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目つき

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第一章


第一章

                        目つき
 佐久間桃李は猫を飼っている。猫の名前をタマという。
 名前は普通だ。しかしこの猫は普通ではなかった。何が普通ではないかというとまずは黒猫だった。
「御前は不吉な奴だな」
「ニャア」 
 彼がそれを言うといつも五月蝿い、と言わんばかりに返してくる。
 そして憮然とした顔で主を見る。その目つきがこれまた普段から悪かった。
 桃李は細身で背が高くしっかりとした身体つきをしている。少し見ただけではわからない奥二重の切れ長めの鋭い目をしており量の多い髪は黒く七三気味で分け結構伸ばしている。ホームベース型の顔は細長く鋭利である。しっかりとした口元と鼻、それに眉を持っている。
 この猫はあまりにも目つきが悪かった。ヤブ睨み目でしかも目の光が甚だ鋭い。まるで喧嘩を売っているかの様な目をしている。
 黒猫でそれだから当然可愛くない。それで桃李は彼にさらに言うのだった。
「御前そんなのじゃ女の子に持てないぞ」
「フンニャア」
 すると今度はほっとけ、といった調子で返す。こんな猫だ。
 それでも家族には受けがいい。それで結構可愛がられている。
 しかし彼の目つきの悪さといつもの不機嫌な調子は変わらない。しかも猫にありがちなことだが全く動くことがないのである。まさに置物である。
「それでタマ」
「ニャア?」
 今度も何だ、という声だった。
「今度彼女連れて来るからな」
 笑顔で彼に言うのだった。
「楽しみにしておけよ」
 彼はこう言って一旦そこから去った。そうして数日後。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
 彼の言葉に応えて家に一人の可愛らしい女の子がやって来た。歳は桃李と同じ位である。少しふっくらとした頬に先が尖った顎をしており優しい目をした女の子だ。髪は黒くそれを長く伸ばしている。背はわりかし高くスカートの下の脚が奇麗なものである。
 その彼女が来たのだった。見れば学校の制服のままだ。青いブレザーにネクタイ、それと赤いプリーツスカートという格好である。靴下は黒である。
「それで桃李君」
「どうしたんだい?」
「御家族の人は」
「いるよ」
 このことはすぐに答えた彼だった。
「お袋がね」
「そうなの、お母さんが」
「普段はパートに出ているんだけれど今日はいるんだよ」
 だからいるというのである。
「まあそれで美佳ちゃんを紹介できるんだけれど」
「そうね」
 彼女の名は我妻美佳という。桃李のクラスメイトである。
 二人は付き合っている。それで桃李は彼女を母に紹介する為に今家に彼女を呼んでいるのである。そうした事情なのである。
「だからね」
「そうよ。それで」
「何かな」
「お母さんの他には誰がいるのかしら」
「いるよ」
 いると答えるのだった。
「猫がね」
「猫がいるの」
「可愛くないのがいるよ」
 ここでそのタマがいるというのである。
「それもね」
「猫ちゃんなの」
「まあ気にしないで」
 タマのことはこう言うだけだった。
「それはね」
「気にしないで、なの」
「まあ入ってよ」
 桃李はここで彼女に促した。
「もう準備ができてるからね」
「有り難う。それじゃあ」
「うん、どうぞ」
 玄関の扉を開いてそのうえで彼女を入れた。こうして美佳は彼の家の中に入った。そうして中に入ってしまうとだ。そのタマがいるのだった。
「うわ、いきなり出て来たな」
「この猫ちゃんなのね」
「ああ、そうだよ」
 タマは玄関の真ん中に堂々と座っていた。そうしてその真っ黒い顔に黄色い目を見せていた。そのかなり目付きの悪いその目を。
 
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