魔法科高校~黒衣の人間主神~
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九校戦編〈上〉
九校戦二日目(1)×クラウド・ボール
九校戦二日目となったが、朝は俺達にとっては日課となっている。ここは一応軍事施設で一流民間ホテルよりもセキュリティは更に上なのに、この前の賊みたいなのが入って来る時がある。それに俺達が朝の日課をしている時は、人払いの結界に監視カメラで映らないように細工してある。俺達の鍛錬が終わったら映るようにしている。それと昨日送信してから、牛山からの脳量子波で今夜届く手筈となっている。俺は思いつきでは作らないが、こういうのは今後必要になるはずだと。そんで鍛錬を終えるとトレミーで風呂に入ってから、ブリッジでの様子を聞くがまだのようだ。その後に技術スタッフ用のブルゾンに徽章が付いているを着た。蒼い翼のアレは目立つし、アレは発足式だけのだから。競技エリア内に設けられた第一高校の天幕にいたが、クラウド・ボールについてはゼロが記憶媒体から引っ張ってくるので問題無し。
「一真君、今日は急にごめんなさいね。新人戦まで英気を養っておこうと思ったんだけど、担当よろしくね」
「いえ大丈夫ですよ、それに全員分のデータは記憶ではなくゼロがやってくれるんで問題ないです」
「そういえばそうだったわね、それが専用のパソコン?デバイス調整用には見えないけど」
「これはゼロが入っているものなんで、デバイスやISを同時に調整できるんですよ」
そう、このパソコンはCADとISを調整出来る代物だから普通のではない、試合が始まりそうだったので、俺と会長は一緒に行ったのだった。試合中の調整は許されてないがコート脇についていかなければならないのは当然。深雪はアイス・ピラーズ・ブレイクを見に行ったので、最近は別行動が多い。試合場前にクーラージャンパーを脱いだ瞬間、それで出るのか?と思ったがまあそれもアリだろうな。クーラージャンパーは熱電効果による冷却機能がついた防暑用スタジアムジャンパーだが、俺の服はエアコ
ンスーツなので似ているような気がした。
「そのウェアはとてもお似合いですね」
「そうかな?それよりいつもの護衛者さんはいないの?」
「蒼太ですか?俺と一緒だとバレるといけないので、会場の隅で見てますよ。それと沙紀は深夜のとこにいます」
俺が深夜と呼び捨てにしたのは、会長が俺と深夜の関係を知っているからあえて言っただけだ。上機嫌でストレッチを始める姿を見ながら、ジャンパーを畳んでから席に置いたけど。テニスウェアとしか見えないのは俺だけでは無さそうだが、ポロシャツにスコート姿。それも競技用というより、ファッション性重視のだけど少し身体を傾けるだけでアンダースコートが見えてしまう。確かクラウド・ボールは動きの激しい競技だとしか知らない。通常は半袖シャツにショートパンツに転んでも大丈夫なように膝と肘にプロテクターを着ける選手もいるけど、会長は一切着けてない。魔法オンリーなら走らずに済むからなのか、プロテクターをつけてないがラケットを使用しない選手は逆にボールにぶつかって怪我をしないようなウェアで出る。両手両足剥き出しの、ヒラヒラした格好で出場する選手は会長しかいないと思った。
「それより一真君は昨日電話越しで聞こえたキーボード音は何だったの?」
「あれなら何でもありませんよ、それよりラケットは使用しないんですか?」
「うん、私はいつもこのスタイルよ」
いつもテニスウェアでやるのかと思ったが、まあ俺達が娯楽でやるとすれば魔法無しのテニスやバトミントンとかだからなのか。あまり気にしない方向で見ていたがデバイスは何を使う?と聞いたら小さなバックから取り出した拳銃形態の特化型デバイスだった。ショートタイプ、一部でシビリアンタイプと呼ばれるがハンドガンタイプの銃身部分が短いと思った。拳銃形態・小銃形態デバイスの銃身部分には照準補助装置が組み込まれている。魔法的な座標(対象物エイドスのイデア内における相対座標)を計測する為のアクティブレーダーがこの銃身の正体でもある。
「いつもは汎用型でしたよね?」
「普段はね。どうせ一種類しか使わないから」
長い銃身を持つデバイスは、照準補助を重視している。特化型の起動速度のみ、照準補助を求めるためにそれを必要しない魔法師はショートタイプが向いている。まあ俺の場合は照準補佐がなくとも当てられる自信があるから俺のはいらない。
