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IS レギオン

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第6話

 一夏と千冬が円谷家と一緒になる時間から少し遡って、日本の西側のある一家に視点を変えてみたい。その一家は、古代から日本の指導者を陰から守る一族であった。その一族の後継者として古くから男子が選ばれていったが、もしもの時の為に、女子にもその権利を選ばせる為に訓練をさせていった。

 「只今より、更識家第16代当主選考試合を行う。両者前に」
「「はい」」
厳かな雰囲気を醸し出す更識家内の道場内で二人の姉妹が声を出し向かい合う。両者の目は真剣其の物であり、二人とも必ず勝ちにいくという空気が道場内に満ちていった。

 「では、試合形式は、一時間一本勝負。武器及び防具の使用及び装備数も無制限にする。それでも、勝負がつかない場合は、勝負が着くまで何回も試合する。勝敗は、降参は認めない.どちらかが手を地に着くまで試合を続行する事。では、始め!」
と言う審判の掛け声とともに両者は激突した。
「「はあっ」」

 姉妹のそれぞれの武器は、刀奈は、「六尺棒」を持ち、簪は「柄の短く刃が広い薙刀」を持ち、それぞれの防具は、無く道場着のみと言う格好であった。しかもそれぞれの武器は、れっきとした本物の武器であった。そして、それぞれの後ろには、幾つかの武具が立て掛けてあった。

 暫く時間が進むと共に何万回の得物の激突音と火花が飛び散り、得物が傷み、刃こぼれを起こし、それだけでなく、両者の蹴りや拳も交じって戦いに花を添えていった。

「其れまで、今から五分間の休憩を入る」
と言う審判の掛け声が、道場内に響いた。

 刀奈、簪両名は、それぞれ顔や手、足など無数の傷や痣を作ったが、両者とも気力や体力は、まだまだ余力を残していた。そして、二人ともボロボロの得物を捨てて、新しい得物を持ち、道場の真ん中に向かい合い、試合を待った。

 「両者、第二試合始め!」
と掛け声と共に何万回目の得物の激突音を響かせた。

  刀奈と簪が休憩を挟み再び激突した。二人の手には、第一試合前とは異なった武器が握られていた。刀奈の方は、両手に鉄扇(てっせん)が握られており、簪の方も両手にそれぞれジャマダハルを握られていた。

 鉄扇とは、古来日本が発祥の武器であり、防御にも使え、攻撃にもその鋭利で切れ味のある弧の部分を持つのが特徴であり、携帯にも便利な武器である。一方のジャマダハルは、発祥はインドであり、二本の並行するバー(支え棒)とその間に渡らせた握り棒が特徴であり、突く、刺す、切るを自在に使い分ける事が出来きる武器である。

刀奈と簪は、それぞれの武器の特徴を最大限に生かしながら、ぶつかり合った。刀奈が鉄扇を横に薙ぎる様に攻撃すれば簪は、ジャマダハルを持つ両手を床に突き刺して後ろに下がりながら蹴りを刀奈に対して見舞おうとするが刀奈は、鉄扇を立てて防御し、片方で簪の首を目掛けて振う。
「あらあら,簪ちゃん良く避けたわね。お姉ちゃんびっくりしちゃった」
とおどけながらも次の手を仕掛けた。
「お姉ちゃんこそ、私の手の分かっているくせに」
とその手を難なく避けてジャマダハルを構えた。

