ジャカルタ、カルカッタ・・・。
ガイガンはこうして邪魔者の時間を稼ぐ世界中に兵士と、自分の本体を送り込んでいた。
世界同時に攻撃をすれば、邪魔者に邪魔をされなくてもいい。
もしも、邪魔した場合は数百のドローンが相手だ。
ガイガンは時計をみた。
48時間後の、今。
世界からバランスを乱す人間はいなくなる。
皮肉にも、彼のシステムはモナークのそれの影響を無意識的に受け継いでいた。
さらにはゴジラの本能も。
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