「移動魔法ですか?それとも逆加速の方ですか?」
「正解。『ダブル・バウンド』よ」
会長はストレッチを続けながら、特にもったいぶる事なく俺の質問に答えた。
「一真君、ちょっと手を貸してくれない?」
「いいですよ、何をすればいいんです」
ぺたりと座り込んで大きく脚を広げた会長は、背中を軽い力を斜めに押す。ほとんど抵抗なく会長の胸は脚についたから、とても身体が柔らかいんだなと思った。
「運動ベクトルの倍速反転とは・・・・。一種ではリスクはないのですか?低発性ボールは、壁や床で運動エネルギーが失うと、相手コートまで戻らない可能性もありますが」
「んーんんん・・・・・っと、一応、他の加速系魔法も入れているけど、去年も使わなかったし」
普通に言っているが、相当な力量がないと出来ない事だ。ま、昨日もだけどあれだけの実力を見せたのだから当然と言えば当然。七草家の実力がどれぐらいかは既に知っているが、改めて再認識した俺だった。
「もう良いわ」
左右四回ずつ繰り返したところでそう言われた後に手を離した俺だった。腰を伸ばして両足を揃えた会長がこちらを見上げて手を差し出してきたので、俺は何も考えずに手を取り握る。そして立ち上がる会長だったが、手は柔らかな手ではあった。軽く引っ張ると会長は膝を揃えたまま器用に立ち上がる。
「ありがと、それにしてもすぐに気が付くとはさすがよね」
「まあそんなもんですよ、俺は擬態前だと真由美の誕生時からずっと昔からいた人間ですので」
「そういえばそうだったわね、私には兄や妹はいるけど。模範的な兄というのは、一高の中では一真君だけかな」
「秘密主義を持つ四葉家ですが、七草家は社交的な家柄ですがそれは表です。裏では両家と共に織斑家と零家を友好とした家柄ですので」
会長が俺達を知るまでは、擬態前の姿で接していたし深夜と真夜が四葉家の姉妹だという事は知っていた。と言っても真夜が四葉家の者だと言うのはつい最近知った事だし、今まで特別扱いした事はないに等しい。変に構えたりオドオドやソワソワなどしない、それは女性の扱いに慣れている証拠ともなる。
「一真君の正体を知る少数派でもあるけど、私はいつだって一真君の味方よ」
「まあ俺らは外から見れば先輩後輩な感じですが、俺達が化け物と言われるのと戦う時とかは皆を落ち着かせるだけで結構ですので。それと他の選手の様子も見ておきたいと思いますので」
「その必要は無いわ」
他の選手の事もあるが、その必要性がないと感じたのは第三者からの声だった。
「あら、イズミん」
「七草・・・・アンタ、相変わらずその呼び方なのね」
頭痛をこらえるような仕草を見せるのは、俺と同じブルゾンを着た女子生徒。技術スタッフ三年生の和泉理佳である。
「リカちゃんの方がよかった?」
「わざとやっているでしょ!はぁ、良いわよもう、イズミんで」
「それで和泉先輩。他の選手に対して必要ないとは?」
会長の言葉遊びに付き合ってたらきりがないので、始めのセリフを訪ねた。
「えっ?ああ・・・・・。織斑君、貴方は七草の試合を見ていて。あっちは私が見ているから」
この先輩は、俺が技術スタッフに加わる事を好意的に見ていない。エリート意識剥き出しというより、自負心が強そうなタイプとでも言おうか。多分俺の手なんか借りなくとも自分だけでカバーできると考えているんだろうな。
「そのようなら、私はここにいます。あちらは頼みました、和泉先輩」
「じゃ、頼んだわよ」
付け足しのようにそう言い捨てて、和泉先輩はそそくさに立ち去って行った。
「悪い子じゃないんだけどねぇ、それに一真君の技術の事を知らないからそう言えるのよ」
「まあ他の選手まで俺の技術を見せたら、居る意味がないと悟ったのでしょう」
俺の技術はゼロと共に調整をするんで、ゼロとの息が合う事なのであまり見せたくない技術。それに人工知能がいる事で成り立つ調整というのは、どこの科学者や魔工師でもやっていない。クラウド・ボールはテニスやラケットボール似た競技だけど、サーブという制度がない。一セット三分でインターバル三分だから、三セットマッチ。試合開始の合図と共に圧縮空気で射出されたボールは、二十秒ごとに数を増やしながらブザーがセットの終了を告げるまでという普通ならばと考えていたが会長が使う魔法そういう動き回るもんではないと知った。目の前で行われている試合は、対戦相手も魔法オンリーのようで移動系統を得意とするようで、身体の動きでイメージを補完するタイプで両手で保持したショートタイプ拳銃形態のデバイスをボールの方に動かしていく。
