FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第200話 赤の妖精と水色の妖精
前書き
紺碧の海です!
今回も前回と似たような内容で、10頭の悪魔の紹介みたいなお話です。・・・ハァ。
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第200話・・・スタート!
―クロッカスの街 西側―
悪魔7「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
大気が震える。
凄まじい悪魔の雄叫びが轟くクロッカスの街は、もはや“街”と言える事が出来なくなってしまった。街行く人々の声が聞こえ、色とりどりのクロッカスの花が咲き誇り、活気に満ち溢れていた“街”は―――――“残骸”となってしまった。
木々は倒され、クロッカスの花は引き千切られ、建物は破壊され、砂埃が舞い上がる。
悪魔7「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
それでも悪魔は、雄叫びを轟かせながら“残骸”となってしまったここを尚も破壊し続ける。
そんな中、リョウやエルザ、ショールの指示に従い西側にやって来た王国軍や軍隊の兵士達は、瓦礫の陰に身を潜め立ち往生していた。
兵1「・・・不味いな。」
兵2「これじゃあ、近寄れねェ・・・」
兵3「・・どうしたら・・・」
兵士達が立ち往生している事には訳がある。
この悪魔は赤黒い巨大な斧を持っており、その斧を上下左右闇雲に振り回しながらクロッカスの街を破壊しているのだ。斧は切れ味抜群で、コンクリート壁の建物もいとも簡単に真っ二つに出来るほどだ。
そんな危険すぎる斧に人間が当たったら、100%確実に一溜まりもない。
試しに先程瓦礫の陰から数本の矢を放ってみたのだが、闇雲に振り回される斧に弾き飛ばされ、矢は全て折られてしまった。もちろん、闇雲に斧を振り回しているだけの悪魔は、矢が飛んで来た事にも気づかなかった。
兵4「他にここから悪魔に攻撃出来る武器はないのかっ!?」
矢以外で兵士達が持っている武器は、剣、槍、盾。剣と槍は近距離専門の武器だし、盾は瓦礫の陰に隠れている以上無意味に等しかった。
兵5「こんな重大な時に役に立たない物しか持っていないとは・・・!」
兵6「私達は、悪魔を倒す事も、街を守る事も、多くの命を守る事さえ出来ないのか・・・!」
兵士達の多くは自分達の無力さに嘆いた。
兵士達の嘆きの声を掻き消すように、悪魔の凄まじい雄叫びが轟いた。
兵7「やりましょう!」
1人の新人兵士が顔を上げて驚愕の言葉を放った。新人兵士の言葉に兵士達は目を見開いた。
兵7「私達軍隊の者がこの世に存在している理由は、街を、命を、平和を守る為ではありませんかっ!?武器がないからと言って、いつまでもこんな所でビクビク震えているだけじゃ、街の被害は拡大するばかりです!」
そこまで言うと、新人兵士は腰に装着している鞘から剣を抜いた。剣の剣先が、月の光に反射しキラリと銀色に光った。
兵7「守る為ならば、命が無駄になる事はありません。少しでも、街を、命を、平和を守る事が出来るのならば―――――私は、この命惜しくありません。・・・この中に、私と同じ考えを持つ方は剣を抜いて下さい!」
一瞬、辺りが静寂に包まれた。
新人兵士の言葉に、多くの兵士達は目付きを鋭くし、意を決すると、腰に装着している鞘から剣を抜いた。
兵8「新人に目を覚まされるとは・・・先輩として、情けねェぜ。」
兵9「全くだ。」
兵10「やってやろうじゃねーかっ!」
