FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
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第199話 金色の妖精と黒の妖精
前書き
紺碧の海で~す♪
今回も前回と似たような内容で、10頭の悪魔の紹介みたいなお話です。・・・もう飽きてしまった方、いますよね?
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第199話・・・スタート♪
―クロッカスの街 北側―
突如姿を現した10頭の悪魔のほとんどは、腕を振り上げ、武器を振るい、魔力を放ち、建物を次々と破壊していく―――――のだが、この悪魔は違う。
悪魔5「待て待てェーーー!」
ロッ「ヒィイイィイィイイイイイイイ!」
セメ「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
攻撃を仕掛けてきた魔道士達を追い掛け回しているのだ。え?何で追い掛け回しているのかって?それは―――――、
悪魔5「俺の食い物待てェーーー!」
食べる為である。
この悪魔、他の9頭の悪魔と比較するとかなり太っており、背中にはなぜか肉や魚、野菜や果物、飲み物や調味料、フライパンや包丁、まな板やガスコンロが入った赤黒い大きな風呂敷を背負っていた。
この悪魔は街中で暴れ回るより先に、“腹いっぱい食べる”事を重要とし、街中に座り込んで自分が持っている食材と調理道具を使って料理を作ろうとした時、魔道士達=人間が攻撃を仕掛けてきたのだ。
調理の邪魔をして怒り狂い追い掛け回している―――――のではなく、悪魔の目には人間がとても美味しそうに見えたのだ。
ロッ「な、何で俺等がこんな目に合うんだよーーーっ!?」
セム「俺等食べても絶対美味しくねェぞーーーっ!」
悪魔に追われている四つ首の猟犬の魔道士、ロッカーとセメスはかれこれ10分近く全力疾走しっぱなしである。もう体力は限界である。だが、相手は人間の5倍ほどもある巨体の悪魔。悪魔の1歩が彼等の10歩ぐらいなのだ。少しでもスピードを落とせばあっという間に食われてしまう。
ロッ「(いつまで俺等囮になってればいいんだよォ!?)」
セメ「(頼むから、早く攻撃してくれーーーっ!)」
とっても命懸けなのだが、これは作戦だ。どんな作戦かと言うと・・・↓
①ロッカーとセメスが囮になって悪魔を誘き寄せる。
②他のメンバーが悪魔の攻撃を放つ。
という、あっさりとした作戦だ。因みにこの作戦を考えたのは月の涙の魔道士、セインである。
ロッ「(合図はまだかよっ!?)」
セメ「(早く早く早くーーーーーっ!)」
その時だった。
「♪~」
ロッ&セメ「!」
どこからか心を落ち着かせる音色が聞こえて来た。
この音色は幸福の花の魔道士、スミレが持っている横笛の音色で、“悪魔から離れろ”という合図だ。
悪魔5「綺麗な音だな~。」
音色を聞いた悪魔は、作戦通り油断している。その隙にロッカーとセメスは建物の陰に隠れた。そして、
ナデ「フラワーメイク、槍騎兵ッ!!」
シプ「透明魔法!えい!」
スミ「緑の反乱!」
セイ「雷杖!」
悪魔5「ぐァアアァアアア!」
ナデシコが無数の花弁の槍を放ち、シプが姿を消して悪魔の左足に蹴りを決め、スミレが横笛を吹くと地面から太い蔦が生え襲い掛かり、セインが雷杖を振るい一斉に攻撃を放った。
セイ「ジュラさん!」
セインが振り返り叫んだ。