「普通なら動き回る競技だが、果たして会長が使うのを目で見切れるかな?」
移動魔法は捕えたボールは、自分サイドで落ちる前に空中で運動方向を変えて、会長サイドへ不自然な動きをして飛んで行きネットを越えた瞬間に倍の速度で倍速されて反転するのであっという間に一点取った会長。会長は相手より動き回るというより、胸の前でデバイスを両手で構えてコート中央に立っているだけ。ただ立っているだけで相手に得点を許す。
「ボールが何個になろうとも会長は、全て見切った状態で見ている。だからネットのとこで魔法発動できる、それにもうこの一セットで勝ちは決まりだな」
ダブル・バウンドは対象の移動物体の加速を二倍にし、ベクトルの方向を逆転させる魔法だから。相手が撃ち返した球を倍加して打ち放つから、これは俺の神器である赤龍帝の籠手の倍加のようだ。十秒に一回倍加する事だが、会長の場合は相手が打ち返した時の球を倍加して放つから恐ろしい速度で相手のペースを乱す。第一セットで崩れ落ちた対戦相手はサイオン枯渇している状態のようだから終わりだな。
「お疲れ様です、恐らく相手はもうダメでしょ」
三分間のインターバルでこちらに来た会長にそう言った。
「え?それはどういう事」
「相手を見れば分かると思いますが、次の試合まで持ちません。このまま次のセットをしたとしても途中で力は出ないはず、サイオンが枯渇している状態と見て相手選手は棄権するでしょ」
会長が相手のコートを見ると相手チームの作戦スタッフが審判団と話し合っていた。相手選手は、ベンチに座り込んで腕にメディカルチェッカーを巻いていた。相手を見るだけで分かる事は並みの大人じゃないと言えない判断であったが、予想通り審判団から選手棄権が告げられた。
「一応次の試合の為にデバイスをチェックしておきますが、テント移動をお願いできますか?」
「その方が良さそうね、お願いするわ」
俺はあまり外で技術を見せる訳にはいかないのを知っている会長なのか、素直に頷いてから会長の荷物を持って歩き出した俺の後に続く。調整機など必要もせず、俺にデバイスを渡されたのでそれをパソコンに繋いでから会長は隣に腰を下ろす。向こう側ではなく、膝まで隠すクーラージャンパーは羽織っていないので試合中のテニスウェアスタイルであるが、不意に身体を冷やす事を助言したからだ。肩が触れ合う距離に椅子だが剥き出しの太ももを見ずに、操作をしていくと俺はおや?と思うところがあったので、脳量子波でゼロに語りかけた。
『ゼロ、何やらゴミがあるがこれはどうしたらいい?』
『ソフトからですね、私がやっておきますので彼女の計測データを下さい』
「会長、少しの間そのままでお願いします。計測をしますんで」
「分かったわ」
そう言ってから左手で作業しながら、右手で計測をし始める俺だったがすぐに終わったので計測データをゼロに読み込ませた後に少し調整をしたらコードを抜いた後に、トリガーや起動式切替スイッチの感触を確かめてから俺は会長にデバイスを手渡した。中のプログラムはいじってないし、今の精神状態と身体状態はオールクリア。すると何を思ったのか、手渡されたデバイスのグリップを握りトリガーに指をかけたまま膝の上に置いた。
「会長・・・・一応忠告ですが、実銃だろうがデバイス拳銃形態でも銃口をこちらに向けないでくださいますか?敵ならまだしも味方に向けられると、あまり良い気分はしないと思いますよ」
デバイスには銃口がないが、実銃を所持している俺からの忠告でもある。いくらデバイスであろうとも、ライフルタイプや小銃タイプのでも銃器の恐ろしさを熟知している者にとってはこちらに向けられると避ける余裕はあるが不安は残る。
「あっ、ごめんなさい。一真君は実銃持っているからか、そういう忠告もできるものね。それでどうだった?」
「上手に調整されてはいますよ。まあエンジニアである俺から言える事は、デバイス調整に熟知しているなと思っただけですけど」
「そうかしら?うふふ、エンジニア一の一真君からのお墨付きは有難いわね」
