魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 第13話 「少年と王さま」
落ち着かない。現在の気持ちを一言で表すならこれになる。
今日は高町、フェイト、はやての3人が家に来ることになっている。ここ最近レーネさんは魔法世界に滞在していることが多いこともあって、別に人に見られて困るような状態にはなっていない。
それにも関わらず、俺がそわそわしているのは……家に女の子が来るから、なんて理由ではない。こんな理由でそわそわしていたならば、半年ほどもシュテルと一緒に暮らせないだろう。俺がそわそわしている理由は、運が悪いと高町達と別の客人が鉢合わせてしまうからだ。
別の客人というのは、ディアーチェだ。
なぜディアーチェが来るかというと、相棒であるファラがセイバーの研究の手伝いで俺の元を離れているため、代わりのデバイスを持って来てくれるのだ。
これまでにもファラと離れることはあったのだが、時間が短いまたは俺も魔法世界に居たということがほとんどだった。そのためデバイスを持たない状態でも大丈夫だろうと思われていたのだが、1年の間にロストロギアを巡る事件が立て続けに起き、それに関わってしまった。念のために持つように指示されるのは当然だと言える。
ファラ以外のデバイスに触れるのも久しぶりだよな。前はテストで色んなタイプを使ってたけど……今回は何を持って来るんだか……何となく寂しさや罪悪感みたいなのがあるけど、ファラも進んでセイバーの研究を手伝ってるからな。
「最初は嫌がってるみたいだったけど……多分妹ができたみたいで嬉しくなったんだろうな。まあ稼働時間の短いセイバーはファラの接し方に疑問を抱いてそうだけど」
まあ一生会えないわけでもないし、ふたりの関係が良いほうが俺としても困らない。それにセイバーの研究が進む方が、結果的にはやてのためにもなる。ファラが傍にいないのはあれだが、文句を言ったりするのは良くないだろう。
「……というか、今俺が考えるべきなのはファラ達のことじゃないな」
ディアーチェだけならいいが、他の連中まで来て鉢合わせたら騒がしくなるだろう。
シュテルは仕事だとは思うが何をするか分からないところがある。突発的に現れても驚きはしない。別の意味では驚くが。
レヴィはまあシュテルより楽なところがあるけど、元気がありすぎるから高町達と会うとうるさそうだし。ユーリは体があまり丈夫じゃないって話だし、これといった用がないと来ないと思うけど……来たら1番怖いというか困るかもな。何でもストレートに言う子だし。
「できればディアーチェだけで……」
可能なら鉢合わせもなしで、と口にしようとするとジャストタイミングでインターホンが鳴った。どちらが来たのだろうかと思いつつ玄関に向かい、ドアノブに手を置いてから一呼吸置いて扉を開ける。そこに立っていたのは……春らしい服装をしたディアーチェだった。ディアーチェひとりだった。
「久しいな……何を安堵しておるのだ?」
「いや……ディアーチェ以外にも来るのかなって思ってさ」
俺の言葉にディアーチェは納得した顔を浮かべる。シュテル達と関わった場合、似た立場になることが多いだけに俺の気持ちを察してくれたようだ。
「安心するがよい。今日は我だけだ。シュテルは仕事と言っておったし、ユーリはここ最近はある研究の手伝いをしていると聞いておる。レヴィには誰かしらの手伝いをしろと指示したから、あとから来ることもあるまい」
尊大な態度だがディアーチェだと安心感を覚えるから不思議なものだ。カリスマ性がある人間というのは、彼女のような人間を指すのかもしれない。
見た目や能力ははやてにそっくりだけど、あいつよりも一緒に居て落ち着くよな。からかったりしてこないし、言動の割りに相手のことを気遣ってくれるし。素直じゃないところがあるけど、そのへんはディアーチェの可愛らしさの一部だよな……って、俺は何を考えてるんだか。
「そうか。ありがとな」
「礼には及ばん。あやつらが居ると騒がしくて堪らんからな……貴様に渡すように言われていたものだが」
「ここでか?」
「別に見た目はあやつと違ってアクセサリーなのだ。見られても問題はあるまい」
「まあそうだけど……わざわざ来てもらったわけだからお茶くらい出したい気持ちがあるんだが」
高町達と顔を合わせることになるのであれだが、まあディアーチェだけみたいだし出会ってもシュテル達のときとは違う展開になるだろう。それに今後関わる可能性がある以上、早めに出会わせておいたほうがいいのでは? という思いもあったりする。これを実行するなら、今日のようにディアーチェ独りの時ににするべきだ。
それに個人的にディアーチェと話すと安らぐし、彼女も何かしら愚痴を言いたいことがあるだろう。そういった気持ちが混ざり合って出た言葉だった。
「ふむ……長居する理由はないが断る理由もない。しばしの間ではあるが邪魔させてもらおう。……何を笑っておるのだ?」
「別に何でもないよ」
そう言って中に入ると、ディアーチェもあとに付いてきた。脱いだ靴をきちんと並べるあたり、礼儀正しい子である。
「続きだが、何でもないということはあるまい。素直に言ってみよ」
「本当に何でもないんだけどな。ただディアーチェって良い性格してるなって思っただけで」
「なっ……何を言っておるのだ貴様。我くらい別に普通であろう」
自分のことを我と言って尊大な言動を取り、でも王さまという愛称で呼ばれるほどに人から好かれている子が普通だとは思わないのだが。まあそのへんのことを除けば、知り合いの中では普通の女の子だと言えるけど。
