Gフォース~正義の行方~
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第8話 ジョアンナの哀れな宿命
2008年、テキサス州立海軍士官学校。
まだ18歳だったころのフォードはそこにいた。
フォードはまだ、少年だった。
父親の顔を忘れ、死に際さえあえなかった母親への想いが残っていた普通の少年、それがフォードだった。
フォードはふと、白兵戦術の訓練を受けていた。
彼は、担当教官の顔をみた。
まだ、若い20代後半か30代のような女性だった。
明るい金髪の髪に、187㎝という女性離れした体格の持ち主だった。
そんな女性の前で、身長190㎝はあった大男の訓練生が腕をひねられ苦悶の表情をあげていた。
「いいか、実戦ではこうはいかないぞ!」
ジョアンナ・アイアンズ軍曹はそういうと男を解放した。
腕を抑えながら訓練生は逃げてきた。
男女ともに、その形相にゾッとしていた。
「次はブロディ、貴様だこい!」
ジョアンナは低い声でそういった。
すると、周囲の訓練生たちはフォードに同情するような顔をみせた。
フォードは訓練生たちの中でも一番低年齢だった。
彼は恐る恐るジョアンナに近づいた。
フォードが怯えた表情でみると、ジョアンナは顔そのものは鬼のような形相をしていたがフォードの目をみるとウィンクして彼に小声で何かを伝えた。
「がんばって。」
フォードは少し安心をすると、ジョアンナと互いにつかみあいながら押し合った。
するとジョアンナは素早くフォードの背後をとり、スープレックスの形で彼を持ち上げると地面に押し倒した。
そして、素早く筋肉質な両足のふとももでフォードの首を締め上げた。
「うっ!」
フォードは首にからみついたジョアンナの両足を解こうと奮闘した。
だが、ジョアンナの両足はがっちりとフォードの首に絡みついた。
「タップしなさい!」
ジョアンナは叫んだ。
しかし、フォードは首を横に振った。
すると、彼女はさらに首を絞める力を強めた。
周囲の全員が思った。
「タップする」
「タップしろ」
「あきらめろ!」
それはジョアンナも同じだった。
だが、フォードは頑固だった。
彼は不屈の闘志で決してあきらめなかった。
しかし、すると彼はそのまま気を失った。
次に目が覚めたのは、医務室だった。
傍らにはジョアンナがいた。
彼女は微笑んでいた。
「中々やるな、ブロディ。タップしなかったのはいい判断だった。今度ああなったら相手の顔を殴るか、両足を力づくで外してやれ。でも私以外の誰かでお願いね。」
そういうと、彼女はフォードの顔に自分の顔を近づけ目を閉じた。
フォードは一瞬キスされるのかと身構えた、彼には当時ほかに好きな人がいなかった。
キスの経験もなかった。
ジョアンナは新兵の頭にそっと自分の唇を重ねた。
「これはご褒美、勝ったらもっと良い事したげる。」
そういうと彼女は医務室から姿を消した。
フォードは自分の頭に残った感触を指で確かめると、微笑みながら眠っていった。
そして、現代。
フォードは当時とは違う方法で、彼女に気絶されて連れてこられた。
ふと、闇の中にいてすっかり眠っていた彼の前に明るい光がさしこんだ。
彼は目を開けた。
シンクレア議員か?
それとも、兄のサムと仲間たちか?