お墨付きというのは、俺は技術スタッフの中でも特に優れていると考えられているのか。それともゼロに頼っているからか、技術をあまり手を明かさない俺の為なのかは分からないがまあそう言われるなら素直に嬉しいとでも言っておこう。クラウド・ボールは九校戦の中で、一日の試合数が最も多い競技であるからなのか試合数自体はモノリス・コードが六試合と最も多く、クラウド・ボールはアイス・ピラーズ・ブレイクと同じ五試合だけどモノリス・コードとアイス・ピラーズ・ブレイクが二日間に渡る。なのでこの競技は半日で戦い抜かないといけないので、スタミナやサイオン量を最小でやらないと後が持たない。セット中も全てのボールを返すのではなく、ある程度失点は織り込み済みで無理のないペース配分を行わないといけない。
最初から最後まで同じペースで魔法を使い続けられる会長の様な選手は、反則級の規格外であるがもし俺がやるとすればもっと規格外な選手だと言われるだろう。赤龍帝の籠手の力を使い倍加を一回だけでハイマックススピードまでなれるからだ。とは言っても俺と会長じゃ違いすぎるし人間と神を比較しているようなもんだ。まあ会長も考え無しの力自慢ではない、会長も一応戦法は考えている。二セット連取は必須条件、まあこの競技向けとは言えないし一種類しか使ってない魔法で単純にボールを跳ね返すだけだからだ。複数魔法を使い分ける事による消費を抑える為でもあるというのは消耗を抑える事にはならない。
試合が始まってしまえば最初からクライマックスという感じで、今風で言うなら「能力全開」なのだが第二試合から会長は珍しく戸惑っていた事に俺は気付く。調子は悪くないし相変わらず相手に一点も許さぬまま既に第一セットの半分が過ぎている。彼女自身も何故?と思っているに違いないが、第一試合は棄権となったので通常より長い休憩時間を取っている。半日で五試合というタイトなスケジュールは、疲労により調子が落ちていく事はあったとしても実感できるほどの調子が上向きに変わるというのは、普通なら考えにくい。普通ではない原因が、あの時の調整であったという事以外他ならない。セット終了後に俺に問い詰めると決心した。
「一真君、プログラムは弄らないんじゃなかったの?術式構築の効率が明らかに上がっていたわよ。ハードを改造する時間なんて無かったから、ソフトを弄ったとしか考えられない!」
「効率が上がったのは確かですよ、落ち着いて座って下さい。説明しますから」
そう言われたので素直に座る会長だったけど、さっき調整したパソコンを出してから画面を見せた。
「効率を上がったのは、ゴミを取っていただけですよ。ハードではなくてソフトにあったゴミを取ったのですよ、詳しくはゼロが説明しますがここではあれなんで俺から説明します」
ハードのゴミ取りは、分解掃除をしたりクリーナーを使っての掃除。実銃の手入れと同じようなので、ゴミ掃除は時間はかかるが今回ゴミ取りをしたのはソフトの方だ。これに気付いたのは俺だけど、ゴミ掃除をしたのはゼロだ。デバイス性能は使用者の精神状態にも左右される。エンジニアに対する不信感は、デバイスの性能を顕著に低下させる。まあそのゴミ取りをした時に効率を上げたとは言ってなかったので、説明はしてなかった。
「会長のデバイスのシステム領域に、アップデート前のシステムファイルの残骸がかなり散らばっていたので、ゼロに指示を出して取り除いてもらいました。デバイスのOSはその種のゴミが残りにくく出来ているんですけど、それでも完全ではないです。不要データを消去する事で、デバイス効率が多少アップする事がありますので普通なら意識出来るレベルではないんで先ほどは説明しなかったのですけど。会長の感受性がそれだけ鋭いという事だったので、やはり事前に説明するべきでした。すいません」
「あっ、えっと、いいのよ、そういうことなら。一真君の役目を果たしたという事だから、疑う事を言ってごめんなさい」
俺は頭を下げたが、どうやら和解出来たようなので俺はホッとしている。あとは使用者の問題だからと思ったら、今度はあちら側が素直に頭を下げたのだった。そんであとでメンテナンスのゴミ取りのやり方を教えてほしいと言われたので俺はそれはゼロの仕事ですが、今は試合に集中してくださいと言った。
「一真君のお陰で、この先も上手く行くわね。お姉さんに任せなさいな!」
年上ぶった態度であるが、俺は逆に微笑ましいと思った。会長はそのまま相手選手を寄せ付けない、全試合無失点・ストレート勝ちで、女子クラウド・ボール優勝を飾ったのだった。そして約束通り、優勝後にゼロの説明を聞いた後にゴミ取りや効率を良くする方法を伝授したゼロだった。
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