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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
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現状を知り、今後を憂う

 
前書き
祖母の七回忌に行ったり課題が忙しかったりゲームしたり念願のスマホを手に入れたりスランプだったり無駄に文章長い癖に何のおもしろみもない小説書いたりで遅くなりました。
もう一ヶ月ぐらい空いたんじゃないか?馬鹿野郎!
 

 

「汚い場所だが、あがってくれ」

そう言って招かれた先にあったのは、周囲の景観と何ら変わらない―――悪く言えば面白味もないぐらい普通な―――江戸時代風の家だった。
促されるまま、私は慧音の後に続きお邪魔する。
汚い場所、なんて卑屈な発言はあったが、それなりに綺麗にはしているようだ。
世界観から推測しても、掃除機なんて機械類が流通している訳もないだろうし―――守矢家にはそういうのはあったが、あれは元からあったものだろうし例外として扱う―――それを考慮すれば寧ろ綺麗すぎると言っても良いぐらいだ。
そのまま茶の間に誘導され、待機するよう指示される。程なくして、お盆にお茶菓子と湯飲み二人分を乗せた慧音が戻ってくる。

「さて、早速話をしようか。―――とは言っても、あまりにも広義過ぎる故、どこから手をつけたらいいものやら」

「ふむ………では、あの山にある神社は一体なんなのかね?あんな場所に神社があるなんて、普通じゃないから気になっていたんだ」

慧音が迷っていたところに、白々しく誘導する。
あくまで守矢神社を知らないという体で聞き、それを踏まえた上での第三者の意見を知りたかった。
これは予め想定していた話題であり、これならば事前に早苗達の人格をある程度理解している為、人格が固定されそうな情報は控えたいという私の願望から外れた場合でも、デメリットなしに注意ができる。
それに―――特にあの神二人が、幻想郷で何を為しているのかにも興味があったというのが大きい。
いずればれる事をひた隠しにする理由もないし、私が相手だからといって隠す情報が重要でないことは想像がつく。
そうではなく、彼女達が私以外にどんな対応をしているのかが、重要なのだ。
彼女達の対応が、私とその他一般人を相手にするのと同一なのか、それとも私だからなのか。それが知りたかった。その度合いで私をどんな目で見ているのかが予測がつくからだ。
善意ならそれでよし、悪意なら警戒する。言葉にすれば単純だが、私のこれからを示す重要な鍵である。故に、最低限寝首を掻かれないかどうかの確証が欲しい。その比率如何によっては、自宅を持つ為の行動を早めるべきだ。

「ふむ………あれは一年跨いで半年前程の出来事だろうか。それは突如として妖怪の山の頂点に現れた。それもあまりにも突然で、妖怪の山に住む者以外はその事実に気が付かないほどの自然さで。詳しい自体は本人達の問題なので知らないが、それを異変と捉えたらしい麓の巫女はその問題を解決。―――正直な話、知らない人間にとっては彼女の行動は不可解以外の何物でもなかっただろう。事実、私もそう認識している」

「成る程。ふむ、一番訊きたかったことの前に訪ねたいことができた。麓の巫女、とは?」

「麓の巫女―――博麗霊夢という少女を指す通称だな。人間だが、退魔師として最高位の実力を保持しており、戦闘技量においても並の妖怪は手玉に取れるほどだ。………はっきり言って、彼女が妖怪だと言われても納得がいくレベルだよ」

「………人間が妖怪に、ね。俄には信じがたいな」

初めて出逢った妖怪の白狼天狗は、確かに驚異とは言えなかったが、それはあくまで私が英霊であることが前提での話だ。
人間が同じ土俵で戦えば、瞬きする暇もなく真っ二つだろう。
未だに妖怪の強さの基準の把握には程遠いとはいえ、私の中の常識では余程相性が良くない限りはこの事実は覆りようがない。
だが、慧音は〝並の妖怪は手玉に取れる〟と言っていた。つまりそれは、上級妖怪の絶対数よりも確実に多いと言い切れる下級妖怪の大半を、ハンデもなにもない戦いで倒してきたということになる。
その結論に、思わず頭を抱える。
妖怪という幻想が存在していたのと同時に、過去に人間が強かったという事実すらここでは取り込まれているというのだろうか。
人間は化け物には勝てない。そんな現代の法則を過去のものとし、その条理を覆す。そこには常識なんて固定概念は存在せず、在るのは噂を超越した圧倒的事実の証明。
幻想として語り継がれてきた曖昧な事実ではなく、まさしく眼前に起こりうる現実。それは、どんなに広まった嘘ですら塗りつぶせない絶対法則。
………まったく、幻想郷に嘲笑われている気分だ。外の常識に縛られ、幻想郷の常識と比較して踊らされている滑稽な姿は、まさしくお笑い者だろうさ。