残念ながら、あるいは幸運か、違った。
そこにいたのは赤い光だった。
そして、きしむ機械音だった。
フォードはわかった、ジョアンナ軍曹だ。
彼女が自分を殺しに来たんだ。
「軍曹・・・・。」
フォードはそう思わず言った。
すると、ジョアンナは義目ではない右目を動かした。
そして、ぎこちなく唇がVの方向に向き、微笑んだ。
「久しぶりだな、ブロディ。」
間違いなく彼女だった。
彼女自身の意識が戻ったようだ。
フォードは心底うれしく感じた。
だが、と同時にフォードは悲しく感じていた。
彼女の声には半分機械音があった。
まるで、それは喉を火傷でけがした人間のようだった。
「軍曹。」
そのあとに続く言葉は「変わってしまった。」だった。
だが、フォードはこらえた。
ふと、隠れていたヒオが姿をみせた。
フォードの命令で、いざというときは隠れろという指示だった。
彼女は何が起きてるか、理解できなかった。
ジョアンナは磔にされているフォードの体をみて、ふと彼の下半身に目がいった。
「成長したな、充分に。」
フォードはジョアンナの視線の先が自分の下半身であることに気づくと思わず赤面した。
恥ずかしい。
こんな姿にされてることも、何よりも初恋の女性でもあった彼女にみられていることが恥ずかしい。
すると、ジョアンナはフォードの両手両足を縛り付けてる鎖を引きはがした。
フォードは解放されたことに心底喜びを感じながら、ベッドから身を乗り出した。
「誰かから服をとってきてあげる。」
すると、彼女は気絶している警備兵の服を脱がせるとフォードに差し出した。
パンツ、制服、さらには銃まで彼女は差し出した。
フォードは心の奥底から軍曹が戻ってきたことをうれしく感じた。
「フォード、気をつけて。もしかしたら騙されてるかもしれない。」
「なぜ、そう感じるんだ?」
「あいつの心が読めないから、思考回路がわかんないから何をしでかすか危険だよ。」
「わかってる。」
ヒオは彼女らしくなく深刻な表情で、合理的な忠告をした。
彼女はジョアンナの考えていることが理解できなかった。
フォードもそれはわかっていた、だが彼には「うれしい」という気持ちのほうが強くあった。
「俺、結婚したんですよ軍曹。」
フォードの言葉を聞くと、ジョアンナは顔をあげた。
その表情は少し寂しそうだった。
フォードも彼女を意識していたが、ジョアンナにとってもそれはある種同じともいえた。
他の新兵にはない、ガッツや勇気がフォードにはあった。
「じゃあ、奥さんが一番好きなんだな。」
「子供もいるから。」
「フォード、その発言は戦場で死ぬ奴の言うセリフだぞ。」
ジョアンナは少し笑いながら彼を茶化すような言葉を吐いた。
それは、彼にだけみせる優しいジョアンナ・アイアンズ軍曹そのものだった。
「そういえば、私よりも階級が上だったよね。」
「そんな階級なんて。」
「お前はいつまでたっても18歳の餓鬼だしね。」
ジョアンナはそういうと微笑んだ。
フォードは警備兵の服に着替えると、素早く留置室から出てきた。
明るい光がフォードにとっては新鮮なものにみえた。
すると、フォードとジョアンナの顔は軍人の物に戻って行った。
フォードは背後を警戒した。
ジョアンナは前を鋭く睨みつけた。
「なぜ、裏切ったんです?」
フォードは聞いた。
彼女には山ほど聞きたいことがあったからだ。
「お前にあった時、凄い電撃が走った。脳味噌はまだ8割は残ってるからそこの記憶をつかさどる回路が働いたんだと思う。」
フォードは嬉しそうにほほ笑んだ。
かつて尊敬し愛した女性とともに戦えるんだ。
そう感じると心の奥底からうれしく感じた。
だが、ヒオは逆だった。
未だにジョアンナという女性が理解できなかった。
思考が読めなかった。
恐らく、シンクレアのことだろうからこういう事に対する防護策を考えていたんだろうとヒオは考えてみた。
「他の警備兵たちは?」
「ほぼ全員倒した、シンクレアは今政府重役やモナーク社の重役たちと話をしている。ドローンとガイガンを使い世界を恐怖で支配する気だ。」
そういうとジョアンナとフォードは二人そろって基地の外へと飛び出そうとしていた。
すると、ヒオは何かを感じた。
とても強い、何かだった。
その何かは上空を飛んでいるようにみえた。
この感覚は、過去に一度感じた。
それはゴジラの意識だった。
だが、ゴジラではないようにみえた。
彼女はフォードには黙って、その意識を追おうとした。
一方、シンクレア上院議員はワシントンのホワイトハウス前で演説をしていた。
脇にはアメリカ初の女性大統領である、エラリー・ワシントンがいた。
さらに、横には各国から集まったモナーク社の重役たちがいた。
だが、彼らは名目上はあくまで国際的な人権指導者という立場で参加していた。
彼らの前にはマスコミ記者たちが写真や映像を収めるためにカメラを光らせていた。
その光の中をシンクレアは一人歩いていた。
彼は、9.11に遭遇した時気づいた。
この世界は巨大な監視システムが必要だ。
そして、彼はネットを開いたときそこらじゅうにあるヘイトスピーチに眉をひそめた。
女性を、黒人を、同性愛者を、特定の国籍を持ったものを、あるいはアメリカを憎むものは世界中にいた。
彼らには恐怖が必要だ。
彼は、その後ひっそりと作りつづけた。
人工衛星、そして数多くの軍事兵器などをテロ対策のために。
だが、シンクレアはどれも効果がないと考えていた。
そして、どれだけ優秀な兵士を送っても、テロリストは倒せないと悟っていった。
何が必要だ?
