黒猫が撃つ!
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一弾 武偵と掃除屋……
前書き
ハーメルン版を纏めた物です。
一話(3話分)を投稿するにはちょっと時間かかります。
なるべく早めに更新しますが基本は不定期です。
「なっ、どうゆうことだ⁉︎」
動揺して大きな声をあげる俺。
サヤは上半身を起こそうとする俺を介助しながら答えた。
「んーと、鏡見てみる?」
サヤの提案を受け入れ頷く俺にサヤは手鏡を手渡した。
鏡を覗くと______
「な、なんじゃこりゃあああぁぁぁ⁉︎」
鏡の中には小さな男の子、10歳くらいの小学生男子が映っていた。
ちょっと待て!
何だよ、コレ?
何でまた背丈が縮んでんだよ⁉︎
「元気出してトレイン君!
小さくなったトレイン君も可愛いよ?」
サヤは俺が小さくなったのにも関わらず嬉しそうに微笑んでいる。
興奮してるのか両手をわきわきさせながら近づいてきた。
「久しぶりに会ったトレイン君が子供姿……メチャ嬉しいっス」
「嬉しくねえーよ!」
「トレイン君」
「何だ?」
「抱っこさせて」
「絶対嫌だ‼︎」
「いいではないかー、いいではないかー」
俺の子供姿を見て理性が飛んだのか、サヤが俺を抱きしめようと突撃してきたが結果的に彼女は俺を抱きしめられなかった。
何故なら……
「ア、アンタ達。何してんのよ⁉︎」
「……悪い、邪魔したな」
部屋の戸が開き、あのピンク髪の少女とキンジが入ってきたからな。
「……助かった」
「ちぇー、いいところだったのに」
サヤ、お前は反省しろ!
「先ず、自己紹介から始めましょう。
あたしは神崎・H・アリアよ」
「遠山金次だ」
「水無月沙耶っス!
ピチピチの17歳で専門科は強襲科と救護科を兼任してまッス」
「トレイン・ハートネットだ。
仲間と共に掃除屋をやってる」
お互いに自己紹介をすることにした。
サヤはともかく、キンジと少女のことは何も知らねえからな。
俺達はアリアの案内で先ほどまでいた建物の近くにある彼女御用達の喫茶店に来ている。
飲み物の注文を終えるとアリアが自己紹介を始めたので俺も彼女達に習って言ったんだが……。
「掃除屋?」
「なあ、トレイン。掃除屋って何だ?」
「へっ?何って賞金首を捉えて引き渡すのが仕事だろ?」
「トレイン君。この世界には掃除屋なんてものはないっスよ」
「へ?」
「武偵の隠語かしら?」
「……劇団の人なのかもな」
サヤは呆れたように呟き、アリアと名乗った少女は眉を潜めて考え込み、キンジは何だかわからない事を言っていたが俺を馬鹿にしてることはわかった。
「アンタ、ランクは?」
「は?ランク?」
「武偵ランクよ。
アンタ程の腕前ならAはいってるわね。
いえ、Sランクでもおかしくないわ」
「ちょっと待てよ!
俺は賞金首じゃねえ。
だからSとかなんて賞金ランクはついてねえ!」
俺は机を手でバシッと強く叩いて抗議した。
アリアは俺のことを犯罪者扱いしてやがるが、俺は掃除屋になってからは後ろめたいことなんてして……なくもねえが、犯罪者呼ばわりされるのは嫌だ!
「いや、トレイン君。
そのランクじゃないよ?」
「へ?」
ランクって賞金首につけられるランクじゃねえのか?
俺達掃除屋が狙う犯罪者、とりわけ賞金首にはランクがつけられる。
SSからCまでありSに近い程、その脅威度は高い。
「さっきから気になってたけどサヤ、アンタとトレインって知り合いなの?」
アリアが俺とサヤの顔を興味げにチラチラ見てきた。
何だ?