兵11「命が尽きるまで、思う存分足掻いてやる!」
兵士達はお互い顔を見合わせ、固く握り締めた拳をぶつけ合った。剣を抜かなかった兵士は、誰一人として存在しなかった。
1人の兵士が月明かりに照らされた剣を頭上に高々と掲げた。
兵12「もう迷いも、恐れもない!己の全てを強さに変えろ!その強さを、命の灯火が燃え尽きるまで討て!」
兵全「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
腕を、剣を振り上げ、兵士達が悪魔に向かって突撃しようとしたその時だった。兵士達の行く手を紅蓮の炎が阻んだ。
兵13「うわァア!」
兵14「な、何だ何だっ!?」
兵15「ほ・・炎が、なぜ・・・!?」
兵16「あの悪魔は、炎も出せるのかァ!?」
兵士達は炎から遠ざかる。
目を凝らしてよく見ると、炎の中で黒い人影が動いている。
兵17「誰かいるぞっ!」
兵18「敵かっ!?」
兵19「いや違う。あれは・・・!」
炎の中から姿を現したのは、ゆらゆらと揺らめく炎のような赤髪に、なぜか裸足の妖精が1人―――――。
兵20「フ、フレイ様ァ!?」
兵21「なぜここにっ!?」
フ「いいからいいから、まずは後ろに下がってくれ。」
目を見開いて驚嘆の声を上げる兵士達とは対照的に、フレイは肩越しから背後で暴れ回っている悪魔を睨み付けながら、突撃しようとした兵士達を後ろに下がらせた。
フ「自らの命を捨ててまで、悪魔を倒そうとしてくれた事には、妖精の尻尾を代表として礼を言わせて貰うぜ。ありがとうなっ。」
白い歯を見せながらフレイは兵士達に礼を言った。
まさか、常に問題山積みで超ブッ飛んでいる、フィオーレ一の魔道士ギルドの魔道士から礼を言われるとは思っていなかった兵士達は目をパチクリさせる事しか出来なかった。
フ「でもな、いくら街や命、平和を守る為だからと言って、こんなにたくさんの命を犠牲にする事は出来ねェんだ。あの悪魔の事は俺に任せて、お前等は安全な場所に避難してくれ。」
フレイの言葉に、兵士達は目を見開いた。
兵22「そ・・そんな事、出来ません!」
兵23「いくらフィオーレ一の魔道士ギルドの魔道士だからと言って、あんな凶暴な悪魔相手に1人で立ち向かうなんて・・・敵う訳ありません!」
兵23「私達にも援護さ」
フ「断る。」
「させて下さい!」と言おうとした兵士の言葉をフレイは即遮ると、固く握り締めた拳に紅蓮の炎を纏い言葉を紡いだ。
フ「妖精の尻尾の魔道士は、大切なものを守る為なら、相手が悪魔だろーが強かろーが凶暴だろーが、一切関係ねェ!誰一人、死なせねェよォ!」
フレイの言葉に兵士達は圧倒され言葉を失った。
フ「それに、お迎えも来てるみたいだしな。」
兵24「お迎え?」
フレイが兵士達の後ろを指差した。振り返るとそこには、藁を編んで作った笠を被った、一つ目の妖怪―――一つ目小僧と、茶色い毛並みにピンと立った耳を持つお化け―――狼男がいた。
兵25「ギャーーーーーーーッ!」
兵26「ひっ・・ひぃ・・・!」
兵27「ば・・ば、ばばっ・・・ば・・・・」
兵28「お、おぉ・・お、おば・・・」
兵士達のほとんどが腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。一つ目小僧と狼男は脅かして申し訳なさそうに兵士達に向かってペコペコ頭を下げていた。
フ「俺達の仲間だから安心しろって。コイツ等が安全な場所まで案内してくれる。そうだろ?」
フレイが問うと一つ目小僧と狼男は揃ってコクンと頷いた。
兵士達は仕方なく非難する事に決めた。
兵29「フレイ様、くれぐれも無理はしないで下さいね。」
兵30「どうか・・・お気をつけて。」