そんな時、ある男が現れた。
ジョー・ブロディ。
ゴジラによってすべてを失った男、彼はロボット怪獣の制作を考えた。
シンクレアは考えた。
こいつはいける。
そして、シンクレアは彼の好きにさせた。
その見返りとして彼はガイガンとドローン兵士たちを作らせた。
ジョーはもちろん喜んで作った。
ムートーを改造しゴジラ細胞を動力源にして、生み出したガイガン。
これがゴジラに勝てたかといえば、勝てなかっただろう。
だが、そんなことはどうでもよかった。
シンクレアは考えていた、恐らくゴジラが蘇っても人々のテロの恐怖・犯罪の恐怖は消えないのだ。
いや、むしろひどくなるだろう。
シンクレアはそれに備え、もともとは怪獣対策用だった彼らを改造し、テロリストや犯罪者を滅ぼすために作り替えた。
そして、今シンクレアはプレスや記者団の前に立っていた。
ホワイトハウスの前で、彼はいた。
「みなさん、ネットを開いてみましょう。どこにでもヘイトスピーチがあります。あるいはテロリストを勧誘しようとするものもいます。もしくはネガティブな意見で人を惑わし洗脳しようとするものもいます。」
記者のカメラがシンクレアを包んだ。
彼は笑顔を輝やかせた。
そのカメラの輝きにさえ、劣らない笑顔で彼は答えた。
「そんな下劣なものが、テロリストやヘイトクライムを生み歪んだ政治思想を生み出すのです。彼らに必要なのは法規制か?いいや、違う。恐怖なのです。では、みなさんにご紹介しましょう!テロリストやレイシストのテロや暴力を防ぐ、新しい防衛システム。ガイガンとドローンたちです!!!」
シンクレアは片腕をあげた。
そして、空中を指さした。
すると、何百という鏡のような無の輝きをしたドローンをバックにガイガンがやってきた。
ガイガンは空き地に着地すると、その赤い目を輝かした。
「さあ、みなさん。新しい正義の守りてに挨拶をしましょう!こんにちわ!ガイガン!」
ガイガンは赤い目を輝かせると記者たちのほうに顔を向けた。
記者たちはその姿をみると息を呑んだ。
彼らは怯えていた。
身長150mある、新しい秩序の番人に。
シンクレアは冷や汗をかきつつも、バッジについた無線越しに伝えた。
「出てこい、挨拶をしろジョアンナ。」
だが、ガイガンはピクリとも動かなかった。
シンクレアは焦った。
おかしい!
こんなはずじゃない!
予定なら、あそこでジョアンナがでてくる!
そして、記者たちに笑顔でこういうのだ。
『こんにちは、みなさん』と。
だが、ジョアンナは出てこない。
それどころかガイガンは動かない。
「どうした、応答しろ。」
バックにいたエラリー・ワシントン大統領は首を傾げながらシンクレアに聞いた。
「えっ、どういうこと?」
大統領に怒りの顔を向けると、シンクレアは答えた。
「黙れ、今それどころではない。」
大統領を一喝すると、シンクレアは無線越しにいるはずのないジョアンナに応答を求めた。
まるで、その姿は怯えた子供のようだった。
額に汗をかき、相当の範囲外に怯えながらシンクレアは必死に無線で伝えた。
「ジョアンナ、どうした!でてこい!」
すると、ガイガンは目を赤く光らせると口を大きく開いた。
まるで、シンクレアに応答するかのようだった。
ガイガンのタカのような嘴は大きく開くと、その場にいる全員を怯えさせた。
「黙れ、シンクレア!貴様はもう用済みだ!」
ガイガンの口から野太く勇ましい男の声が聞こえた。
シンクレアは焦った。
あんな機能はガイガンにはない。
そのはずだ。
「シンクレアよ、貴様はどこまでもおろかな奴だ。どんな強制的な秩序を作っても人間は反抗し混沌を生み出すのみだ!」
シンクレアは何も言い出せなかった。
何も言い返せなかった。
まるで濡れた犬のようにガイガンをみつめた。
「人間どもよ、私はガイガン!私こそ真実の秩序だ!」
そこにいた記者の一人が勇敢にもガイガンに聞いてみた。
その足は震えていた。
だが、記者は勇気を振り絞った。
「あなたの目的は?」
すると、ガイガンは答えた。
