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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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宵の口
  07話 隻腕の錬鉄者

 2001年1月某日―――新潟県湾岸域

 異形の軍勢による度重なる侵略とそれに抗う銃火の往復の結果荒野と化した汚猥なる血によって穢れた大地を踏みしめる甲鉄の戦神たちの姿があった……しかし、その姿は硝煙と重金属の浅黒い霧よってはっきりと見ることはできない。

 戦術機の低出力駆動音と艦砲射撃の放音、それに異形が大地を叩く音が悲鳴のように地響きを轟かせる。
 一陣の風が吹く―――浅黒い煙が払われその地表が白く陽光に照らされる中に生えるドギツイコントラストを空間に刻み込む甲鉄の一団が照らし出された。

 多くの折鶴のように端正な顔つきを持つ鎧武者のような闇色の機体、そして点在する白き烏帽子を被ったような人食い鮫を連想させる獰猛な顔鉄の機械仕掛けの神道と鎧武者の公武合体を体現した機体―――零式武御雷の一団だ。

 その先頭に立つは紅の両眼にて戦場を眺める蒼き雷神、難攻不落の蒼き意思、蒼き刃金。
 政威大将軍を排出する五大武家、五摂家の証明―――武御雷R型だ。

 その一団は……斑鳩公率いる練達と名高い日本帝国の中でも生え抜きの技量と忠誠心を持つ斯衛軍最精鋭部隊―――第16大隊であった。


『音紋照合……鋼槍(スティールランス)連隊後方に師団規模BETAの穿孔部隊です!!』
『閣下!!』

『うむ鳳中佐、分かっているさ―――』


 網膜投影された通信ウィンドウに映った白い零式強化装備をまとう凛とした眼差しをもち、どこかあの山吹を纏う少女に似た雰囲気を醸し出す女性衛士に斑鳩嵩継はうなずきを返した。

『せっかくの業物、試し斬りだけでは貴官らも物足りないだろう――』

 蒼き威容を誇る機体の足の下で怨敵がその死骸を踏み砕かれ、汚血が大地にぶちまけられる。
 その武御雷の前衛群が手に携えるのは74式長刀ではなかった。その背に携えるのは長刀だけではなかった。
 一つの兵装担架に、二種の刃が備わっていた―――

『ええ、実に扱いやすい―――これ等を設計した者は戦場を()っている。』


 頷く鳳中佐―――試製近接兵装……試製壱式 戦術迫撃刀、及び戦術追撃刀。
 それは日本刀の中巻と小太刀を戦術機用に拵え、改良を施したものだ。

 迫撃刀は74式長刀に比べ肉厚で刀身の反り(湾曲)が大きくかつ柄が長いく、グリップガードを持たないことが特徴だ。
 刀身のスーパーカーボンにハイパーセラミック製の刃金を合わせる、超低摩擦コーティングを施される等の材料科学的な強化も施されてはいるが、それよりもその形状に意味がある。

 ――74式長刀に比べ湾曲しつつ大型化した刀身は古刀である大太刀の一種である中巻をモデルにしているだけあり、斬ることに特化した形状と特性を持っているのだ。

 大太刀は本来馬上での使用を前提にされ、馬の加速力で切る武器であるため、間合いの広さや刀身の反りなど高機動状態での斬撃に特化した特性を持っている……その特性は、機動格闘を突き詰めた武御雷とこの上なく合致していた。

 そう、74式長刀が打ち刀をベースとした汎用性重視であり、槍が主流となり刀の出番が密集戦闘に限定されていた刀である以上、その用途は歩行戦闘下を前提に置かれた物であり、第一世代戦術機用の装備の域を出ていないのだ。

 第三世代が、その機体特性を完全に発揮させる武器が別の形となるのは必然。
 さらに、延長された柄により斬撃の威力は“てこの原理”により更に強化されつつ扱いやすくもなる―――その戦闘力、先ほどまでの要塞級の骸を積み重ねたことで証明された。


『藤原大尉、貴官はどうだ?』
『いうまでもありませんわ閣下――閣下の義弟君(おとうとぎみ)強襲前衛(ストライクバンガード)のツボを心得ていらっしゃる。私も部下たちももう少し、愉しみとうございます……!』


