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第三章
第三章
「絶対に。変わりません」
「わかりました」
速水はその言葉を聞いて頷いた。そうして今度はコートの右のポケットに手を入れた。そうしてそこからあるものを出してきたのだった。
「それは」
「ブレスレットです」
「そうですよね」
「はい、その通りです」
見ればそうだった。七色のブレスレットであった。彼が優子に対して差し出してきたのはその不思議な色のブレスレットなのだった。
「これを貴女の大切な人に渡して下さい」
「これをですか?」
「運命から逃げることはできません」
また言う速水だった。
「ですが」
「ですが?」
「変えることはできます」
速水の言葉が優しいものになっていた。
「ですから。これを貴女の大切な人にどうぞ」
「いいんですか?」
「はい、是非共」
顔も微笑んでいた。その流麗な口元に笑みがあった。
「お渡し下さい、その人に」
「けれど私」
「お金はいりません」
優子が言うより前の言葉だった。
「さあ。ですから」
「わかりました」
速水がここでさらに差し出したその手の中にあるものを遂に受け取った。そうしてそのうえで強い言葉で言うのだった。
「その言葉、信じさせてもらいます」
「そうですか」
「いきなり言われて驚いているのも確かですけれど」
信じるのには難しいものもあるのも確かだった。しかし優子には速水が嘘を言っているようには見えなかった。その右目の奥を見てのことだ。
「それでも。今は信じさせてもらいます」
「有り難い御言葉です」
そして速水は優子のその言葉を受けて微笑むのだった。
「その御言葉こそが占い師にとってはです」
「有り難いのですか」
「占い師は信じてもらうことにその存在の意味があります」
そしてこうも言うのだった。
「だからです」
「そうなんですか。信じてもらってこそですか」
「その通りです。それでは宜しいですね」
「はい」
あらためて速水の言葉に対して頷いたのだった。
「このブレスレットを貴女の大切な人に」
「それで彼が助かるんなら」
「お金はいりませんので」
「いらないんですね、本当に」
「私の好意ですから」
穏やかで品のある笑みだった。やはり優しい。
「どうぞ」
「有り難うございます。それでは」
優子もそのブレスレットを受け取った。すると速水はまた彼に言ってきたのだった。
「運命は変えることができるのですよ」
「変えられるんですね、本当に」
「そうです。ですからお使い下さい」
速水の言葉は続く。
「是非共」
「わかりました」
こうして彼はそのブレスレットを受け取ってそのうえで走輔にそのブレスレットを手渡した。そのブレスレットを受け取った彼は微妙な顔を見せた。
「ブレスレットがかよ」
「ええ、いつも身体につけていて」
優子は真剣な顔で彼に告げていた。
「いつもね。いいわね」
「いつもかよ」
「最低でもバイクを運転する時はね」
このことを言う時程彼女の言葉が強くなったことはなかった。
「つけていて。御願いだから」
「それはいいけれどよ」
走輔は実際にそのブレスレットを右手に付けてみた。丁度合っている感じだ。しかし彼はそのブレスレットをつけてみてどうにも微妙な顔をしていた。
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