サヤと知り合いだとおかしいのか?
「うーんと、何て言ったらいいんだろう。
トレイン君は私の……」
「私の?」
考え込むサヤを見ていると何だが胸の鼓動が高まってきた。
何だ?
何でこんなに緊張してんだ俺は?
「トレインは私の……」
「「私の?」」
重なる俺とアリアの声。
キンジの奴は俺達の会話を聞きたくないのか顔を逸らして何やら数字を呟いている。
「私の……大切な」
何故だか顔を、頬を赤く染めながらサヤは言葉を続けた。
「私の……お、お、弟。
そう、弟みたいな人っス」
「弟……」
「何よ。
姉弟なの?
それにしては似てないわね。
まあ、いいわ。
それよりトレイン……」
アリアがその言葉に満足していないようだが顔を真っ赤にしたサヤを見てこれ以上の詮索は無粋だと思ったのか話題を変えた。
アリアに名を呼ばれた俺だが何故かサヤが俺を弟呼ばわりしたのを聞いてから心の中がモヤモヤしてしまった。だからもう一度名を呼ばれるまでアリアの声が耳に入っていなかった。
「ちょっと聞こえてるの?
トレイン‼︎」
「……ん?
何だ?」
「何だ?
……じゃないわよ。
アンタのランクと所属学科教えなさいよ」
「えーと、アリアちゃん。
それはね……」
話しを聞いてなかったことにお怒りの様子のアリアと彼女を宥めつつ、どう返答したらいいか困り顔のサヤ。
「んーと、さっきから気になってたんだが、ランクとか学科って何だ?」
ランクは俺が知っている賞金首にかけられるランクではないようだし、学科に至っては意味不明だ。
「何って決まってるでしょう!
アンタが武偵高で所属している学科と武偵ランクを教えなさいと言ってるのよ!」
「武偵って何だよ!」
アリアがそう言ってきたが困った事に俺は武偵高で所属している学科なんてないし、さらに言えば武偵というやつでもない。
困った……という顔でサヤを見れば彼女は______
「しょうがない、か……。
トレイン君……ちょっと来て!」
サヤは俺の顔を見つめて何やら決意した、という顔で一度頷くと椅子に座る俺を立たせて手を握りながら歩き始めた。
「ちょっ、ちょっと何処に行くのよ!」
当然のように追てくるアリア。
キンジの奴は渋々といった感じで仕方なく追てきてるようだ。
「ちょっとサヤ。
何処に行くんだ?」
「校長先生の所に君を連れて行く。
後は君次第……」
「ちょっと待ちなさい!
こ、校長ってあの……?」
「そう、緑松武尊校長。
彼ならトレイン君を武偵にできる……かも」
「ちょっと待ちなさい!
そもそもトレイン。
アンタ何者なのよ!
武偵じゃないのに帯銃してるなんて法律違反よ!」
アリアがそう叫び、そんなアリアに向けてキンジが「不法進入したお前が言うな!」とか呟いている。
「トレイン君、大丈夫だよ。
君に不利にならないように私が守るから」
「あ、えーと……俺武偵とか、別に興味ねえんだが……断」
断れねえか?
と続けようとした言葉をサヤに遮られた。
「駄目だよ?」
サヤの微笑み(ただし、目は全く笑ってねえ⁉︎)により、抵抗むなしく俺は武偵高で一番偉いという校長に会う為にサヤに引きづられながら武偵高の敷地内に入って行った。
サヤに引きづられ学校の校舎、教務科棟と呼ばれる建物の中に入り、エレベーターで上の階に上がり廊下を進んだ先にある扉の前でサヤに手を離された。
扉窓はスモークガラスに覆われていて中の様子はこちらからでは見えない。
「先ずは校長先生と会う為に私の担任に取り次いでもらうからここで待ってて。あ、勝手に中に入ろうとしたら銃撃されるから気をつけてね?」
「……わかってるわ」
「ああ」
「銃撃?
