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同じ相手を

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第四章


第四章

「私にそれはないわね」
「ないですか」
「あの人が死んでから」
 語るその言葉は少しばかり寂しそうなものだった。夫が死んでから誰かを好きになることはもうなかった。ダから今の占いを信じる気にはなれなかったのだ。
「それはね」
「俺の占いは当たります」
 また言った八誠だった。
「それは」
「当たればいいわね。じゃあこれは」
 言いながら彼にケーキを出した。チョコレートケーキである。
「占ってくれた御礼よ」
「有り難うございます」
 ここで夏希が帰って来た。それからはいつもと同じだ。だが瞳は彼と時々話をするようになった。その喫茶店にやって来る彼とである。
 そしてこの日は。二人であることを話していた。その話とは。
「じゃあもう十五年もこのお店を」
「そうよ。一人でやってるのよ」
 店の話をするのだった。八誠に対して。
「主人がいなくなってからね。今は娘もいてくれてるけれど」
「大変だったんですね」
「そうは思ったことなかったけれど」
 それはそうではないと返すのだった。
「大変だったことはね」
「なかったんですか」
「大変じゃなかったわ」
 そしてまた言うのだった。
「このお店はずっと前からやってたし」
「ずっと前からというと」
「お爺ちゃんの代からのお店だからね」
「あっ、そうなのですか」
「そうなのよ。主人は普通のサラリーマンだったけれど」
 その死んだ夫のことも話すのだった。
「私はね。ずっとここにいるのよ」
「このお店にですか」
「主人はそれをわかって家に来てくれたけれど」
 ここでついふう、と溜息を出してしまった瞳だった。
「あの娘が三つの時に。事故でね」
「そうだったんですか」
「そういえば」
 話しているうちにだった。あることに気付いたのである。それは。
「主人はこの店によく来てくれたわね」
「最初はお客だったんですか」
「そうよ。お客さんだったのよ」
 その出会いについても話すことになった。
「何度か来てるうちに。そう」
「そう?」
「村松君みたいな感じかしら」
 こう思ったのだった。言葉にも出ていた。
「いつもカウンターに来てくれてね。それでコーヒーを飲んで」
「俺みたいにですか」
「そうだったのよ」
 言葉がしみじみとしたものになっていた。それは意識せずともだ。
「いつも来てくれてね」
「そうだったんですか」
「いつも来てくれたわ」
 言いながら昔を思い出す。その夫とのことを思い出して遠い目になる。
 そのうえで八誠を見る。すると自然に彼ともういなくなってしまった夫が重なった。そこでまた別のことにも気付いてしまったのである。
(似てる)
 そうだったのだ。夫と彼が。雰囲気や物腰がそっくりだったのだ。すると。
 心が何故か熱くなった。それまでなかったことだった。その夫が死んでから。それを感じだしたその時にまた娘が帰って来たのである。
「只今」
「お帰りなさい」
 夏希だった。いいタイミングで帰って来たと言うべきか。しかし瞳はその心の中で感じたものをはっきりと覚えてしまったのだった。
 それから彼が店に来る度にそれを感じてしまった。こう思うことも確かだった。
(年齢が)
 彼はまだ高校生だ。しかし自分は。それを考えて心を止めようとする。しかしそれは止まらない。どうしても止められなくなっていた。
 
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