 大隊の第二中隊を駆る山吹色の武御雷を駆る女性衛士、藤原が好戦的な笑みを浮かべながら戦意を滾らせている。

 そんな彼女のF型武御雷は右腕に試製追撃刀を保持し左腕には従来通り84式突撃砲を保持している。

 ……本来、刀という武器は片腕で扱うものではない――刀を片腕で扱えば、その威力・剣速は半分以下にまで低下し、実用には到底耐えられないものとなる。
 何故ならば、日本刀とは手首のひねりによって、てこの原理を作用させ、刀身の対象への衝突の運動エネルギーの反作用を抑え込みその威力を倍加させることでトップヘビーで在らずとも重い一撃を繰り出ししつつもより速い刃の引き戻しを実現させた武器だからだ。

 けれども、戦場で最も多発する状況――それは近接戦での射撃と格闘兵装の同時使用だ。
 欧州機や武御雷、それにソ連機は格闘兵装の機体への固定化でそれを成したが、そこには絶対的な欠点がある。

 それは、近接戦に切り替えたときの絶対的なリーチ・威力の短さ、そして手首の返しという斬撃パターンが固定されてるが故に限定されることだ。
 しかし、短刀では威力・リーチともに足らない―――故に、片腕での威力と取り回しのバランス……その限界を見極めたのがこの試製追撃刀だ。

 そして、それらを運用するために新たに建造されたブレードマウントは従来と違い、兵装担架基部フレームと兵装固定アームが直列に並んだ構造ではなく、二種の専用固定部が兵装担架の基部フレームを左右に挟む形で異なる二種の兵装を同時装備が可能となっている。
 迫撃刀と追撃刀を一対として一つの兵装担架で装備できるようにすることで継戦能力と汎用性を向上させたのだ。


『やれやれ女史は過激だな……戦場の悦を求めていては嫁の貰い手が無くなるかもしれないね?』
『あらあら、御冗談が過ぎますわ閣下……今巴(いまともえ)と云われる私、これでも結構言い寄られていますのに?』
『それは初耳だよ。後で真壁に詳しく聞いておくとしよう。』

『是非とも。』

 したり笑みを交わしたところで、内部を刳られる大地の悲鳴―――地中を掘り進むBETAが地上へと顔を出す予兆が近づいてくる。
 そして、大地の震えは最高潮に達し、やがて臨界を突破する。

 吹き飛ぶ、崩落する地面。荒野に穿たれた大穴からまるで、巣から一斉に飛び出す蟻の大群のように饕餮の化身が如き、すべてを食らいつくす異形が無数に吐き出された。


『――――では、参ろうか。皆の者続けぇッッ!!!!』

 蒼き将の号令、蒼き雷神がその紅眼を光らせ、跳躍ユニットを咆哮させて疾走した。
 それに続く大隊の武御雷たち―――雷神にして剣神の名を冠する公武合体を体現する機械仕掛けの鎧武者の軍勢が戦場を駆け抜けた。





 翌日―――帝国軍調布基地


「状況終了、ホワイトファングス残存機のハイヴより撤退を確認。ヴォールク19終了します。」

 シミュレーターによる仮想ハイヴ攻略を管制する指揮所。
 オペレーターたちが座席にて管制を行う中、脚立する一人の男の姿があった。

 斯衛の中でも最も異色の色―――本来なら日本帝国の全権を日本帝国皇帝に代わり執り行う政威大将軍と成りうる人間を排出する五大武家、五摂家に属する者のみに許された青を纏う男だった。

 その鍛精な顔立ちは美形という訳ではないが、濃密な修練を積み重ねた者のみが持ちうる精錬された空気を纏っている。
 だが、その顔面の右半分に走る大きな傷、右目を大きく裂く傷痕が生々しく残っており、鋭い眼光と相成りまるで、無理やり鞘に納められた妖刀を連想させる。

 そして―――彼には右腕が無かった。


「諸君、ご苦労だった。シミューター上とはいえハイヴ攻略が成らなかったのは遺憾の極みではあるがお蔭で有意義なデータが取れた。各自ゆるりと英気を養うといい。」

 指揮所でインカムを叩き、シミュレーター試験を終えたホワイトファング中隊を慰撫した斑鳩 忠亮はその身を翻し、管制室から立ち去るのだった――――。
 
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