学校なんだろ?」
何故だか緊張しているような、何かを恐れているような、そんな顔をしているアリアやキンジ。
ただ教師に会うだけで何でそんな顔をするんだ?
「トレイン。アンタ本当に何も知らないのね……命が惜しかったらこの棟では大人しくしてなさい」
「え?何でだ?」
「トレイン。アリアの言った通り、大人しくしてろ。
死にたくないだろ?」
アリアに続いてキンジまで俺に大人しくするように言ってきた。
二人の視線はサヤが入っていった扉の先の方に何度もいっている。
その顔は何かを恐るような、何かを警戒しているようなそんな顔をしていた。
「っ⁉︎」
二人の顔色を見ていた俺は突然浴びせられた気配の方に体を向け、向けると同時に抜いていた装飾銃をその気配の先、とある人物に向けていた。
「死にたい奴はどこのどいつやー?」
「うおっ!」
その人物が手にしている銃の銃口の向きから狙いは俺だとわかる。
俺はすぐさま装飾銃のトリガーに指をかけた。
だが前に子供化した時にそのまま装飾銃を撃っても反動で銃を落とした事を思い出し握るだけでトリガーを引くことは辞めた。
「トレイン⁉︎」
「なっ、蘭豹⁉︎」
「うりゃあ!」
______ドゴオーンと鳴り響く銃声とともに俺の方に飛んできた銃弾を装飾銃を使い、爪で弾き飛ばす。
「ぐっ……痛てえぇぇぇ⁉︎」
普段ならなんなく叩き落とせるはずの銃弾。だが、今のこの子供化した小さな肉体では弾の反動に体が耐えらねえ⁉︎
俺は身体を廊下の奥までそのあまりに高い威力により後方へ押されてしまった。
子供の身体でも反応できたのは以前子供化した時の体験やこれまでの経験、戦闘勘によるところだろうな。
だけど、それにしても……
「チッ、身体は痛てぇし、何より重いな……」
銃弾を装飾銃でガードするだけの単純な動作だが、装飾銃の重さは2.5㎏もあり、大人の身体ならまだしも子供の身体では若干重く感じる。
ただガードしただけでこれでは満足に銃撃することはできない。
どうしたもんかと飛んできた銃弾を叩き落としながら考えていた俺の耳に大声を上げる女性の声が聞こえてきた。
「オラー、死ね死ね!死に晒せー!
ワイを呼び捨てにした遠山も一緒に死に晒せー‼︎」
その大声の先に視線を向けると、サヤが入っていった扉が開かれていてその扉の中から2メートルはある長刀を何本も背負った大女が現れた。
その大女は髪型をポニーテールにしていてカットジーンズを着用している。
先ほど俺に向けて撃った拳銃を片手で握ったまま、ポニーテールをブンブン振り回しながら背中に背負う長刀の一つを片手で取ると突然襲いかかってきた。
「まずはお前から死に晒せー‼︎」
______ガキィィィィィィンと金属同士が当たる音が鳴り響く中、大女は長刀を装飾銃で受け止めた俺に嬉しそうな、まるで肉食獣が獲物を見つけたみたいな嬉々とした表情を浮かべ、長刀を握る手の力を強くしてきた。
「っ⁉︎
ははっ、イイぞー!もっと楽しませろやー!」
______キィン、キキィィィン、キィーン
1分、2分、3分……5分は経つだろうか。
最初は拮抗していたがあまりのその力強さに装飾銃でガードしていた俺は次第に後ろへと押されはじめた。
