黒猫が撃つ!
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プロローグ 気がつけば……
「何処だ、ここは?」
気がつけば見知らぬ建物の屋上に俺は立っていた。
周囲を見渡すと、目の前に広がるのは湾岸地帯と風力発電機のプロペラ、そしてビルやマンション群。
海が近い為か、強い海風が吹き抜ける。
目の前に広がる景色を見渡して改めて思う。
______ここは何処だ、と。
俺は今日も相棒のスヴェンやイヴと共に賞金首を狙って自由気ままにあちこちを旅していた……筈だった。
スヴェンが運転する車の助手席に座ってうたた寝をして、それから……ダメだ。
覚えてねえ……眠っちまったのか?
と言うことはここは夢の中で、現実じゃない?
だが、夢にしてはやけにリアルだよなー。
風や日の暖かさ、空気を吸い込む時の新鮮さ、潮の匂い。
どれも現実と同じように感じられる。
本当にここは夢の中なのか?
そう思いながら眼下に広がる景色を眺めていた、その時______
「そのチャリには 爆弾が 仕掛けて ありやがります」
人の声に似た音声が俺のいる屋上にまで聞こえてきた。
「ん?なんだありゃ?」
屋上から辺りを見渡していると、階下の路上が騒がしい事に気がついた。
騒ぎの原因を見てみると、一人の少年が路上で自転車を濃いでいた。
ただ走らせているのなら何の興味を抱くことはなかった。
自転車は移動する為の乗り物なんだからな。
だか、俺が興味を持ったのは少年が漕ぐ自転車のすぐ横に車輪を平行に並べただけで走る、タイヤ付きのカカシみたいな乗り物が並走していたからだ。
「追われてる……のか?」
少年の顔色は横のカカシみたいな乗り物を見た途端、悪くなった。
少年はカカシみたいな乗り物に向かって何かを叫んでいる。
「ここからじゃあ、何を言ってるのかわからねえな」
少年とそのカカシみたいな乗り物を見ていると、カカシみたいな乗り物に本来ならあるはずがないである物が付いていることに気づいた。
人が立って乗るべき部分に、一基の自動銃座が載っているのが見えた。
「おいおい、冗談……だろ?」
自転車を漕ぐ少年は自転車で出せるだけの、ものすごく速い速度を維持したまま、人通りがあまりない広場の中に向かって行った。
「ありゃりゃ、何だか大変そうだにゃ」
助けてやる義理はない、が目の前で死ぬところを見たくもない。
「仕方ねぇ。ちょっくら手貸してやるか」
俺は建物の屋上から階下に向かって飛び降りようとした______その時。
俺とは別の建物の屋上に人がいることに気づいた。俺が気づいた時には、ピンク色の長い髪をツインテールにした少女が少年に向けて何やら叫んでから飛び降りていた。
7階建てはあるマンションの屋上からな。
「ちょっ……ん?」
驚いたが彼女の背には事前に準備していたであろうパラグライダーがあり、彼女が屋上から飛んだ瞬間、空に広がった。
少女はそのまま、少年の方に降下していきそして______。
「バッ、バカ!来るな!この自転車には爆弾が______」
少年の声を無視するかのようにブランコを揺らすようにL字に方向転換したかと思うと、左右の太ももに付けたホルスターから、それぞれ銀と黒の大型拳銃を2丁抜いた。
「ほらそこのバカ!さっさと頭を下げなさいよ!」
バリバリバリバリッ!
2丁拳銃でカカシみたいな乗り物を銃撃して、破壊していった。
不安定なパラグライダーからの水平撃ち。
かなりの腕前だとわかる。
「おお、なかなかやるなー。彼女も掃除屋か?」
小柄な体型にもかかわらず大型拳銃を2丁撃ちできる技量。
彼女がどこの誰なのかはわからないが腕前を見た限り、腕利きの良い掃除屋か、もしくはリンスレットみたいな裏稼業に属する奴なのかもな。
「銃の腕前だけならスヴェンよりも上だな」
彼女の力がどれくらいかははっきりとわからないが実戦でもし、スヴェンと殺りあえば高い確率でスヴェンが勝つ。
総合的な戦力差を考えると豊富な発明品の数々と銃技、そしてあの力を持つスヴェンの方が今は上だな。
そんなことを考えながらパラグライダーで飛ぶ彼女とその彼女の太ももに挟まれた少年を観察する。
彼女と少年は何やらいい争いをしていたが、何故か自転車が爆発しその爆風によって吹き飛ばされ、広場の隅に置かれている倉庫の扉に突っ込んでいった。
「まさかと思うけど……死んじゃいねえよな?」
吹き飛ばされた彼女達を追って倉庫のような建物に近づき、中を覗くと______居た。
跳び箱の中に少年少女は二人して仲良く挟まれていた。
跳び箱に挟まれたまま、ピクリとも動かない。
どうやら二人とも意識を失い気絶しているようだ。
「どうしたらいいんだ、これ?」
起こすべきか、空気読んで仲良くイチャつかせるべきか……ああ、もう面倒だ!
