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今度こそ勝った

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第五章

「このままいけるかどうか」
「それだね」
「ええ、明日勝てば本当に決まるわ」
 阪神の優勝が、というのだ。その滅多にないことと日本国民に思われているそれが。そうしてこの日は終わったが。
 次の試合、まさに野球の神は阪神に微笑んだ。そして巨人を足蹴にした。非常にいいことに。
 阪神打線は先発小山を襲い三発のアーチを含む攻勢で二回までに六点を奪った、これで最早勝負は決まった。
 スタンドに飛び込んだ白球を見て落胆する巨人ファンを観てだ、寿はガッツポーズをして叫んだ。
「やった!決まった!」
「もうこれでね」
 その兄を見る千佳も言う。
「決まりね」
「うん、これはもうね」
「まず確実にね」
「阪神の勝ちだよ」
「もう決まったわね」
 千佳はまた言った。
「阪神の勝ちよ」
「じゃあ明日はパーティーだよ」
「いや、凄いことになったわ」
「まあ試合を最後まで観て」
「今の巨人だと無理よ」
 勝てないというのだ。
「勢いがないから」
「あの死球以降ね」
「やっぱりね」
 第二試合での澤村の死球がというのだ。
「あれが大きかったかな」
「間違いなくね」
「それで勢いが完全に阪神に来て」
「今こうなってるのよ」
「いや、上本は大変だったけれど」
「あれで流れが完全に決まったわ」
「そうなったんだね」
 兄は妹の言葉に頷いた。
「本当に」
「確かに。それじゃあ」
「後は試合終了したら」
「パーティーの前祝いで飲もうか」
「そうするのね」
「ビールの用意しておこう」
 中学生だがそこは気にしなかった、それで。
 試合終了、マウンドに集まる阪神ナインを観てだった。寿はビールを掲げて一人で叫んだのだった。
「よし、勝った!」
「おめでとうさん」
 横で千佳が冷めた声で言う。
「よかったわね」
「よかったよ、じゃあ次は」
「日本シリーズね」
「それに勝ったら本当に」
「日本一よ」
「バース様の時以来か」
 しみじみとして言う寿だった。
「僕まだ産まれてなかったよ」
「そうよね、もう無茶苦茶昔で」
「けれどその日本一を観られたら」
「嬉しいわよね」
「死ぬかも知れないね」
「カープもね。もうね」
 それこそなのだ、千佳が贔屓のこのチームも。
「何十年も優勝してなくて」
「日本一も」
「浩二様、祥雄以来よ」 
 山本浩二と衣笠祥雄だ。カープ黄金時代を支えた名選手達だ。
「お二人がおられなくなって」
「それからか」
「そう、だからね」
「千佳もか」
「カープの日本一観たいよな」
「それでお兄ちゃんも」
「当たり前じゃないか、ここまできたら」
 それこそというのだ。 
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