「………まぁ、その奇天烈奇想天外の話はまずいいとして、妖怪の山?だったかの上にある神社、あそこには誰がいるんだ?」

「あそこには外から訪れた二神、八坂神奈子と洩矢諏訪子にそれに仕える東風谷早苗という少女が居るな。八坂神奈子は三人の内で最も女性的な見た目をしており、洩矢諏訪子は最も幼い見た目をしている、その中間が東風谷早苗って感じだから判別はしやすいだろう。八坂神奈子に関してだが、決して厳格ではないが立場は弁えているのか、普段はその姿を直に見せることはせず、外部の者と対話するにも敷居によって遮られた形を意識しているらしい。対して洩矢諏訪子は、その対極と言うべきか、どうにも奔放な節がある。私達に対しても友好的で、その幼い容姿と行動もあって、里の者からすればどっちが接しやすいかは語るまでもないだろうな」

慧音に気付かれない程度に表情を歪める。
諏訪子が幼い容姿なのは既知だが、容姿相応の行動という部分にどうしても反応せざるを得ない。
何せ私の知っている洩矢諏訪子は、幼い容姿に反して油断すれば一瞬の内に残酷に捕食する、まるでクリオネのような奴だ。
どちらが本性かを議論するのは無意味。間違いなく私に対してのそれが本性だからだ。
外見なんて重要ではない。そこから滲み出る不気味さこそ、愛嬌のある行動が演技だという何よりの証拠となる。少なくとも、善意で満たされている存在が、あんな雰囲気を意識的だろうとなかろうと出せる訳がない。
恐らくは神奈子が元来の神のイメージで、諏訪子がその真逆のイメージで行動することによって、従来のイメージを維持し、かつ身近な存在であるという矛盾を一般人に刻むことができる。
その矛盾は現実の境界を曖昧にする。半端だからこそ、決して神を存外に扱うようにはならないし、しかし親しみやすさは損なわない。
完璧とは言い難いが、考えているな。神という存在が実像として認知されている幻想郷だからこそ通用する手法と言えよう。

だが、何故私には嘘の姿を晒さなかったのだ?
出逢った当初から子供らしからぬ態度で接してきたことを考えると、最初から隠し通す気がなかったというのが良く分かる。
問題は、その考えに到った理由。
出逢いが特殊だったとはいえ、私だって彼女からすれば村人Aと大差ない認識だった筈。にも関わらず彼女は、培ってきたイメージを無視してまで別の認識を優先して私に植え付けた。
嘘の自分がバレて信用を失う可能性を考慮したというのも、神奈子が壁越しにではなく直接姿を現したのも、今後私と深く関わっていくという前提で行動しない限り、無駄な行動で終わるどころか、自分達にとって最悪の結果―――偽りの姿で接していたという事がバレて信仰を失う可能性がある―――しか生み出さない。
………だが、もし最初から私を守矢神社に居候することが計画されていたとしたら?
長く日夜を共にしていればボロが出る可能性も大いにあるだろうし、だったら最初から演技をする意味はないと判断していたのなら。神奈子が姿を見せたのも私を守矢神社に住まわせる事が確定していたからであったなら。そう考えると矛盾はない。
しかし、そうする意図が掴めない。
知らず彼女達にとって知られたくない事実を見てしまい、口封じがしたかったという理由だとすればあまりにも遠回りすぎる。諏訪子はともかく、神奈子からは一切敵意を感じなかったというのも信用の裏付けになる。
だとすればもっと別の理由か。打算のない善意の可能性を否定するつもりはないが、何せ諏訪子のことだ、独断で何か私を利用する計画を練っていても不思議ではない。
何にしても、私の現状は彼女達の掌の上で踊らされた結果だという結論が出せる。
となると、守矢神社から住まいを変えるのも一筋縄ではいかないだろうな。
表向きは否定していなかったが、本格的に動き出せば妨害が入ると思っていいだろう。
………いかんな。周囲がこうも敵だらけかと思うと、無意識に外周全てが敵だと認識してしまいそうになる。