 暫くすると、刀奈は鉄扇を広げ弧を描くように時間差を付けて投擲し、さらにその隙に脇に仕込んでいた、ダガーを数本同時に投擲した。簪は、ジャマダハルを床に突き刺し、床に敷いていた畳をあげて、鉄扇とダガーから身を守った。ドスッ、ガッと言う刺突音が響いた。それを見た、刀奈は、バック転しながら、後ろの武器掛けから、ブーメランを投擲し、畳を切り裂いた。ブーメランとは、元々は狩りの道具であり、戦いの為の武器でもある。史実でも、オーストラリアの先住民族とイギリスの植民地軍との小競り合いでも一部使用されたと書いてあった。切り裂かれた畳が床に転がったが簪の姿が無く、刀奈は、新たな武器である。脇差(わきざし)を手に持ち臨戦態勢を整えた。すると、畳が倒れた時に起きた埃の中から数本の矢が飛び出してきた。それは簪が、畳をあげた瞬間にジャマダハルから手を抜きとり、後方にある武器掛けから連弩(れんど)を持ち放った物だった。連弩は、連射できる弓であったが、射程が短いためにあまり表舞台には出て来なかった。

 しかしながら、この道場と言う限られた中では、その能力が最大限に生かされた。
「お姉ちゃん、そろそろ床に手をついたら?」
と簪は、怒涛の連弩による攻撃の後、刀奈に言った。すると
「まだまだ、時間もあるし、私もまだ元気よ。簪ちゃん」
と受け答えたが、簪の連弩による連続攻撃を脇差で弾き、身体全体で避けたがそれでも、少なからずの矢を身体のあちこちに受けたが連弩の欠点である威力不足が功を奏し、道着に刺さった程度であったが、その中でもいくつかの手傷や顔に対して浅い傷を付けた。

 刀奈も、負けじと腰に備えていた残ったダガーを簪に向けて時間差を付けて放った。刀奈が放ったダガーに不意を突かれた簪は、連弩の発射口にダガーが刺さり、時間差を付けたダガーが頬を掠り、また違うダガーは、左ももに突き刺さった。その時、簪は痛みに声を出そうとするが、グッと耐え左ももに刺さったダガーを引き抜いた、そして、下半身の道着の一部を引き裂いて、左ももに縛って止血した。

 「お姉ちゃん、よくもやったね」
「あら、お互い様でしょ」
と両者は、少し距離を取りながら、言い合った。

 「両者それまで!また5分間の休息を取らせる!」
と今まで、無言だった審判が時計を見て、声を高らかに叫んだ。

  「では、試合再開!」 
と言う審判の掛け声と共に刀奈と簪は向かい合い、相手の手の内を見極めようとした。

「あら、来ないの簪ちゃん」
「大丈夫だよ。お姉ちゃん、今回でこの試合を終わらせてあげるから」
「あら、本当?でも私も負けないわよ」
と姉妹同士言いあったが、その目と動作は、隙が無く、隙を見せると必ず倒させると二人は確信していた。

 刀奈は、両手にそれぞれククリ(がたな)を持ち、いつでも行ける様に態勢を整えていった。

刀奈が持つククリ刀は、ネパールの一部族が古来から現代まで続いている武器であり、主に密林などに草木を伐採するため使い、あまり筋力を使わずに長く使用でき、殺傷能力も高い。但し、形状はギリシア起源であり、片刃で湾曲し、顎元(あごもと)に小さな窪みがあり,柄(え)は堅い象牙(ぞうげ)である。(但し、湾曲していないククリ刀もあるようです。by作者)

 一方の簪は、武器を持っておらず、拳にナックル・ダスターと呼ばれる武器をかぶせてあった。そしてそれを空手の型を構えた。

 簪が持つナックル・ダスターとは、今日(こんにち)の言葉ですが、これは拳を強化し、守るための武器であり、古代オリンピック第23回大会(B.C688頃)に初めて、拳闘大会に牛の皮を固くしたものを使用し、死亡することがあったそうです。それが直接の由来では無いそうですが、鍛え上げられた拳のように簡単且つ、手っ取り早く拳を強化、防御する物だそうです。

 二人は、それぞれの武器を持ちながら、ゆっくりと距離を詰めていき、ついに刀奈の方が先に動いた。

 「行かせて貰うわよ。簪ちゃん!」
と叫びながら、瞬歩の如く距離を詰め、跳躍し簪にククリ刀を振り上げた瞬間それは、突然に起きた。
クラッと、頭と両手足が鈍くなった感じがした。