「ささっと起きやがれー!」
俺の声に反応したのか動く気配がした。
ただし倉庫の外側からな。
「げっ……」
先ほどのカカシのような乗り物、それも3台もの数が突然現れた。
それらが搭載している銃座が俺の方に向いたその時______
______ズガガガガガガンッ‼︎
複数回に渡り銃声が鳴り響き、銃口からは硝煙と火薬の匂いが立ち込めた。
「……やっちまったよ」
溜息を吐きながらも手に持つ銃、俺が使うもう一人の相棒と呼ぶべき存在の回転式弾倉拳銃を降ろすことなく、左手に握ったまま、一歩一歩自身の足を動かし、倒したカカシに向けて進めて行く。
銃撃されたのに何故無事だったのか。
それはカカシが撃つより早く銃撃をしたからだ。
俺が放った銃弾はカカシに搭載されている短機関銃の銃口に吸い込まれるように入っていき、その銃身を内部から破壊した。
俺が咄嗟に放ったたった3発の銃弾によって______あっけなくな。
「まぁ、こんなもんか……」
「なっ……な、何者だ?」
声がした方を振り返ると少年が目を覚まし、跳び箱の中から出ようともがいていた。
「俺か……俺はトレイン・ハートネット。
自由気ままな野良猫さ」
「トレイン……ハートネット?」
「ああ。ボウズは名前何て言うんだ?」
「……遠山金次だ」
「そっか。よろしくな、キンジ。
あ〜ところで……そのままでいいのか?」
「え?うわっ!」
キンジと名乗った少年の体の上、具体的には脇腹を左右に少女の太ももが挟み、キンジの両肩には少女の腕が載っていた。
どうやったらそうなるのかはわからないが少年が少女を、抱っこした状態で跳び箱にハマっていた。
「……お……おい」
キンジが少女に声をかけたが少女からは何の反応はない。
「おー、おー、女の子と密着とかやるなー」
「見てないで助けてくれ!」
「えー。面白そうだし、もう少しこのままでもいいだろ?」
「いいわけあるかー!」
そう叫びながらキンジの視線は少女の胸の辺りにいった。
すると______
少女の胸元はブラウスが捲れて下着姿になっていた。
「何だ……白い布にトランプ?」
下着の色は白地にハート・ダイヤ・スペード……などの柄があるらしい。
「寄せて上げる……?」
キンジの呟きが耳に入った。
どうやらこの少女は体の一部が貧しいらしい。
どう考えても寄せるほどないだろう、と思っているのか平坦な胸を凝視しているキンジ。
「……へ……へ……」
「______?」
「ヘンタイ______」
突然響いた、アニメ声。
ちょっと鼻にかかった幼い声を発した少女は______。
「さっ、さささっ、サイッテー‼︎」
ぱかぽこぱかぽこぱかぽこ!