聖十大魔道の1人である蛇姫の鱗の魔道士、ジュラがゆっくりと目を閉じ、それと同時に胸の前で両手を合わせた。大気が震える。
ジュ「鳴動富嶽!」
悪魔5「ぐあああああああああああああっ!」
地面に亀裂が入り、溢れ出した白い光が悪魔の体を呑み込んだ。
ロッ「す・・すっげー・・・」
セメ「さ、流石聖十大魔道・・だな・・・」
建物の陰に隠れていたロッカーとセメスはため息と共に感嘆の声を漏らした。
悪魔を包み込んでいる砂煙はなかなか晴れない。
スミ「さすがの悪魔様でも・・・」
シプ「あれだけ攻撃を食らえば、立ってるのも難しいと思うよ。」
ナデ「と・・とととと特に、ジュラ、様の・・・こ、攻撃は・・ききき、き、効いたとお、おおおお思い・・ます!」
セイ「あんなの食らったら、立ち上がる事さえ出来ませんよ。」
スミレ、シプ、ナデシコ、セインの順に思い思いの言葉を紡ぐ。
ジュ「(リョウ殿には・・・一切効かなかったがな。)」
ジュラは1人、最終決戦でリョウと戦った事を思い出していた。
自分よりも傷だらけで、鳴動富嶽をまともに食らったのにも係わらず、精神と根性、粘り強さの結果、自分はリョウに敗れたのだ。
ジュ「(あの悪魔には、リョウ殿のような精神、根性、粘り強さはあるのだろうか・・・?)」
1人そんな事を考えていたその時、砂煙の中で巨大な黒い影が動いた。咄嗟にセイン達はその場に身構えた。
悪魔5「すーっかり騙されちまったなぁ~。」
砂煙の中から出て来た悪魔の体は傷一つ付いていなかった。
ナデ「そ、そそそ・・そんな・・・!」
スミ「な・・なぜ・・・?」
ナデシコとスミレは目を見開き、口元に手を当てて驚嘆の声を上げた。
悪魔5「まぁでも、最後の・・・うどん田楽?っていう攻撃は塩一つまみぐらい効いたよ。」
セイ「鳴動富嶽だろーがっ!」
ロッ「食べ物に変えてどーすんだよっ!?」
シプ「ていうか塩一つまみぐらいって分かり難いよっ!」
セメ「素直に「効かなかった」とか「効いた」とかで答えろよっ!」
セイン、ロッカー、シプ、セメスの順にツッコム。
悪魔5「ところで、ずーっと喋ってたら俺に捕まっちゃうよ?」
ナデ「!」
セイ「しまった!」
ジュ「こ・・これは・・・!」
ロッ「か、体が・・動か、ない・・・!」
いつの間にか、セイン達の足元に赤黒い魔法陣が浮かび上がっており、体が石のように動かなくなってしまっている。
悪魔5「さーて、誰を一番最初に調理しよっかなー?」
悪魔の赤黒い瞳が、セイン達の事を順々に見回していく。
悪魔5「よし!決ーめたっ♪」
満足そうに頷く悪魔は、鋭く尖った爪先で指差した。指を差されたのはシプだった。
セイ「止めろォ!」
悪魔5「俺は一度決めた事は、達成するまで変えない主義なんだ。それに、その子すっごく美味しそうだし~♪」
シプ「!」
悪魔は、本物の“悪魔の微笑み”を浮かべながら、背中に背負っている風呂敷から包丁を取り出した。月明かりに照らされて、包丁の刃がギラリと光る。
スミ「!シプさん!透明になれば・・・!」
シプ「!そ、そっか!」
スミレに言われてシプは自身の姿を透明にしようとする―――が、
シプ「あ・・あれ・・・?」
ナデ「ど・・どど、どうしたんです、か・・・?」
シプ「・・な、なれない・・・と、透明に・・なれないよォ~!」
なぜか透明になる事が出来ないシプは、大粒の涙をポロポロと零し始めた。
ジュ「もしや、この魔法陣が・・・!」
悪魔5「ピンポ~ン!その魔法陣は、相手の動きを封じる事が出来、尚且つ、相手の能力なども封じる事が出来るんだ。つまり、お前等は今、魔法が使えないっていう訳だ。」
