日向の兎
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1部
20話
あれから繰り返す事十度、ネジがくたびれたボロ雑巾のようになる頃には取り敢えず減速、加速の制御はできるようになった。追突事故からラリアットにまで被害は抑えられるようになったのは進歩と言えるのではないだろうか?
リーの打撃演習はネジに相手を頼もうかと思ったが、完全に伸びきっていたので仕方なく私が相手をする事になった。
「それではヒジリさん、お願いします」
「ああ、まずは速度は無視して、ゆっくりと腕にチャクラを集めて私に当てろ。
君の場合は速度に関しては下忍のそれを超えているのだから、チャクラによる強化をどれだけ君自身の速度に追随させるかが今回の修行の焦点だ」
「はい!」
「当面の目標はいかにスムーズにチャクラを手足に移動させるかだ。それさえできれば後は反復演習だけとなる、いいな?」
「はい、よろしくお願いします!」
リーはいつも通りに元気良く返事をすると、距離を一気に詰めてその拳を私に振るった。
相変わらずの移動速度だが、チャクラの事に意識をやっているのと私の言葉に従っている事もあって、やはり拳の速度は並の下忍レベルまで落ちているな。
いや、かなり落としたとしても下忍レベルと言うべきか。同じ班になった頃は眼を使うまでもなく捌けたのだが、今の彼の全力は白眼の全力でも観察しなければ処理し切れなくなっている。
そして、体内門を開かれたなら……私も殺す気で掛からなければ負けるだろうな。まったく、彼が努力のみでここまで来れたかといえば八門の素質もあったとは言えるので違うが、それを考慮しても彼の研鑽は恐ろしいレベルの物だな。
それに彼の力はまだまだ伸びる、それは実に楽しみだ。
「リー、チャクラの移動が半手遅い。そして、チャクラの無駄が多すぎる。込めるチャクラは必要最小限に、多すぎてはバテるのが早くなるぞ」
「はい!」
ふむ……強いて今のリーの欠点を挙げるなら加減の無さか。良くも悪くも一撃一撃に力を込めすぎているのだ。
私が加減の話をするのは妙な話かもしれんが、私の場合はごく僅かな量のチャクラで相手を確実に仕留める事を追求しているので力加減という意味では私はしている。あくまでオーバーキルをしていないという意味でしかないがな。
そういった意味での力加減がリーは出来ていない。彼の体力を鑑みれば体術方面ではそれでも釣りが来るほどの体力を持っているのだが、チャクラ量は体内門を開かない限りは並のチャクラ量ということもありそれは大きな問題となる。
基本的に万象全て最小の力をもってして最大の効果を求めるべきであり、それを例外とできる者は尽きる事のない力を者だけだ。そうだな、ナルト辺りがいい例か?
まぁいい、今は私の持論などどうでもいいのだ。今考えるべきはリーのどうやって加減を教えるという事だが……このままではどうにも埒があかんな。それにひたすらに捌き続けるというのは、こちらとしてもあまりに得る物がなさ過ぎる。
「リー、今日の君の鍛錬に正拳突きは残っているか?」
「え?あ、はい。正拳突き千回がまだ終わっていません」
「では、リー。拳を今できる最高の精度でチャクラによる強化を行え」
「はい…………これが限界ですね」
そう言ってリーは私に拳を見せると、チャクラは彼の拳に厚さ3mm程度に張られていた。となれば、それを目標としてもらおう。
私は袖から巻物を取り出し、弁財天用の水を呼び出して術を発動する。そして水の壁……いや、板を作り出しそれから4mm離してもう一枚極薄の水の布を形作った。
「リー、この薄い水の布だけをチャクラを纏わせた拳で突け。後ろの板にはチャクラを当てるなよ?