「―――どうした?渋い顔をして」

「いや、子供の姿をした神様とは何とも威厳がないと思ってな」

「まぁ、見た目だけならな。だが、過去の異変の際に霊夢を追い詰めたという噂もあるし、外見で判断すると不幸を呼ばれるぞ?それだけならまだいいが、もっと酷い目に遭うかもしれんからな、下手なことは口にするなよ」

言われなくても、アレを外見で判断するという愚は犯さん。
そも外見で判断という行為を人為らざる者にする時点で、自殺志願者と呼ばれても仕方ない。そう呼ばれても仕方がない境遇に身を置いていたからこそ、彼女の言葉の重みも理解できるというもの。

「忠告感謝する。それよりも、早く他の部分も教えて欲しいのだが」

「それよりもって………まぁいい。では―――」

それから夕方になるまで、慧音と説明を交えた雑談が繰り広げられた。
あまりにも膨大な情報量だった為、今一度整理しようと思う。

紅魔館―――吸血鬼の姉妹とそれに付き従うメイド、唯一の良心といえる温厚な門番、齢百を超える魔女と使い魔が住まう名の通り赤で塗装された館。
現在の博霊の巫女が就任して初の異変となった紅霧異変―――幻想郷中を紅い霧で覆い、日の光に弱い吸血鬼にとって住みよい世界にしようとした―――の舞台となった場所。
先代の頃にも吸血鬼異変と呼ばれる異変が発生しており、それが解決されたことによって吸血鬼条約―――食糧となる人間の共有を約束する代わりにあらゆる行動を制限する制約―――が交わされているため、敵対行動を取らない限りは戦闘は行えないらしいが、実際の所それによる拘束力はそこまで強くないらしく、危険性が高い事に変わりはないとか。

次に白玉楼―――冥界に存在する屋敷で、死者の魂が輪廻転生を為すまでの中継地点の役割を持っているらしい。
そこは過去に名家のお嬢様だった亡霊の女性が管理をしており、他には護衛兼剣術指南役の少女が居る以外は、大凡ヒトと呼べる存在はいないらしい。
死に限りなく近い空間であることと、亡霊の持つ能力を除けば安全な部類に入るとか。能力を持っている本人はいたって穏やかな性格で、その能力もあくまで冥界の管理者として行使する以外の用途では使わないらしい。
ただ、剣術指南役の半人半霊の少女は気むずかしい―――というよりも融通が利かない性格らしく、思いこみも激しい節があるとか。だから初めて接触する際は落ち着いているときが望ましいと付け加えられた。

魔法の森―――瘴気と濃密な魔力素が蔓延しており、抵抗のない者が入り込めばそれらは毒となり肉体を蝕む。逆に一線を越えれば、人間の身でも妖怪に勝るとも劣らない魔力を内包することができる為、魔法使いにとっては最高の立地条件となっている。
幻想郷自体、魔力が身近な存在であるせいか、魔力素が肌で感じられるほど濃い。
魔力素が魔力濃度が外の数倍はあるのに、魔法の森ではそれを遙かに凌ぐとなれば、肉体に影響を及ぼすのも納得できる。
魔力の塊である私ならば、隠れ蓑にするにも絶好の場所となるだろう。