フ「おう!」
一つ目小僧と狼男に連れられて避難して行く兵士達の後ろ姿を最後まで見送った後、フレイは人間の姿から鳥の姿に変わり、未だに赤黒い巨大な斧を闇雲に振り回している悪魔の頭上まだ飛んで行く。
悪魔は自分の頭上にいる赤い鳥の姿に一切気づく気配がない。
フ「武器を振り回して近づけない相手には、俺みたいな飛べる奴が有利なんだよな。」
独り言のように呟くと、フレイは体全身に紅蓮の炎を纏い悪魔の頭上目掛けて急降下した。
フ「火炎螺旋刀ッ!!」
悪魔7「ぐァアアアッ!」
悪魔は呻き声を上げる。
悪魔7「こんのォ!」
フ「おっと!よっ、ほっ!」
相変わらず斧を闇雲に振り回すが、フレイは赤い羽を器用にはばたかせながら上手くかわし続ける。フレイは地面に着地すると、一瞬でまた人間の姿になり、両手を構え紅蓮の炎を纏うと、
フ「ファイアメイク、大槌兵ッ!!」
悪魔7「ぐォオオオッ!」
悪魔の頭上に巨大な大槌兵を造形し振り落とす。炎の大槌兵が悪魔の動きを封じている間に、フレイは再び両手を構え紅蓮の炎を纏うと、
フ「ファイアメイク、戦弾ッ!!」
炎を纏ったフレイの両手から、無数の炎の弾丸が次々と放たれ悪魔目掛けて一直線に飛んで行く。
フ「まだまだァア!」
フレイの両手から放たれる無数の炎の弾丸は更に勢いを増す。
炎の弾丸が放たれて悪魔に当たるのと同時に、砂埃が舞い上がりフレイの視界から悪魔の姿が見えなくなった。
フ「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。」
少々乱れた呼吸を整えながら次の攻撃をする為、再び両手を構え紅蓮の炎を纏ったその時、
フ「!」
砂埃の中から、フレイが放ったはずの炎の弾丸が飛んで来た。フレイは慌てて体勢を低くし弾丸をかわす。
フ「当たったはずの弾丸が・・・何で!?」
炎の弾丸がフレイの左頬を掠め、頬から血が流れた。
砂埃の中で巨大な黒い影が動いた、と思ったら、「ふぅーっ!」という悪魔が息を吐き砂埃を吹き飛ばした。フレイは両腕で飛んで来た砂から身を守る。
悪魔7「俺に攻撃を食らわせるとは・・・どんな強者かと思いきや、こんな小童だとはな。」
砂埃の中から出て来た、人間の言葉を話す悪魔は、足元にいるフレイを見て嘲笑った。その態度にフレイはムッとした。
悪魔7「おい、そこの小童、名を名乗れっ!」
フ「何様だが知らねーけど、随分偉そうな悪魔様だな。」
右肩をぐるぐると回しながらつまらなそうに言うと、両手を構え紅蓮の炎を纏った。
フ「俺はフレイ。妖精の尻尾の魔道士の1人、フレイ・レッドシェルだァーーーーーっ!」
フレイは身の丈よりも大きな炎の剣を造形すると、小さく地を蹴り悪魔との距離を詰めギリギリの所で高く跳躍すると、
フ「炎聖剣ッ!!」
巨大な炎の剣を悪魔に向かって振り下ろした―――が、炎の剣の剣先が悪魔に当たる直前に、悪魔は持っていた赤黒い巨大な斧の刃でフレイの攻撃を防いだ。
フ「!」
悪魔7「フレイ・レッドシェル・・・かっ!」
フ「ぐわっ!」
フレイの名を繰り返し呟くと、悪魔は斧を振った。服が破れ傷は負ったものの、フレイはギリギリの所で斧を避ける事が出来た。
フ「・・・さっき、俺が放った炎の弾丸・・・お前には、一撃も当たっていなかったのか?」
悪魔7「いや・・残念な事に2~3発程当たってしまった。それ以外は、手で掴み取り、お前に跳ね返したのだがな・・・やはり自分が放った攻撃はそう簡単には当たらないま。」
悪魔の言葉にフレイは言葉を失い目を見開いた。
フ「(あれだけの弾丸を、たった2~3発だけ・・・!?しかも、その大半を・・俺に、跳ね返したってのか・・・!?)」