「あれ、目がチカチカして、視界がぼやけてきた。しかも手足の感覚も無くなってきた。なぜ?」
と刀奈は、ククリ刀を手から離し地面に落とした。

 「やっと効いてきたみたいだね、お姉ちゃん」
とそこから動かなかった簪が、臨戦態勢のまま呟いた。
 「効いたってまさか、簪ちゃん」
と刀奈は、身体が痺れながら呟いた。
「そうだよ、お姉ちゃん。前回の試合の時に連弩の矢に遅延性の痺れ薬を塗っておいたの」
「!」
顔の頬についた切り傷を触れた。
「余り、動かない方がいいよ、お姉ちゃん。薬の周りが速くなって、身体の自由を奪っていくから。だから、早く床に手をついて負けを認めてよ」

 その言葉を聞いた刀奈は、
「まだまだ、私は負けないわよ。簪ちゃん、いや、簪さん」
と言いながら、身体が痺れ、視界が霞みながらも構えを取った。

 「本当に強気だね、お姉ちゃん。いや、刀奈さん。それなら私も本気で行くよ」
「あら、今まで本気じゃなかったの?」
と言い合いの後、簪は、ナックル・ダスターを構えながら、瞬歩を使い一気に刀奈の懐まで詰めていき、ナックル・ダスターを打ち出した。

 しかし、刀奈は最後の力を振り絞って、後ろの腰の部分に差してあったある物を取り出し口に銜え(くわ)、放った。

 その放った物は、簪の頸動脈に刺さり、簪はその物を抜き、それを見て驚愕した。
それは、吹き矢の矢であった。

 吹き矢とは、主に東南アジアが発祥だと思われがちだが、本当の発祥地は正確には分かっておらず、特に密林などの狭く、槍や弓といった物が使用が制限されるところでは絶大な威力を発揮し、しかも、槍や弓よりも登場時代が遅いという特徴もある。(しかも、一部資料には、銃砲よりも遅いという資料もあった)

 その直後、簪は自身の気が遠くなる気がし、目の前が突然暗くなり、眠気が遅い、どこか遠くで「それまで...」と言う声が聞こえた気がした。

 「そこまで、勝者、更識刀奈!」
と言う審判の甲高く鋭い声が道場内に響いた。
「ハア、ハア、ハア、さすがに危なかったわね…」
と、息も絶え絶えな声で刀奈の呟きが漏れていった。

 何故その様な事になったのかはこれから説明したい。

 「これで、終わりだよ!刀奈さん!」
と懐まで瞬歩で迫り、一気に勝負を掛けようとして、ナックル・ダスターを刀奈の腹部に食らわせようとして拳を構え今にも放とうとした一瞬の隙を狙い刀奈が最後の力を振り絞り、即効性の麻酔針を仕込んだ吹き矢を躊躇なく放ち寸分違わずに簪の頸動脈に刺さった。

 そして、即効性の麻酔が素早く体に回った簪は手と身体全体を床に着いた後に「数、数、数」と寝息を立てた。その後、刀奈も気力と体力の限界を迎えたかのように簪の向かい側に倒れ伏すように眠りに落ちていった。

 「これで次期楯無家の名を受け継がせる事が出来るな」
と試合直後に二人が楯無家の使用人とお抱え医師団の手によって運ばれる中、現頭首である更識楯無(本名 隆元(りゅうげん))が呟いた。
「でも、これから本当にあれをするつもりなの?あなた」
と何かを心配そうに呟いた(さざなみ)を隆元が咎めた。
「仕方がないだろう、それが私たち一族が代々受け継いでいる決まりなのだから」
と何か悲しそうな声で隆元が呟いた。
「でも、あの子達仲がいいのよ。それを...」
「いい加減にしなさい!これは決まったことだから」
と無理矢理その話題を終わらせた。