永遠亭―――迷いの竹林と呼ばれる原生林の遙か奥に建てられた屋敷で、曰く月からの使者が薬を作っているとか。
有り体に言えば宇宙人。吸血鬼だの天狗だのがいる時点である程度は覚悟していたが、闇鍋もいいところだな。
危険性は皆無。僻地故に情報が入り乱れないから、限られた情報から導き出した結果に過ぎないので、絶対とは言い難いとか。
因みに通り道となる迷いの竹林はその名に相応しく、道案内する者がいなければまず永遠亭に辿り着けない構造となっているらしい。
それが閉鎖的状況を作り出す大役を担っているとなると、間違いなく意図的に潜り込んだと疑っていいだろう。
そもそも宇宙人の来訪という時点で目立たない訳がないのだから、措置としては適当といえる。
永遠亭では医者業を営んでいるらしく、人間の里でも慈善活動としてあらゆる医薬品を無料配布しているようだ。

太陽の畑―――この部分を話すときの慧音の熱の入り用は凄まじかった。
印象云々の話を事前にしていた筈なのに、これだけは譲れないとばかりに饒舌になっていた。
曰く、そこは一年中四季に囚われず多種多様の花が咲き誇る場所で、幻想郷一美しい場所と言っても差し支えない。
しかし、そこを守護する妖怪は太陽の畑を荒らした者に一切の容赦をしない、最強最悪の存在らしい。
過去にその妖怪の危険性を訴えたことにより端を発した、人間による襲撃戦が行われたことがあるらしく、その際太陽の畑は見るも無惨な光景となったとか。
そして、それに怒りを覚えた妖怪は、襲撃戦に参加した人間一人残らず抹殺し、その者達の首を里の前に捨て去ったとか。
それにより、太陽の畑に近寄る者は妖怪であろうといなくなったとか。とはいえ、慧音は直接その光景を目の当たりにした訳ではなく、彼女が生まれる遙か前の出来事をなぞっているに過ぎないらしく、どこまで噂に尾ひれがついているものかわかったものではなかった。

次の内容は、旧都及び地霊殿と呼ばれる地下都市。
幻想郷の地下深くに位置する、事実上の第二の幻想郷として認識されているらしい。
地上に住む者達から追いやられ、行き場をなくした者達によって作られた世界。
これもまた遙か昔の話らしく、幻想郷初期の話題となれば最早その確執は相当なものである。
追いやられたのは、所謂地上では生き辛い何かをやらかした人間や、持っている能力が周囲に不幸をもたらす故に消えざるを得なかった妖怪等。
いつの時代も波長の合わない相手は迫害される運命にあるということか。
謎の声の主も、ここは居場所のなくなった者が集う場所と言っていた。にも関わらず更にそこから爪弾きにされるのは、些か歪んではいないだろうか。
悲しいことではあるが、現状が考えられる中で最も最善の結果なのだろう。だったら、新参者の私がとやかく言うことではない。
―――脱線してしまったが、旧都は地下にあるとは思えないほどの光量で包まれており、まるで祭事が年中行われているかのような雰囲気らしい。この見解も、博霊の巫女からの受け売りらしいが。
因みに旧都は過去に地獄の一部として機能していたらしく、その名残から灼熱地獄を何かしらの作業の為に運用していたりと、地の利を最大限に活かしている辺り頭の回る者がきちんと管理しているという予想がつく。
そして、そこでもう一つの土地―――地霊殿が話題に挙がる。
旧都より更に奥に建てられた、神殿と教会を足して二で割った建物で、灼熱地獄もその付近にあるらしい。
そこの主は、地下に住む者達からすらも疎まれているらしく、仕方なく奥地で生活しているとか。
ここでも更に除け者が出ているとは、人間であれ妖怪であれ、過ちは繰り返すということか。

そして、場所は打って変わって天界と呼ばれる幻想郷の遙か上空に位置する島。
天人という修行の果てに不老不死を得た者達が住まう楽園で、人々の理想の具現とも呼ばれている。
そんな場所に住まう自分達を上位種だと信じ込み、対して地上に住まう者達を総じて見下している傾向にあるとか。
相手にしていて疲れそうな手合いだな。英雄王とどちらが尊大なのか、興味はあるが。