悪魔がそう言うと、セインが試しに炎杖を振るってみた―――が、上下左右どんなに振っても、炎杖は炎を繰り出す事が出来なかった。
悪魔5「という訳で・・・」
悪魔は手に持った包丁の刃先をシプに向けた。シプはギュッ!と固く目を瞑った。
悪魔5「死ねえええええええええええええええええええええええええっ!」
悪魔がシプに向かって包丁を投げた。
セイ「シプーーーーー!」
スミ「イヤアァアァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
セインとスミレが叫んだ。
悪魔が投げた包丁は、カクンと向きを変える事も、スピードが落ちる事も無く、シプの胸目掛けて一直線に飛んで来る。ナデシコとスミレはもう見ていられなくって固く目を瞑り、セインは目に涙を溜めシプの名前を呼び続け、ジュラは静かに目を閉じ、ロッカーとセメスは歯を食いしばっていた。
当たる!と誰もがそう思った時―――――シプが消えた。
狙いが消え、包丁はそのまま一直線に飛んで行き、ズカッ!と鈍い音を立てて木の幹に突き刺さった。
悪魔5「なっ・・!?」
ロッ「き・・消え、た・・・?」
悪魔とロッカーが驚嘆の声を上げた。
さっきまでシプがいた場所には誰もいなくて、なぜか地面に人1人通れるくらいの穴が開いていた。
セメ「透明魔法が出来たんじゃ・・・!」
ジュ「いや・・万が一シプ殿が透明になれたとしても、それは姿が透明になるだけ。シプ殿そのものが消える訳ではない。」
ナデ「つ、つつつ・・つまり、シ、シプ様が・・・透明に、な、なななったとしても・・い、一直線に、と・・ととと、飛んで、来た・・ほ、包丁は・・・か・・かかか、確実に・・シ、シプ様に・・・あ、ああああ当たっていた・・という事に、なななななります、ね・・・」
スミ「それに、この穴の意味が成り立っていません。」
セメスの言葉をジュラが否定し、ナデシコとスミレが付け加えるように言った。
シプはいったいドコへ―――――?
誰もが疑問に思った、その時だった。
ル「やァアアァアアアアアアアアアッ!」
悪魔5「うぐあっ!」
パシィン!と鋭い音を立てて悪魔の頭が鞭で叩かれた。
それと同時に赤黒い魔法陣が消えて、セイン達は動けるようになった。
悪魔5「だ・・誰だっ!?」
悪魔はもちろん、セイン達も視線を動かした。
そこにいたのは、伸縮自在の鞭を片手に、メイドを引き連れた妖精が1人―――――。
ナデ&スミ「ルーシィ様!」
ロッ&セメ「・・・と、メイドォ!?」
金髪のツインテールを揺らしながら、ルーシィは笑顔でセイン達に向かって手を振る。
その隣にいるのは、ピンク色のショートヘアに、手首に千切れた鎖を着けている青い瞳をした無表情のメイド―――処女宮の星霊、バルゴ。そして、バルゴに抱えられている、気を失ったシプがいた。
セイ「シプ!」
シプの姿を見た瞬間セインが真っ先に駆け出し、それに続いてスミレ、ナデシコ、ロッカー、セメス、ジュラの順に駆け出した。
シプの姿が消え、地面に穴が開いていたのは、バルゴが穴を掘ってシプを助けたからだった。
バル「間一髪のところでした。」
ル「ありがとね、バルゴ。」
バル「お仕置きですか?」
ル「褒めてんのよっ!」
こんな状況だというのにも係わらず、いつものボケとツッコミの会話が交わす。
バルゴがセインの背中にシプを乗せる。
ル「ここは私が何とかするから、皆は一刻も早くこの場を離れて!」
スミ「1人で、宜しいのですか?」