ブラウスを下ろすと力の篭っていないハンマーパンチをキンジに落とし始めた。
それにしても体を動かしたせいか喉が渇いたなー。
「おっ、おい、やっ、やめろ!」
「このチカン!恩知らず!人でなし!」
「あー、ミルク飲みてえなー」
「なっ、へ、ヘンタイー‼︎」
「ち、違う!今のは俺が言ったんじゃ、な______ってトレイン、助け______」
キンジが俺に助けを求めたその時______。
______ガガガガガガガガガガガガンッ‼︎
再び倉庫前に集まってきたのか、カカシにより銃弾がばら撒かれた。
咄嗟に遮蔽物になりそうな跳び箱に隠れた少女とその下敷きになっているであろうキンジ。
一方の俺は隠れる場所も、時間もなかったのでそのまま銃弾を______
「トレイン⁉︎」
俺の身を案じたのか叫ぶキンジの声が聞こえたが______ギィンギィンギィンと金属同士が激しくぶつかる音を出しながらキンジ達の方を降り向いた。
「「えっ?」」
「ふぅ、全く無駄弾撃ちやがって……」
俺は無事だ。
俺に向かってきた銃弾は全て叩き落としたからな。
「危ねえ……俺じゃなきゃ死人出てんぞ」
「……なっ、アンタ何したのよ⁉︎」
「トレイン……お前⁉︎」
驚愕した表情のキンジと少女。
そんな2人に笑いかけた俺は一言だけ告げた。
「もう少しそこで待ってろ。すぐに終わらせるから……」
ハーディスを握り、倉庫から外に出た。
外にはカカシ擬の乗り物が20台集まっていた。
「へへっ。さてといっちょ、やるか」
ハーディスの銃口を上になるように掲げて臨戦態勢を取る。
クロノス時代から愛用しているこの銃を使う度にハーディスがいかに優れた相棒かよくわかる。
全体的に装飾されXIIIと銃身に刻まれている。
銃身からトリガーに近づくにつれ、三角形の形になり、その三角形の部分は盾代わりとしても使える。
色々な使い方ができるのがハーディスの特徴だ。
俺はそんなハーディスを握り締めてカカシ達を見据えて言った。
「お前らに届けたいもんがあるんだ」
カカシ達は機械的な動きをしながら装着されている自動銃座を俺に向けてきた。
「不吉を届けに来たぜ!」
ズガガガガガガンッ!
姿を現した俺に向けてUJIが銃弾を浴びせてきた。
俺は左手に持つハーディスを抜き、その銃弾が向かう先を予測する。
銃口の向きからして俺の頭部だが、銃弾が当たる部分を守るように銃身を使い、銃で弾を殴るようにして撃ち落としていく。
「弾の無駄使いだぜ!」
銃弾で銃弾を弾くこともできるが撃つだけ弾の無駄使いになる。
弾を撃ちながら突っ込んできた二台のカカシが脇を通り過ぎて、倉庫の中を発砲した。
だが、角度的にキンジ達に当たる心配はないな。
しばらく銃弾を撃ち落としていると倉庫の中を撃っていたカカシが後退した。
俺が銃弾を撃ち落として身を守っている最中に倉庫の中でカカシとは別の発砲音がしたがきっとキンジか少女が銃を使い追い払ったんだろう。
一斉に撃ち終わり、僅かに動きを止めたカカシの一台に近づくと俺はその車体に取り付けられた銃座部分をハーディスの爪______三角形をした部分______を使い、高速で殴りつけて破壊していった。
「黒爪‼︎!」
左手で殴りつけた後、すぐに右手に持ち替えてもう一台のカカシを殴る。
そして俺に狙いをつけているUJIを狙ってハーディスを発砲した。
______ガ、ガンッ
と銃声が鳴ると銃座が破壊されバランスを崩した二台のカカシがその場で回転し、他のカカシを巻き込んで衝突していった。
衝突されたカカシが発砲し、その銃弾が別のカカシに当たり……といった連鎖が起きて次々とUJIは無力化していった。
「10台目、と」
残り10台残っているが俺にとって、最早脅威でも何でもない。
ただの動く的と同じだ。
ハーディスの装填数はたったの6発なのでさっき撃った2発を引いて、全弾命中させても残り6台余る計算になる。
「面倒だなー。
肉弾戦でやるか」
そんな事を考えながらハーディスをカカシ達に向けた______その時。
10台のカカシが一斉に襲いかかってきた。
俺は銃弾の雨をかいくぐりながら、歩を止めることなく、前へ、前へと進めていきカカシに接近するや、否やその車体に取り付けられたUJIをハーディスの爪で殴った。
さらに収納されているワイヤーを使い別のカカシをワイヤーで横転させた。
これで残りは僅か8台だ。
さっさと終わらせるか、と気を入れたその時______
倉庫の中からキンジの声が聞こえた。
「アリアを、守る」
キンジは、マッドシルバーのベレッタ・M92Fを抜いて、ドアから飛び出してきた。
気のせいかもしれないがキンジの目元が鋭さを増している。
まるで人が変わったように______。
広場にいる8台のカカシに搭載されているUJIが、キンジに向けて一斉に銃弾を浴びせた。
俺はとっさにハーディスを発砲し、銃弾で銃弾を弾いたが……駄目だ、全部は防げねえ!
