ソードアート・オンライン ~白夜の満月~
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參:休息の時
前書き
終わりに近付くにつれ無理矢理感が垣間見える今回ですが、どうぞ(笑)
「昨日、疲れた。今日は休みがいい······」
いつもの事ながらにギルドホームのエントランス内にあるソファーに寝転びながら、《シュラーフ》がぼそっと呟く。確かに、昨日のボス――名前は《ブラック・タートイズ》と言うらしい――との戦いで、疲労が溜まっている筈だ。
《北の星宿の神格化》と伝えられている《玄武》に触手を付け、スピードをチーター並みにしているのだ。頭が可笑しいと言っても過言ではない強さだ。それをたったの6人で挑んで勝利したのだ、疲れても仕方ないだろう。
「そうだなぁ······んじゃあ、今日は急遽《休息日》って事で、各々やりたい事していいぞ!」
そんなシュラーフの呟きに、ギルドリーダー《ルーナ》は方針を変更する事を伝える。それには賛成の意見はあれど反対の意見はなく、あっさりと方針が決定する。
「ねぇねぇ、皆でお茶するとかは!?」
こんな空気でもはしゃぐ事を止めない《マリ》は正直言って凄いだろう。否、凄いを通り越して可笑しいのだろうが。
「いやいや、疲れてんだから動きたい奴なんてそうそう――――」
「ねぇ、どこの店が良い!?私良い店知ってるよっ!」
赤髪を靡かせ、朱色の瞳をキラキラ輝かすマリにとって疲れなど眼中にないようだ。ルーナ達はやれやれといった様子で付き合う覚悟を決め、支度を開始する。
「んじゃあ、ギルドお茶会スタートー」
やる気のない《タツキ》の掛け声に、マリを除く全メンバーの「おー」という気力皆無の返事が飛び交う。マリ一人だけ露骨に喜んでいるのは見間違えではない。かくして、約一名を除く疲労困憊のメンバー達と何故か元気な少女によるギルドお茶会は開始された――――
* * * * *
「おいゴラアァッ!!!クロてめぇ俺の紅茶勝手に飲んだろ!?」
「それぐらいで怒らないで下さいよっ、てかっ、最初に俺のレモンティー飲んだのタツキさんでしょっ!?」
「だあぁぁっ、お前等滅茶苦茶元気じゃねぇかあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「お客様っ、騒がれては他のお客様の迷惑になりますので、控えて下さいっ!!」
阿呆丸出しにお前が飲んだ否お前が飲んだの応酬を始めたタツキと《クロ》の有り余る元気を目の当たりにして頭を抱えつつ叫ぶルーナをたしなめるNPC店員。普通たしなめられるのは馬鹿共なのだが。
「煩い、寝れない······」
注文すらせずに睡眠体勢に入り、自前のアイマスクすら取り出している非常識女に、マリは苦笑い、何も出来ない《ユナ》はおろおろと困惑してはティーカップを落として割り、「はわわっ!?」と叫んでまた慌て出す。
「お客様っ、もう二度と来ないで下さいっ!!!!」
遂には出入り禁止をくらう始末である。マリは折角見付けた良い喫茶店を一瞬で手離した(と言うよりは強制的に手離させられた)ショックが多くいじけだす。最初から来なければ良かっただろうと思ったルーナは言葉にはしないでいたようだ。
「ま、まぁ、しょげんなってマリ。また探せばいいじゃねぇか」
元凶であるタツキはマリを宥めるが、あまり効果は成さないだろう。ユナがよしよしと頭を撫でると、マリは嘘泣きしつつユナに抱き付く。
「ったく、何してんだお前等?」
「「いやお前(アンタ)も原因だ!?」」
まるで自分は無関係だとでも言わんばかりに呆れた顔をして問うルーナにタツキとクロから素早くツッコミが飛ぶ。
「やれやれ、こっからどうすっかなぁ······」
それを右から左に受け流して今後の予定を悩み出すルーナに二人はツッコミを諦めた。これ以上は無駄な労力を使用するだけだと理解したのだろう。まぁ、そもそも店でのあのやり取りが十分に労力の無駄遣いなのだが。
「あ、じゃあ、あれだ、温泉でも行こうぜ?」
「何ぬかしてやがる、お前どうせ女子風呂覗くのが目的だろっ!」
「下心ありありな態度でそんな発言されても困りますよタツキさん」
「いやいやねぇよっ、お前等俺をどういうキャラで見てんだよ!?」
単に疲労回復が目的ならば温泉が一番だと思い、それを提案したタツキだがルーナとクロに《覗き目的》とあしらわれて呆気なく撃沈。はたから見ている分にはかなり可哀想だ。
「えー、でも私、タツキ君と同じで温泉行きたいですよー?」
賛同するのは、天然キャラで有名(?)なユナ。実際のところユナは温泉マニアと呼べる程温泉好きで、ギルドにいない時は大抵の確率で温泉巡りに行っている。ただの馬鹿だ。
「じゃあ、温泉行こうかっ!お代は男子陣が持ってねー!」
いつの間にやらショックから復活していたマリは即座に方針を変更、代金は喫茶店でやりたい放題した男性陣に押し付けた。
「結局温泉には行くのかよ······タツキに覗かれても」
「だからそのネタはもう止めやがれッ!?」
鋭いツッコミが、タツキからルーナに飛ばされるのだった――――
* * * * *
「ふぃー······気持ち良いなぁ······」
「おっさんですか、タツキさん」
「てかお前覗き······」
上から順にタツキ、クロ、ルーナである。最後のルーナの一言は言うまでもなくタツキに向けられたものだが、ツッコミを入れる気力すら無くしたタツキによって無視される。一方、女子軍はと言うと――――
「――――温まるねー······私やっぱり温泉好きー······」
「で、ですよね、温泉良いですよねっ!?」
「1日睡眠計画が······」
と、若干噛み合わない会話が繰り広げられていた。そもそも睡眠計画が温泉を台無しにしているのは誰にでも分かる事だろう。この者達は本当に温泉を楽しむ気があるのだろうか――――
* * * * *
「あぁーっ、つっかれたぁっ!!」
時は過ぎ去り、時刻は夕方の6時。謎のツアーも終わりをお迎え、ギルドホームに着いた頃には先日と同等かそれ以上の疲労を被る始末だ。休暇と呼べるのだろうか······?
「でもさ、楽しかったしいいじゃん?」
いつでも笑顔を絶やさず、何事も全力で楽しむマリに呆れた半分尊敬半分の視線を送るルーナは、やがて無言で微睡みの中へと落ちる。誘われた夢の中で、ルーナは何か重要なものを見るのだった――――
後書き
いやぁ、今日《プログレッシブ3》の発売日でしたね!自分は4時間弱で読み終えました。まだ読んでいない方もおられるかもしれないのでネタバレは控えますが(笑)
感想、御指摘、お待ちしております。では!
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