そして―――妖怪の山。
あそこは幻想郷の常識とはまた別の独自の社会を築いており、その規模たるや幻想郷のパワーバランスの一角を競う程。
通常妖怪というのは自由である。
人間のように極端に群れる必要がないのは、個人の持つ力量が人間と比較して圧倒的だからである。
そんな妖怪が閉鎖的空間を形成し、社会を築いた理由は一切不明。
排他的な面が強く、侵入者を許さない。そんな牽制があってか、より一層閉鎖的状況に拍車が掛かっているとか。
主に存在が確認されている種族は、天狗と河童。社会に混じってはいないが、守矢の所とはまた別の神も山に住んでいるらしい。
過去に鬼が妖怪の山の頂点に位置していたらしいが、現在は事実上天狗が頂点に位置している。
鬼が消えた理由は不明。一説によれば、鬼は元々豪快な気質であることから、管理したりされる関係というのは好かない為に出て行ったと言われているとか。
その事実を知ったとき、あの白狼天狗を逃したのは少し失策だったのではと不安を煽った。
天狗と名を冠している以上、そのバックにあるのもまた天狗。そして先程聞いた通り、現在の妖怪の山の頂点は天狗。
言わば私は、妖怪の山の住人にとって指名手配犯扱いになってもおかしくはない行動を取ってしまった愚か者。
悪意はなかったのだが、敵対行動を取ってしまったからには言い訳は無意味。そもそも、知らずとはいえ領地に進入してしまった時点で不幸は始まっていたのだろう。
彼女のような下っ端クラスの報告で上層部に大きな動きが見られるとは思えないが、もしそうなってしまえば………。
それに、少数規模による殲滅戦であれど、個である此方は圧倒的に不利。地の利も圧倒的に劣る。唯一同等なものがあるとすれば、互いに手札を知らないという点のみ。
だが、そんなもの気休めにもならない。相手側が物量で勝っている時点で、そんなものを警戒する余地はない。例えそれが弱点となり得る要素だとしても、その程度で有利不利は覆らない。
これは真面目に隠居生活を考えるべきか………?人の噂も七十五日と言うし、長期の間外界との交流を閉ざせば、自然と忘れ去られる筈。
幸いにも、飲まず食わずでも生きていける身。大人しく仙人の如く僻地で引きこもっているだけで何ら問題はないのだから簡単な話である。
………いっそ、先程話題に挙がっていた地下へ行くのもいいかもしれないな。

「―――とまぁ、大凡重要な部分は話したな。あぁそれと、ここ人間の里は、妖怪の賢者によって保護された区域で、人間の安全が保証されている唯一の場所となっている。だからもし困ったことになればここに来るといい」

話し疲れたのか、慧音は大きく深呼吸をしてお茶を啜る。

「妖怪の賢者?」

聞き慣れない単語に、思わず聞き返す。

「ああ、貴方は知らないのか。妖怪の賢者―――八雲紫。幻想郷の創始者にして、幻想郷最強の妖怪と言われている。表舞台に立つことは稀で、どこに居を立てているのかも不明。関わった者からの反応は総じて、胡散臭いの一言で片付けられるほどの不審者。異常なまでに頭も回り、彼女の従える式神も主の能力を吸収している為計り知れない強さを誇るようだ。………まぁ、これだけ聞いていれば、そんな奴に守護されているこの里がいかに安全かわかるだろう?」

「確かに、素直に捉えればそうなのだろうが………妖怪に護られているというのは大丈夫なのか?こういうことは言いたくないのだが、種族の違いによる確執とか、そういうのはないのか?」

「………八雲紫は調停者だ。あくまで幻想郷の安定を念頭に置き行動しているというのは間違いない。どんなに不振な行動を取ろうとも、決してその案件から逸脱することはない。その在り方は周囲に広く浸透し、誰もがそう信じている。少なくとも表面上に於いては、彼女の意思は絶対のものとして扱われている。―――だが、だからといって八雲紫が人間を愛しているのかと言えば、また別の話だろう。あくまで均衡を保つための要因として〝生かされている〟ようなものだからな。例え博霊の巫女が強力な力を宿していようとも、奴には絶対に勝てんよ。絶対な」