ル「大丈夫!私には、皆がついているから!」
ルーシィが言う皆とは、星霊の事である。
ル「それに、お迎えも来てるみたいだし。」
セメ「お迎え?」
ル「ほら、あそこに。」
ルーシィの言葉にセメスは首を傾げると、ルーシィが指差した方に視線を動かした。そこにいたのは、体全身に包帯を巻いたミイラと、ふわふわと飛んでいる幽霊だった。
ロッ「おわーーーーーっ!?」
セイ「お化けーーーーーっ!?」
ジュ「いや・・この者達は、もしや・・・」
ロッカーとセインが驚嘆の声を上げる中、ジュラは冷静にお化け達に視線を移す。
ジュ「トーヤ殿と契約している・・・」
ル「ミイラ男と、双子の幽霊のユウとレイです。」
ミイラ男とユウとレイがこくこくと頷いた。
セイン達はこの場をルーシィに任せて、ミイラ男とユウとレイと共に避難する事にした。
ナデ「ル・・ルーシィ様、どど、ど、どうか・・・お気をつけて。」
ル「うん!ナデシコ達も。」
ルーシィは立ち去るセインを見届けた後、バルゴを星霊界に帰らせ、目の前にいる悪魔に視線を移した。
悪魔5「女1人に何が出来るんだい?」
ル「1人なんかじゃないわ。私には、皆がついてる!必ずアンタを倒してやるから、覚悟しなさい!」
悪魔5「それはこっちの台詞だな。必ず君を殺してあげるから、覚悟しときなよ。」
この悪魔、他の9頭の悪魔と比較したら口調は優しいのだが、その時に浮かべる笑顔がとてつもなく恐ろしく、体が思わず震え上がってしまい、殺気がするほどだ。
悪魔5「それにしても・・・」
ル「え?」
悪魔の赤黒い瞳がじーーーっとルーシィを見つめる。ルーシィは思わず後ずさりをする。
ル「(あ・・悪魔にまで、ナンパされちゃうなんて・・・)」
喜んでいるのか悲しんでいるのか。非常に曖昧な事をルーシィは考える。
だが、ルーシィが考えている事と、悪魔が呟いた事は天と地の差と同じくらい違った。
悪魔5「君・・・すごく美味しそうだね~。」
ル「・・・え?」
一瞬、ルーシィは自分の耳を疑った。だが、目の前の悪魔が自分の事を見て舌なめずりをするのを見た瞬間自分の耳は正常運転だという事を自覚した。
悪魔は背中に背負っている風呂敷から新たな包丁を2本取り出すと・・・
悪魔5「調理させろォーーー!」
ル「キャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
2本の包丁を振り回しながらルーシィを追いかけ始めた。ルーシィも悲鳴を上げながら全力疾走で逃げる。
悪魔5「焼く?煮る?揚げる?蒸す?とにかく美味しく調理してあげるから~♪」
ル「どれも絶対いやーーーーーっ!ていうか私絶対不味いから!それ以前に絶対食べれないから!」
悪魔にツッコミを入れながらも、ルーシィは必死に逃げる、逃げる、逃げる。悪魔はルーシィを追う、追う、追う。
無我夢中に走り回り、足が縺れ始めると、
ル「あう!」
つまずいて転倒する。
急いで起き上がっても時既に遅し。2本の包丁を持った悪魔はルーシィのすぐ背後にまで迫っていた。
悪魔5「捕まえたぞーーーっ!」
悪魔の赤黒い瞳と包丁の刃先がギラリと光った。ルーシィは鍵束から金色の鍵を1本取り出した。
ル「開け!天褐宮の扉・・・スコーピオン!」
スコ「ウィーアー!」
威勢のいい掛け声と共に姿を現したのは、蠍の尻尾に見立てた巨大な銃を持つ星霊―――スコーピオン。
ル「お願い!」
スコ「OK!ウィーアー!」
悪魔5「うォあ!」
スコーピオンは低い体勢になると、悪魔目掛けて銃口から大量の砂を噴出した。砂は容赦なく悪魔に降りかかり視界を妨げる。