 それがどの様な事なのかは、隆元のほか一部の人しか知らない。そして、あの二人の運命は、大々的に大きく変わることになる。しかしそれも決まったレールの上を走る電車のように止まらない。
 ちゅん、ちゅん、と小鳥が囀る声とともに暖かい日の光が和室を満たしていきそこに寝ていた二人の姉妹の寝顔を照らし出していった。

 「あれ、ここ何処だろう?」
とそこで寝ていた、簪が目を覚まして呟いた。
「あら、簪ちゃんもお目覚め」
と隣で寝ていた刀奈が簪の耳元で呟いた。
「わぁ、お姉ちゃん、びっくりさせないでよ」
と耳元で呟かれ、飛び起きながら喋った。

 暫くして、姉妹は普段余り着ていない和服に着替え終えて二人は見合いあった。二人ともそれぞれに合った和服と簪を身に着けており、中々様に成っていた。
「私、負けちゃったね」
と簪が呟いた。
「大丈夫よ、簪ちゃんまだまだ強くなれるし、それにもう少しで私が負けたかもしれないし」
と刀奈はそっと簪を両手で包み込むようにしながら慰めた。

 「二人とも起きたのか」
と部屋のふすまを開けながら、隆元が呟きながら入ってきた。そして、
「二人とも着替え終えたのか。それなら一緒に来なさい」
と有無を言わせないという雰囲気を醸し出しながら隆元は、二人を招えた。

 そして、長い廊下を隆元が先頭に立ち、その後ろに刀奈と簪が付いて行った。その廊下が終わり、正面と横の方に大きな扉と小さな扉があった。その中間の辺りで隆元が立ち止り、二人に言って聞かせた。

 「刀奈の方は正面の部屋に入っていなさい。簪は、私と一緒にこっちの部屋に来るんだ」
 と言った。
「簪ちゃん、後でね」
と言いながら、大きな扉を開けて部屋に入っていった。
「さあ、簪、こっちに来るんだ」
と言いながら、簪と共に小部屋の方に入っていった。

 それが二人の姉妹の運命が大きく分かれていった。

  父に連れられて小部屋に入った簪は言い知れない不安が脳裏にふと過ぎったが、忘れようとして、頭を軽く振り気分を変えた。
「失礼します」
と軽くお辞儀をしながら部屋に入った。

 その部屋は和室であり、床に畳が敷かれてあり、正面には母が和服姿で正座しており、その隣に父が正座し座りその前には、茶柱を立てた湯呑が置いてあり、そして向かい合いには、簪が座るための座布団と湯呑があった。

 「簪、そこに座りなさい」
と父の一言が響き、簪は
「はい」
と言いながら、正座をして座った。
「さて、簪よく聞きなさい。前日の試合、あなたは刀奈に負けましたね」
「はい」
「そこで次期更識家の当主を刀奈にすることを私たち更識家及びその関係者一同は決めた。その為、これから刀奈に対して任命式を執り行うが、簪にはその任命式には出ないで欲しい」
「え...」
とその言葉を聞いた簪は困惑した。
「何で、出席出来ないのですか!」
と簪は抗議して立ち上がろうとしたが、
「静かにしなさい。立ち上がらずに最後まで聞きなさい」
と父が言った。

そして、簪は再度正座し直しお茶の入った湯呑を一口飲んで気分を落ち着かせた。
「家の代々の仕来りで、「楯無」の名は一人でしか名を継ぐ事が出来ず、私もこの名を継いだ時には、他の兄弟は、「不幸にも亡くなった」為に私が継ぐ事になった」
と父が理由を告げた。

 「え」
と動揺した。
「どうして、他の兄弟は亡くなったの?」
と聞いた。
「それは、家の仕来りで「楯無」の名は一つだけで、一人しか継ぐ事が出来ない為に他の人には、事実上「消えて」貰うしかないのだよ」
と残酷な「真実」を簪に告げた。

 その時、簪は言い知れない恐怖が全身の覆った。そして、次の瞬間簪の身体を寒気と苦しみが突き刺した。
「どうして...」
と母の顔を見て訴えようとしたが母は、
「御免なさい」
と言って顔を垂らした。