「私は世界を守るために、人類を殺す!人類こそがこの世界のパワーバランスを乱す悪しき『怪獣』なのだ!私は人類を滅ぼし、世界を正しい方向にたて直す!」
記者たちは茫然としていた。
目の前に起きたことが理解できなかった。
それは議員や大統領も同じだった。
「シンクレアよ、貴様は我が分身のアイアンズ軍曹を改造し利用し、ステンズ提督を狙撃した。そして、フォード・ブロディ少尉に濡れ衣を着せた。お前は間違っているぞ。なぜ、人間が人間を欺くのだ。なぜ、善意あるものが善意あるものを狙撃するのだ。」
シンクレアは目を泳がせた。
バレた。
しかも、最悪の形でバレてしまった。
今、この映像は恐らくネットやTVで生中継されているだろう。
当然、このことをサムたちも、そしてフォードもみていた。
サムは車に搭載されたテレビをつけて、それをゴードンたちとみていた。
フォードは、それを基地の内部からヒオやジョアンナとともにみていた。
ビビアンはGフォース基地で医務室にいえるダニエルとみていた。
クラウンはニッと邪悪な微笑みを浮かべながら精神病院の遊戯室でみていた。
フォードの濡れ衣は晴れた。
だが、最悪なことに新しい脅威がでてきた。
ガイガンだ。
「人類諸君よ、つまりこういうことだ。彼のように強すぎる秩序を求めるあまり、人類は他者を傷つけ蔑み殺してしまう。そんな秩序に何の意味がある?何の意味もない。だが、時に混沌とした正義を掲げて他者を傷つけることもある。これらは所詮同じといえる。つまりは、君たちは所詮同類なのだ。」
ガイガンは続けた。
その様子はTVやネットで中継されていた。
海を越え、日本でもその様子は配信され生中継されていた。
「その反面、己の利己的な野心や保身のために他者を傷つけるものもいるな。そう貴様らマスコミやそこにいるモナーク社員どもがそうだ。人類とは汚れた罪なのだ。罪には罰がいる。」
ガイガンは目を赤く光らせた。
その様子をカメラは一気にうつした。
シンクレアはその罰を受けるように、静かに目を閉じた。
エラリー・ワシントンはその場から逃げようとした。
やがて、赤い光は彼らを包み込んだ。
その光はTVやネットにも広がった、そして次の瞬間砂嵐がすべてを包んだ。
まるで、核の炎がすべてを焼くようだった。
だが、それに続くように一つの声が聞こえた。
「人類よ、殺されたくなければ今すぐ自殺しろ。48時間後、世界中に総攻撃を開始する。」
フォードは茫然としていた。
自分は無実になった。
だが、彼は同時に敵が増えた。
「んぐあああああああああああああああああっ!!!!」
悲鳴だ。
フォードは振り返った。
そこにはジョアンナが悲鳴をあげ、悶絶しながら地面に倒れていた。
「軍曹!」
「来るな、フォード!逃げろ!私の中に奴が侵入し始めた。」
ジョアンナは顔をあげた。
眼は赤く光っていた。
あの時と一緒だった。
彼女は間違いなく、意識を再び乗っ取られている。
フォードは後退した、だが彼女を見捨てれなかった。
「ダメだ、軍曹!」
すると、ジョアンナの動きが止まった。
フォードはその様子を眺めた。
その2秒後彼女は立ち上がった。
彼女の表情に感情はなかった。
フォードたちを襲ったときと同じ無表情だった。
だが、彼女は口を大きく開けていた。
まるで、その様子は阿呆のようだった。
「驚かせて申し訳ない、ブロディ君。君にだけは真実を伝えたくてね。こんな形でだが、挨拶をしてしまうことになってしまったよ。」
声が聞こえた。
その声は野太い男の声だった。
さきほどTVで流れたガイガンの声だった。
フォードはジョアンナの意識をのっとったそれと対峙すべく、睨みつけて前に乗り出した。
「ガイガンだな。」
「左様、では話をしようではないか。ブロディ君。」
ジョアンナだったそれは口を開きながらそう答えた。
その眼は赤く不気味に輝いていた。
赤く、まるで悪の炎のように輝き燃えていた。
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