悪魔5「(目晦ましか。だが、俺は他の悪魔と比較すれば鼻もいいんだ。)」
料理が好きな悪魔だからこそなのかもしれない。悪魔は鼻をヒクヒク動かし、においでルーシィの居場所を探ろうとしたその時、
悪魔5「ぐはぁ!」
ヒュンと背後から矢が飛んできて悪魔の背中に突き刺さった。それを合図にヒュン、ヒュンヒュンと次々と矢が飛んできて腕や肩、頭や腰に突き刺さっていく。
悪魔5「(あの女・・・弓なんか、持っていたか・・・・!?)」
砂煙が晴れるのと同時に、ようやく矢の攻撃も治まった。
ル「助かったわ、スコーピオン。サジタリウス。」
スコ「これしきの事オレッちには朝飯前だぜ!」
サジ「また何か用があれば、遠慮なく呼んで下さいもしもし。」
そう言うと、スコーピオンと弓を持った馬の被り物を被った星霊―――サジタリウスは星霊界に帰って行った。
ルーシィは視線を悪魔に移すと、
ル「どぉ?女の子を甘く見たら怖いんだからね!」
腰に手を当て、指を突きつけて言い放った。
それを見て悪魔は怖気づく訳が無く、再び不気味な笑みを浮かべた。
悪魔5「確かに、ちょっと君の事、砂糖と蜂蜜を混ぜたように甘く見すぎてたよ。」
ル「甘く見すぎでしょそれ!ていうかどんな例え方してんのよっ!?」
相手が仲間だろうが敵だろうが、悪魔だろうが誰であろうが関係なく、ルーシィはツッコミを入れる。それほどルーシィの周りにはボケキャラが多いのだ。
悪魔5「君・・・名前は?」
ル「!」
例えるならば、先程悪魔が言った“砂糖と蜂蜜を混ぜたような甘い声”で囁くように問われると、ルーシィはほんの一瞬だけドキッ!としたが、その相手が悪魔だという事には変わりなく、慌てて自分の気持ちを正常運転に戻し、伸縮自在の鞭―――――エリダヌス座の星の大河を構えた。
ル「私の名前はルーシィ。魔道士ギルド、妖精の尻尾の魔道士よっ!やァアアァアアアアアアアアアアアッ!」
名乗った後、構えていた星の大河を大きく振るった―――が、バシッ!と音を立ててルーシィが振るった星の大河は悪魔が持っていた包丁で受け止められてしまった。
悪魔5「ルーシィ・・・か。素敵な名前だね、俺ほどではないけどっ!」
ル「うあん!」
悪魔は包丁で受け止めた星の大河の先を乱暴に掴むと、ルーシィ事宙に放り投げ地面に叩きつけた。
スロ「俺の名前は“恨みの悪魔”スローク。奈落に行くまでの間、覚えててくれると嬉しいな。」
ル「(・・てっきり、“料理の悪魔”かと思ったわ・・・)」
“恨みの悪魔”スロークは名乗ると、これまでにないくらい不気味で不敵な笑みを浮かべると問うた。
スロ「ルーシィ・・・君は、誰かに恨まれた事はあるかい?」
ル「・・え・・・?」
もう一度言っておく。ルーシィの耳は正常運転だ。
だが、いきなりこんな質問をされると、誰でも頭の上に?を浮かべるに決まっている。
スロ「さーて、君はいったい、どれだけ人に恨まれているんだろうね?見るのが楽しみだな~♪」
今、星霊に愛されし、傷だらけの金色の妖精が、“恨みの悪魔”に立ち向かう―――――。
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―クロッカスの街 東側―
月明かりが妖しく照らす、7月7日の夜のクロッカスの街。
静寂に包まれしこの場所は、破壊された形跡は一切ない。それどころか、いるはずの悪魔の姿さえ見当たらないのだ。
ここに駆けつけた魔法部隊も、辺りをキョロキョロ見回したりするが、人間の5倍ほどもある巨体の悪魔はドコにもいない。