「シュテルやレヴィがあのような性格をしておるからそのように思うだけだ」
「それは……否定できないな」
「まったく……レヴィは相変わらずだが、シュテルはどうしてああなってしまったのか。昔からお茶目な一面はありはしたが、あそこまでひどくはなかったというのに」
それは……叔母に近い環境で仕事をするようになったからじゃないかな。
そう言うのは簡単であり、ディアーチェも納得しそうであるが……彼女は叔母を敬愛している。それを考えると叔母を悪く言わない方がいいのではないかと思ってしまうから不思議だ。彼女以外だったなら、おそらく俺は躊躇いもなく口にしているだろうから。
「じゃあ昔の方が良かったのか?」
「それは……どうであろうな。前よりも自分から人と関わるようになっておるし、口数も増えておるように思える。それは考えるまでもなく良いことだ……しかし、今の性格のまま進むのも」
「何ていうか……考えてることが母親みたいだな」
「長年の付き合いなのだから心配になるのは当然であろう。それにあやつのご両親からも頼まれておるからな」
だからしぶしぶやっている、といった感じで言うディアーチェだが、それだけシュテル達が大切ということだろう。口にすれば顔を赤くしながら否定するだろうから言わないでおくが。
「そっか。でもたまには自分のことも優先しろよ」
「案ずるな、そのへんはちゃんと理解しておる。……が、今のところ我にはシュテルやユーリのような目標がないからな」
レヴィの名は出ないんだな……まああの子に目標なんてなさそうだしな。毎日を楽しく過ごしたいって感じのことはありそうだけど。
「ディアーチェも昔からレーネさんの手伝いとかしてたんだろ? 何か興味を持つものってなかったのか?」
「確かに色々とやりはしたし、一応デバイスマイスターなどの資格も持ってはおるが……」
さらりと言われたので聞き流しそうになってしまったが、今ディアーチェはデバイスマイスターの資格を持っていると言ったよな。シュテルよりも勉強できるという話は聞いていたので驚きはしないが、取ろうと思っている身としては思うところがないわけではない。
「シュテルやユーリほど興味は持てなかったからな。それにレーネ殿のようになるかと思うと、見守る側で居らねばという思いもあるし……」
その気持ちは……痛いほど分かるな。ここ最近はなくなったけど、前はよく貧血や栄養失調で倒れたって話を聞いてたし。そういうので倒れる割りに疲労で倒れないのが不思議だけど。
話している間に場所はリビングに移り、俺はお茶の用意をする……わけだが、会話を途切れさせたくないのか、純粋な気持ちからかディアーチェも手伝ってくれた。彼女のような子と一緒になれた人間はさぞ幸せな家庭で過ごせるのだろう。
「じゃあ、今は何にも興味がないのか?」
「いや……この世界の文化には少し興味がある。今日も帰る前にわずかばかり街を見て回ろうかと思っておってな」
「そうか……案内したいところだけど今日は客が来るからな」
「気にするな。我はレヴィのように考えなしに動き回ることはせんし、貴様には貴様の付き合いというものがあるだろう。……それに今日のような状況では…………デートだと思われてしまうではないか」
「あのさ、後半何か言わなかったか?」
「別に何でもない!」
「何でもないって……」
「貴様に我ら以外に知り合いが居たことに安心したというか驚いただけだ」
えーと……心配してくれたことに礼を言うべきか、それとも驚いたという部分に指摘を入れるべきか困るな。相手がシュテルとかなら即決で後者を選択できるんだが……。
「そういえば、今の話ってレーネさんにはしたの? 言ったら何かしら力になってくれそうだけど……ディアーチェの性格だとそういうのは言えないか」
「自分で聞いておきながら完結させるな。確かに貴様の言うように自分から言うのは躊躇われるが、話の流れですでに言ってしまっておる」
「そうなんだ。それで?」
不自然な問いかけではなかったはずだが、不意にディアーチェは黙ってしまった。何かしら喉にでも引っかかったかと思ったが、表情を見た限りそうではないようだ。
「……ディアーチェ?」
「……ここ…………と……に…………」
何か言ったようだが、聞こえた言葉だけでは内容が分からない。首を傾げながら少し待つと、俯いていたディアーチェが顔を上げた。何を言うつもりなのか分からないが、頬が赤いうえに決死の表情をしている。
「こ、ここに住んでお前と一緒の学校に通わないかと言われたのだ!」
予想外(聞いた後で叔母の性格を考えると予想通り)の言葉に俺は絶句。その直後、盛大にむせた。
――な……何を考えてるんだあの人は。確かにこの世界の文化を知りたいなら現地で生活してみるのが1番だろうし、ディアーチェの親御さんからしてもここに住まわせるほうが安全かつ経済的に助かるだろうけど。
まだ話が確定していないだけシュテルのときよりもマシではあるが、そういう話をしているなら一言くらい俺に言ってくれてもいいのではないだろうか。ある日突然「今日からディアーチェもここに住むことになった。まあ仲良く過ごしてくれ」なんて言われたならば、さすがに俺も文句を言うはずだ。
「……すまん。もう少し平静に言うべきであった」
「いや大丈夫……聞いたのは俺だし、ある意味聞けてよかったよ」
「そ、そうか……」
そこでお互いに口を閉じてしまったことで空気が一変する。無言と共に空間に何とも言いがたい気まずさが漂い始めた。
な、何か言わないと……でも何を言えばいいんだ?