驚いてるフレイを無視して、悪魔は斧を持ち直し構えた。
ダス「俺は“闇の悪魔”ダストニス。お前が奈落に行く前に教えといてやる。俺はそれほど強くないんだ。」
フ「おいおい、自ら自分が弱者だって認め」
ダス「勘違いするな。俺は「強くない」と言っただけだ。誰も「人間に負けてしまうほど強くない」とは言ってないはずだけどな?」
フ「・・・・・」
自分が早とちりをしたのも悪いが、紛らわしい言い方をするダストニスの事をフレイは睨み付ける。
ダス「人間は、“闇”を超える事が出来るのか・・・興味深い。」
フ「超えてやるよ、絶対に。」
フレイは両手を構え紅蓮の炎を纏うと巨大な炎の斧を造形した。
フ「俺だって、悪魔に負けるほど弱くねェよ。特に、“闇”には尚更負ける気がしねェぜ。」
ダス「つまりお前は、“光”という訳か・・・ますます興味深い。」
フレイとダストニスの間を静かに風が吹いたのと同時に、2人が小さく地を蹴り駆け出したのは同時だった。
炎の斧と悪魔の斧がぶつかり合い睨み合う。
ダス「これほど興味深い奴と戦うのは生まれて初めてだっ!思う存分、楽しませろっ!フレイ・レッドシェル!」
フ「お望みどおり、思う存分楽しませて痛めつけて灰にしてやるっ!序に分からせてやるっ!“闇”は“光”には勝てねェって事をなァ!」
今、紅蓮の炎を纏い、傷だらけの赤の妖精が、“闇の悪魔”に立ち向かう―――――。
*******************************************************************************************************
―クロッカスの街 南側―
月明かりに照らされ、クロッカスの街に浮かび上がる、巨大な黒い影―――――。
その影の招待である悪魔は、口から黒に近い濃い緑色をした液体を吐き出した。悪魔の口から吐き出された液体が木や建物、ベンチや街灯に降りかかる。すると、シュゥ~と蒸発するような音を出しながら、見る見るうちにドロドロに溶け出した。
この悪魔が口から吐き出す液体は、どんなものでもドロドロに溶かす事が出来る、非常に危険な液体なのだ。
アニ「月光弾、乱射!」
アリ「暗闇弾、乱射!」
海中の洞穴の双子の魔道士、アニーとアリーが光銃と闇銃から月の光を纏った無数の弾丸と、漆黒の闇を纏った無数の弾丸を銃口から乱射し、息の合った連係攻撃をお見舞いする―――が、無数の弾丸は悪魔が吐き出した液体でドロドロに溶けてしまい、運良く当たった弾丸も、悪魔にとってほとんど無意味に等しい威力だった。
キー「ケンタウロス、狙いは目の前の悪魔だっ!」
ケン「承知!」
アチュ「吹き荒れろ!超超超大型ハリケーーーーーン!!」
その横で銀河の旋律の魔道士、キースが呼び出した、上半身が人間で下半身が馬の姿をした、弓矢を持った星霊―――半人半馬座の星霊、ケンタウロスが狙いを定め矢を放ち、白い柳の魔道士、アチュールが両腕に吹き荒れる風を纏ったままその場でものすごい速さで回り、巨大な渦巻いたハリケーンをお見舞いする―――が、ケンタウロスが放った矢は悪魔が吐き出した液体でドロドロに溶けてしまい、運良く当たった矢も、アニーとアリーが放った弾丸同様無意味に等しい威力だった。ハリケーンは狙い通り悪魔に直撃し、あまりの威力に悪魔も顔を顰めた(ように見えた)が、深く息を吸い込んだ悪魔の口の中に吸い込まれてしまい、大量の液体を口から吐き出したので相手が有利になってしまうだけだった。
バロ「風竜の・・・咆哮ッ!!」
ウラ「水神の・・・怒号ッ!!」
レヴ「星竜の・・・咆哮ッ!!」