隊1「ど・・どうなっているんだ・・・?」
隊2「ここで暴れた形跡も無い。ましてや悪魔の姿も無いなんて・・・」
隊3「「ここにいる」という情報は確かなのか?」
隊4「聖十大魔道のリョウ様が言ってたんだ。間違いない。」
魔法部隊全体を率いている隊長らしき者達が辺りを見回したり顔を見合わせたりしながら呟く。
隊5「まぁでも、これでここは安全だという事は分かったんだ。」
隊6「お陰で緊張が解れたよ。」
ほとんどの隊員達は安堵の表情を浮かべている―――――1人の隊員を除いて。
隊7「わ・・私は、非常に嫌な予感が、するんですが・・・」
恐る恐る、といった感じで呟いたのは、魔法部隊の隊員になってまだそう日が経っていない新人隊員だった。
隊8「そんな不吉な事を言うなよ、新人。“平和”こそが、世界にとって一番だ。」
隊9「まっ、平和だったら俺達が動く事は一切ねェんだけどな。」
隊10「言えてるぜ、ハハッ!」
新人隊員の言葉は他の年配隊員達にさらりと流されてしまい、誰も信用する者はいなかった。
だが、この新人隊員。昔から勘が鋭く、ふいに口走った事が本当の事になる事態が多数あるという、ちょっとした変わり者でもあったのだ。
そして、運悪くこの場でも―――――。
隊11「・・な、なぁ、何か・・・息苦しく、ねェか?」
隊12「そうか?俺は全然だけど・・・?」
1人の隊員が辛そうに呼吸をしている。
それに続くように、次々と荒く呼吸をしたり、首を押さえたり、蹲る者が現れだした。
隊13「ハァ・・ハァ・・・く・・苦しっ・・・ハァ・・ハァ・・・ハァ・・ハァ・・・・」
隊14「ハァ・・・い、息・・が、出来な・・い・・・ハァ・・ハァ・・ハァ・・・」
隊15「ハァ、ハァ、ど・・どうな、って・・・ハァ・・ハァ、ハァ・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・」
絶体絶命!と誰もが思った、その時だった。
ショ「無効化!」
冷静を保った声が響き渡ったのと同時に、隊員達は体をゆっくりと起こし始めた。
隊16「あ・・あれ・・・?」
隊17「息苦しく、ない・・・」
隊員達はお互い顔を見合わせたり、目をパチクリさせたり、息を吸って、吐いて、吸って、吐いてを繰り返したりした。
ショ「大丈夫ですかー!?」
隊員達の事を気遣う言葉が聞こえた。隊員達は声がした方に視線を動かした。
そこにいたのは、2人の女性を引き連れた、焦りを浮かべた鮮血のように赤い瞳を持つ妖精が1人―――――。
隊18「ショール様!」
隊19「・・・と、化け物ォオオ!?」
黒髪を揺らしながら、ショールは隊員達に駆けつける。
その隣にいるのは、深緑色のボサボサ頭をした女性―――ゾンビと、雪のように白い肌と着物姿の女性―――雪女はショールの隣から心底心配そうに隊員達を見つめた。
隊20「ショ、ショショショ・・ショール様・・・そ、そちらの方は・・・・?」
隊21「も・・もしかしてショール様・・・三股ですかぁ!?」
ショールとエルザが交際している事は、フィオーレ王国内では非常に有名な事である。何しろ週刊ソーサラーの「彼氏にしたい魔道士ランキング」で、青い天馬の魔道士、ヒビキと共に上位をキープし続けている(本人はキープしているつもりは一切ない)ほど、女性達の間では人気者なのだから。
何人もの女性達と交際しているヒビキとは違って、“妖精女王一筋”という事で話題のショールが、遂に他の女性と―――!?しかも三股―――!?