そして


 簪は、「死」の恐怖と共に「復讐」と「恨み」が全身を満たした。
そして、簪は今まで溜め込んだすべての「負の感情」を出した。
「みんな殺してやる、みんな壊してやる、そしてこの世界を終わらせてやる、すべてに復讐してやる」
と。

 そして、簪の首元に下がっていた勾玉が緑色に怪しく光った。

 簪は、「邪神」になった。

  「どうかしたのか、簪?」
と今まで、湯呑の中のお茶に仕込んでいた更識家特性毒薬の効果で苦しみだした簪が突然苦しむのを止め、顔を俯かせて黙り込んだのを見た父が怪訝そうな顔をしながら尋ねた。それを見た母も、
「御免ね、簪ちゃん許してね」
と簪に許しを請いながら近づいた。

 その時

 簪が俯いたまま立ち上がり、顔をあげた。その顔には、今まで家族が見た事の無い様な鋭い眼つきと憎しみと絶望感が表に出ていた顔立ちであり、目の色も黄色く濁っており、目の中間にも黄色に近い色の玉のような物体が顔の表面から浮かび上がっており、そ首元に下げていた勾玉が異様な緑色の光を放っており、一言で言い表すと「異様」と言う言葉が父と母には簡単に分かった。

 「なんだ、何が起こっているんだ…」
と父は茫然と呟いき、簪に近づこうとした瞬間。

 突然、簪の背後から4本の長く太くオレンジ色に鈍く光った触手の様な物が現れた。そいて、茫然としていた父と母にそれがまるで自身が意識を持っているかの様な複雑な動きをし、二人にそれぞれ2本ずつ襲い掛かり、二人にその鋭く尖った物を突き刺し、二人を瞬く間に骨と皮だけにし、それ以外の脳や内臓器官などもすべて液状化させ、鋭く尖った針から吸収しミイラにした。唯一幸いな事に二人には、それを理解する暇もなかった。

 そして、簪は4本の触手を展開したままに部屋の壁に触手を向けた。そして、その職種の先端が小刻みに振動し始め、その振動と共に超音波が発生し始めその振動と音波が最高潮に達した瞬間、それぞれの触手からオレンジ色に輝いた光線が壁に向かって放射され、放射を受けた壁が、簪が通れる位の空間の感覚の線が出来上がり、その内側を触手が打倒した。その切断面はとてもきれいに切り裂かれていた。

 そして、外に出た簪は、
「南に向かおう、そして、ある島に向かおう.そして、私の復讐の準備をしよう。これから、わたしは、 自由 だ! ハハハ、ハハハ、アハハハハッ」
と叫び、触手と触手の間から美しく、薄い膜の様なのが出て来て、それを少し羽ばたかせて簪の身体を浮き上がらせ、瞬く間にそれは音速とほぼ同等なスピードに加速し、簪は南に向かって消えた。

  音速以上のスピードで南に向かった簪は、長崎県五島列島の中にある姫神島という島に静かに降り立った。降り立った時には日が暮れており、海岸線に近い小さな集落にも灯りが燈っておらず、島全体が完全に静まり返っていた。

 「此処に私が求めている物が有るんだ。これが私の復讐の第一歩、ふふふ」
と言いながら怪しげに口元が笑った。そして、自分を呼ぶような感覚を覚えて、その声がする方向に足を進め、鬱蒼と茂る獣道を掻き分けて入っていった。

 そして、獣道が途切れた所で、簪が立ち止った。
「此処にあるのね。さあ行きましょう」
と呟くと洞窟内に入っていった。そこは薄暗く、湿っており苔が生い茂っていた。そして、所々に巨大な石が集まっていた。いや,石ではなく卵であった。