「………なんとも、まぁ」

今こそ人間のみが例として出ているが、この様子では妖怪にさえも同じ感情を持ち合わせているのだろう。
調停者と聞けば聞こえはいいが、つまりは幻想郷に於いて絶対なる存在だと豪語しているようなもの。
幻想郷の調停とは、人間と妖怪が併存してこそ成り立つと慧音は言った。
だが私には幻想郷の維持がメインなのか、妖怪と人間の併存がメインなのか、いまいち判別できないでいる。
八雲紫にとっての幻想郷が何を指すのかは知らない。
人間と妖怪が併存することが至高と述べるのならば何も言うまい。色々と納得いかない部分もあるが、私の言葉ひとつで変わるような年季の軽さではないだろうしな。
だが彼女がもっと自分の理想に近い幻想郷の在り方を見出したことで、それまで築いてきた秩序を塵同然に捨てるような奴だったならば―――私は彼女と敵対することは間違いないだろう。
それはエミヤシロウにとっての悪に他ならない。
だったら、許せる筈がないのだ。

「―――シロウ?」

不安そうに此方を見つめる慧音。
知らず渋い表情をしていたのかもしれない。
何でもないと頭を振り、軌道修正を施す。

「ともかく、八雲紫の思惑はどうあれここが安全であるという信頼を得ている以上、結果を出しているのだろう?ならばその均衡を自ら崩すことはしないだろう。その点は信頼してもいいのではないか?」

「まぁ、そうなのだろうが………人徳、いや妖徳というべきか。ともかくそれが希薄なせいでどうも、な」

「気持ちはわからんでも無い。―――時間も時間だし、そろそろお暇させていただくとしよう。貴重な情報感謝する」

「いやいや、久しぶりに私の長話を聞いてくれる人がいたお陰で、此方こそ非常に充実した時間だった。また困ったことがあればいつでも訪ねてきてくれ。いや、そうでなくとも問題はないぞ」

「それは有り難い。いずれまた暇が出来たときにでもそうさせてもらう」

立ち上がり、慧音の見送りと共にその場を後にする。
守矢神社に到達する間、私は慧音の情報を参考に今後の立ち回り方を必死に計画した。

 
 

 
後書き

前までは東方キャラのステータスをFate風に書いてたりしたけど、色々矛盾が生じたりすると問題がありそうなので廃止した訳だけど、そのせいで後書きがなんか寂しい。

と言うわけで、変更部分とは新たに新企画。
その名も「小説とかで使ったら結構かっこいいけど決して狙っている訳ではなく寧ろ普通なんだけどなんかかっこいい単語・用語を書いていこうのコーナー」!

………なげぇよ!題名!

というわけで始まりました今回の企画。ぶっちゃけネタが尽きたり思いつけば書くっていう、物凄いまばらな企画だけど、まぁ一種の余興ということで。

あ、因みに今回の変更点は、月夜の転生→現状知り、今後を憂う

説明役という部分に違いはないけれど、説明情報の追加及び削除。そしてもこたんが登場していない!という点が大きいね。
慧音が各々の部分で漠然とした紹介がされた妖怪達は、シロウが事前に伝えていた人格が固定される情報を避けた結果です。
嫌が応にも有名な有名な存在の情報は耳に入ってしまう。だけど名前だけならば本人が追求しようとしない限りは、符合する条件が限定されず、そういう奴がいるのか程度の認識で収まると考えたからです。
とはいえ、そんなもの気休めでしかありませんがね。寧ろ本人が望んだこととはいえ、中途半端に情報を開示して曖昧にした結果、条件が一致せずに危険に突っ込んでしまう可能性さえあります。

んでは、今回は初ということで二個紹介しようか。単語と用語のひとつずつ。

まず単語。

そうぼう
双眸

意味:両方の瞳。両目。

………まぁ見たとおりですが、どうですかこの違い。両目って言うよりも双眸って言った方が圧倒的にかっこいいよね。同じ意味なのに。どうしてこうなった。

次に用語

端を発する(たんをはっする)
意味:それがきっかけになって物事が始まる。

因みに類語としては、
流れ・原因・起源・始まり・端緒・発端・始まる・嚆矢・起こり等がありますが、これらを小説の文章で使うよりも、端を発する、した、などと置き換えるといきなりありきたりな文章がなんか違った雰囲気になります。不思議!

こんな感じで終了となります。次回は流石に今回より短くなることはあり得ません。一応忙しかった時期も過ぎましたし、頑張りたいものです。まじで。 
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