ショ「ち、違いますよっ!この人(?)達は、トーヤと契約しているゾンビと雪女です。ここに来ようとした俺から、なぜか離れてもらえなくって。話を聞いたら、「契約者の命令で悪魔と戦っている他のギルドの魔道士の方や、王国軍や軍隊、魔法部隊の皆さんを安全な場所まで避難させてほしい」という事だったので、ここまで一緒に来たという訳です。」
ショールの隣にいるゾンビと雪女の頬が、若干赤みを帯びている事にショール以外の者は全員とっくのとうに気づいている。
隊22「(人間以外にもモテモテのショール様って・・・)」
隊23「(やっぱり、イケメンなんだな・・・)」
そんなショールを、隊員達の一部が羨ましがっていたのは余談だ。
ショ「それに、僕はエルザ一筋ですから。エルザ以外の女性を愛する事は、死んでも不可能だと思います。」
隊24「(・・・こういう事を言える男って、やっぱイケメンでカッコよく見えるんだよな。)」
隊25「(俺達みたいな平凡な男が言ったら、逆に気持ち悪がられるんだろうなー・・・)」
サラッと女性を口説ける言葉を吐いてるショールを見て、隊員達の大半が遠い目をしたのは余談だ。
ゴホン!と1人の隊員がわざとらしい咳払いを1つした。
隊26「ところでショール様、先程私共を助けてくれたのはあなたですか?」
ショ「えぇ、まぁ。この近くに悪魔が潜んでいるらしく、その悪魔の能力で呼吸困難になるみたいなので、俺の魔法、手品の1種である無効化を使って、その能力を無効化させたんです。」
隊27「なるほど、流石ですな。」
隊員の1人が褒めると、ショールは照れたように頬を若干赤く染めた。
ショ「とにかく、皆さんは一刻も早くここから離れて下さい!悪魔は必ず、俺が倒しますから!」
隊28「し・・しかし・・・」
ショ「心配要りません。」
隊員の言葉を遮るように、ショールは言葉を紡いだ。
ショ「大魔闘演舞の最終戦には、俺は出場しませんでしたけど・・・これでも、優勝ギルドの魔道士の1人です。悪魔如きにやられたら、“フィオーレ一”“優勝”の名誉が傷ついちゃいますから。それに―――――」
ショールはゆっくりと目を閉じた。
ショ「俺は、これ以上、大勢の人が死に行くのを見たくないんです。死を見るくらいなら・・・自分が死んだ方がマシです。」
ショールの言葉に、隊員達は衝撃を受けた。そして、思った。
この人は、いったいどれくらいの死を見て来たんだろう―――――と。
ショ「でも、俺は絶対に死にません。」
ショールは閉じていた目をゆっくりと開けた。開けたショールの鮮血のように赤い瞳には、先程までなかった光が宿っていた。
ショ「俺には、守るべきものがありますから。それに、死んだら、エルザに怒られますからね。」
ショールはどこか悲しげで、寂しげで、小さくて、儚い笑みを隊員達に向けた。
それを見た隊員達は、それ以上反論する者はいなかった。
隊29「・・・分かりました。全部隊、直ちに撤退だァーーーっ!」
1人の隊員の声と共に、魔法部隊はゾンビと雪女と共にこの場を立ち去って行った。
隊30「ショール様、どうか・・・お気をつけて。」
ショ「ありがとうございます、皆さんも。」
最後の1人の背中が見えなくなるまで見届けた後、ショールは「はぁ」と小さなため息を漏らし後ろを振り返ると言葉を放った。
ショ「・・・もう出て来ても良いんじゃないか?バレてないと思ったら、大間違いだぜ?」
ショールの言い終わったのと同時に、ショールの目の前が黒に近い青色の光で包まれた。あまりの眩しさに、ショールは目を細め左腕で光を遮る。
光が治まり、腕を除けて前を見ると、目の前にいたのは灰色の体をした、鋭く尖った耳が特徴的な悪魔だった。
悪魔6「よく気づきましたね。」
口調的に、この悪魔は女だという事はすぐ分かった。
オー「私は“憎悪の悪魔”オーディオ。あなたは?」
ショ「妖精の尻尾の魔道士、ショール・ミリオンだ。」
悪魔とは思えない、“憎悪の悪魔”オーディオの優しい口調に少々驚きながらもショールも名乗る。
オー「人間、という生物は初めて見たけど・・・とても変わった生物なのね。」
突然語り出したオーディオの言葉にショールは耳を傾けた。
オー「人間1人につき、必ず1つ憎しみの感情が見えるわ。酷い人間は、10を超えていたわね。」
ショ「見える?憎しみの感情が?」
オー「私は“憎悪の悪魔”よ。相手の憎しみの感情を読み取る事が出来るのよ。もちろんあなたも・・・あら?」