続けざまにキンジを狙ったUJIをハーディスで撃ち落としたが______
このままだとキンジの頭部に計7発の銃弾が当たる。
キンジを死なせねえようにさらに発砲しようとした俺は信じられないものをみた。
キンジの奴は一斉射撃を______上体を後ろに大きく反らして、やり過ごしやがった。
そして、その姿勢のまま、左から右へ、腕を横に凪ながらフルオートで応射までしやがった。
ズガガガガガガンッ‼︎
キンジが放った銃弾はカカシに搭載されていたUJIの銃口に吸い込まれるように入っていきカカシ達は全て、その銃座のUJIを吹っ飛ばされた。
キンジか放った、たった7発の銃弾に。あっけなくな。
「おーすげえ!やるなキンジ」
「君の方こそ、ね」
折り重なるように倒れたカカシ達が全て沈黙しているのを確かめると、俺達は倉庫の中に戻った。
中では少女が跳び箱の中から半身出した状態で、『今、私の前で何がおきたの?』という顔をしている。
キンジと目が合うと、ぎろ!と睨み目になり再び跳び箱の中に引っ込んでしまった。
「どうしたんだ?」
「さあ……」
「______お、恩になんか着ないわよ。あんなオモチャぐらい、あたし一人でも何とかできた。
これは本当よ。本当の本当」
……何だか、怒ってるな。
それに跳び箱に隠れながらゴソゴソ何かを直す仕草をしている。
「そ、それに、今のでさっきの件をうやむやにしようたって、そうはいかないから!
あれは強制猥褻!れっきとした犯罪よ!」
「おい、キンジ。
お前何をしたんだ」
「な、何もしてない。
アリア。それは悲しい誤解だ」
キンジはそう言い______シュルッ______アリアと呼んだ少女に向けてズボンを締めるベルトを外して、投げてやった。
「な、何もしてない……ですって⁉︎」
アリアは跳び箱の中から、キンジのベルトで留めたスカートを抑えつつヒラリと出てきた。
ふわ。見るからに身軽そうな体が、俺達の正面に立った。
え?
立った、のか?それで?
ちっこい。
アリアのそのちっこい姿を見た______その時。
ドクン______。
突然、胸が締め付けられるような痛みがしてきて______
「うぐわあぁぁぁ」
「______トレイン⁉︎」
「ちょっとどうしたのよ!」
キンジとアリアの声が聞こえる中______
俺は激しい胸の痛みによりその場に崩れ落ちた。
……ん。
……誰だ?
……誰かが呼んでいる。
「……ン君⁉︎」
……誰だ?
「……イン君⁉︎」
……スヴェン達、か?
「トレイン君⁉︎」
「ッ⁉︎」
目を開けた俺はその場で動けずに固まってしまった。
何故なら女性が、キョーコと同じくらいの年頃の少女が俺が寝ているベッドの端に立っていたからだ。
それだけなら固まりはしないがその相手が彼女なら別だ。
何故なら目の前にいる彼女は、もうどこにもいるはずのない人だからだ。
彼女はトレードマークの浴衣と呼ばれる民族衣装を着ていた。
「よかった、目醒めたんだね。
君が無事でよかったよ」
「……なっ、嘘、だろ⁉︎」
信じられねえ。
これは夢か?
そうだ、きっと夢だ!
じゃなきゃありえねえー。
突然、胸の痛みで倒れていざ目を覚ましたら目の前に彼女がいるなんてことは……。
「うん、言いたい事はわかるけど……君が無事で本当によかったよ。
トレイン君」
「サ、サヤなのか……」
夢じゃ……ない?
「うん。
正真正銘のミナツキ・サヤだよ。
今はこの国、日本で水無月沙耶として生きてまっス」
「サヤ……」
彼女が生きている。
その事実に、思わず瞳から涙が流れてしまった。
ああ……よかった。本当によかった。
「クスクス……」
サヤは思いっきり笑った後、急に真面目な顔になり俺に言った。
「トレイン君……君に言わないといけないことがあるんっス」
「何だ?」
「君の体のことだけど……ね」
何故か言い淀む彼女の姿に不安になる。
「君の体……小ちゃくなっちゃたっス」
「……へ?」
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