ああ……そういえば、君は先生同様に自分ルールという物を課しているのだったな?千回中五十回、板に当てた場合三時間逆立ちのみで生活してもらおう」
「三時間ですか?短いのか長いのかよく分かりませんが……分かりました、やってみます!」
結果として、リーは千回中六十回失敗したので逆立ちで過ごすことになったんだが……一時間以上術をミリ単位の精度で維持し続けるのは私にとっても想像以上の負担だったようで、マトモに立つことすらままならなくなった。
「ヒジリ様がそこまでだれているというのも珍しいですね」
「私だって底はある……今回は単純に計算を誤ってしまった。いやはや……私もまだまだ……未熟だな……」
我ながら少々息が上がっているな……チャクラの残りから察するにしばらくは動けそうにないか。
「それでヒジリ様はあの巫山戯た直線移動以外の普通にチャクラの強化による高速移動は出来るんですか?」
「当たり前だ。単純な四肢の強化程度はとうに会得している」
「その割に水面歩行はできないんですね」
「む……事実その通りなので否定のしようもないが、些か腹が立つな」
「さっき散々実験台にされた意趣返しですよ」
「成る程、それならば仕方ないか…………で、君は一体いつまで私達を見ているつもりだ?」
先生とテンテンがここから離れた直後から、ずっと隠れて私達を見ていた追い忍の面を被った少年に声をかける。
彼は私達の目の前に姿を現すと長い針のような忍具、千本を構えて私の急所に狙いを定めた。
「名乗りもなしか?仕事の関係上とはいえ味気のない……いや、違うな。追い忍ではなく、追い忍を語る誰かさんか」
「…………」
「面で隠しているからといって感情を表に出すものではないな。それ以前に追い忍に変装するのであれば斬首用の刃物か、焼却用の燃料を持ち歩くべきだ
流石持ち物が必要最低限の医療セットと千本というのはお粗末すぎるな」
「……死んでもらいますよ」
私に放たれた千本は座り込んだ私を射抜く前にネジに止められ、そのまま握り潰された。
「何処のどいつだか知らないが……俺の前でヒジリ様を狙うというのはやってくれるな?」
「…………」
忍として自分の情報を晒さぬよう無言なのはいいのだが、そう余裕の無い態度を取られるとこちらとしてもつまらないな。人間いつでも余裕をもって生きるものだぞ?
「ネジ、一分だ。私を守ってみせろ」
「御意」
ネジは私のやった移動方法を真似て正面にチャクラの膜を発生させ、極力空気抵抗を下げた状態で少年との距離を詰めた。少年は咄嗟に反応し、片腕で腹部目掛けて放たれた突きを腕で防いだ。
ネジはそのまま一瞬の躊躇いも無く腹部への攻撃ではなく、少年の腕の点穴を複数突いてチャクラの練りを悪くさせる。
腕の点穴を突かれるということは印による術の制御を困難にさせられる上に、腕の筋繊維や神経系にもダメージがあるために動きが鈍る。
こういうところが柔拳のエゲツないところだろうよ。
さて、ネジに任せるだけでなく私も動かねばな。
実戦でやるのは初めてだが仕方ない。少年を見逃していたのもこれの実験がしたかったというごく私的な理由もあるんだが……反動は数日の筋肉痛で済めばいいな。
弁財天の舞 応用編、体内の血流を1.5倍に加速、経絡系周辺の血管を補強……完了。
さて、ここで問題だ。チャクラが無くなった時に回復するにはどうすればいい?
まずはゆっくりと休息を取って、体力と共に時間をかけて回復することだ。これが一番正しく、確実な回復方法だろうな。
次に兵糧丸などの栄養剤で少量ではあるものの一時的に回復する。戦場などでの緊急時はこれが殆どだろう。
他にも外部から奪う忍術などもあるが……そんなもの私は習得していない。
では、今現在緊急時に大量のチャクラを回復しなければならない私はどうするか?
八門遁甲を使うしかないだろう。
頭に手を当てて、白眼で自分の経絡系を観察する。そして、八門遁甲の内の最初の体内門である開門を柔拳でこじ開ける。
リーと違って普通に開ける方法をまだ習得できていないのだから、強引にこじ開ける他ないだろう?
身体中に電気が走るような感覚に襲われ、割と洒落にならない痛みに襲われたがチャクラは十分に回復した。
さて、少年にはこの状態の性能を確かめるついでに色々と喋ってもらおうか?
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