ショールの憎しみの感情を読み取ろうとしたオーディオは首を傾げた。
ショ「残念だけど、今の俺には“憎しみ”という感情は一切ないんだ。今の俺には、ね。」
オー「つまり、以前はあった、という事よね?」
オーディオの問いに、嘘をつくのもつかれるのも嫌いなショールは正直に頷いた。
ショ「まぁ、人の感情とかはこっちに置いといて・・・」
そう言いながらショールは、固く握り締めた右手の拳に紅蓮の炎を、左手の拳に吹き荒れる風を纏った。
ショ「まずはお前を倒す、それが優先だ。」
オーディオは不敵に微笑むと、右手をくいっと動かした。「来い」という意味だろう。お望みどおりにショールは小さく地を蹴り駆け出した。
素早くオーディオの背後に周り込むと、
ショ「炎風拳斬!!」
紅蓮の炎と吹き荒れる風を纏った拳を同時にオーディオの背中に叩き込んだ―――が、
オー「効かないわね。」
ショ「!」
ショールの攻撃はオーディオには一切効いていない。
ショールが戸惑っている隙に、オーディオは指先に黒に近い青色の圧縮した魔力を溜めていた。
オー「ハァ!」
オーディオの指先から魔力が放たれた。圧縮された魔力は一筋の閃光になってショール目掛けて一直線に放たれた。
ショ「無効化!」
オー「!」
ショールが叫んだのと同時に、魔力の閃光はシュゥと蒸発してしまったかのような音を立てて消えた。つまり、無効化されたのだ。
ショ「効かないな。」
先程オーディオが言った事と同じ事をショールも言う。
ショ「俺の攻撃も、お前の攻撃も・・・お互い相手には効かない。五分五分って事だな。」
オー「あーら、悪魔を甘く見ない事ね。本気になれば、たったの一撃であなたの体を消す事だって出来るのよ?」
ショ「今の見ていなかったのか?お前の攻撃は、俺の魔法、手品の1種である無効化によって無効化とされる。逆に俺の攻撃は、お前が防がない限り当たり続ける。それに、手品には相手の急所や弱点を探る事が出来る、透視という能力もあるんだ。」
オー「なっ・・!?」
ショ「俺は嘘をつかないんだけど、嘘だと思うなら、実際に探り当ててやろうか?お前の急所と弱点。」
ショールはニィッと口角を上げて勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
オー「あなた・・・なかなかのキレ者のようね。」
ショ「よく言われるよ。」
悪魔も「キレ者」だと認めるこの男―――――。敵に回したら厄介なタイプである事には間違いない。
オー「だけど―――――紛失!」
ショ「!?」
オーディオが叫んだが、何も起こらない。
ショ「(な・・何だったんだ・・・?)」
ショールは戸惑ったような目を泳がせるが、やはり何も起こらない。
オー「ハァ!」
ショ「!」
ショールが戸惑っている隙に、オーディオは再び指先に圧縮した魔力を放った。さっきよりも速い!
ショ「だから効かないって!無効化!」
ショールが叫んだ―――が、魔力は無効化されない。
ショ「え・・・?」
オーディオが不敵な笑みを浮かべた。
ショ「そ、そんな・・・!無効化が、効か・・ぐああぁああぁぁああああああっ!」
圧縮された魔力の閃光は容赦なくショールの鳩尾に決まり、ショールは地面をゴロゴロと転がる。威力が強かったのか、この一撃でショールはかなりのダメージを受けた。
オー「紛失。これは相手の能力を1つだけ紛失させる―――つまり、無効化するっていう事よ。」
倒れ込んでいるショールに、オーディオは言葉を紡ぎながら1歩1歩ゆっくりと歩み寄る。
オー「これであなたの能力、無効化は、私との戦いでは二度と使えないわ。ふふっ、無効化するはずが逆に無効化されるなんて・・・おバカさん♪」
オーディオの黒に近い青い瞳が、妖しげに輝いた。
オー「ほら、立ち上がって。ここから盛大に楽しみましょ?戦いも夜も、まだ始まったばかりなんだから。人間と悪魔の奈落の宴は、ここからが本番よっ!」
今、頭の冴えた、傷だらけの黒の妖精が、“憎悪の悪魔”に立ち向かう―――――。
後書き
第199話終了~♪
予想以上に文字数と時間を費やしてしまい、思ってた以上に長くなってしまった・・・
次回もやっぱり、悪魔の紹介みたいなお話です。本当に申し訳ありません・・・
ぞれではまた次回、お会いしましょう~♪
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