急に話題を切り替えてもあれだし、同じ話題で話し続けるのもどうかと思う。しかしその一方で、ディアーチェのことを考えると、きちんと俺の意思は伝えておくべきかもしれないとも思った。
「……えーと……俺は別にいいから」
「うん?」
「いや……だからその、ディアーチェがここで生活したいならしてもさ。シュテル用の部屋も今じゃほとんど使われなくなってるし、俺と君の家は昔から付き合いあったみたいだし」
「そ、それはそうだが…………実行するとなるとまた余計な話が……いやしかし……」
色々と思うところはあるようだが、少しと言っていた割に興味があることを学びたいという想いはあるようで、ディアーチェは口元に手を当てた状態でしばらく考え続けた。
「……貴様の気持ちは分かった。だが今すぐにはさすがに決められん」
「それはまあ……俺達だけで決められることでもないし。それに今後を左右する可能性だってあるんだから、後悔がないようによく考えて決めなよ」
「うむ。……っと、そういえば客が来るのだったな。そろそろ我はお暇するとしよう」
ディアーチェはそう言って食器を片付けようとする素振りを見せたので俺はそれを制した。
「いいよ俺がやっとくから」
「しかし……」
「ディアーチェはお客さんだろ? こっちがいいって言ってるんだから、たまには素直に甘えろよ」
「そのように言われては仕方がないな……つい話に夢中になってしまっていたが、これが貴様のデバイスだ」
渡されたのはアクセサリー型。具体的に言えば、手の平に収まるサイズの黒い剣だった。
「これって……アームドデバイスか?」
「貴様は剣で戦う魔導師だと聞いておるし、最近はベルカ式も学んでおるのだろ。何か困ることでもあるのか?」
「いや、てっきり一般的な杖型のストレージかなって思ってたからさ。デザインとかからして一般的な剣型のアームドデバイスでもなさそうだし、予備のデバイスとして持ってていいのかと思って……」
「なるほどな。が、それは貴様のデバイスだ。貴様が持つべき……というか、持っておかんと何か言われるぞ」
……この厄介そうというか面倒臭そうな顔からして、このデバイスの製作者はあいつなんだろうな。まあ俺の能力やファラのことを1番把握してるだろうし、理に適ってるとは思うけど。
ただ……将来的に研究を引き継いだとしても、パートナーという関係にはなれない気がしてきた。現時点で技術の差が明確だし、何よりあちらは天才というか秀才タイプだし。
「では、今度こそ失礼する」
「ああ、今日はありがとう」
「貴様には我の知り合いが迷惑をかけているのだ。気にするな」
「いや、会う頻度からしてそっちのほうが苦労してるだろ?」
「それは……」
ここで言い淀んでしまうあたり、本当にディアーチェは苦労しているのだろう。俺のいないところで、いったい彼女には何が起こっているのだろう。知りたいような……知りたくないような……。
そんなことを思っているとインターホンが鳴った。反射的に時間を確認してみると、予定していた時間よりも早い。可能性として考えていなかったわけではないが、あと数分早くまたは遅く来てほしかった。ここから去ろうとしたディアーチェのためにも……。
後書き
読んでくださってありがとうございます。
しばらく時間を空けてしまっただけに、以前のように書けているか不安だったりしますが、それ以上に前作が皆さんからネタなどをもらって書いてたこともあって、今後の流れの不安だったりします。
なので気軽にこういう話が読みたい、こういうネタが面白そうというのがあったら教えてもらえると嬉しいです。
それとふと思ったのですが、前のようにキャラ劇場みたいなものや最初の方のように次回予告があったりしたほうがいいでしょうか?
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