その横で海中の洞穴の魔道士であり、第2世代の風の滅竜魔道士、バロンと、白い柳の魔道士であり、水の滅神魔道士、ウララと、銀河の旋律の魔道士であり、第1世代の星の滅竜魔道士、レヴルの3人が、同時に口から吹き荒れる風、黒い水、金銀に光る星の光をお見舞いする―――が、何と悪魔は3人の攻撃を自分の右腕で受け止めた。右腕に多少の傷は負ったものの、悪魔は何事も無かったように平然としている。
ヒリ「そんな・・・!」
タク「滅竜魔法や滅神魔法が効かないなんて・・・」
アナ「そんなの、アリなの・・・?」
ヒリア、タクヤ、アナの順に驚嘆の声を上げる。
悪魔は自分の足元に佇んでいるキース達を見下ろすと、口から液体を吐き出した。キース達はその場で小さく跳躍して左右に散らばり液体をかわす。ベチャッと音を立てて液体が降りかかったアスファルトは、当然ながらドロドロに溶けた。
一夜「な・・何て危険な、香りなんだ・・・」
バロ「一夜さん、あれは香りじゃなくて液体ですよ。」
青い天馬の魔道士、一夜の言葉にバロンは曖昧な笑みを浮かべてツッコミを入れる。
アニ「あの液体を防ぐ方法はないのかなぁ~?」
アリ「どんなものでも溶かす液体なんだから、防いでもドロドロに溶かされるだけ。」
アニ「あ、そっかぁ~♪」
アニーの呑気すぎる疑問に、アリーが冷静に答える。
ジェ「お色気作戦・・・な~んて効かないわよね。」
ジェニーがスリットの入ったスカートをひるがえし太股を覗かせる。
レヴ「液体を防ぐ方法も無い、攻撃も全く効かない・・・」
キー「こんなの、いったいどうやって倒したらいいんだよ・・・!?」
レヴルとキースが唇を噛み締めながら呟いた。
すると、再び悪魔がキース達に向かって口から液体を吐き出した。しかもさっき吐き出した倍の量の液体だ。黒に近い濃い緑色の液体が雨のように落ちてくる。
一夜「こ・・これは、不味い・・・!」
アチュ「言われなくても分かってるっつーのっ!」
変なポーズを決めながら呟く一夜に向かってアニーは怒鳴りつけるが全く怖くない。
悪魔は次から次へと口から液体を吐き出していく。
ウラ「ダメ!避け切れない!」
ジェ「い~やぁ~~~!」
もうダメだ!と誰もが思ったその時だった。
ユ「その場から1歩も動かないでっ!アイスメイク、爆弾ッ!!」
透き通るような声が響き渡ったのと同時に、どこからともなく、無数の氷の爆弾が飛んで来て、液体にぶつかったのと同時にドゴォン!バコォン!ドーーーン!バーーーン!と爆発し、液体を爆散させた。
アナ「ば・・爆散、した・・・」
ヒリ「す、すごい・・・!」
バロ「い・・いったい、誰が・・・?」
キース達はもちろん、悪魔までもが氷の爆弾が飛んで来た方に視線を移した。
そこにいたのは、風で揺れる水色の髪の毛とワンピース、握り締めた拳に冷気を纏った妖精が1人―――――。
アリ「ユモスさん。」
アリーが静かに、その妖精の名を呟いた。
ユモは頭を抱えて地面に伏せているジェニーの手を取り、ゆっくりと立たせジェニーに向かってニコッと優しげに微笑んだ。
一夜「ユモスさん、あなたのお陰で助かりました。よろしかったら、今夜どこかにお食事にでも」
アチュ「こんな所で口説いてんじゃねーーーーーっ!」
堂々とした態度でユモに近づき、堂々とした態度で口説こうとする一夜の頭をアチュールがパシッ!と叩いた。
ユ「あの悪魔の事は私に任せて、皆さんは一刻も早くこの場を離れて下さい!」
アニ「え~。ユモス1人じゃ危険すぎるよ~。私もアリーと一緒に残って戦う!」
頬をぷくぅ~と膨らませながら、アニーは右手でくるくると器用に光銃を回しながら隣にいたアリーの腕を掴んだ。いきなり腕を掴まれたアリーは戸惑ったように目をパチクリさせたが、すぐに小さくコクンと頷き、アニー同様左手でくるくると器用に闇銃を回した。