 簪は、一つの巨大な卵に近づくと、それは大きく揺れ始め、そして遂に割れた。割れた後には、巨大な鳥のような生物が現れた。

 その生物は、体長約3mほどあり、身体は赤く、頭部はやや平たく横幅が広く、眼が小さく目立たない。という特徴を持っていた。
 「キャオン、ギャオン」と産声を上げた瞬間、他の卵も同じように次々と生まれ、産声が洞窟内に響き渡った。
 「うふふふ、生まれた、私の子供達名前付けないとね。貴方たちの名前はそうね、「ギャオス」って言うのはどうかしら」
と簪は嬉しそうに怪しく笑った。すると一匹の鳥いや、ギャオスが簪を見つけた。ギャオスは簪を餌と間違えたが、簪が背中から触手を展開し、額に黄色い玉のような物が出てくると、ギャオス達は一瞬ビクッと退くと、簪を中心に恭しく頭を下げた。 

 「ふふふ、みんな賢いわ、私とっても嬉しいわ」
と簪が言った後、
「みんな、お腹が空いてるね」
というとギャオス達は、肯定するかのように声をあげた。
「大丈夫よ、エサはちゃんとある事だし」
と言いながら、静まり返った海岸の集落を見た。


 その日、一つの集落がこの世から姿を消した。
 
  ギャオスによる姫神島の惨劇が終了後にギャオス及び簪は、南に向かおうとした。
「ふふふ、食事も終わったことだし、ここにはもう用はないわね。さあ、子供達、次の場所に行こう」
と言いながら、簪は触手を広げその間から膜を作り出し、空に飛んだ。それについて行くようにギャオス達も翼を広げ空に上がった。

 もちろん、その行動は空自及び在日米軍沖縄基地のレーダーに捕捉され、空自及び在日米空軍によるスクランブルが発令されたが、ギャオス及び簪の行動スピード及び運動性能がスクランブルの担当機を遥かに凌駕し補足できずに終わった。

 丁度その頃、赤道よりも少し南にあるニューギニアにもある少女がある生物の死体を見つけようとしていた。
 少女の名前は「篠ノ之 束」と言いその恰好は、熱帯雨林特有の湿気や各種病原菌の感染の恐れに対する恰好や装備などが全くなく、しかも現地スタッフすら居ない普通では考えられないありえない恰好であった。
 
服装は、まるで童謡に出て来る可愛らしい服装であり、両手足素肌が丸見えであり、頭には、機械的なウサギ耳が片方だけ垂れ下がっており、容姿もアニメなどに出て来る派手なピンク色の髪を腰まで垂れ下がっており、世間一般から見ればこの地でこの格好だと、自殺行為又は世迷い人だと思われても可笑しくは無かったが、困ったことに本人は、「ハア、貴方たちの方が馬鹿じゃないの?この天才、束ちゃんがそんな変でかっこ悪い服装に着替える訳無いでしょ。ばかじゃないの」との事だそうだ。

 「それにしても、暑いなあ。まったく困った太陽だなあ、いっそ壊しちゃおうか」
と言いながら、束はずんずんと道無き道を唯我独尊で歩いていた。
「あーあ、こんなところになんで私一人で来たんだろう。いっその事、ちーちゃん(千冬)と一緒に来て見たかったなあ。なんで、あんな普通の弟と天体観測に行ったんだろう?この天才束ちゃんは理解できないよ」
とぶつくさ文句言いながら、現地住民が聖域と恐れ奉られていた場所にたどり着いた。

「おおう此処かあ。地元の人が「そこに行った者、そこで呪われる」とか何とか言ってたけど、何にも無いじゃん。只の洞窟だけじゃん」
と文句を言いながら、懐から懐中電灯を取り出し、足元を照らしながら洞窟内に入っていった。

 それが、後に世界にとんでもない物を拡散させていき、それに呼応するかのように復讐者と亡霊たちが利用して世界を滅亡させて行こうなど、この時世界中の住人の只の一人も感知出来なかった。仮に出来たとしても、其れはもう止まらない時間と同じようであった。

 

 



  
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