ぐっ……なんつう、馬鹿力だ⁉︎
一撃、一撃が途轍もなく重い。
それもただ重いだけではなく、一撃、一撃が鋭い。
まるでクロノスの時の番人やクリードを相手にした時に感じた重さと鋭さだ。
「ワイの攻撃を防ぐなんて見所ありそうな餓鬼やな」
大女はその肉食獣のような口元に笑みを浮かべると長刀を握る手とは別の空いている手に持つ大型の回転式銃を俺に向けて再び発砲した。
______ドウッ‼︎
「ちょっ……⁉︎」
落雷のような発砲音がして銃弾が俺の足元に着弾した。
幸いとっさに避けたから被弾こそしなかったが当たっていれば大怪我をしていた。
頭部に被弾していれば間違いなく死んでいただろう。
「この野郎‼︎もう我慢できねえ!」
俺は目の前の大女が撃つ度に銃口の向きや体の仕草から弾道を予測していき、回避を繰り返しながら女との距離を詰めていった。
「黒爪‼︎」
装飾銃の爪で力一杯、女の脇腹を殴った。
______ドゴオっと硬い物を殴りつけた感触がしたが殴ってすぐに気づいた。
この女の身体……筋肉でできた鎧みたいだ、と。
外見とは裏腹にその女の身体は強靭な筋肉に覆われていて装飾銃で殴りつけても骨を折るどころか筋肉を痛めることさえ難しいと殴った瞬間理解した。
「なんや、マッサージか?」
「ぐっ……殴った俺の方が痛てえとか、アンタ本当に人間か?」
元の身体の俺なら、あるいは装飾銃が完全にオリハルコン製だった頃ならこの女に大ダメージを与えることができたかもしれない。だが、今の子供化した俺の力ではこの女に鋭い一撃を与えるのはかなり厳しい。
だけど……。
「これならどうだ!
黒十字‼︎」
装飾銃に内蔵されているワイヤーを使い、普通に殴りつける黒爪とは違い交錯させるように切り裂くイメージで黒爪を再び放った。
______ドゴオオオォォォン。
先ほど放った一撃より重い一撃が女の腹部に入った。
女は俺の一撃を受けて後方3メートル程吹き飛ばされて床に倒れた。
「やったか?」
「……」
強烈な一撃が入ったことで痛むせいか、あるいはこんな子供(本当は24だが)に一撃を入れられたことを恥じてるのか、その真意はわからないが彼女の動きが止まった。
彼女は無言で床に倒れたままだ。
何にしてもチャンスだ!
そう思い、再度攻撃態勢に入りワイヤーと爪で殴ろうと近づいたが、彼女は俺が近寄ると素早く起き上がり______
「甘いわ、このボケ!」
「うげっ⁉︎」
______ゴッツーン
俺の動きを先読みした彼女に首根っこを掴まれて、そのまま体を逆さまな態勢で床に落とされた。
脳天から、な……。
「痛てぇぇぇー‼︎」
その騒ぎに気づいたのか、扉が開かれ中から煙草を咥えた女性や眼鏡をかけた女性が廊下に顔を出し、姿は見えないが声だけは聞こえる女口調の男性の声が聞こえた。
ポニーテールの大女はサヤや眼鏡をかけた女性やアリア達と何やら話していたが方針が決まったのか体を起こしてなりゆきを見ていた俺の方に寄ってきて言った。
「ワイに一撃入れる餓鬼とは面白いな。
ちょっとおとなしくしてろや!
ワイが校長と話しをしてくるから……」
「大丈夫かよ⁉︎」
思わずそう突っ込んだ俺は悪くねえ……よな?