ユ「ありがとう。でも、私なら大丈夫!必ず、あの悪魔を倒してみせるから。アニーとアリーはろくろっ首と化け猫と一緒に、安全な所まで避難して、ね?」
アニ「ろくろっ首ィ?」
アリ「化け猫?」
ユモの言葉にアニーとアリーはこてっと首を傾げた。
ユモがキース達の後ろを指差した。キース達もユモが指差した方に視線を移すと、そこには恥ずかしそうに立っている、首が1mぐらい伸びた、淡い緑色の着物を着た妖怪―――ろくろっ首と、梅の花が描かれた赤い着物を着た、頭に耳、顔に髭、お尻に尻尾が生えている女の子―――化け猫がいた。
タク「うわぁああっ!」
バロ「よ・・よよよ、妖怪ィ!?」
タクヤとバロンが驚嘆の声を上げた。その声に驚き、ろくろっ首と化け猫の華奢な両肩がビクッと大きく震えた。
ユ「あの子達が安全な場所まで案内してくれるはずです。そうだよね?」
ユモが問うと、ろくろっ首と化け猫は大きく頷いた。
駄々をこねるアニーを説得し、キース達は大人しく、この場を離れ避難する事に決めた。
キー「ユモスさん、あの・・ナツさん達は・・・?」
キースが恐る恐るという感じでユモの背中に問うた。
ユ「恐らく、皆私と同じ事をしてると思う。」
レヴ「最強チームの皆さんが、悪魔と戦っている・・・という事ですか?」
ユ「たぶんね。」
レヴルの言葉にユモは頷いた。キースとレヴルの場所からはユモの顔は見えないが、ユモがどこか悲しげな笑みを浮かべている事はなぜか分かった。
くるっとキースとレヴルの方に向き直ったユモは笑っていた。
ユ「大丈夫。私も皆も、必ず倒す!悪魔になんか絶対負けない!キース達は皆の事を信じて待ってて、ね?」
ユモの透き通った青い瞳に迷いも恐れも映っていなかった。キースとレヴルは黙って頷く事しか出来なかった。
キー「絶対・・・絶対勝って下さいよ!?」
レヴ「くれぐれも、気をつけて。」
ユ「キース達も。」
見る見るうちに遠ざかり小さくなっていくキース達の背中が見えなくなるまで見送ったユモは、振り返ろうとしたのと同時にその場で小さく跳躍し左に避ける。さっきまでユモがいた場所にビシャッと音を立てて液体が降りかかり、アスファルトがドロドロに溶けた。
悪魔は次々とユモの頭上に向かって口から液体を吐き出す。ユモも液体が落ちる場所を見計らい、次々とかわしていく。至る所でバチャッ、ビチョッ、ベシャッと音を立てて液体が降りかかり、至る所でアスファルトがドロドロに溶けていく。
悪魔8「人間のくせに、ちょこまかちょこまかと動き回りやがって・・・!」
ユ「アイスメイク、槍騎兵ッ!!」
構えた両手に冷気を溜め、無数の氷の槍を造形し悪魔に向かって放つ―――が、悪魔は液体を吐き出し、氷の槍をドロドロに溶かした。
悪魔8「これなら・・・どうだァ!」
悪魔がバケツ1杯分の液体をユモに向かって吐き出した。ユモは両手を構え冷気を溜めると、
ユ「アイスメイク、盾ッ!!」
花弁のような形をした氷の盾を造形し液体から身を守る―――が、どんなものでも溶かす事が出来る液体は氷の盾をドロドロに溶かしていく。
ユ「(やっぱり、氷の盾じゃ防ぎ切れない・・・)」
氷の盾が完全に溶け切る直前、ユモは体勢を低くし液体を避けたが、髪を束ねている青いヘアゴムがブチッ!と音を立てて切れた。胸ぐらいの長さのユモの水色の髪の毛が、月明かりに照らされて銀色に輝く。
悪魔8「髪・・下ろした方がカワイイじゃねーか。」
ユ「戦う時に邪魔だから・・・でも、もう結ぶゴムがないから仕方ないわね。」
ユモは困ったように呟きながら、構えた両手に冷気を溜めると、
ユ「アイスメイク、双剣ッ!!」