ちょっとした騒動があったあの後、大女と煙草を咥えた女性とサヤが退室し、探偵科と呼ばれる推理や考察力、洞察力などが求められる科の担当教師、サヤやアリア達の担任らしい教師に教務科室の中に案内された俺達は部屋の中に多数並べられている教職員用の机の一つを周りを囲むようにしてその机の主が戻ってくるのを待っていた。俺達が取り囲む、この席の主の名は蘭豹と言うらしく、俺を銃撃してきたあのポニーテールの大女がそうらしい。キンジやアリアが言うには、強襲科と呼ばれる強襲を専門とする技能を教える科目を担任している教師で、香港と呼ばれる街のマフィアの娘でもあり、人間離れしたとてつもない怪力の持主らしく、何でも素手でバスを横転させたり、酔った勢いでこの学校が立つ人工浮島に素手で地面に大穴を開け、挙句には傾かせるなどの被害を出している問題教師らしい。
バスを素手で横転とか、浮島を傾かせるとか、いろいろおかしいだろう⁉︎
などと心の中で突っ込みつつ、さり気なく周囲を見渡した。
今は放課後とは言え、任務の報告、調査の確認や訓練の指導などで室内には二、三人の教師しか残っていなかった。
俺が周囲を見渡していると職員机上の電話が鳴り響き、一緒に残っていた女性教師がすぐさま電話に出た。
「はい、高天原です。
はい、わかりました……」
受話器を置いた女性は俺に視線を向けると告げられた内容を話し出した。
「ハートネット君。校長先生がお会いになられるそうですよ。
今から10分後に校長室でお待ちしているそうですので一緒に行きましょう」
「了解っと……」
「あ、あの先生。私も一緒に行きたいわ」
「お、おい。アリア」
俺が返事をするとすかさずアリアが追てくるという意思表示をした。
「う〜ん、ごめんね。神崎さん。それは無理なの。
校長先生はとってもお忙しいからお会いするのはハートネット君だけなのよ」
「ッ⁉︎」
子供を宥めるように、アリアを言い聞かせる女性教師。
表面上は和やかだが今、彼女から得体のしれない殺気を感じた。
いや、彼女だけじゃねえ。
この部屋全体から複数の殺気を浴びせられている。
「ば、馬鹿。アリア辞めろ!」
キンジが焦った顔をしながらアリアを羽交い締めにした。
アリアがまだ何か言いそうだったからキンジと目が合った俺がアイコンタクトを取りキンジに抑えるように命じたからなんだけどな。
余計な事を言う前に俺は片手でアリアの口を塞いで女性教師に質問をした。
「10分後……か?」
「はい、そうですよ。
ハートネット君の転入手続きの件で準備にそのくらいかかるみたいですね」
ニコニコ顔でそう言っているが、早すぎる。
この対応はおかしい。
たった10分やそこらで俺がこの武偵高とやらに転入できるようになるなんて変な話だ。
俺にはこの世界に身分を保証できる戸籍や住民票なんてものはないし、第一俺が目覚めてからまだ3日しかたってないと教務科に来る途中でサヤが言っていたからな。
この対応の速さはまるで俺がここに来るのが初めからわかっていたかのようだ。
そんな短期間で身元も不明な俺を武偵という掃除屋に似た組織に入れたがるなんて何か裏があるに違いない。
「いいのか?
俺みたいな餓鬼を賞金稼ぎにして」
「それは大丈夫ですよ。トレイン君は成人してるようですし、武偵高には附属の中学校もありますからそこからのインターンという扱いにしますし。
武偵の中にはトレイン君みたいな外見の子もいますから」
「なるほどなー」
チラッとアリアの方を見てみればキンジに口を塞がれたアリアが「んー、んー」と喚いてるが気にしないでおこう。
「それと武偵はただ犯人を捕まえて報酬を得るというだけではありませんよ。
確かに賞金稼ぎと似てるかもしれませんが警察に準ずる活動ができる国際資格である武偵は『武装許可』や『逮捕権』などを持っていますので武偵法の許された範囲で自由に活動できるんですよ。
後は所属する学科によっては様々な専門知識や技能が求められます。
強襲科なら戦闘力、探偵科なら推理力や洞察力、超能力捜査研究科なら異能、車輌科なら運転技術などそれぞれの学科によって求められる能力は違います」
「なるほどなー」
高天原先生の説明に頷く。
武偵は俺達掃除屋と比べても国際資格である点や武装許可、獲物を捕獲することができる点は対して変わらないみたいだ。
学科や技能に関しては通じる部分や意味がわからない言葉とかあるけどな。
「後、そうですね。日本の武偵は殺人が国の法律で禁じられていますので殺さないように依頼を達成してくださいね。
それと受けられる依頼はランクごとに違いますから気をつけてください」
「殺人が禁止……か」
『不殺』を誓う俺にとってはその法律は嬉しい。
無闇やたらと人を殺すのは好きじゃねえからな。
「ええ。と言ってもこれは日本の武偵のみに適用される法律ですから他国だと殺人が認められている武偵とかもいるんですけどね」
この辺りは掃除屋と大きく違う点だな。
俺達掃除屋は基本的には殺人はしない(殺した場合、報酬は半額)が、危険度が高い犯罪者と対峙した場合はDead or Aliveとなるからな。
もちろん俺も人を殺したことならある。
思い出したくない思い出だが彼処で育てられなかったら今の俺はいねえから考えてもしょうがねえんだけどな。
「あら。お話してたらあっという間に時間になりましたね。
校長先生がお待ちですからさっそく校長室の方に行きましょうね。
遠山君と神崎さんはもう寮へ帰りましょうね」
「んー、んー、ぷはぁ。先生、やっぱりアタシも行きたい!」
「おい、コラ。アリア」
「んー、ごめんね。神崎さん。
それはできないの。校長先生はトレイン君しか呼んでないし、これは上からの命令でもあるから……貴女も上から睨まれたくないでしょう?」
「上から?」
「校長だけじゃない、のか?」
アリアとキンジの二人は何やら困惑した表情を浮かべて視線を高天原先生から俺の方に向けてきた。
「……アンタ、本当に何者よ」
「トレイン、お前……」
二人が困惑や疑惑が篭った視線を向けてくる気持ちはよくわかる。
だが、あいにく俺には何がなんだかさっぱりわからない。
突然、この世界に居て武偵やら校長と会うだの、死んだ筈のサヤが生きているだの、わけがわからないことだらけだ。
「何が何だかわからねえが……とりあえず行ってやるよ」
アリアとキンジに見送られた俺は高天原先生に連れられてエレベーターに乗り教務科より上の5階でエレベーターから降りた。
通路を進んで行くと『校長室』と書かれたプレートがある部屋の、木彫りでできた扉の前で止まらされた。
高天原先生が扉をノックすると、中から______
「はい、はい。開いてますよー」
という返事が聞こえ、扉が開かれた。
さあ、何が起きるかはわからねえがアレコレ考えてもしょうがねえ!
突撃だー!
俺に害を与えるような奴らなら送り物を届けてやるよ。
『不吉』を、な。
◇ とある海域。
その海底ではある一隻の潜水艦が航行していた。
巨大なその潜水艦の中にある、とある部屋でクラシック音楽が流れる中二人の人物が机を挟んで向かい合うように座っていた。二人が着席しているその机の上では駒を兵隊や王族に見立てて戦略を練りながら遊ぶボードゲームの一つである『チェス』が行われていた。
盤上では激しい攻防が繰り広げられており、どちらの駒も残りは僅かしかない。
そんな対戦の最中、一人の男がふと呟いた。
「おや?
これは面白い事になったようだね」
「対戦中に考え事とは随分と余裕だね、教授?」
「ああ、すまない。
けどこれは君にも無関係な事ではない事だよ。
何故なら君が世界でただ一人尊敬していた人物に関する事だからね」
______ガタン。
教授と呼ばれた男のその言葉に、目の前に座っていた人物は勢いよく立ち上がり座っていた椅子を倒したことすら気に止めずにその言葉を呟いた。
「まさか、君も来たのか______トレイン」
余談だがその男が座っていた椅子(今は椅子と共に床に転がっているが)には、一本の鞘に納められた刀と呼ばれる刀剣が立てかけてあった。
その銘は『虎徹』と呼ばれるものだ。
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