氷の双剣を造形し、小さく地を蹴り駆け出した。
走るユモ目掛けて悪魔は液体を吐き出す―――が、ユモは走りながら右に、左に移動し液体をかわしていく。
ユ「ハアアアアアアアアッ!」
悪魔から5mほど離れたところで、ユモはその場で高く跳躍し氷の双剣を悪魔目掛けて振り下ろした―――が、悪魔は両手でガシッと剣先を受け止めた。
ユ「!」
目を見開いているユモとは裏腹に、悪魔は口角を上げ不敵に微笑むと、「ふっ」と短く息を吐いたのと同時に、ユモの右肩目掛けて一滴ほどの液体を吐き出した。
ユ「アアアアアアアアアアアアアアッ!」
ジュゥ~と蒸発するような音を立ててユモの右肩が焼けていく。
どんなものでも溶かしてしまう液体は、スポイト一滴ほどの少量でも効果は抜群で、人間の体に当たると焼けるような痛みが襲う。
ユ「アアアアアアアアアアアアアアッ!」
右手で右肩を力強く押さえたまま、ユモは地面に倒れ込む。歯を食いしばり痛みに耐えようとするが、焼けるような痛みはなかなか治まらず、あまりの痛みに目が潤み始める。
悪魔8「まずは小手調べとして、肩にしてやったんだ。どうだ?痛いだろ?」
ユ「っ~~~~~!」
声にならない呻き声を上げながら、ユモは目の前にいる悪魔を若干潤んだ青い瞳で睨み付けた。
トッ「俺は“死の悪魔”トッドゥだっ!ドロドロに溶けて死んじまう前に教えておくぜっ!」
ユ「・・・死・・・・?」
ユモは右肩を押さえながら、よろよろと立ち上がる。
トッ「俺には分かるぜ。お前が・・・今まで多くの“死”を目の当たりにしてきた事がな。」
ユ「!」
トッ「生まれ育った街の人々、父さん、母さん、兄、友人の姉、師匠・・・めちゃくちゃ“死”を味わってんだなお前!気に入った!お前、名前は何て言うんだ?」
ガタガタと肩が小さく震えているユモにトッドゥは問う。
ユモは痛む右肩を押さえながら、自分の哀れな過去を思い出しながら、小さな声で呟いた。
ユ「・・・ユモス・クオリナ・・・・!」
顔を上げたユモの青い瞳には、闘志がメラメラと燃え盛っており、怒りを露にしていた。その証拠に、ユモの10m範囲の地面が凍りつき、空気が小さな氷の粒になった。
トッ「!?」
トッドゥは辺りが氷で覆われ、空気が小さな氷の粒になった事に目を見開き、目の前にいるユモに視線を移した。
ユ「あなたは、人の“死”が好きなんだね・・・私とは正反対。」
ユモはゆっくりと目を閉じ、手を動かし、顔の前で両手を構えるとこれまでにない、冷たさを誇る冷気を纏った。
ユ「もう二度と、あんな思いはしたくない!大切な人達の“死”を目の当たりにするくらいなら・・・私が、私自身が、死んだ方がマシだアアアアアアアアアアッ!」
声を荒げて叫んだ。
ユ「アイスメイク―――――」
ユモの両腕は、巨大な鋭い鉤爪が付いた、身の丈を超えるほどの鎧で覆われた巨大な手を形をした氷で覆われていた。
ユ「騎士の前腕甲。」
閉じていた目をゆっくりと開けた。青い瞳には、“光”が射し込んでいた。
ユ「私1人で、あなたを・・倒せる事は、出来ないかもしれない・・・けど・・私に、力をくれて・・・私を、守ってくれる・・・氷と、大切な人達がいれば・・・私は、誰にも負けない!それが例え悪魔でも!大切な人達を守る為ならば・・・私は!氷であなたを、倒す!」
今、氷に覆われし心を持つ、傷だらけの水色の妖精が、“死の悪魔”に立ち向かう―――――。
後書き
第200話終了です!
フレイとユモの組み合わせはかなり珍しいです。炎と氷だからかなぁ?
次回もやっぱり、悪魔の紹介みたいなお話です!ですが次回でやっと終わります!長かったぁ~・・・
それでは、See you next!
ページ上へ戻る